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.◆◆第6話:『Teenage Walk』 �亜丙能�回)
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まさか、こんな日がくると思わなかった。 藤崎と同じ夢を追いかけてきたこの7年間。 この大きな舞台で、藤崎と戦うことになるなんて。
全国規模のこの大会に参加しようと思ったきっかけは、藤崎の誘いがあったから。自分の実力を試してみたい、とメールをよこしてきた藤崎。 だめもとでやってみれば、と言う由衣姉の言葉と、由衣姉と交わしたとある約束もそれを後押しした。 気が付けば県大会、地区大会と嘘みたいに順調に勝ち上がり、そして今日実現した二人の直接対決は、全国大会の決勝戦というとてつもなく大きなものだった。
「それでは、決勝のテーマを発表します。 『イメージチェンジ』そして『初めてのデート』です。 制限時間は60分、この時間内にテーマに沿ったカットおよびスタイリングを行ってください。 それでは・・・オールジャパン・シザーズリーグ・決勝戦、スタートです!」
あたしたちの前には、会場の中から選ばれた高校生ぐらいの女の子がカットモデルとして、緊張した面持ちで椅子に座っている。 あたしの担当はまっすぐな長い黒髪のちょっとおとなしそうな女の子。
競技開始前に、簡単な質問と打ち合わせの時間が与えられた。 テーマがイメージチェンジとはいえ、本人の意思も聞かずにばっさりやってしまっては意味がない。希望の長さや、その他必要なことを聞いていく。どちらかというと顔が小さくて、かわいらしい顔立ちの彼女。思い切ってショートにしていいか、と訪ねると、小さな声ではあるが笑顔で『お任せします』といってくれた。
イメージチェンジして、初めてのデートに行く女の子のうきうきした気持ち・・・ 昨日までと違う自分を見て、彼氏がなんと言うだろうか、と言う期待とかすかな不安。 彼女と同じ年頃のあたしも、デートの度に少しでも違う自分を見せたくて、鏡の前で奮闘してたなあ・・・そんなことを彼女の髪に鋏を入れながら考える。
そういえば、藤崎の美容師になりたいという夢を知ったのは、あたしが昔の彼に振られた最後のデートの日だったな・・・。 あの日から藤崎を意識し始めて・・・ずっと決まらなかった自分の目標も彼のおかげで見つけることができて。 高校卒業のときから付き合い始めて、すぐに遠距離恋愛が始まったけど、ときどき喧嘩はするものの壊れることもなくあたしたちの関係は続いている。
何で俺たちいまだに続いてるんだろうな。という藤崎の問いに 忙しすぎてほかの男に目をくれてるひまがない、と冗談で返したけど、でも本当はほかの男が目に入らないくらい藤崎のことが好き、ただそれだけの理由。
残り時間が少なくなってきた。 ふと藤崎のほうに目をやると、彼は彼なりのイメージを作り上げようと、真剣に鋏を使っている。その姿に、あたしのやる気が加速される。 すべてのカットを終え、あとはスタイリングのみ。長かった黒髪は、ばっさりと切り落とされてあたしたちの周りに散らばっている。ブローをして、ワックスを使い、細かいところの補正をして、すべての作業を終えたとき、持ち時間が終了した。 鏡の中の彼女の表情がそれまでの不安そうな顔から笑顔に変わったとき、あたしは正直結果なんかどうでもよくなっていた。
その場で審査が行われ、数十分後、いよいよ結果発表のとき。
「発表します、本年度のオールジャパン・シザーズリーグ、優勝者は・・・・・・」
「・・・こら麻衣、いつまでだらだらしてんの!今日は新店舗の打ち合わせでチーフ候補の人がくるんだから、さっさと掃除でもしな!!」
決戦が終わった3日後。 大会のあった東京から家に戻ってきたあたし。 なんだか気が抜けてだらだらしているのを由衣姉に見咎められる。
「んもー、昨日帰ってきたばっかりなんだからちったぁいたわってよ〜」 「大会終わってから二日休みをやったでしょ!藤崎君ともデートできたんでしょ、文句言うな!」・・・藤崎とは、半日しかいっしょにいられなかった。 大会が終わった翌日に午後からデートしたものの、どうしてもはずせない用事があるからと、彼が一足先に帰ってしまったのだ。 「大体あんたが優勝してれば、チーフに昇格させようと思ったのに、当てが外れたわ」
