僕は禿げる。(中略)それでも歌を聴いてくれますか?
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今戸越銀座が高層マンション建設に揺れています。地盤が弱い上に建設のために行き来するトラック等の車両で人の往来が確実に分断され、客足が遠退くのは必死、建設業者は「夕方の買物が多い時期は避ける」ですと。長い工事期間に他で買物をする様になったお客さんがそれを過ぎて戻ってくるか等、商店街を守る人たちの心配はつきません。戸越在住の大物Charはどう出るのか、僕は注目しています。
僕も東京に出てきて3年目から4年間戸越銀座に住んでいました。「あいうた」や「未明の空」、「はじめにうたありき」、「さらば風の街」、「君の街の朝」の原型も戸越銀座で出来ました。その後そこからすぐ近くの西五反田に越しても買物は戸越銀座でばかりしていました。「例えばさ」や「掻き消された声」、「もう電話もしない」の原型はここで出来ました。
その頃の戸越銀座の印象は「やたらと夜騒がしい」というものでした。コンビニがヤマザキデイリーストアしかなく、夜中はかなり暗くて人通りも少ないはずなのになぜかそうなんです。
その頃、僕は戸越銀座の入口からすぐ近くのあるマンションに住んでました。僕は3階に、その頃の相方だったギター弾きの惠口君は4階に住んでいて僕の部屋の下は喫茶店、その下は中華料理屋でした。その頃の僕は今では考えられませんがお酒を一滴も飲まず、夜を明かして曲作りや録音をしていました(今はトホホ…)。僕の部屋には電話がなく、惠口君の部屋に上がりこんでその頃好きだった子と長々と電話をしました。惠口君には「人の私生活を土足で踏みにじる」と言われてました。たしかに…。
そのマンションと呼べるか微妙なマンションは階段が狭くて暗くて、ある日の夜中、とんでもなく大きな鈍い音がして次の日家を出ると僕の部屋の隣の部屋の前からマンションの入口まで点々と血が落ちていたことがありました。たまたま東京に出てきて泊まっていた母親と二人で「東京は気味が悪い所だ」と言い合いました。あれはただ派手に転んだだけだったのか…、未だに謎です。
下の階の喫茶店の奥さんと1階の中華料理屋の店員の中国人が夜中に何度も大声で喧嘩している声が聞こえる事もしばしばでした。中国人が仕事の後遅くまでしゃべって飲むのが癪に障るらしく、長崎出身の奥さんが怒鳴ってました。ある日警備員のバイトが長引いてお金が下ろせず、羽田空港から戸越まで歩いて帰ったことがありました。家へ着いても御飯がなくてほとほと困りはて、喫茶店の奥さんに頼んでハンバーグ定食を「つけ」で食べました。ここのハンバーグは手作りで本当に美味しく、いつもいつも口の中を火傷しながら食べてました。あるときは「ハンバーグはあるけど御飯が売り切れたから部屋にあるのなら御飯だけ持ってらっしゃい」と言われて御飯持参で食べた事もありました。今もハンバーグをやっているかは不明です。食べたいなあ。
ある日の明け方、商店街の先の方から車がぶつかる音がして、曲の相談をしていた惠口君と僕は二人で走って観に行きました。その音の正体は韓国人が無免許で車を運転して自損事故を起こした音でした。その日「あいうた」が出来ました。 思い出を書いて「だからどうした」と言われればなんでもないんですが、あの、夕暮れの賑わい。ショッピングカートを押す老人たち、お父さんのあとを継いだ八百屋さんの兄弟、スーパー文化堂の警備員はもはや警備員の枠を越えた働きっぷりで…。あの景色がなくなるのは寂しいです。この利益追求型の社会で「保護しないと残せないモノは今必要ではないモノ」というどこかで聞いた論理はかなりの情緒を奪ってしまう。今でもたまに戸越銀座の明け方の景色を思い浮かべるし、なんだかやたらと恩があるような、恨みがあるような、僕にとってはそんな景色なんです。
戸越銀座では結構な頻度でCharを見かけました。ある日僕が戸越銀座から国道一号線へ出てすぐのところにあったビデオ屋さんでエッチなビデオを借りて帰ろうとするとCharとその奥さんがカウンターで借りる手続きをしていました。何を借りているのか見ると名作っぽいものばかりで、僕が抱きしめているものはエッチ系ばかり。かなりの差をつけられた気がしました。
戸越銀座に3年間住んでいる間に何度もマンションの隣の練り物屋さんから苦情が来ました。僕が住んでいた3階部分が練り物屋さんの自宅の寝室と隣合わせになっていた様で、明け方までギターを弾いたり歌ったりしていた音で眠れなかったようです。それでもくじけなかった惠口君と僕。ある日隣り合った方の壁からトントンと釘を打つ音がしたかと思うと苦情が来なくなりました。窓を開けてみると防音用の二重窓になってました。
戸越銀座をすごくたまに通ってもそのおじさんが僕を覚えていてくれて「そろそろ売れたか?」と苦笑いして冷やかします。僕は「テレビで見かけませんか?」と返したりして。
戸越銀座のために何もできない僕、親の代から住むCharに託すしかないのです。また差をつけられてもいい。Charさん、頼みます。
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