酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年05月06日(火) 幸福の軛(くびき) 清水義範

 殺人者が、被害者の生首の口に《鬼面羅大魔王》という文字を噛ませて残した。これは、かつての酒鬼薔薇聖斗事件のコピーキャットなのか。自殺に連続殺人が相次ぐ。
 大学助教授であり、実践的な教育カウンセラー中原雅之は壊れていくこどもたちに関わりながら、どう対処していくのか・・・。

 いやぁー不謹慎な感想を承知で書きますが、かなり面白かったです。人の心の闇や生まれてしまう鬼と、人はどう向き合っていけばいいのか。親子や周りの人間との愛情やかかわりは一生続く限り、その闇に目をそむけることはしてはならないのだろうと思います。そしてやはり人が人として生きていくならば、やってはいけないことがある。やってはいけないことをしてしまった時に人は人でなく鬼になるのかもしれません。私的には超オススメです。

 あなたも、心に傷を負い、人間として壊れかけていたのだろうか。

『幸福の軛』 2003.3.30. 清水義範 幻冬社



2003年05月05日(月) プリズムの夏 関口尚

 僕と今井はとある映画館のチケット売りをしている松下さんにほのかな恋心を抱く。松下さんにどきどきしている僕たちは、あるサイト「やめていく日記」にはまる。彼女は“わたしはわたしをやめたい”と望んでいるようだ。ある日の日記を読んだ僕たちは、日記に書かれた状況に遭遇していたことからその管理人が松下さんではないかと疑問を持つ・・・。

 高校三年生の多感な少年が、悩み傷つく姿が気持ちよく描かれています。現実から逃げだしたい気持ちであるとか、神様はいないのかとか、救いってなんだろうとかなど、純粋な年代だけが持てる感情だと思う。
 去年の第15回小説すばる新人賞受賞作品だそうです。

『プリズムの夏』 2003.1.10. 関口尚 集英社



2003年05月04日(日) 桜宵 北森鴻

 東急田園都市線三軒茶屋の駅から商店街を抜け、いくつかの路地の闇を踏みしめたところにぽってりと等身大の白い提灯が浮かぶ。それはビアバー《香菜里屋》の目印。そこのマスター工藤哲也の出す料理は最高らしい。その上この工藤と言う男は、客の運んでくる謎を料理することも得意らしいv

 北森鴻さんファンの間でも熱烈な支持を受けているバー香菜里屋シリーズです。この物語は謎解きは勿論、工藤の手による料理の美味しそうなことに生唾ごっくんな人も多い。私の友人などは自分のサイトの中でキッチンというコーナーを設け、物語に出てくる美味しい料理を紹介していますが、工藤の料理は必ずあがります。
 呑みすけの私としては、香菜里屋でロックスタイルの麦酒を呑みたいものv 特に読んでいた今日の昼間は暑いくらいだったので涎が出そうなくらいでした。
 今回の5つの謎もとても面白かった。私が個人的に一番好きな物語は、珍しく工藤が香菜里屋から離れる『約束』です。人の心に巣食う闇の深さに慄然とします。いやしかし店を離れても料理する工藤ってなんだか笑える。呑みたい。食べたい。

『桜宵』 2003.4.15. 北森鴻 講談社



2003年05月03日(土) 秋に墓標を 大沢在昌

 松原は、かつて相棒ケインと六本木に店を構え成功するが、ある女性との気詰まりな別れ方から千葉の海辺に隠遁してしまう。仕事は漫画の脚本、新しい相棒はカール(犬)。心を閉ざし、人とのかかわりを絶って生きようとする松原の前に美しい女性杏奈が現れる。なにかから追われている杏奈に出逢った瞬間から松原の人生は過去の後悔やしがらみと立ち向かうこととなる。

