「 子供のときは、嘘つき呼ばわりされた。
でも大人になったいまは、作家と呼ばれている 」
アイザック・B・シンガー ( アメリカの作家 )
When I was a little boy, they called me a liar, but now that I am grown up, they call me a writer.
Isaac B.Singer
子供のつく嘘と違って、大人の嘘はときに 「 不正 」 と呼ばれる。
それは、その嘘の背景に、お金や利権、欲望が絡んでいるからである。
不二家が不衛生な食品管理を行い、期限切れ食材を使っていた事件も、消費者を欺いたという点において、「 嘘をついていた 」 のと同じだ。
関西テレビが制作した情報番組で、ありもしない実験結果を 「 あるある 」 と捏造して電波に乗せた事件も、大人の嘘であることは間違いない。
産経新聞が自社や法務省主催のシンポジウムなど4件で、日当を支払って 「 サクラ 」 を使い、参加者が多いと見せかけた背景にも 「 嘘 」 がある。
自治体が入札制で業者を選定しているポーズだけ見せ、その実態としては裏金の飛び交う談合で決められていた経緯も、県民への嘘といえるだろう。
こうした 「 嘘 」、「 裏切り 」、「 やらせ 」、「 捏造 」、「 隠蔽 」 などといった虚偽が明るみに出るたび、何を信じてよいのかわからなくなってくる。
最近、テレビで実況されるような主要マラソン大会では、レースの序盤戦に 「 ペースメーカー 」 と呼ばれる人たちの姿が見られるようになってきた。
これは、国際ルールで認められているものだから 「 やらせ 」 の部類には入らないけれど、競技の健全性という意味で疑問視する声も多い。
一昔前、ペースメーカーの出走は関係者だけの 「 公然の秘密 」 で、トップ集団から急に脱落していく彼らの姿に、中継アナウンサーも戸惑っていた。
なぜ、最近になってペースメーカーという存在が必要となり、すっかり常識化していったかというと、そこには主催者側の思惑がある。
実は、大学卒業まで陸上競技を続け、いまもOBとして某連盟理事に名を連ねている関係で、ペースメーカーについては導入から事情を知っている。
長距離レースでは選手間の 「 駆け引き 」 が重要となるが、各選手たちはペースメーカーについて走れば、序盤から 「 駆け引き 」 をしないで済む。
そのおかげで、序盤に余計な神経や体力を使わずに済むから、結果として好記録が出やすくなり、試合によっては記録更新も期待できる。
大会はスポンサーやマスコミの財政支援を必要としているため、記録更新で注目度が増すことは、テレビ視聴率の向上にもつながるのである。
つまり、ペースメーカーを導入する主旨は 「 好記録が出やすくし、観戦者の注目度を上げる 」 ことが狙いで、商業的な意味合いが濃いものといえる。
もちろん、世界選手権、オリンピックなどの場合は出場枠に制限があるし、それらの大会で求められるのは 「 記録より順位 」 なので必要がない。
これは 「 やらせ 」 ではないが、昔のレースに比べると、駆け引きの巧拙による面白みが薄れたり、展開が画一化される意味で影響を受けている。
実際、次のレースはペースメーカーが出走すると聞けば、30km付近までは観る必要がないので、その後から観ても事足りてしまうのだ。
ペースメーカーが途中で失速するのは、アクシデントがあったわけではなく、主催者側と30km付近までという 「 契約 」 をしているからである。
けして 「 走れなくなった 」 わけではなく、「 走るのを止めた 」 だけのことで、彼らもまた、そこそこの実力を備えたランナーたちなのだ。
いま、我々の仲間内では、この制度に納得がいかない人、理解を示す人に意見が二分しており、たまに集まると、この問題が議論される機会も多い。
好記録を生むためとはいえ、テレビ用語でいうところの 「 お約束 」 みたいなことが、神聖なスポーツの世界でまかり通ることへの抵抗はある。
ただ、特別に誰かが得をする仕組みではなく、公正で、その恩恵は誰もが公平に受けることになるのだから、それは 「 不正 」 ではない。
しかし、それを 「 裏舞台での演出 」 と捉えられたり、それでガッカリしたり失望する人が現れた場合に、万人の納得する説明を施すことは難しい。
こういったシステムを、嘘でも真実でもない、曖昧な 「 グレーゾーン 」 として受け容れることが、あるいは 「 大人の判断 」 なのだろうか。
たとえ嘘の無い本音でも、柳澤厚労相のように暴論を吐いてよいわけではないし、意外と 「 嘘の無い正直な世界 」 というのは、実現が難しい。
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