「 自分より立場の弱い人に対する接し方に、人の偉大さは現れる 」
トーマス・カーライル ( イギリスの歴史学者、文筆家 )
A great man shows his greatness by the way he treats little men.
Thomas Carlyle
ビクトリア時代を代表する学者で、ゲーテの文通相手だったという。
夏目漱石も、カーライルの影響を受けたことが史実に記載されている。
冒頭の原文を直訳すると、「 立場の弱い人 」 ではなく 「 身分の低い人 」 になるのだが、なんだか嫌な言葉なので、解釈を変えさせてもらった。
イギリス人に傲慢さを感じるのは、アメリカの人種差別を揶揄しておきながら、内輪では貴族だなんだと、人間に階級を与え続けているところだ。
上から見下しながら、「 身分の低い人にも、丁寧に接しましょうね 」 なんて言い方は、立派な考え方のようにみえて、優位者の傲慢さが感じられる。
身分に上下の無い国でも、立場の強弱は存在するはずで、たとえば雇用者と労働者とか、上司と部下とか、売り手と買い手などの力関係がある。
たとえ自分が強い立場であったとしても、相手側に横柄な態度をとったり、権力を振りかざして無理を強いるのは、自分の品性を貶める行為だろう。
現在の私は、小規模だが 「 経営コンサルタント 」 みたいな仕事をしているけれど、皮肉なことに収入の大半は 「 投資業 」 によって成果がある。
中でも収益が大きく、今なお伸びているのは、中国で出資している繊維系の会社で、私は 董事長 ( とうじちょう = 日本でいう会長 ) に就任している。
優秀で信頼できる中国人の 総経理 ( そうけいり = 日本でいう社長 ) のおかげだが、顧客はすべて日本企業なので、私も頻繁に訪中している。
問題点は、現地の法制によって、配当は持ち帰れるのだが、利益を海外に持ち出すには制限があって、儲かっても日本円に換金し難いところだ。
仕方がないので、上海にマンションを買ったり、設備投資したりして、将来の二次的な利益に還元できるよう、投資の分野に労力を割いている。
こんな商売が中国で成長している背景には、日本の繊維業界がコスト競争に弱く、衰退の憂き目に遭っている現状がある。
実際、百貨店、専門店の一部高額商品を除くと、現在、日本で販売されている繊維製品の大半は中国製で、日本製の商品はごく僅かである。
長年、繊維業界に携わってきたが、この状況が打開される可能性は低く、原産国がシフトするとしても、それはベトナムやインドで、日本ではない。
将来は、日本での販売目的だけでなく、発展が著しい中国の市場に商品を売ることも期待され、ますます中国生産の利用価値は大きいようだ。
その流れは、現地の人もよく理解しており、儲け話に乗り遅れないように、多くの人々が活発に参加して、中国の繊維産業は好況を極めている。
日本とは商習慣が異なるので、いろいろと難しい運営上の課題も多いが、「 郷にいれば郷に従え 」 の教訓通り、なるべく現地に任せている。
特に気をつけなければいけないのは、不満があっても人前で中国人を恫喝したり、大声で叱ったり、怒鳴ったりしないことである。
これは、多くの日本企業、あるいは日本人担当者が失敗しやすい部分で、気持ちの一部に 「 日本人のほうが優秀 」 という慢心があるようだ。
叱ったり、要望を申し入れる際には、対等のパートナー意識を理解させて、相互の利益になる話をし、けして大勢の前で個人を責めるべきではない。
彼らとて、儲かる話は大歓迎なので、丁寧に、どこが悪いのか、どこを改善すればさらに良くなるかを説明すると、熱心に聴くし、素直に受け入れる。
青森県の縫製会社で働いていた中国人の女性3人が、過酷な労働条件と低賃金に耐え切れず職場を逃げ、支援団体に保護される事件があった。
こういう話には 「 不法就労 」 のケースが多いのだが、彼女らは 「 外国人研修・技能実習制度 」 を利用して、合法的に働いていた人々である。
彼女らは、日本語研修費や保証金として、中国の送り出し機関に 約30万円 ( 現地サラリーマンの年収2〜3年分 ) を出国前に支払っている。
それは、高い技術の習得や報酬を期待して、親族らから借金をしたりして、必死の思いで工面したに違いないお金である。
だが、彼女らや親族が思い描いた 「 日本 」 はそこになく、待ち受けていたのは想像を絶する過酷な労働条件と、不当な差別的待遇だった。
1年目の研修手当ては月給6万円で、朝8時から夜11時までアイロン台やミシンに向かい続け、残業手当は時給350円であった。
2年目から月給10万5800円になったが、寮費、光熱費などで約3万円を差し引かれ、ほとんど生活に余裕はなかったという。
これでは日々の生活がやっとで、両親に仕送りをしたり、出発時の借金を返済したりすることもできず、ただ、ただ、疲れるばかりである。
会社は負債が多く、日本の繊維不況をもろに受けていたので、10人以上いた日本人のパートを退職させ、9名の外国人研修生を受け入れた。
日本人の作業者に比べると作業が遅く、仕上がりが見劣りするとなじられ、会社の業績が落ちた責任を 「 君たちのせいだ 」 と社長から叱責された。
青森県が定めた最低賃金は時給605円で、昨年の11月には、3人からの訴えを受けた十和田労基署が同社に是正勧告をしている。
ここの社長は、「 経営に切羽詰って受け入れたが、最低賃金を払うのなら、そもそも彼女たちを雇わなかった 」 などと言っているらしい。
日本人より安い賃金で中国人を雇用している人の多くが、実は、このような発想を持っていて、その考えを改める様子もない。
根底には、彼らが中国で得る収入 ( おそらく月収1〜2万円程度 ) に比べれば、十分に高いではないかという認識があるようだ。
だが、月に5〜8000円もあれば暮らせる環境と、日本の物価は比較にもならないため、相応の対価を得なければ生活が困窮するのは当然である。
彼女たちは取材に対して 「 中国人は奴隷としか思われていなかった 」 と語り、日本で身につけたものは何もないと嘆いた。
現在、東シナ海のガス田問題や、靖国問題など、中国政府に対して不満に思う事柄は数多いが、民間の一部には、日本側の不誠実な実態がある。
アジア諸国との価格競争に負けた日本の繊維産業が、中国人らを奴隷のように働かせてよい理屈などなく、この問題は明らかに日本の恥部だ。
こんなことをしているから、いつまでたっても 「 日本に軍隊など持たせれば、すぐに戦争を仕掛けてくる 」 などと懸念されるのではなかろうか。
久々に長くなったが、同じ日本人として、あまりにも情けないというか、恥ずべき事柄として、ここに書き留めておきたかった次第である。
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