青春の思ひで。
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あの田舎の夜道で、あの男に殺されていれば一番よかったのに、と何度も思う。
気持ち悪いほどの痣も、白目にできた血溜まりもとっくに治った。 今じゃ、痣のあとよりも、擦り剥いてしまった腕や脚の擦り傷の痕の方が、色素沈着してわかりやすい。
腕と脚にできた痣を見て後輩は「こんなひどい痣があったら、これを見るたびに思い出しちゃうじゃない」と言った。 何も言い返せなかった。
だって、きっと忘れたくない。 だから、治らなければそれはそれは醜悪な姿になってしまっただろうけれど、心のどこかで痕が残ればいいと思っていた。
五分袖や七分袖を着て、他人から痣が見えないように生活していたけれど、 ああ、一度くらいは見せてやりたかったな、あの男に。
あたしだって一緒だ。 「汚い」「不潔だ」と大人になってしまった友人たちを嫌悪するとき、あたしは彼女たちよりも自分を憎み忌むべきだ。 軽々と器用にやっていけないだけ、あたしは大切なひとを傷つけているのだから。 不器用なんて美徳じゃない。罪だ。
わけもなく頭痛がするとき、お腹が痛むとき、これがあのときの後遺症ならいいのに、と思う。 実際、そんなわけないんだろうけれど。
あのときの傷痕なんて消えたけれど、やっぱり忘れたりはできなかった。 自嘲気味な微笑が出る。 あたしの、望みどおりじゃないか。
もし、あの男に少しでも情があれば、あのときのことをあたしは完璧に、甘美な思いでにできるのに。 ナルシスティックなのはわかっているけれど。 でも、真実のところは、あたしは、愛されてもいない男から暴力を受けただけ、だ。
他人に、暴力を振るってしまった、ということであの男は傷ついているだろうか。 もしもそうなら可哀想だと思う。 自分の意思じゃなかっただろうから。お酒と煽ったあたしが悪いのだから。 でも、たぶん、後悔はしていても傷ついていたりはしてないだろう。 一連のあたしとの関係性と同じように、きっとわずらわしい出来事のひとつとしか思っていないだろう。 傷つかないでほしい、と思ったものの、それならそれで腹立たしい気持ちにもなる。
首を絞められようが、殴られようが、そんなの構わない。 あの男に、「関係ない」と言われることが一番嫌だ。
殺されていれば、「関係ない」なんて言わせないのに。
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