やっぱり、そうなっちゃったね。
それが、初めの印象だった。
初めに、わいわいとした居酒屋で数人で食べていた時に、遅れてきたんだったよね。
化粧が流行にのっていて、服装も派手系の抑え目だったし、話し方もの〜んびりとしていてトロンとしていたっけ。友達の恋愛話は好きだし、彼氏の話をよく聞くし、「寂しかったよ〜」とか「聞いてあげるから」などの気遣いをしている。それが仮面だって事が瞬間的に分ってしまったから、やばいな〜と感じていた。大きなテーブル8人席で、右から2番目、君は向かいの左側いたけれど、周りの男の気を上手くひいて話の中心にいたっけね。だから、益々やばいんだ、と思ったし、女友達が俺の大学時代に女性を落とす方法を披露して笑い話にしたもんだから、意識が一気に集まってきた。こういう女性は、表面では甘(うま)く上手く男と話しながら狙いは一点だったりする。
うわぁ〜やべ〜なんて、ネタを振った女友達と仕事や社会の話なんかをしていると、まったく気にせずに違う話題を滑り込ませてきていたっけね。そして帰り際に、4人で夜中のカフェでもう少しディープな話にちょっこり着いてきて、違う話題を「この話を聞かないとかえんな〜ぃ」なんて風に、普通の男なら勘違いする、させる風にからんできた。顔の表面は街の繁華街を眺めて涼んでいる感じに、ネタをばらした女友達がどうするか聞いていたんだよ。そうしたら、「まあ、悪くないし」とマイナスではない意味合いでOKを出して、いつもの4人が1人欠けていたのもあって、オレンジの表明のカフェの白い北欧風のソファーに仰向けになった。
俺はいつものやつで、女友達はレッドアイ、レッド愛で燃える恋をしているからだそうで、ひょうきんではないが明るい男友達は今日はブランディーのシングルを、雌の塊のような女性なので、雌々(めめ)ちゃん、はと言えば、「何でお酒飲まないの〜?」なんてターゲットオンのバッチリメイク視線で「ビール」だった。
急ピッチで、そう1時間に4杯のペースでビールばかり飲むと、呂律(ろれつ)で酔ってきたのが分った。女友達は「いつもこんなに飲むの?」と1回聞いた限りで、あとは本人の自由でしょ?ってスタイルで会話を自分のペースで刻んでくる。男友達は、時々、めめちゃんが好きなの?なんて言葉を発すると、「いや!」なんてきつい言葉の洗礼を浴びせ掛けられる。それを苦笑いしながら怒らず騒がないのを観ていて、俺は益々この男友達が好きになってしまった。女友達もスタイリッシュに気取っている面はなかなかセクシーで、異性に振られた時に見せる暗闇の中の仄(ほの)かな光明さした顔を思い出しては、ニヤニヤしてしまった。
「何を笑っているの〜?」なんて、めめちゃん。
「あ、わかった〜w 実は好きなんでしょ〜〜?」なんて、女友達との予防線を張ってくる。「だいはっけ〜ん!」とつけないだけ、まだましで「完全にお水系じゃないのかな?」と心の中では思いながら、逆に穏やかな視線で微笑んであげる。いつものマニュアル対応男なら、焦って否定するか、呆(あき)れ顔なんだろうから、こちょこちょくすぐる様な微笑をすると、穏やかでとろ〜ん、とした顔の右ほほの下が一瞬、はがれてしまって緊張が走った。
あらららら
この程度で剥(は)がれるなら、素人が毛の生えたお水くらいか。銀座や新地のホステスまで行ってはいなんだなぁ。キャバ嬢しても、ま、そこそこか、何て思った。
「どんなのがタイプなんですかー?」と語尾を平坦に延ばして、平明さを装ってくる。
ああ、これは何処にでも居る感じなのかな、と少しがっかりして質問を幾つか重ねてみる。「お酒は何時頃飲み始めたの?」、「こういう時って嘘はつかないの?」、「タバコはちょっと吸うでしょ?」、「恋愛って難しいと思うけど、どう思う?」とかなんとか。
