背後の雲に、夏の終りを感じていた
お盆を過ぎて広がり出した入道雲に
ねずみ色は頭上を超えて一気に、明度を上げていく
雲は徐々に塊も失っていき、輝く霧のように粉砕されていく
水平線上に観える5階建てのコンクリート、土手に架かる銀色の橋は
燦々とした霧に包み込まれながら、境界が触かされ始めていた
目蓋が下がり、睫毛のフィルターが思いがけず下がった。
まだ、あそこに行くのは早すぎるというのか
問いが明度を追いかけていく
何度も投げかけても、輝きに満ちた彼岸は返してくれない
残暑の汗が体にまとわりついて、肉の匂いと重さを意識に注ぎ込む
左に曲がらなければならないのだよ、と心はこずるく後から囁いた
赤々しい色味に染められ、善悪という醜怪を内包した肉臭骸
まだ 早過ぎるというのか
橋の銀色のように色味を消し、輝く液体の中へと気化するのは
まだ 早過ぎるというのか
注壱:「早音(さおと):造語。語彙のそのままの意味」「燦々(さんさん)」、「触(お)かす」、「睫毛(まつげ)」、「彼岸(ひがん)」、「輝(かがや)き」「囁(ささや)く」、「醜怪(しゅうかい)」、「肉臭骸(肉しゅうがい);「臭骸」に「肉」をつけた造語」、「滅(めっ)す」
注弐:「お盆、明度(冥土)、目蓋が下がる、彼岸、消す、滅す、気化」などは、1つのイメージにつながる。それが「早音(さおと)」へのイメージ 最後の「液体への気化」は、「液体への帰化」も連れる語彙(ごい)。
注参:「触(お)かす」は、「觸(しょく)」の略字で、角をもって争う意味。物に触れることや法に触れて犯すことを意味するので、抽象的な意味も含む。また、蜀は牡(おす)の獣の形であるから、自然界にある厳しさ、恐ろしさを含む。この場合、無限に遠くからあるように見える輝く霧が、手前にあるコンクリートの建物や橋に触れて取り込もうとしていう点、そして輝く霧が人間を超えた自然の厳しさの投影という点、さらには自然の厳しさが生み出す彼岸の存在形態という点を示そうとした。そのため敢(あ)えて、「犯す」や「侵す」ではない「触かす」を使った。
執筆者:藤崎 道雪 (校正H16.3.5)