酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2002年11月14日(木) 西日の町

 昭和四十五年の春、北九州に住む母と僕のもとへ、母の父親‘てこじい’がころがりこんでくる。
 この‘てこじい’波乱万丈に流れ流れて生きてきた男。母親は、複雑で特別な愛情を‘てこじい’に注いでいることが僕にもわかる。‘てこじい’や母の生きてきた時代を垣間見、‘てこじい’を母とともに見送るまでの物語。

 『夏の庭』で私を感動させてくださった湯本香樹実さんがどんな物語を書かれたのか興味津々で読ませていただきました。淡々と語られる親子の肉親の情愛なのでしょうねー。不思議な音楽が流れている気がしながら読みました。

『西日の町』 2002.9.15. 湯本香樹実 文藝春秋



2002年11月13日(水) PERFECT BLUE 夢なら醒めて

 うーん・・・これは現実に起こりうるホラーです。
 アイドルをストーキングする異常な3つの物語。いやぁ吐き気がする怖さでした。中でもふたつめの『涙、あふれて・・・・・』はすごくいや。
 なんだか参った。

『PERFECT BLUE』 2002.5.7. 竹内義和 主婦と生活社



2002年11月10日(日) 小さき者へ

 岡山が誇る直木賞作家、重松清さんの短編集。いつもながら、完璧な救いはそこにないけれど、もうちょっとだけ頑張ろう、そんな気にさせてくれるそんな6つのお話。
「海まで」
 田舎に住む年老いた母親と自分の息子の関係がいつからかねじれてしまう。不器用で心優しい少年はおばあさんの意地悪に傷つきながら、でも優しい。最後に膝が痛いおばあさんの膝をさすってあげる少年がとても好き。

「フイッチのイッチ」
 小学校4年生の圭祐の両親は小さな頃離婚した。トモは両親が離婚して転校してくる。小さいながら必死で大人の事情を理解しようとするふたりの子供。こどもには大人の事情なんてわからないよね・・・。

「小さき者へ」
 家庭内暴力をふるい始めた14歳の息子につづる父親の手紙。自分の14歳を思い出し、現実に息子にもう一度立ち向かおうとする再生の物語。

「団旗はためく下に」
 応援団長だった父親の押忍(オス)。高校を辞めて人生をはじめようとする娘がその押忍の心を学び取っていく。

「青あざのトナカイ」
 会社を辞め、ピザ屋をはじめ失敗。その失敗から男が傷を癒し、立ち直ろうとするまで。この男がどん底でひとりになりたいと家族を奥さんの実家に行かせてしまう。どん底になった時、人間はひとりになりたいものだから、わかりすぎて心が痛かった。

「三月行進曲」 
 息子が欲しかった男が、少年野球の監督になる。問題を抱えた少年三人を連れて甲子園まで遠出。男の人ってロマンチストなんだなぁと思います。

 さすがに重松さん。丁寧に心の襞を描いています。HappyEndではないけれど、きっとまた明日は頑張れる。そんな人間を描いてくださる重松さんが大好きです。



2002年11月05日(火) プリズンホテル春

 奥湯元あじさいホテル、通称《プリズンホテル》にも、そこに集う人々にも春がやってくる・・・。春という季節は卒業していく、桜が散っていく日本ならではの季節なのですねぇ。
 今回、偏屈作家孝ちゃんは、文壇の重鎮に認められ権威あるなんたら賞に二作品ノミネートされます。ひとつは任侠ものの『仁義の黄昏』ともうひとつは極あまの恋愛小説『哀愁のカルボナーラ』・・・な、なんてタイトルなんでせうね、孝ちゃんってば。
 そんな中、今はプリズンホテルで女将になっている母親に捨てられた後、不器用な愛情で孝ちゃんを育て愛し続けてくれた富江が失踪します。
 孝ちゃんは、寂しくて愛が欲しいばかりでおとなになりきれなかった男。前作冬では、愛する女を声にして態度にして愛していると言うことができました。今回、孝ちゃんは、孝ちゃんは、富江さんのことを心配して探し回って、最後に・・・。
 こんな簡単なあらすじを書いているだけで涙があふれてきます。いい話やなぁ。孝ちゃん、ほんといい人たちに囲まれてしあわせだね。よかったね。
 いつもながら同時進行でサイドストーリーがいくつも一緒にすすんでいきます。人生というものは、神様がなにかをしてくれると待っていても駄目、自分で動かないとならないと改めて教えてくれます。
 本当にこのプリズンホテルシリーズにはノックアウトされました。

『プリズンホテル春』1997.1.31. 浅田次郎 徳間書店



2002年11月04日(月) プリズンホテル冬

 孝ちゃんが、人間になりました!
 本当にここまで泣かせてくれるとは思いも寄らなかった。酔わされて2002にまたもや変動ありです。今回は本当に本当によかった・・・。
 仲蔵親分オーナーの奥湯元あじさいホテルに孝ちゃんが行くと必ず事件が起きてしまいます。今回は脇に出てくるゲストがみんなよかったっ!!!
 子供の頃母親に捨てられておとなになれないまま作家になった孝ちゃん。その孝ちゃんのために仲蔵親分はホテルをぽんっと買っていたのですね。癌じゃないかと大騒ぎする仲蔵親分もあいかわらずキュートですv 素直な感情を出す術を知らない孝ちゃんが、富江さんから見せてもらった父親の恋文を読み、愛情表現を素直にしました。もうもう滂沱。あぁ、この本が広く世に受け入れられた訳がやっとハッキリしました。ただ単におもしろおかしいではなかったのねぇ。
 安楽死や自殺など、生と死をもテーマに据えられています。これには参りましたね。旦那が末期癌の状態の時、26歳なんて若さだから痛みも尋常でなく、あの頃のことまざまざと思い出しちゃってなんだかもうただただ泣きながら読み終えました。
 みんなに薦めてもらって読んだこの本、もしまだ未読の方がおられたら読んでくださいね。表面の軽薄さは仮面。ものすごく深くて濃い心豊かになる物語です。

