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公園とベンチ 6 2006年09月30日(土)
雨が降るとぼくたちは階段で雨宿りをした。
公園のすぐ横にある古びたビルの一階が銭湯になっており、銭湯の入口の左には大人ふたりがやっとすれ違えるくらいの幅の階段があった。雨に濡れたふたりはいつも5段目の階段に座った。濡れた体を寄せ合うようにぴったりくっつけ、震えながらふたりは降る雨とその雨に濡れるベンチを眺めていた。
黙っていると息遣いさえ聞こえ、だからふたりは黙って互いの息遣いを感じていた。そうすることにより、肌と肌を触れ合うことにより、手を重ねることにより、ぼくたちはお互いの存在を確認し合い、同じ痛みを共有し、傷を舐めあっていた。 あの日以来、会う回数が多くなったのは、会いたいからではなく会わないと不安になるからだった。肌と肌を触れ合い、そうすることでしか不安を解消するすべをふたりは知らなかった。
想いが募れば会いたくなり、会えなければ不安になり、会うと辛くなる。 ぼくたちはもっとわかり合えるはずだった。でも、今はこうして肌を触れ合うことでしかわかり合えないのか・・。でもこれ以上の何をぼくは望むというのか。彼女と同じ感情を分かち合い同じ時間を共有し、しかしこのどうしようもないもどかしさと焦燥感はどこからきているのか・・。
ぼくは彼女の髪を撫でた。 彼女はぼくのその手を触れた。
いつの間にか雨が止んでいた。
つづく。
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