酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2002年は、明野照葉さんとの出会いで幕をあけました。今年一番最初にすごい!と思い(『輪廻』酒蔵に置いています)、ずーっと追いかけています。明野照葉さんと出会い、新しい本仲間が増えたことも嬉しい収穫v この『棲家』は、明野照葉さんの作品では一番怖いホラーかもしれない。あ、明野さんはホラー作家ではなく、上質のホラーも書ける作家さんだと認識しています。家を題材にしたホラーというのは、かなり出尽くしている感がありますが、この『棲家』の家の怖さは変化と変化の原因にあります。怖いですよ。これ。ホラー好きな方にはおすすめの一品ですv
『棲家』 2001.8.18. 明野照葉 ハルキ・ホラー文庫
お姿だけ拝見すると、その作風とのあまりのギャップにますます愛を捧げたくなってしまう作家、それが森奈津子さん。森奈津子さんの作品もさまざまなジャンルがあり、根底に流れるエロスにはしびれます。 このとんでもタイトルは、ルナティックホラー(らしい)。物語のWヒロイン緋紗子と小雪がとてもとても素敵なのですーv 私は、小雪派!森奈津子さんならではのエロスとホラーの物語。槻城ゆう子さんの装画も綺麗で淫靡でよいですのうv 「あんた、死ぬよ」
『あんただけ死なない』 2000.11.18. 森奈津子 ハルキ・ホラー文庫
再読本は、あいた日にちに書き込んでいくことに決定(2002.10.12.朝)
昨夜のチャット(2002.10.11.〜)で、近藤史恵さんの話題になりました。近藤史恵さんは大好きな作家さんですが、捕物帖シリーズが未読であることが判明。それは読まなければv 今泉探偵シリーズ(歌舞伎シリーズもかぶる)も、整体師シリーズも好きですが、一番好きなのがこの『凍える島』です。この作品で近藤史恵さんは、最年少で鮎川哲也賞をお取りになっています。すごーい。 内容は、‘孤島もの’ですね。妖しいムード満載でぞくぞくします。喫茶店を経営するあやめが、常連さんたちと慰安旅行に行きます。そのメンバーにはあやめの愛人とその妻も含まれている。そこで起きる事件。この物語の終わり方で私は、近藤史恵さんのファンになりました。 ちなみに、私がハンドルネームを変えるとしたら、《あやめ》にしたい。勿論この物語からいただきたいのです。あやめ、それは菖蒲そして殺めv 日本脱出したし 皇帝ペンギンも 皇帝ペンギン飼育係りも
『凍える島』 1993.9.1. 近藤史恵 創元推理文庫
『破線のマリス』で舞台となった首都テレビ報道局放送センター、道を誤り殺人犯となった遠藤瑶子の部下だった赤松直起が奮闘します。映像を切り貼りし編集することで人を冤罪に追い込み、さらには罪から逃れようとした遠藤瑶子。赤松たちはその遠藤瑶子がやってしまった編集の捏造を放送することによって、殺人犯人を捕まえます。それを見ていたある男が、数年後映像を利用し、大衆を操るカリスマとして登場します。 この物語、読み返していたのですが、今読むと宮部みゆきさんの『模倣犯』に通じるところがあります。たまに登場するカリスマ性のある人間に大衆は熱狂し、操られてしまう。これはものすごく怖いことですね。‘個’では決してやらないことも‘群’となるとやってしまう。まさに熱に浮かされた結果なのでしょうけど。 『破線のマリス』で、最後に遠藤瑶子が自分自身で自分の犯罪告発編集を行い、テレビを信じるなと警鐘しました。今回も同じ。ただ流されている映像を闇雲に信用してはいけない。自分の感性を研ぎ澄まし、見分ける目を持たねばならない。 でも・・・それはとってもむずかしいこと。流されやすいものだからなぁ。
『砦なき者』 2002.1.18. 野沢尚 講談社
