酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年07月07日(月) 『永遠の出口』 森絵都

 紀子は〈永遠〉という響きにめっぽう弱い子供。「あんなに素敵なのに、一生、見れないんだ。永遠に−」などと言われようものなら、息苦しいほどの焦りに駆られてしまう。永遠にそれを見ることができない。それは紀子にとって人生における大きな損失に思えるのであった。
 そんな紀子の小学生からおとなになるまでの物語である。あがきながら傷つきながらおとなになっていく紀子の青春は読んでいて気持ちいいです。未来にはなにが起こるかわからないのだから、腹をくくって生きていくぜーvって元気をもらえます。

<第一章 永遠の出口>
 紀子は小学校4年生。すべてを見届け大事に記憶して生きていたいのに、世界には目の届かないものが多すぎると嘆く繊細な女の子。お友達とのお誕生日会に呼んだ呼ばれた呼ばれなかったが大事件になるお年頃。
<第二章 黒い魔法とコッペパン>
 5年生になった紀子と仲間たちは、魔女(担任)と対決をする。冬眠に入っていたトリを目覚めさせたから百人力さv
<第三章 春のあなぼこ>
 中学生になる前の女の子たちの大冒険。多くの別離を経るごとに、人はその瞬間よりもむしろ遠い未来を見据えて別れを痛むようになる、まだそれを知る由も無い女の子たちの別れの儀式。
<第四章 DREAD RED WINE>
 紀子は中学生になった。大人の欺瞞に敏感になり、繊細ゆえに壊れ始める。
<第五章 遠い瞳>
 中学二年生、紀子もみんなも少しずつ壊れていて、その欠陥をみつめることよりは騒いでごまかすことに熱心な時代。
<第六章 時の雨>
 あれた紀子も中学三年生。自分のことしか見ていなかった紀子が、家族旅行で家族にそれぞれいろんな事情があることを知る。
<第七章 放課後の巣>
 高校生になり、アルバイトをはじめる紀子。ラ・ルーシュという名前の小さなレストラン。そこの黒ワンピにフリルエプロンという制服に憧れたからだった。紀子の小さな世界が少しだけ広がりを見せはじめる。でもまだ16歳の紀子は人との距離の取り方を知らない。
<第八章 恋>
 17歳。はじめてのデート。はじめての恋。
<第九章 卒業>
 ひたむきな18歳。融通のきかないかたくなさ。懸命に自分のことを考える。考えて考えて、こうしてはいられない、と気づく瞬間。
<エピローグ>
 あれから何年も時は過ぎた。生きれば生きるだけ、なにはさておき、人は図太くなっていく。

 紀子と言う繊細で多感な少女の成長物語です。とてもとてもいいなー。私が一番好きなのは、<第二章 黒い魔法とコッペパン>です。おとなは子供をなめちゃいけないし、支配しようとしてはいけなんだなと思います。


 急に独りになった薄曇りの放課後みたいな、あの懐かしい風の匂いが鼻をかすめるたび、私は少しだけ足を止め、そしてまた歩きだす。

『永遠の出口』 2003.3.30. 森絵都 集英社



2003年07月06日(日) 『愛と資本主義』 中村うさぎ

 ホストクラブの男にはまった女とそのホスト。第一話「海にいるのは」はホスト・リョウくんにはまった女・ミカの物語。このミカという女は多重人格だった。第二話「胸に鉛の月を抱き」は、ホスト・リョウくんの物語。リョウくんはナツミと言う客に‘飛ばれて’しまう(売掛を払わず消える。そうするとホストの自腹払いになる)。リョウは自分指名客のミカやマリエに相談するのだが。第三話「月はルナ、星はステラ」は、探偵事務所をひらいているマリエの物語。今はホスト・リョウくんにはまっているが、その昔はルナというホストにぞっこんだった。マリエのもとにルナの母親だという女がルナを探して欲しいと依頼にくる。忽然と姿を消したルナにいったいなにがあったのか・・・。

