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ケティの見た空 1 2007年09月24日(月)
めったに雨の降らないこの時期は街全体が乾ききっていた。まだ舗装されていない道路を走る車の土けむりと排気ガスが街中を覆い、太陽の昇っている昼間でさえ、そのほこりで空はにごり、陽射しさえ遮られて弱々しかった。
ケティの家は貧しかった。 いや、この国の人達はみな貧しかった。
貧しさは心を蝕み体を蝕み 人を蝕みやがて社会を蝕む。
この蝕まれた国にはたえず異国の観光客が訪れては去ってゆく。貧しい人々を慈悲の目でしか見れない観光客。貧しい国で貧しい体験をし、そしてそれを自慢話として帰っていく。
ケティは4才の時に父親をなくした。それはケティの妹が産まれて間もない頃だった。父親は家族4人を養う為に、いつもの工事現場の仕事を倍に増やし、その過労がたたって現場の足場を踏み外したのだ。ほぼ即死状態だった。 川沿いの火葬場で、焼かれて灰になって煙になって天に昇ってゆく父親を、ケティは妹を背中におんぶしながら黙って見上げていた。その空はあまりにも狭く、あまりにも低く、その奥にある太陽を見ることはできなかった。
朝日が昇るまえに、ケティはまだ幼い妹を背負って井戸に水を汲みに出る。途中のパグマティ川では、お母さんが大きな笊に入ったたくさんのジャガイモを洗っていた。ケティはお母さんを見つけ手を振ったが、お母さんは額の汗を拭いながら大声でケティを叱りつけた。ケティは苦笑いしながら背中の妹をあやし、急ぎ足で井戸へと向かった。
父親が死んだ後、代わりにお母さんが工事現場に行くことになり、朝の水汲みと食事の用意、そして妹の世話はすべてケティがやっていた。ケティは妹をことのほか可愛がっていた。いつもおんぶしながら背中の妹に微笑みかける。それは、この小さな命を貧しさから守るかのように、そしてケティは背中からまだ見ぬ太陽の光を受けていた。
つづく。
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