第43回江戸川乱歩賞受賞作品。野沢尚さんは、どこぞでこてんぱんに叩かれてネット決別をしたとか噂を聞きましたが、本当でしょうか? さきほどその噂を捜して『ネットバイオレンス』という作品を書かれていることを発見。読んでみようと思います。えっと、私は野沢作品好きなんですね。あとネットはちょっと怖いなぁと思うときがあります。読んでくれる人を怖いと思わせるような文章を書かないようにいたいなぁと心がけていこうとあらためて思います。 さて、前置きが長くなりましたが、この『破線のマリス』もそのような自戒を警鐘する作品だと思います。映画化されたものも観ましたが、黒木瞳と陣内孝則がうまく演じていましたねv ナイン・トゥ・テンという報道番組の特集コーナー‘事件検証’の編集をする遠藤瑶子。彼女の編集は切り口がよく、視聴者の心をとらえ、そのことが彼女の驕りを煽り、彼女自身をも破滅へ追いやってしまいます。 マリスという言葉が、《悪意》という意味だとこの作品で知りました。放たれた言葉や映像は凶器になりかねない。それを感じさせてくれます。瑶子の映像によって破滅する男、麻生の言葉が耳にこだまします。 「誰だ、誰が自分の都合のいいようにまわりの風景を切り取って、 別の私をでっちあげたんだ!」 『破線のマリス』 1997.9.11. 野沢尚 講談社
『四十歳になったら死のうと思っている。 現在三十八歳と二ヶ月だから、あと二年足らずだ』
桐野夏生さんとの出逢いとなった、 『顔に降りかかる雨』(初のミロシリーズにしてデビュー作品) から10年、ついにミロシリーズの最新刊『ダーク』 が刊行されるそうです。冒頭はその最新刊『ダーク』より引用。孤独な女ミロは生きる戦いからリタイヤして、旦那ー博夫のような死を選ぶのでしょうか・・・。それはないな、きっと。
村野ミロ。このけったいな名前は、ジェイムズ・クラムリーの‘酔いどれ探偵’ミロドラコヴィッチからつけたそうです。画家にもミロっていらっしゃいますね。あと強い子良い子の飲みものの・・・ハッ、以下自粛(笑)。 桐野夏生さんが生み出したこのミロとの出逢いはもうずいぶん前のこと。どこかで書きましたが、本に呼ばれました。
柴田よしきさんのリコ、乃南アサさんの音道貴子、そして桐野夏生さんのミロが私にとって好きな三大女探偵(刑事)です。読むたびに力がふつふつとわいてくるかのような、したたかでタフで美しい女たちv(八木薔子は探偵ではないので除外〜)
『顔に降りかかる雨』で、村野ミロは友人の失踪事件に巻き込まれていきます。旦那に自殺されてしまった重い過去を抱えた孤独な女ミロが、友人の愛人によろめいたり (古いか)、反発したりしながら真相にたどりつくのですが・・・。 ミロが見た真相はミロをより孤独へ追いやった気がします。この物語を最初に読んだ時に感じた感覚が、まさに《ダーク》な感じ。新刊が、『ダーク』 であると知った時、思わず納得。 村野善三の義理の娘であり、母親が亡き後、父親の愛人であったらしい(このあたりはとても曖昧)ミロ。高校生二年生の時に博夫と出会ったときには、既に義父との関係をゲーム感覚にしていたらしいインモラルな女性。エロス、ボンデージ、同性愛、死体写真愛好者、ミロが垣間見るのは暗黒な闇の世界。妖しく魅惑的。ミロにぴったり。
ミロシリーズの魅力は、ミロ自身が醸し出す淫靡であやういムードにあると思います。まっすぐで正しいものより、ちょっと歪んだものの方が危険で魅力的。新刊『ダーク』 でどんな妖しい世界が繰り広げられることでしょうか。とても楽しみですv
余談ですが、今年の2月に西澤保彦さんとお目にかかった時、桐野夏生さんについてお話させていただく機会がありました。『柔らかな頬』 の終わり方にずっと疑問に感じていたのですが、西澤先生とお話させていただいて解消することができました。 ちなみに桐野夏生さんは、女優さん以上に美しい方であるそうです。
『顔に降りかかる雨』 1993年9月 桐野夏生 講談社
先日、チャットをしていたら遊びに来てくれていたよっちゃんが、Jnovelを手に出来なかったことを知る。あのJnovel7月号を獲得するまでに私も苦労したもの。そこでよっちゃんに送ってあげることにした。苦労して手に入れた本で楽しむ人が増えるってのは、理に適っていると思う。ほほほ。その前に読み直してみると、なんと鉛筆でチェックを入れている。むー。消すべきか悩んだが、消さないでこのまま送ろう(笑)。 鉛筆チェックを入れながらそれをすっかり忘れていた自分に驚いたわよ。とほほ。
さて、この『腕貫探偵』、知る人なら知っている(当たり前だ)西澤保彦さんのファンクラブ掲示板から誕生したキャラクターなのである。西澤先生の腕貫姿があまりにも似合うと言う話から、あれよあれよと腕貫探偵なるものまで発生してしまった。そしてそれを公約(?)どおり、実現してくださった。あっぱれv 西澤先生。 この『腕貫探偵』を読まれた↑腕貫探偵誕生を知る人たちはどんな感想を持ったのであろうか? 私は、本当にいい意味で裏切られました。西澤先生が腕貫探偵のキャラをこう設定したことも、場所をこう設定したこともほんとーに想像を超えていました。やはり西澤保彦さんって作家さんの才能は非凡なんですよねー。続きが楽しみです。