そう、大会出場を決め、決勝まで残ったとき由衣姉と交わした約束。 由衣姉と旦那さんである隆之義兄さんとが、親父から新店舗のオーナーとして独立することを許された。 もしもあたしがあの大会で優勝できるほどの実力ならば、新店舗ではチーフのポジションを与えるというものだった。
「ま、一年遅れて美容師になった人に負けてるようじゃ、あんたもまだまだね」 「由衣姉の鬼っ!」
・・・結局優勝したのは藤崎だった。 ということで、新店舗でのあたしのチーフ昇格の話はぱあ。 ・・・とはいえ、大会が終わるまで決められるはずのないチーフ職候補を見つけてきてるあたり、由衣姉侮りがたし、といった感じか。
優勝はできなかったけど、審査が終わったあと、モデルの彼女がわざわざ楽屋まであたしを訪ねてきてくれて、 「ずっとママの言いなりでロングにしてて、ほかの髪形は似合わないって思ってたけど、谷村さんに切ってもらってほんとによかった!新しいあたしを見つけてくれて、ありがとう!!」 満面の笑顔で言ってくれたとき、優勝はできなかったけど、この仕事をやっててよかったって心の底から思えた。
「あ、あの人じゃないですか?チーフ候補の人」 いっしょに掃除をしていた後輩の女の子が、店の敷地に入ってきたバイクを見てつぶやく。何気に外に目をやったあたしの視界に飛び込んできた、見覚えのあるあのバイク・・・まさか・・・ 数十秒後、ヘルメット片手に入ってきたその人物を見て、あたしは何が起こったのかと思った。
「あ、早かったね藤崎君。大会終わったばっかりなのに呼びつけて悪かったわね」由衣姉が声をかける。 「由衣さんも人使い荒いっすねー。話が決まったとたんこっちに来いだなんて」 「あたりまえでしょー?オープンまで日がないんだから、一日でも早くこっちにきてもらわないと」
「何これどういうこと???」あたしはいまだに事態が飲み込めない。 新店舗のチーフが藤崎?神戸の叔父さんのお店を引き継ぐものだと思ってた彼が、何でここにいるわけ?
「聞いてくれよ麻衣、おまえの姉ちゃんほんとに人が悪いぜ。優勝したほうが新店のチーフだって言うんだから」 ぽかんとしていたあたしに気づいた藤崎が、苦笑いしながら説明する。
神戸の叔父さんの店は、叔父さんの息子さんも美容師になったことから店は息子さんが継ぐだろうということで、自分はいずれこっちに帰ってくるつもりだったということ。 たまたまそれを由衣姉に話したところ、それならうちに来いと姉が勧誘したこと。そしてあの大会で藤崎が優勝し、今日に至ったというわけ。
「由衣さん、俺を勧誘したときになんていったと思う? 『優勝したらチーフ職と麻衣をあげるわ、好きにしなさい』だぜ?」 「由衣姉め・・・」あたしは思わず離れたところにいる姉貴をにらみつける。あたしは物じゃないっての。 「・・・そういうわけで、おまえも由衣さんから譲り受けたから俺の好きにさせてもらう」 そう言って藤崎はにやりと笑う。 「な、何するつもりよ・・・痛いのとお金に関することは嫌よ」思わずそういったあたしに、彼はにっこり笑ってこう告げた。
「そうだな・・・まずは『藤崎』麻衣になってもらうとか??」
・・・本気とも冗談ともつかない言葉だけど、その命令には従うか。 「なんだ、そんな簡単なことでいいの?それくらいならあたしにだってできるわ」 うれしさをひそめつつ、あたしも彼の口調に合わせた答えを返した・・・。
「はいはい、そこで別世界作ってるお二人さん!ミーティングはじめるわよ!!」 由衣姉の言葉が絶妙のタイミングで二人の空気に水を差す。
十代のころ、藤崎があたしに気づかせてくれた二人共通の夢。 これからもあたしたちは同じ夢を追いかけつづける。 そう、7年目の今日からは二人が同じ場所で・・・。
[THE END]
2004年01月24日(土)◆◆
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