『プリズンホテル冬』1995.9.30. 浅田次郎 徳間書店



2002年11月03日(日) プリズンホテル秋

 さてまたまた奥湯元あじさいホテルで事件です!(笑)。今回のプリズンホテルでは、あいかわらずの任侠さまたちと桜田門さまたちが鉢合わせ。そのほかさまざまな‘訳あり’なお客様たちが。
 ぐずぐずな性格の小説家孝ちゃんの屈折ぶりも健在。うーん孝ちゃんちょっとは成長したって言えるのかしら。
 今回しびれたのはBarしがらみのバーテンダー。しぶいっすv あと前作と同じく支配人さんのことは好きですね。堅気なのに堅気じゃない人。息子もなかなかいい。板長さんと服部シェフもいいし、黒田さんもいい。要するに脇がいいんですよねー。今度は‘冬’v どんな事件が起きるのか楽しみです。

『プリズンホテル秋』1994.8.31. 浅田次郎 徳間書店



2002年11月02日(土) プリズンホテル

 私の周りで話題騒然のこのご本、まずは『プリズンホテル』を読みましたよv いやぁ〜みんながハマルだけあって面白かったです。実は私これが初、浅田次郎さんだったのです。こういう文章をお書きになるとはーっ。テンポの良さやコメディタッチ&人情味あふるる物語に酔いしれました。はやく次を読まなくっちゃっ!
 
 偏屈な作家、木戸孝之介が、極道の叔父木戸仲蔵(なかぞう)の経営する‘奥湯元あじさいホテル’通り名《プリズンホテル》へ投宿し、そこで宿を同じくした人々とともに遭遇する珍事件〜。入り組んだ人間関係や、多彩な登場人物をあらまぁ見事に料理されますことv 孝ちゃんは、ちょっと偏屈にもほどがあって、いくら悲しい過去を抱えているからと、ひーどーいー奴です。でも義母の富江さんの対応を見ていると、けっして根は悪い奴じゃないんだろうなぁ。
 私は、任侠もの好きなんです。えへ。だから余計にこの物語面白かった!

 こんな素敵な物語に出会わせてくれてありがとうv>すすめてくれたみんな

『プリズンホテル』 浅田次郎 徳間書店



2002年10月31日(木) がふいしんぢゅう

 やっと、岩井志麻子さんの作品でこれならいいと言えるものを読めました。岩井志麻子さんという方は、岡山出身の方で、作品よりそのとんでもない言動が一部岡山人を震撼させておられます(苦笑)。自由奔放と言うか、はじけたと言うか。
 『ぼっけぇきょうてぇ』も『岡山女』も、いや全部拝読しているのですが、どうしても点数が辛くなってしまっていましたが、この『がふいしんぢゅう』はなかなか面白かったです。岡山を売り物にしようという灰汁がかなり抜けられた気がします。これは明治時代の岡山を舞台にしたさまざまな事件の短編集。物語の終わり方もこれならいいなぁ。
 
『がふいしんぢゅう』 2002.4.30. 岩井志麻子 角川書店



2002年10月29日(火) 校庭に、虹は落ちる

 ひさーしぶりに赤川次郎さんのご本を読みましたよ。西澤先生もその昔コンプリートされていたと言う赤川次郎さん。私もずーっと読んでいたものだわv
 今回、どこかの予告を見て興味を持って読みました。
 さつきと言う少女が封印した辛い過去と現在が追いつくまでのお話です。いろんな事件が起こりますが、以前現実であった遅刻した生徒を門で死なせてしまう事件を下敷きにされていました。痛ましいことだ。
 たくさんの悪意があって、でもいい人もたくさんいる。赤川次郎さんらしい雰囲気でした。

『校庭に、虹は落ちる』 2002.8.20. 赤川次郎 新潮社



2002年10月27日(日) ハッピー・バースディ

 しばらく動きのなかった、‘酔わされて2002’に変動が生まれました。新井素子健在なり! いやぁーおもしろかったなぁ。
 私は、姉の影響で星新一と横溝正史で活字中毒の扉を開けました。そんな私が自分で初めて開眼した作家さんが新井素子さんの『グリーン・レクイエム』でした。振り返ってみると私の原点にはSFがあるようです。『ひとめあなたに』と『あなたにここにいて欲しい』は、今でも心に大切にしまわれている作品です。
 さて、そんな多大な影響を受けた新井素子さんの久々のSF(・・・かな?)。うーん、ジャンル分けなんて不要って気がします。とにかく面白かったv それに尽きてしまう作品です。だもんで‘酔わされて2002’にランクイーン!
 物語は、あきらという社会不適合者寸前の作家と浪人生祐司の視点で交互にすすめられていきます。はじめての小説が賞を取り、この世の春を謳歌するあきらと、浪人して腐っている祐司が交錯した時、物語は動きます。どう動くかは読んでください。
 あきらという女性の破綻していく様は、私なぜだかシンクロしてしまうんですよね。つくづくそういう描写のうまさに唸らされます。あきらと祐司がどうして交錯して、どうかかわって、どう結末がつくのか。これはここでは書きません。
 是非、自分で読んでみてください。新井素子さんのSFをお好きな方でしたら、絶対的にはずれはありえません。断言。

『ハッピー・バースディ』 2002.9.30. 新井素子 角川書店



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