謎の市民サーヴィス課出張所! ある日、蘇甲純也(そかわ・・・読めないって)の通う櫃洗市の国立大学にそのようなものが現れた。そして純也くんのささいな疑問をさらりと解決してしまう、無愛想な‘腕貫男’・・・。お金はどこからもらってるのだ。 そんな市民サーヴィス課、岡山市にも登場して欲しいぞー。そして愛想のかけらもない‘腕貫男’にこれからの人生相談をするのよ。こてんぱんにやられそう(笑) 次に‘腕貫男’ はどこへ出張するものやら。楽しみなのであるv
朝倉めぐみさんの挿絵の腕貫男がとっても素敵なのv 大好き好きっvv
『腕貫探偵』 J-novel 第4号 2002.JULY 西澤保彦
どうしてこんなに心が痛いのだろう。‘手におえない’とよく言うけれど、この『海辺のカフカ』 は今の私の心におえない物語だったのかもしれない。動揺している。 今から書くことは、ネタバレになりかねません。ですから、まだ読んでいない方でこれから読もうと思われている方は、このページ読まないでください。私は今、混乱した心を整理するために書いているようなものなので、これから読む方を惑わしたくない。
この物語は、『ねじまき鳥クロニクル』の延長線上にある作品だと思う。延長戦どころか、クルクルのたくさんの要素 ー優しさやせつなさや透明さや残酷さなどー をシェイカーに入れ、さらに増してブレンドした別の物語だと思った。でもクルクルは心に痛くなく、何度も何度も読み返せるけれど、この『海辺のカフカ』 はしばらく封印する。 ただ誤解をしないで欲しいのは、決してこの物語が駄作ではないということ。むしろこれだけ動揺させてしまうほど心を揺さぶるパワーを持った物語に違いない。
物語は、カフカと言う少年とナカタさんと言うおじいさん、傷を持ったこのふたりの人間の物語が別々に進行していく。あいかわらず村上春樹さんは音楽がお好きで、読んでいて海辺でプッチーニを聞いているかのような錯覚に陥る。美しい調べであるのに、あまりにも美しすぎて透明すぎるから、心の琴線に触れかき鳴らし涙が止まらない。 カフカとナカタさんの物語が交錯した時、すべてはひとつにまとまる。それは一幅の美しい絵画を見ている気分。崇高すぎるものは心に痛すぎる。ひりひりする。
カフカとナカタさんを取り巻く人物も今回も素晴らしい。特にホシノ青年は、実在するなら惚れてしまう。もしもあの物語の人物になれるなら、迷うことなくホシノ青年になりたい。カフカの物語より、ナカタさんとホシノ青年の物語のほうが私には重要。
村上春樹さんらしい言葉がたくさん出てくる。必ず出てくる 《しるし》。この 《しるし》 に関わってしまうと、人の運命の流れはどうしようもないのだろうか。 いつも思うことだが、村上春樹さんの頭の中を開けて見てみたい。どうしたらこういう物語を想像し、紡ぎだせるのだろう。不思議だ。今回は言葉に尽くせないものを与えられた。ひょっとすると 『ねじまき鳥クロニクル』 の剥き出しの残酷さの方が私には耐えやすかったのかと、ふと思う。でも村上春樹さんがカフカとナカタさんに与えた試練は別の角度でむごすぎた。カフカとはチェコの言葉で ‘カラス’ だそう。これはカラスと呼ばれた少年の心の物語。 「孤独にもいろんな種類の孤独がある」 それは正しい。しかし、15歳の少年に与えるには厳しすぎる孤独だったと私は思う。
やはり、うまく言えない。素晴らしい物語には違いないけれど、私はきっと何年か先まで再読しない。心が今よりしなやかにしたたかに強靭になったら必ず再読したい。
「ことばで説明してもそこにあるものを正しく伝えることはできないから。 本当の答えというのはことばにはできないものだから」
田村カフカ、その君の強さがねたましいほどに羨ましい。
『海辺のカフカ』 2002.9.10. 村上春樹 講談社
椹野道流(ふしのみちる)さんのことは、以前とある個人サイトに出入りしている時に、同じく出入りされている方から教えていただきました。その個人サイトはこの夏に閉じられたと最近聞きました。また教えてくださった方も今はあまりネットをされておられないご様子。ネットの良さは流れていくことにあると、そこでは教えていただいたのですが、流れてしまって縁が切れてしまうことは寂しいものです。 お元気ですか?
