今日のわたし
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ケイはじっと掲示板を見つめていた。 (そろそろ一人でやるのもつまんなくなってきたし) フィデル領域における今期ギルド入会試験が、各支部で昨日と今日の二日間に渡り行われた。その一つ、モレア支部での合格者の名簿が張り出されている。何人受けたのかは公開されていないものの、例年100人に近い受験者がいるとの噂だ。今回の合格者は僅か13人、この数字は決して多くはないがしかし珍しい数字でもない。寧ろ今回の合格者は多い方だと言えよう。 (うーん、でもねぇ……生粋のフィデル人と組むのも命取り、だよね) 周囲では自分の合格を喜ぶ者と、そんな彼らを仲間に引き入れようと目を光らせている様々なパーティーで溢れていた。 「おい聞いたか? 今年のトップで合格した奴、歴代合格者の中でも上位に食い込むほどの成績だったらしいぞ」 「何だよそれ、つまり筆記はほぼ満点、実技に至っては一通り何でもこなせる上にそこそこ腕が立つってことか?」 「俺なんか合格点ギリギリだったし……」 「お前のはどうでもいいよ、それよりそいつを仲間に入れよう。早く見つけて声をかけないと他の奴らに先越される」 ケイはそんな会話を背中で聞きとめながら、やはり掲示板をじっと見つめていた。 (ふーん、持って生まれた才能なのかね。でも、奴らの仲間になったら盗賊に成り下がるのも時間の問題だよ) どこの社会にも悪玉菌は潜んでいるもので、彼らの場合は簡単な護衛の仕事を引き受けては言葉巧みにギルドで目安設定している料金よりもずっと高い金額を要求してはそれを繰り返していた。そういう悪徳商法まがいはギルドで厳しく規制しているが、ギルドの目を盗んでやっているのが彼らであり、偶然にケイが知りえたことである。 (そんなことはどうでもよくて、どうしよっかなぁ……) ここはやはり諦めるべきだろう。パーティを組めばいずれはばれてしまう。そしてそうなった後の運命も容易に想像できる。ケイとて自分の身は可愛い。 実際にそういう事の顛末を目の当たりにしたことがあった。 (九割九分九厘が免罪なんだよね。無知による勘違い) この地域は潔癖なくらいにそのことに関してだけは神経質になる。 (いやあ、まあねぇ、わからなくもないけどさ) もういいや面倒臭い、と口を尖らせたケイは宿に戻ることにした。
宿の自室に戻ったケイは、ベッドの上にあがり胡座をかきながら腕組みをして目の前に広げている幾つかの依頼書を見比べていた。 「隣村まで荷物直送、街外れへ野草取り、首都への引越し道中の付き添い……、うん、付き添いは何かあった時ばれる確率高いからパス」 残り二つ、いっそのことどちらも引き受けるという手もある。そうするか、と二枚の依頼書を持って立ち上がった。 思い立ったら即行動、ケイはそのままギルドへ行き正式にこの依頼を受けに行こうと部屋をでようとするが、そこで初めて廊下でドタバタと騒がしいことに気付いた。 「うるっさい」 顔を顰めたケイはそっとドアに近づき耳を当てて廊下の様子を伺った。決して顔を覗かせたりはしない。揉め事に下手に関わるとろくなことにならないからだ。 『だから人違いです……』 『いや、さっき掲示板の前にいただろ? 騒ぎに勘付いて帰ってきたんじゃね?』 『な、何のことですか……』 ケイは溜息をついた。 「悪玉菌二体、少年が一人」 どうやら少年が男二人に詰め寄られているようだ。 話を聞くに、この少年が今期ギルド試験モレア支部の受験者の中でトップ成績を収めた人物のようで、彼を仲間に引き入れようと男二人がここまで追いかけてきたようだ。 『だから違います、人違いです、気のせいです、勘違いです』 『俺たちの仲間になったらガッポリ金儲けできるぜ』 『仕事も直接入ってくるくらい有名だし、何の心配もないしさ』 憐れ少年、盗賊に成り下がるであろう最悪な奴らに目をつけられてしまったようだ。 『金……』 『そう、金!! ほらやっぱり君がトップ者か!!』 『や、その……』 そのとき、三つほど隣の部屋のドアが壊れんばかりの勢いで開かれた。 『あのさ、煩いんですケド』 女の声ではあるが彼らの喧騒でかなりイライラしているようで、声は低く口調からは棘しか感じられない。 