 ホストクラブは「愛」も「金」もシビアで残酷、とてもわかりやすい構造。客となる女たちは自分の居場所を探して彷徨っているのかもしれない。自分の欠落を埋めたいがために自らホストにはまってしまうのかもしれない「欲しい。でも、なにが欲しいの、私は?」 、作者の中村うさぎさんは自分を探しながら居場所をさがしながらあがき続けているのかしら。
 いきなりヒロインがホストにはまった多重人格者という設定で、そういう路線好きの私は‘はまって’しまいました。そしてみっつの物語がリンクし呼応しあっています。なかなか面白かったなぁ。なにかを求め続けている感じが痛いほど伝わってきます。私的にはかなりお気に入りv

 だけど、ホストの嘘が欲しくて、群がる女たちもいる。それは確かだ。誰だって、辛い真実ばかり見ていたくない。やさしい嘘でくるんで欲しい時もある。

『愛と資本主義』 2002.11.20. 中村うさぎ 新潮社



2003年07月05日(土) 『ラヂオ・エチオピア』 蓮見圭一

 男は妻子持ちの小説家。友人の紹介で出会った女性はるかは東大卒のジャーナリスト。よく喋りアクティブなはるかのペースに巻き込まれていく男。中でもはるかから届くメールの言葉に幻惑され、どんどんとはるかにからめとられていく男。妻の知るところになり、男はどうおさめようとするのか・・・。

 タイトルで惹き付け、内容の狂おしいせつなさでノックアウトされた前作の『水曜の朝、午前三時』の蓮見圭一さんの作品です。あの物語の印象が強すぎるので今回なにを持ってこられても前作を超えることはなかっただろうと思います。しかも今回は大人の不倫。前作を超えないまでにも意外な路線設定には驚かされました。
 不倫でも恋愛は恋愛。男と女が惹かれあい、一気に燃えあがる過程はよくわかります。せつなさはないけれど、愛したい一途な思いの表現はやはりうまいなーと一気に読みきっちゃいました。
 この男の揺れ動きは女性としては物申したい部分もありますけど、ま、あくまでも物語として流すことにいたします。

 ねえ、すべてがうまくいくということは有り得ないのかしら。考えてみて。私も真剣に考えるから。その上で、この先もなお嘘をついて生きていくしかないのなら、せめて私は誠実な嘘つきでありたい。 

『ラヂオ・エチオピア』 2003.6.30. 蓮見圭一 文藝春秋



2003年07月04日(金) 『ZOO』 乙一

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いの乙一くんの短編集。10の物語なのですが、何篇かは既読のものでした。なつかしかったなv どの物語りも乙一くんテイスト満載ですが、個人的には『GOTH』がすごすぎたのでちょっとインパクト不足だったかも。
 この短編集で気に入ったものは「カザリとヨーコ」と「SO-far そ・ふぁー」と「ZOO」の三作品でした。

「カザリとヨーコ」
 双子のカザリとヨーコ。カザリは母親に溺愛され、ヨーコは母親に虐待されている。耐え続けたヨーコの心の均衡が破綻した時、ヨーコが選んだ結末は・・・。

「SO-far そ・ふぁー」
 ある日、ボクの父と母は互いが見えなくなってしまった。ふたりの間に挟まれてふたりの言葉を伝えていくうちに・・・。

「ZOO」
 毎日ポストに届く写真。殺された恋人が腐敗していく写真だった。

 こうして簡単に紹介しているとインパクト強いですね(苦笑)。乙一くんの描く世界は虚構なのだろうけれど、若いくせに老成していてすごく驚いてしまいます。そんなに人生経験豊富だとは思えないのだけど・・・。やはり想像力の天才なのかな。

 何かを好きになればなるほど、それが失われたとき、私の心は悲鳴をあげる。

『ZOO』 2003.6.30. 乙一 集英社
 



2003年07月03日(木) 映画『チャーリーズエンジェル フルスロットル』

 美しくて賢くてお茶目な3人のエンジェルたちが、極寒のシベリアから灼熱の海辺まで所狭しと大暴れする。今回のエンジェルたちの敵は、かつての《伝説のエンジェル》だった・・・。