「14歳くらいから時々。嘘はつきませんよ〜酔っ払っているし。タバコはお酒と同じくらいの時に。だってお酒を飲むと欲しくなるもん。恋愛って難しいですよね〜」って返答で、「じゃ〜今の彼氏の話を聞かせてよ」と再返答。
「もう、別れるっぽい。っていうか別れ話してるし」という誰にでも何時でもいう前提で、ポロポロと語りだした。要約すると「最初はセフレっぽくて、1泊旅行に行く時に聞いたら、「じゃあつきあおっか」って付き合いだして嬉しかった。彼氏が吸うから飲むから自分も。最初は良かったけど今は・・・ いつもそう」って話。視線はチラチラこっちの方、意識はがっちりこっちの方、話題は時々「じゃ〜終わったら彼女の話してくださいよぉー」が合いの手。
3分の2の確率が見事に当って、いや彼女の強引な席順で横に着たので、ソファーと濃茶の椅子ではあったけれど、2人の会話になってしまった。男友達と女友達が、ゆったりとこちらを楽しみながら会社の制度について会話をしているのが、左目のぼやけた揺れ動きで判ったりする。羨ましいな〜なんて思いながら、彼女のタバコやお酒を何で飲みだしたかの話に散らしていく。「彼女がいない」って言っても、「彼女がいる」って言っても、そんな言葉を女は根本的に聞いちゃいない。大切なのは感情やソフトワードであって、つらつらとではなく酔いに見せかけてズカズカとこの厚い胸板を触ろうと狙っているのだ。
少し刺激を与えて話をディープワードに行こうとしてみた。「麻薬はやっていないの? 依存していない?」って。
「お酒は何で始めたの? コンパのその場の雰囲気だって言うけれど、それが終わっても飲んだりしているでしょ。何となく欲しくなる、っていうけど全員がそうだからって飲むわけじゃないよね。聞きたいのは、欲しくなったらしていくその奥のことだよ。タバコを吸ってもお酒を飲んでも、男を変えても麻薬をしてもギャンブルしても、それでも苦しいでしょ? その時は良いけれど直ぐに苦しくなるでしょ? 男は判りやすいよね。最初はラブラブで良いけれど直ぐに仲が悪くなって、で苦しくなって、で、次行っても同じで・・・ それってさ、本当の楽しさじゃないんだよ。本当の楽しさってね、凄いよ〜w 深いし物凄いよ。ほんと、もんの〜〜すごいよ!! それを知らないで年取って老いていって死ぬ人も一杯いるし、だから今のままでも良いかもしれないけれど、苦しくない? 依存する物をコロコロ変えてもずーっと今のまんまだよ、自分の中の何でそうなっているのかを見つめないとね」って優しく語りかけた。
そうすると、化けの皮がだんだん剥がれてきて、徐々に俯(うつむ)きかげんになってトロンとした語り口調も、「うっざー!」というさっき男友達に掛けた切れたような声の丁度中間のおとなしい、まさに大人しい声になっていった。
やっぱりそうなっちゃったね。これが最初の印象だった。
こうやって彼女の中の心の奥底に言葉の杭を強く打ち込むと、まんま、どうしようもなくなって、それは鉄の杭のように私しか抜けなくなる。そして彼女は私のことが言葉のオブラートに包まれてしまい、晩秋の日差しが香る夕暮れを眺めるようなふっとした時に思い出すだろう。
左先の女友達は、「へ〜そっちの方向に持って行ったのか。じゃあ、今日のお持ち帰りは自由だね」なんて顔で、男友達は、「そっか〜主導権をやっぱり握ったなぁ。自己顕示欲強いね」なんて思っているのではなかろうか。
彼らとの会話でも私の心の奥底に、何本もの、何十本もの鉄や銀や金の杭が打つ込まれているのだから。
執筆者:藤崎 道雪