| 2002年10月14日(月) |
山本文緒『恋愛中毒』 |
これは、タイトルがぐんばつにすばらしい! 脱帽ですね。 「お、読んでみたいなあ」 という気分にさせる。 そして、私は、このタイトルから今日びの恋に夢中になって分別を無くしちゃった女の子の話を連想していたんだけど、私の予想は見事裏切られました。
いい意味で。
この小説はただの恋愛小説というには、深刻です。 もしかしたら、人のどうしようもない弱さにげんなりしてしまうかもしれない。
この一歩を踏み出してはいけない、主人公はわかっている。 その一歩を踏み出すことで、それまで守ってきた地味だけど穏やかな生活が消え去ってしまうことをわかっている。 そして、そうわかっているのに、結局足を踏み出さずに入られないこともわかっている。
愛情を求めるあまりに犯罪行為を犯してしまった一人の女の物語です。
でも、私は不思議と、読んでいて不快な気持ちは起こりませんでした。 恋愛中毒で我を忘れてしまう、愚かな女性の心理が丁寧に描かれていて、シンパシイを感じました。 わかっていながら落下していく主人公を待ち受けている未来が、救いようのないほどのどん底ではないことが、読んでいる間、一筋の光のように感じられました。
いい作品です。
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