 これぞ大沢親分のハードボイルド〜です。ストイックな過去に傷つく男、松原も、かつての相棒ケインもとってもよい。杏奈も魅力的。しかしながら、重要なネタバレが途中でわかってしまう。これだけが残念かしら。まぁ、大沢親分としてはそんなことなぞ確信犯なのでしょうけれどもv
 CIAに中国マフィアにアメリカの殺し屋、そして日本警察に公安と出るわ出るわのオンパレード。フィクションの冒険を素直に楽しめる方にはオススメです。

『秋に墓標を』 2003.4.5. 大沢在昌 角川書店



2003年05月01日(木) 九十九十九 舞城王太郎

 生まれた瞬間から美しすぎて見るものを失神させ、誘拐され、美貌を破壊される九十九十九。生まれながらの才能で聖書などの見立て殺人事件を次々と解明していくのだが・・・。

 うーん、参った。悪い方に。舞城王太郎節は個人的には好みであるし、この物語も半ばぐらいまでは面白く読みすすみました。が、しかし・・・半分辺りから訳がわからなくなってしまう。(私の頭が理解できないだけかもしれないけれど)
 入れ子構造が複雑で、結局なにがどうしたのかわからない。ひとつひとつの単独の物語はそれぞれ残酷でエログロで面白いだけにとても残念な気がする。
 やはり清涼院流水のJDCワールドを未読であるためなのかしら。不完全燃焼。

『九十九十九』 2003.4.5. 舞城王太郎 講談社ノベルス



2003年04月28日(月) ドリームバスター2 宮部みゆき

★Eyewitness 目撃者
 ターゲットはワッツ。ワッツはけちなコソ泥だったのだが、あやまって人を殺してしまい、ナイトメアプロジェクト(意識として生き続ける実験)に志願する。
 ワッツの選んだ場は、なににも自信をもてない女の子理恵子。理恵子は現実の敵と立ち向かうためにワッツと共存を望むのだが・・・。シェンとマエストロの判断は?

★Stardust 星の切れっぱし
 ターゲットはモズミ・ロス。実弾銃を用いた強盗殺人事件で2人殺している。モズミの選んだ場は、少年タカシ。しかし虐待された過去を持つモズミは、現在虐待をされているタカシと同化してしまった?シェンとマエストロはどう対応するのか。
 新米ドリームバスター・スピナーは、珍しい案件に悩み失踪してしまう?

 どこまで続くか、ドリームバスター。今回はふたつの悪夢狩りの物語とともにシェンの母親と母親の相棒“血まみれボブ”の話が語られることが重要v

『ドリームバスター2』 2003.3.31. 宮部みゆき 徳間書店



2003年04月27日(日) ドリームバスター 宮部みゆき

 昔むかし、あるいは遠い未来の地球とはまったく違う星“テーラ”に住む少年シェンとマエストロの冒険の物語。
 簡単に要約するとテーラで凶悪死刑囚だった50人が意識の存在になり、地球の人間の夢に住み着き悪さをする。その凶悪犯を狩る者がD.B(ドリームバスター)。そして少年シェンの母親はその逃げ出した凶悪死刑囚のひとりだった。

★プロローグJACKIN
 ターゲットはシュリンカー。殺した被害者の頭を縮めてとっておく趣味のあった連続殺人鬼で、女性や子供ばっかり14人殺している。
 シュリンカーの選んだ夢の場は、道子という女性。道子は娘真由のためにシェンとマエストロとともにシュリンカーに立ち向かう。

★FirstContact
 ターゲットはグロッガー。子供を預かる施設を経営していたグロッガーは連邦政府からおりる養育基金を着服。子供たちを虐待し、6人を殺害。
 グロッガーの選んだ夢の場は、出生の秘密を持つ伸吾。伸吾は育ててくれた父と母、そして恋人のためにシェンとマエストロとともにグロッガーに立ち向かう。

