くじら浜
 夢使い







長いこの道   2010年03月21日(日)

両手ですくった言葉の滴たちが
指のあいだからしたたり落ちていく
削いだ肉は感情の赤い血になり溢れだした

ながいながいこの道を歩くとき
いつもいちど振り返り
そして歩きだす

赤が涸れたときぼくはいつか言葉をうしなった

逆流する血が突き刺さり
立ちつくすその先に道はなく
そびえる樹を抱いた

枝葉がゆれて
樹がゆれて

こぼれた言葉を拾い

そしてまたこの長い道を歩きだした





いつも山の音を聞いていた   2010年02月21日(日)

ピンと張った縦糸の合間を
小さい輪っかのついた横糸車を起用にすべらせ
トントントン
と、締めていく

機を織る母のよこには大きな窓がついていた

老眼鏡に指をやり
縦糸と横糸でできた地味な柄を確認するように
母は紡いだ糸たちに顔をすりつける

そして
また、ピンと張った縦糸に横糸をすべらせ
トントントン
と、打ってゆく

一息ついて、母は窓からおでもり山を見上げる

夕日で真赤に燃えるおでもり山には
たくさんの母の音がある

お茶を飲み
背中をさすって
目をこすり

そして
また母は、トントントンと
山に向かって打っていく








井戸の中 ��   2010年02月11日(木)

ナナはぼくよりひとつ年下だった。

ある日学校の帰り道、女の子が河原の土手でしゃがみ込んでいた。ぼくは近づき、
なにしてるの?
この花をみてるの
それは低い雑草の中にひとつだけ黄色い花を咲かせていた。
ビー玉あげるよ
ありがとう
ぼくはナナに透明なビー玉を一個あげて立ちあがった。
ナナも立ちあがり、そしてぼくのあとについてきた。

次の日、校門でナナが待っていた。
ビー玉あげるよ
ぼくはふたつめのビー玉をナナにあげた。
ありがとう、と言ってナナは笑った。


覗き込む井戸の中からは冷気と一緒に白い光がふたりの顔を照らしている。
あの日以来ナナはぼくにまとわりついてくるようになり、この井戸を発見したのは夏休みに入る二日前だった。








交錯する   2010年02月01日(月)

ラジオが好きです

枕元のラジオのボリュームを
聴こえるか聴こえないかくらいに絞り
そしていつも布団にはいります

かすかに聴こえるラジオの音を
しばらく聞いてます

聞くとはなしに聴こえるラジオの音が夢をさそい

夢のなかにラジオの音が交錯したら
ふかい眠りにはいります









かくれが   2010年01月20日(水)

あの頃ぼくたちにはたくさんの隠れ処があった


防波堤にそびえる大きなガジュマルの樹
その樹の核にベニヤ板をおいた秘密基地

ススキの生い茂る中に獣道をつくり
敵をあざむくために作った迷路や落とし穴

刈ったあとのサトウキビの抜け殻を
ドーム状に積みあげて中をくりぬきゴザを敷く

岩に叩きつけられた波の音がひびく海辺の洞窟

雨がふると木造のおんぼろバス停小屋にかけこみ
雨戸を閉め、電気を消し、
トタン屋根に激しくおちる雨の音をきく


あの頃ぼくたちにはたくさんの隠れ処があった
そのひとつひとつが夢の跡だった







すべて風にゆれている   2010年01月17日(日)

風が吹きぬける
この街のざわめきをかき消すように
あおい風が吹きぬける

聴こえるのはゆれる樹々の擦れる声と
あおく染まる街におちた枯葉をふむ音

風の角度がかわるたびに
街はまたべつの色に染まり
立体のキャンパスは
風を追いかけなぞった冬の色があらたに塗られる

風は色を追い
軌跡がゆれている

この街は風に塗られた
冬の街







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