.◆◆第2話:『卒業』�ァ丙能�回)


数日後。
「かえでー、梢から手紙が来てるわよ」紅葉(くれは)お姉ちゃんが新聞を取りに行って、ポストに入ってたよ、と四角い封筒をくれた。何だろう?と封を切ると、中から三つ折りにした便せんとあたしが渡したサイン帳が出てきた。サイン帳を渡したものの、返ってこないだろうと覚悟していたのでなんだかうれしくなった。
 しかし、手紙を読んだ瞬間、あたしは驚いて言葉を失ってしまった。   
 「あの頃、3人で約束してた『一緒の大学に行く』ことは実現できなくなっちゃった。大学は、うちの桂姉ちゃんも通ってる、東京の大学に進学することに決まったから。向こうでお姉ちゃんと同居する」と記されていたからだ。
 あたしが、あわてて梢ちゃんの家に電話をかけると、電話に出たお父さんが梢ちゃんが上京する日が今日で、空港行きの電車に乗るために駅に向かったと教えてくれた。いてもたってもいられなくなって、あたしは紅葉お姉ちゃんに駅まで送ってと頼んだ。
・・・今言わないと、今会わないともう梢ちゃんとは一生仲直りなんてできないと思ったから。

 駅につくと、梢ちゃんが乗る電車はまだ来てなかった。あたしは入場券を買い、急いで空港行きの電車の来る5番ホームに向かう。
 ラッシュアワーを過ぎて、人が少なくなったホームのベンチに梢ちゃんが一人で座っていた。 
 駅の周りの咲きかけの桜が、風に揺れるたび花びらを散らす。それは、あたしが繰り返し夢で見た、あの風景そのものだった。
 梢ちゃん、と呼びかけると彼女は顔をあげて微かに苦笑いした。
 「誰にも知らせずに行こうと思ってたのに・・・」
 その時、轟音と共にすべりこんで来る電車。荷物をとって立ち上がり、何も言わずに電車に乗る梢ちゃん。
 「梢ちゃん!」再び呼びかけたあたしに、
「見送りに来てくれてありがとう。・・・落ち着いたら、手紙書くから」涙でうるんでる瞳でほほえむ梢ちゃん。 発車のベルとアナウンスが響き渡る。ゆっくり電車が動き出す。 あたしは電車が小さくなり、見えなくなるまで見送った・・・。
  
 4月。
 夏樹くんと二人、一緒の大学に入学して何日かたち、大学生活になれ始めた頃、梢ちゃんから手紙が届いた。

 「Dear  KAEDE 
 やっとあたしも東京のスピードになれて、桂姉ちゃんと二人、毎日遊びまくって います。
 家を出てから改めて思ったことは、絵里やとーこさんたちと毎日バカやってた頃 がすごく懐かしいってこと。
 みんなどうしてるかな、ってすごく恋しくなる。
 あと、楓を傷つけたまま、楓に冷たい態度とったまま上京してきていますごく後 悔してる。
 夏樹が楓のほうを向いてる、って気づき始めた頃からはっきり言って楓の顔を見 たくなくなった。
 でも一方で、楓になりたい、夏樹に愛されてる楓になりたい・・・って思ってた。
 矛盾してるよね。
 あたしと夏樹と楓の3人の空気って言うか、雰囲気が好きでそれを壊したくな
 かったのも事実。
 なんだかんだ言っても楓はあたしの大事な友達だから。
 あんなことになった後も、本当は謝りたくてしょうがなかった。
 でも夏樹への恋心がそれを邪魔してた。
 卒業式の日、あたしたちの話を楓は聞いてたんでしょ?
 あたしはあの時高校と一緒に恋からも卒業しようと決めたの。
 今でも、夏樹のこと思い出すと少し胸が苦しくなるけど、
 前よりはずっと楽なんだ。
 そのうち、東京で素敵な恋を見つけよーかな。
 楓もがんばってね。勉強にも、恋にも。・・・じゃあ、また手紙かくね。
 
 P.S ゴールデンウィークには家に帰ります。いろんな話しようね。絵里たちとも 遊ぼうね。
 P・S.2 今、マンションの前の公園の桜が満開なの。東京ってあんなに人が多くて ごみごみしてて、空気も汚れてるのに、桜の花はそっちと同じぐらい綺麗なの。
 そっちのほうはもう散りかけてるかな。学校の屋上から校庭の桜を見下ろしなが ら大騒ぎしたあの頃に戻りたいと時々思うあたしです。
 1995・4 梢  」 
 手紙を読み終えて、あたしはすごく梢ちゃんの声が聞きたくなった。ゴールデン・ウイークまでとても待てやしない。受話器を取り上げ、梢ちゃんの家の電話番号を押す。
「もしもし・・・梢ちゃん?あたし・楓。・・・ううん、用事なんてないの。ただ、声が聞きたかったの・・・・」

 春4月。
 庭の桜の木が、風に揺れている。
 ひらり。花びらがひとひら、雪のように手紙の上に落ちた・・・。
                              (第2話『卒業』 終)

2002年04月06日(土)◆◆


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