 やー、いいですねー。も、最高に脳天気なお笑い悩殺アクションものです。こういうノリの映画大好きだ。3人のエンジェルたちは、美しい&抜群のスタイル。そしてお茶目。これがポイントv 仲のいい3人がことあるごとに踊りだすシーンはたまらずセクシー&エキサイティングー! 友情や絆をさりげなく盛り込まれたのでちょいとほろりとする場面も。
 今回の目玉は、《伝説のエンジェル》を演じたデミ・ムーアの怪演でしょうか。年齢的にキャメロン・ディアスの若々しい美しさには敵わないまでも、実年齢を知るとそれは嘘でしょうと言うくらいに美しいです。ちゃんと自分は悪玉だと認識して徹底して(おそらくは楽しんで)ワルをやっていてカッコよかったですよ。実生活で元亭主のブルース・ウィルス暗殺シーンはアメリカならではのジョークですね。
 なにも考えず思いっきり楽しむならチャーリーズエンジェルをどうぞv



2003年07月02日(水) コミック版『GOTH』 原作:乙一/漫画:大岩ケンヂ

 『GOTH』が上梓されて読んだ時、ブラック路線大好きな私はものすごーく「いいっ!」と叫んでしまい、そのまますぐ読み返したほどでした。その後、予想を裏切り(一部のブラック系マニアにしか受けないのでは?と思っていましたから)、各賞を総なめしてしまった乙一くん。ついにコミック化までされました。
 実はこのコミック化、本屋さんを通るたび目にはしていたのですが、買おうと思うに至ったのは昨日、乙一くんの手書きポップを見たからでした。乙一くん直筆の手書きポップにはこう書かれていました。《この本をレジに差し出していただけると家計が助かります》でした(笑)。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの若手作家さんがなんてこと書いてるんでしょうねー。そのお茶目さにプッと吹き出し、素直にレジにお持ちしました。まんまと乙一くんにやられちゃいましたわよ。あはは。
 さて、内容は小説と微妙に違います。展開も少し違っていたり、漂うムードが乙一くんの世界よりエロいです。これは漫画だからありじゃないかな。小説の世界はもっと端正なブキミさです。個人的な好みで言うと、小説の『GOTH』を表現して超えることは不可能だよね、ってとこでしょうか。
 いずれにせよ、小説を読んだ時に映像が頭に浮かびました。映像が大好きな乙一くんらしいなぁと思いましたが、漫画もなかなかよいですよv

『GOTH』 2003.6.2. 原作:乙一 / 漫画:大岩ケンヂ 角川書店



2003年07月01日(火) 『20世紀少年 13』 浦沢直樹

 にせもののカリスマ“ともだち”暗殺。世界はどう動くのか。

 稀代のストーリーテラー浦沢直樹さんの描く近未来サスペンス。ホンモノの男ケンヂの遺志を継ぐ者たちの新たなる戦い! 
 いやー、いいですねぇ。このストーリー展開。いつもながら登場人物たちが煩雑に絡み合い、入れ替わり立ち替わりする手法。意外なあのひととケンヂとの過去のつながり。“ともだち”の正体がわかった途端の死・・・。運命の子どもカンナの立ち向かう明日はどっちだっ!?(明日のジョーふうに)
 私は、ケンヂが死んじゃったとはまだ思えないのですよねぇ・・・。さぁ、また次が出るまで耐えなきゃ。ううう。

 ニセモノだらけの世の中に本物を鳴らす・・・・・・
 今こそケンヂが・・・・・・
 今こそあいつが必要なんだ・・・・・・

『20世紀少年 13』 2003.8.1. 浦沢直樹 小学館



2003年06月30日(月) 『闇から来た少女 ドールズ』 高橋克彦

 盛岡市にドールハウスが有名な喫茶店《ドールズ》がある。土蔵を改装した洒落た店で一階には《同道堂》という古書店がある。ドールズの経営者は月岡真司。同道堂の主は月岡の義弟、結城恒一郎。結城の姉は7歳になる姪の怜を残し死んでしまった。ある夜、気がふれたように家を飛び出した怜が交通事故に遭ってしまう。月岡の親友、戸崎(医師)の病院で治療を受ける怜の様子にただならぬ数々の異変が起こりはじめ、恒一郎は、店の客で密かに思いを寄せる香雪(人形作家)とともに怜の異変の謎を探るのだが・・・。

