みやにっき
詩人を名乗ることにした。

2002年05月09日(木) 愛は決して滅びない

今,思い出しても。
この日は。

ええと,朝は最悪の気分で目覚め。
前の夜は潰れてしまって入浴できなかったので,速攻で風呂でごしごし。
ごしごしごしごし。
はっきり言う。
男に性的な意味合いを込めて触れられた自分の体って。
「汚い」と感じる。
おとこなんてだいっきらいだねちくしょー。
相方は夜が明けても怒っている。
そりゃもう怒っている。
何しろ僕が朝から「職場に行きたくない」とぴーぴー言うので。
でも仕事は行くんです。
仕事は行くんです。

半泣きでも行くんです。

僕は歩いて通勤する。
運転免許も,車も持っていないから。
そして,自転車を使えないような坂の町だから。
だから歩いて通勤する。
職場までの道を半分あたりまでくると,人家が途絶える。
くねくねと,右手は公園,左手は山の斜面という道を歩く。

カラスが多い朝。

耳が先にみつけた,ひぃひぃとなく声。
僕はこういう声を知っている。
前に実家で飼っていた猫は,まだへその緒のついた状態で捨てられていた。
そういう生き物の声だ。
見なければ良かったのかもしれない。
白い紙箱が横倒しになっていて。
カラスが跨いでいるのは。
見てしまった僕は何も考えずに草むらに飛び込んで。
カラスが飛んで。
僕はそれを拾い上げた。
白に黒のぶちの子犬が,ひぃひぃとなきながら,猛烈な勢いで頭を振っていた。
顔面中の裂傷で「食われかけ」だと知る。
痛みに耐えかねて頭を振っているのだ。
まだ目も耳も開いていないことはすぐにわかった。
気づくと周囲にはカラスが異常に満ちて。
いま,これを地面に置いたら。
いま,これを地面に置いたら。
僕はとりあえず,近所に住む同僚に電話をかけた。
箱をもってきてくれ。
入っていたらしい箱は,すでにカラスに食いちぎられてぼろぼろだった。

職場につくと,すぐに人だかりができた。
露骨に嫌な顔をする人もいた。
「こういうのは,どういう菌をもっているかわからないんだから」
「第一,こういうのを拾ってくる前例を作られると迷惑だ」
「常識でものを考えろよ」
確かに正論だ。
本当に申し訳ない。
でも。
でも。
「生徒が帰るまで,どうか置かせてください」
と,校長に頼み込む。
校長は情に弱いらしく,快諾してくれた。
「保健所に早く連絡してくれよ」
という声が痛い。
保健のせんせが,傷を消毒してくれた。
拭いても血が止まらなかった。

同僚の一人が。
「助かるようなら,うちで飼わせてほしい」
と,言ってくれた。
もし目が見えなくなっていても,かまわないとのこと。

子供が帰るとすぐに,僕は午後に休みをもらうことにした。
動物病院に連れて行く。
外傷はたいしたことないが,親から離すのが早すぎるとのこと。
人間には育てられないかもしれないと,薄く笑う。
でも。
でも。
とりあえず礼を言う。薬をくれたから。

帰り道に犬用のミルクと哺乳瓶を買った。
家で飲ませようとして泣きたくなった。
舌が裂けて,自分でミルクを飲めないのだ。
少しずつ,喉の奥へ流し込んでやる。
あきっぱなしのあごを指で押して閉じさせると,やっと,こくんと喉が動いた。
15ccのミルクを。
20分かけて飲んだ。
一時間ごとに排泄とミルクを繰り返した。

おなかの上に乗せて僕も横になると。
やっとなくのをやめた。
くぅくぅと鼻をならしながら,ようやく眠った。
まだ血が止まっていなかった。

しかしこの日はどうしても僕は実家に帰らねばならなかったから。
そっと彼(おそらくオス)を服の中に入れて抱き,僕は電車に乗った。
電車の中でも,排泄をさせ,持ってきたお湯でミルクを作って飲ませ。
ひたすら温めて,眠らせた。

実家に帰って,母と妹に彼を手渡し。
彼女たちは猫の子を育てた経験があるので,僕は祈る気持ちだった。
すぐに湯たんぽが用意され,丁寧に布にくるまれ。
僕はどうしても眠らなければならず,妹が徹夜で彼を看てくれた。
(僕は次の日に運転免許の試験を受ける予定だったのだ)
膝の中に寝かせ,温め,排泄をさせ,ミルクをやり。
本当に一生懸命に面倒をみてくれた。
声もなくぐったりとしていた彼は。
夜明けごろにはやっと。
また,なくことができるようになっていた。

と,書いてしまうところからもわかると思うが。
結論から言うと。

この子は助からなかった。

なんで捨てるんかなあ。
僕だってそりゃあ飼えないけど。
そんなこと何にも考えずに拾ってしまった。
助けてあげようとか自分なら助けられるとか何も考える余裕がなかった。
今,手を下ろしたらそれだけでこの子は死ぬ。
手にとってしまったのだもの。
せめて抱いた。
少しでも温かいように。

眠るには寒い草むらだから。

ひとつだけ。
何も考える余裕がありませんでした。
なので「職場がいやだ」と考える余裕もありませんでした。
僕の「今日」を救ったのはこの子です。

このまま日記は次の日に続く。

妹へ,私信。
具体的に書いてしまってごめんね。
僕,どうしても,おぼえていたいんだ。

今日のタイトルは,コリント人への手紙�機。隠魁ィ犬茲蝓�
愛している。
それでも。

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