「八月の略奪者」(いつき朔夜)を読みました。 いつきさんを読むのは3冊目ですが、全部面白かったです。今回は、博物館の学芸員と高校生の話でした。
馬鹿にされることを恐れて、しらけた態度を取っていた浩紀に、正論で真っ直ぐぶつかっていく草一。二人が心を通わせる様子が、ゆっくり描かれていて、良かったです。地味な話だけと、ふとした表現が良い。 草一は、仕事には熱心だけど、恋愛には臆病で、本心を表すことが出来ない。浩紀は、そんな草一をもどかしく感じます。 自分が失恋することが分かっていても、黙っていられなくて、「あんたの中の可哀相な蝉を、解放してやって欲しい」というセリフに、ジンときました。 短気で、将来の目標も無かった浩紀が、三年後、思慮深くなり、しっかり目標を持って大学生やってるのが、良かったです。良い影響を与え合う、年の差カップルって素敵。
ただ、書き下ろしは、共感できない。 草一が、年の差を気にして、別れた方がいいのでは…と悩む話です。久我有加さんの「短いゆびきり」もそんな話でしたけど、悩んでも無駄なのになーと思ってしまいます。終わる時はどうしたって終わってしまうものだし、心底好き合った者同士で一緒に居れるって、凄い貴重なことなんだから、無理矢理終わらせようとすることない、と思う。 蛙の多肢症の研究で、環境汚染が見つかり、市が圧力かける話は面白かったです。いつきさん博識だなー。
ネタバレ草一は、博物館に迷惑がかかることを恐れて、論文から、多肢症の原因が環境汚染であるという部分を削ってしまいます。 それを知った浩紀は、論文を、自分の名前でHPに発表してしまいます。そのせいで、地元での就職はふいになるのですが、草一が一番大事な部分を曲げてしまうくらいなら、この方が良いと言います。 このやりとりが、いいなーと思いました。やり方は違えど、相手のことを深く考えているところが。
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