吹き上がった風が何処までも青空に広がっていく。
見上げなくても、鳶(とんび)のピョ〜〜〜という鳴き声が、透き抜けていく。
ザッ ザッ ザッ
小さな丘を越えては下り、下っては砂利道をのぼる。
見え隠れする丘の先を見るともなく、気にするともなく、ただただ、鳶の声と砂利と吐く息だけが、動いていた。
心の中は興奮の言葉でゴチャゴチャに乱れているというのに、静か過ぎてしかたがない。
武将を殺すこと、一番のりで勇気を見せること、危なくなったら一目散に逃げること、今日の夕方には川べりにつき野営すること、褒賞を貰ったら妻に服を買うこと、限りない項目たちに興奮と不安がスパイスとなって心の中はプンプンと匂いを放っていた。
殺し殺され、奪い奪われ、殴り殴られ、切り切られ、ご先祖様はそうやってこれまで生きてこれた。
私たち全員が、その子孫だからやっぱり刀を突き刺して、人の血が飛び出すのに興奮を覚えない訳がない。まだ2日は後だというのに、心の中の台風の大きいこと大きいこと。
何十人かは生きたまま烏や鳶に目玉を抉(えぐ)られ、肉をついばまれるだろう。
そういう風に生きるようにインプットされ、ただただ、それをこの肉体で吐き出しているのに過ぎない。
ご多分にもれずに私も何かに祈る事にしようか。
戦場に坊主やら神父やら牧師やらが必要とされるのはインプットの一つなのだというのがやっと判ってきた。
ザッ ザッ ザッ
行き先を探しながら見るともなく、眺めながら眺めるともなく、ただただ、鳶の声を頭の中に切りつけようとしている。
インプットされた興奮に生き抜いてきた歴史がこの肉体を支配するように。