(ある寺で僧による仏陀についての話が終わった後。女が堂の後ろへ消える僧へ質問に行く場面)
女「お話では仏は天国にいない、って言っていましたけど、お母さんはいる、って言ってましたよ。」
僧「今日、お話したようにやはり、仏は天国にいるのではないです。何故なら楽しいことも、また苦しみと同じですから。」
女「苦しみと楽しみが一緒ってのは解らないけれど、じゃあ、何故普通のお坊さんは、お墓を立てるの? 何故天国に行けるみたいのなことをいうのかしら?」
僧「それは1つの方便でしょう。なぜ・・」
女「方便って難しいわ。もっと簡単に言ってよ!」
僧「あ、そうでしたね。判りやすく人それぞれに合わせたんですよ。それが信じられたら次のことも言うんです。」
女「ああ、服と同じね。服を脱いだら下着って具合に誘っていくのと」
僧「まあ、そういう例えもありますね」
女「でも、そういうのってずるくない? ずるいよ。何か大切なことが2つもあるんだもん」
僧「社会が求めるものと、理屈の上で正しいことは違うんです。その違いを埋めるのは本当に難しいんです。」
女「さっき言っていた、「社会的要求と論理的要求が違う」って話?」
僧「そうそう。その通りですよ。凄いですね。」
女「キャ〜♪」
(僧の首に嬉しがって両手で抱きつく)
女「(* ̄( )チュウウウウゥゥ〜」
僧「ぅ・・・ぅぅぉぅ・・・・・」
・・・(半時後)・・・
僧「良かったですか??久しぶりだっ・・・」
女「やっぱり、貴方じゃないわ・・・」
(女は視線を落す)
僧「ぇ??」
女「やっぱり貴方じゃないわ、って言ったの」
僧「どういう意味ですか?」
女「貴方は自分の言ったことと行動が違うもの。
私と交わって宗教みたいなちっぽけな大衆に支持されないと続いていかない仏教を信じているもの。
人間は交わって続いてきたんだもの。
貴方は宗教よりも人間を今取ったのよ。それで良いのよ、貴方はね。」
僧「・・・1本取られましたね、全く」
女「そういう所も全然違う!! あの人みたいにさっき、みんなの前で話していた時は自信に満ちて格好良かったわ。
女「あの人は私の誘いを無碍(むげ)もなく断ったわ。」
僧「あの人って? 無碍とどう関係が??」
女「あははははは・・・・」
(腹を抱えて大笑い)
女「無碍ってのはね、仏教用語じゃないの。頭でっかちなのね。
あの人なんて誰でもいいのよ。それが融通無碍でしょ。」
(目からの涙をぬぐいながら、振り返って本堂を帰っていく。もう日差しがすっかり夕暮れ)
執筆者:藤崎 道雪