あたいはみーこ。 これでも昔は器量良しでならした、ちょっとした三毛猫だったのよ。 だけど、女なんて年を取るもんじゃないね。 なーんにもいいことなくってやんなっちゃうさ。
あたいにだって人なみの幸せを夢見たことがあったわ。 かっこいいオス猫とであって、かわいい小猫を産むの。 そして、優しい人間に飼われて、縁側で昼寝して暮らすの。 餌をねだるときだけ「にゃーん」って、それはそれはかわいい声で鳴いてやるわ。
いいでしょう? 猫なんだもの。
どうして、こうなっちゃったのかねえ。
私のかわいい小猫ちゃん、ちいさくってふわふわしてて、そりゃあ食べちゃいたいくらいかわいかったのよ。 人間がかわいがるのもごもっともさ。 そんなことに嫉妬するなんて、そんなにあたいはばかじゃないから、余裕で見ていたわ。
あたいよりも、小猫のほうがたくさん餌をもらったってね。 あたいの座布団を占領したって許してやるさ。 だけど、小猫や、あたいを無視するなんてどういうことだい。 おまえを産んだのはあたいだよ。
こういうの、親の心子知らずっていうのかねえ。 腹を痛めて産んだ子に、自分の幸せかっさらわれちまうなんて、あたいも落ちぶれたもんさ。
でもねえ、人生何が幸いするかわかんないもんだね。 あの家をおんだされちまって、飢え死に寸前でたどり着いたこの家は、お人好しのじいさんばあさんの二人暮らし、いやというほど猫っかわいがりだ。 おや、見慣れない人間がやってきた。 若い女だ。
「みーこや、おねえちゃんがきたぞ」 「おじいちゃん、みーこはまた、えらい太ったねえ。 まーんまるじゃないの」 「にゃーん(失礼な女だね)」 「ん?みーこ、おめでたですかー?」
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