『んだコラァ!? 俺たち大事な話してんだ邪魔すんな!!』 『その大事な話を大衆が聞こえるところでしてていいのかよ、普通もうちょっとコソコソしてこそ大事っぽいじゃん』 『やがまし!! 文句あるならアンタがどっか行けよ!!』 『はあ!? あんたらが後からきてギャーギャー騒いでんじゃん。ここの客でもないくせして』 『ごちゃごちゃうるっせぇなぁ!! 黙らせるぞ!!』 『あんたらの方がよっぽど煩いけどね』 ケイは女の声に深く頷いた。 (ていうか結構ピンチ?) 野蛮人は二人、立ち向かうは彼女一人、少年はどうしたらいいのかわからずおろおろとしている気配がする。 ドスドスと大股で歩く足音で、男二人が彼女へと向かったことが伺える。 (2対1は卑怯だしね。てか、男二人で女の子に詰め寄る時点でサイテーだけど) ケイはおもむろにドアを開ける。 すぐに緊迫した表情の少年と目が合うが、彼にはニッコリと笑みを向け、次には男たちが歩いていった方へ向かう。 男一人がケイに気付くと凄みのある表情と声でケイを脅しにかかった。 「見せもんじゃねぇぞ!!」 別に野次馬根性で出てきたわけじゃないし、むしろこの騒ぎには興味もない。ただ、たまたまケイがその気になったから出てきただけだった。 このケイの行動こそが今後のケイや仲間の運命を大きく変える第一歩となろうとは、本人もそしてその仲間も今はまだ気付いてもいない。 「トイレに行きたいんですがここを通るのにアナタの許可が必要とでも?」 語尾でその男を見上げると、男の顔が苛つきでピクピクと筋肉を震わせていた。 「今は取り込み中だ!!」 これ以上ケイに何も言わせないとばかりに男は行動に出た。邪魔なものを乱暴に手で払いのけるように、そのごつごつした右手をケイへと向けてきたのだ。 (あぁあ、ついに出しちゃったよ) ケイは男の行動を冷静に判断していた。瞬間的に取るべき行動を頭で整理し、そして行動に移る。 男の振り払われた腕を右に避けると、男は少しバランスを崩した。その隙を見逃さず、力の行き場がなくなった男の右腕をそのまま向かった先へとケイが引っ張り、完璧に体勢を立て直させる余地をなくす。あとは右足を男の右足に引っ掛けてやれば、男は派手に転んでいた。 「何だテメェ!? ナメてんのか!!」 男が倒れたことで、もう一人の男がケイに詰め寄り、胸倉を掴み上げてきた。ケイの身体が僅かに持ち上がり、爪先立ちの状態になる。 「――……」 鼻先でそう怒鳴られてもケイは動揺一つ見せずに男を見つめた。 「あのさ」 ケイは胸倉を掴んでいる男の手を両手で掴んで少し力をいれた。すると爪先立ちだった足が完全に地に付いた。 「女の子に」 その言葉に力を込める。 軽く地を蹴り膝が男の腹部までにふわりと浮かび上がると、 「手を上げるなんて」 再び言葉に力を込める。 重力よりも若干重圧の掛かった下降と共に膝を男の腹部に思い切り喰い込ませる。 男は痛さのあまり咳き込みながら身体をくの字に曲げた。刹那、ケイは掴んでいた男の手を思い切り押し出す。男は尻餅をつく形で大きな音と共に転倒した。 「サイテー」 右手で腹を抑え、左手で腰をさする男を見下ろしながらケイは男に言葉を浴びせ掛けた。
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はい、読物でした んと、だいぶ前に剣士だの魔術士だのという話題でメルが盛り上がった直後に書いたものです しかも途中だし…… orz えー、いろいろ都合よく描かれてますね 男たちを伸した人物が凄いように今は描かれてますが、実は少年のほうが凄いのです まあ続きはそのうちってことで ところで、どうやってケイが男たちを意図も簡単に伸せたのかというのにもちょっとした秘密がありましてね ま、単純な秘密ではありますが これはもうこちらの都合のいい展開になること間違いないです なんたって、ね? だけどどこまでいっても超エリートにはなれません なんたって、ね? 我々そのものがそこそこなのですから orz
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