★D.Bたちの“穴”
 ドリームバスターたちが集まる酒場ピット。そこへ上流階級の女性が行方不明の少年を探しにやってくる。女性は親切を装った男をあやまって殺してしまう。酒場ピットのじいさんとシェンとリップはその女性を逃がしてやる。
 シェンの友人リップは、失語症で記憶障害。怪我をしたリップ。怪我の場所からでてきたものは・・・。リップは忽然と姿を消してしまう。  

 ドリームバスター2を読み始めて、うずうずしてしまい再読。もうむちゃくちゃ面白い! そしてイラストが最高に素敵。シェンが自分の生い立ちと立ち向かいながら生きていく姿は抱きしめてあげたいくらいにいとおしいv

『ドリームバスター』 2001.11.30. 宮部みゆき 徳間書店



2003年04月25日(金) FINE DAYS 本多孝好

 静かな心のやりとりが美しい文章で語られる4つの物語。

「FINE DAYS」
 不気味な噂と共に美しい転校生がやってきた。高校という檻に閉じ込められた世界で起こる転校生を軸とした不可思議な事件。それでもあの日々は‘素敵な日々’だった・・・。
「イエスタデイズ」
 仲違いしていた父親が癌で死んでしまう。父は息子に昔愛した女性を探してくれと頼む。息子が会った父の愛した女性とは。
「眠りのための暖かな場所」
 ある大学のゼミで孤立した少年がいる。教授のおせっかいでその少年と関わることになる大学院生。彼女と彼は眠る場所を見つけることができるのか。
「シェード」
 恋人に贈ろうと目をつけていたランプシェードが売れてしまっていた。そんな男にアンティークショップの女主人は不思議な物語を聞かせてくれる・・・。

 これは最高に美しく毒のある物語たち。文章が本当に静謐で美しいのでそこにある毒は読んだ後からじわじわときいてくる。人と人が関わった時、わかりあえることは難しい。静かな残酷さがそのことを教えてくれる気がします。
 4つの物語に共通した人を超えるそれぞれのなにかが違和感無く受け入れられました。
 オススメです。

『FINE DAYS』 2003.3.30.  本多孝好 詳伝社



2003年04月24日(木) オケピ! 三谷幸喜

 オケピとは、オーケストラ・ピットのこと。ミュージカルを上演中のオケピの中で起こるさまざまな人間劇場がコメディタッチに描かれる。

 いやぁ、面白いです。もう最高。ブラボー!です。20日にWOWOWで東京での千秋楽を生中継したものを録画して観ました。お目当ては天海祐希v 天海のダンスで美しすぎる脚線美が惜しげなく披露されます。もうあんな綺麗な長い足拝められませんよ。必見です。脇を固める小日向さんの軽妙な演技には笑いとのどかさを感じる。すごい役者さんです。そして大穴なのが布施明さん。やはり歌をうたわせると最高にうまいですね。独壇場って感じです。布施明の歌声を聞くだけもこの舞台に価値がある。
 ミュージカルをやっている下のオケピで起こるオムニバスな物語たちは、どこにでもありそうで微笑ましい。三谷幸喜ならではの切り口だと思います。
 なんとか生で観に行きたい・・・。



2003年04月22日(火) 演じられた白い夜 近藤史恵

 神内麻子は舞台女優。二ヶ月間の客演を終え、夫であり、演出家であり、麻子の創造主である神内匠が合宿をしている雪深いペンションへ向かう。匠の新しい劇のために集まったさまざまな個性豊かな人間たちとさまざまに交錯する人間関係。閉ざされた雪の山荘(ペンション)で連続殺人事件がはじまった!

 いいですね〜近藤史恵さんv この物語は何度も読んでしまう物語のひとつです。近藤史恵さんのうまいところは壊れそうな女性心理の描き方だと思っています。狂おしいほど誰かを愛し、破綻する。読んでいて心がふるふるふるえてしまう。哀しい結末も近藤史恵さんものは当然として受け入れられるから不思議。

『演じられた白い夜』 1998.10.26. 近藤史恵 実業之日本社



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