椹野道流さんは、今ふたつの主流シリーズを書かれています。ひとつが、‘奇談シリーズ’、もうひとつが‘鬼籍通覧シリーズ’ です。どちらもとても面白いのですが、今回は出たばかりの、‘鬼籍通覧シリーズ’より『隻手の声』を取り上げてみます。
鬼籍通覧シリーズは、大阪府高槻市O医科大学法医学教室を舞台に伏野ミチルと伊月崇がかかわる事件簿です。死体が語るとか、死体の声に耳を傾けるとか、昨今テレビドラマ等でもおなじみになってきた法医学。現実は人手不足で大変であることがよくわかります。今回は、たまたまネットゲームにはまった伊月が、ネットで知り合った小学生の家庭内暴力を受けていることを知り、現実でも物語がリンクしていきます。今回少々身につまされてしまったのは、《病的酩酊》。 お酒に酔って自分の暴力行為を認識できないというもの。勿論、私は一応女性ですので拳は使わないにしても、言葉の暴力という奴がありますから・・・。お酒に酔った勢いでなにかしでかすのはやめましょう。
‘鬼籍通覧シリーズ’ は、いつもタイトルが深い意味を持ちます。今回のタイトルは隻手(せきしゅ)と読みますが、打ち込むと一発変換されました。が、私は意味を知りませんでした。恥。この物語の内容とタイトルはいいですよ。そうだよなぁって思われること請け合います。読みやすいので、このシリーズ通して是非読んでみてください。 『暁天の星』、 『無明の闇』、 『壷中の天』、そして今回の『隻手の声』です。
また、‘奇談シリーズ’ ですが、私は椹野道流さんはもともとこちらから入りました。こちらは、妖怪やファンタジーやボーイズラブが入り混じっているので、ちょっと駄目と言う方もおられるかもしれません。でもこちらのシリーズのキャラクターもとてもいいので、試しに読んでみられてはいかがでしょうか。こちらは講談社X文庫より『犬神奇談』 まで16冊(上下は1冊で考えました)出ています。孤高の追儺師(霊障を祓う‘ついなし’)天本森が、精霊と人間のハーフ(と言うよりダブル)の琴平敏生と出会って変わっていく様は時系列に楽しんでいただきたいものです。森さんの友人の兵庫県監察医の龍村泰彦は、両シリーズを股にかけて登場するツワモノです。妖魔の小一郎もご主人様の森さんとともにゆるゆると変化していって可愛いです。一番のお気に入りキャラが小一郎。そしてなんといってもがっしり健康元気な龍村あんちゃんです。
さらりと読める物語ですが、心になにかふっと落として言ってくれる作家さんですv
『鬼籍通覧 隻手の声』 2002.9.5. 椹野道流 講談社NOVELS
この作品は、3年前の第45回江戸川乱歩賞受賞作品です。新野さんは、失踪して放浪しながら、この応募作品を書き上げたという変り種。作家って変わってる・・・(笑)。 3年前に読んだ時には、登場するお笑いコンビがダウンタウンを彷彿させたのですが、今回読み直した時にはどのお笑い芸人さんも浮かびませんでした。その方がいいな。
‘猫は目だけを動かし、視線をよこした’ このフレーズ物語の冒頭シーンです。このシーン、とても深い意味を持ち、最後になるほどvと唸りました。一世を風靡したお笑い芸人が、スキャンダルに巻き込まれ、芸能界から去ります。数年後、かつての相方が主人公が行きつけのBarに現れたことから、封印されていた主人公の人生と言う物語が、Pause解除され一気に流れていきます。
芸能界と言う競争の激しい世界の中での勝者、落伍者、彼らに群がるファン。一度接点を持ってしまうと、この物語のような事件が起こっていても不思議はありません。 自分の驕りや周りに翻弄された主人公が、息を吹き返し、戦い、大切なものを見つける構図は読んでいて気持ちいいです。絡み合う人間関係が解きほぐされていくさまも読み応えあり。オススメのハードボイルド・ミステリーでございます。マルクスの言葉の意味は物語の中で納得してください。
新野さんは、このあと『もう君を探さない』、『クラムジー・カンパニー』、『罰』と出されています。 『もう君を探さない』も好きな作品ですが、まだ『八月のマルクス』 を超える作品を私的には読めていません。今後が楽しみな作家さんのおひとり。
『八月のマルクス』 1999.9.9. 新野剛志 講談社
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