 ううーっ、何度読んでも素晴らしい物語です。高橋克彦さんという偉大な作家さんの作品の中では以前書いたこともある<記憶シリーズ>と並び、愛してやまないシリーズがこの<ドールズシリーズ>ですv 本当はもっともっと突っ込んで書きたいのですが、まだ読んでいないかもしれない“そこのあなた”のために自粛。是非是非読んでくださいね。日本人ならではの感性を心行くまで楽しめるはずです。オススメ度にはかなりかなり自信ありっ!でございます。
 内容を詳しく語れないので、装丁のことなど触れてみようと思います。実はこのシリーズは三作まで出ていて二作目までは文庫化されています。私は二作品を中央公論社文庫で揃えています。今は角川さんでも文庫化されていて表紙のイラストの違いに驚きました。私個人としては、中央公論社文庫さんの深津真也さんのイラストが最高に好きなのです。怜ちゃんのイメージにぴったりなんですよー^^v 勿論、角川さんのイラストも怖くて綺麗で素敵ですけどね。

 「はじめは読者を怖がらせるためだけのホラー・サスペンスを意図していたのに、ずいぶん違うものになった。それでも満足している。怪奇小説は不可思議な話が多いものだが、世の中にひとつくらい、合理的な展開に終始する怪談があってもいいだろう。怖いのは結局、人の心である」

『闇から来た少女 ドールズ』 1989.12.10. 高橋克彦 中公文庫 



2003年06月29日(日) 『ふたたびの恋』 野沢尚

 バカンスで沖縄へやってきたかつての売れっ子脚本家、室生晃一。室生はシナリオ学校の生徒でもと愛人の新子を見かける。偶然のいたずらに動揺する室生。新子は今や飛ぶ鳥を落とすシナリオライターになっていた・・・。
 再会したふたり。新子は室生にシナリオ作りの相談をする。複雑な心持で新子とディスカッションを繰り返し、久しぶりに室生の書き手としての力が甦る。そしてその作品の結末は。ふたりの恋の結末は。

 この物語は、この夏に舞台化されるそうです。かつての恋愛相手との再会がもたらす波紋を大人テイストに仕上げています。やはり夢物語かなと思うけれど、虚構と現実が時々重なる感じを受けます。ありえるかもしれないな、と。
 「恋のきずな」と「さようならを言う恋」も大人の恋愛でいいです。どちらも舞台化、映像化できそうですねv

 酔って絡んでくる人間より、酔わずに絡んでくる人間のほうがはるかに始末に負えないことを私は新子から学んだ。

『ふたたびの恋』 2003.6.15. 野沢尚 文藝春秋



2003年06月28日(土) 『しゃばけ』 畠中恵

 江戸の大店‘長崎屋’の若旦那・一太郎はとんでもない虚弱体質。なにかあれば何日も寝込んでしまう。五つの時、祖父が連れてきた佐助と仁吉に支えられ生きている。実はこのふたり人間ではない。妖(あやかし)なのである。佐助は犬神。仁吉は白沢。過保護な両親と過保護な妖たちに見守られ、一太郎は意外に剛な心で殺人事件に立ち向かっていく。

 この作品は2001年第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞作品だそうです。優秀作品だけあって、軽妙洒脱な妖と人間たちの共存がとても面白かったです。
 一太郎の生い立ちの秘密や、一太郎の人情味あふるる人間性など心にほろりときました。一太郎を自分のことより大切にする妖の佐助と仁吉もいいキャラクターです。これはオススメv 柴田ゆうさんの装画も内容にぴったり合ってて微笑ましい。

 「生きていると、自分の思いどおりにならない事がいっぱいあるのさ」

『しゃばけ』 2001.12.20. 畠中恵 新潮社



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