酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年07月28日(月) 『ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹』 西尾維新

 加速するいーたんの変質者誘引体質。今回は、「死なない研究」をしていると言う木賀峰(きがみね)助教授にナンパされる(笑)。くどき文句は「あなたのように面白い人間が私の人生と何のかかわりもないなんてーそんなことは、とてもじゃないが許すことはできません。あなたには是非、私と何らかのかかわりを持って欲しいのです」と言う直球ストレート一本勝負でした(大笑)。いーたんは単に高額なアルバイト代によろめき、この妙にロボットめいた助教授とかかわることにする。アルバイト先で出会った少女は、円朽葉(まどかくちは)。不死の少女だった・・・。

 凄絶な「運命」に立ち向かういーたん。今回の西尾維新の語り口は意識してなのか、ものすごくハイテンション。面白いけれど、少し読み疲れしてしまいました。わざと‘飛ばし’たのかしら・・・(謎)。いーたんの変化の章だからかしら・・・(悩)。シリーズものというのは強弱も時には必要なのかしら、と思いますが、今までのいーたんの方が読んでいて馴染むのです(本音)。
 今回の‘からくり’は早い段階で読めました。おそらく‘からくり’自体にも重きを置いていないのではないでしょうか。たぶんいーたんのなんらかの変化。変身。そのための序章。
 まぁ、私個人としては愛してやまない哀川潤の過去にも話がつながっていきそうなので嬉しい限り。みいこさんもますます女に磨きがかかってますv ええ女ふたりや。だらだら。
 表紙の裏までサービス満点。

「みじめったらしくても悪足掻きでもいいから、とにかく何かを為し遂げろ! みっともなくても、じっとしてるよりは遥かにマシだろうが! 足掻け、もがけ、それでいいんだ! みんなそうやって、誤魔化しもって生きてるんだよっ! 自分だけが苦労しているみたいな姑息な生き方を選ぶな!」

『ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹』 2003.7.5. 西尾維新 講談社NOVELS
 



2003年07月27日(日) 『麿の酩酊事件簿 花に舞』 高田崇文

 由緒ある勧修寺(かしゅうじ)家の十七代当主、文麿。両親を亡くしている彼は祖母と執事、大原と暮らしている。文麿の目下の問題は‘結婚’である。勧修寺家では家訓があり自力で素晴らしい女性を娶らねばならない。この文麿おぼっちゃま、素敵な女性と出会っては謎や悩みを解決してさしあげ、いいところまでいくのだが、いつもいつも最後に去っていかれてしまう・・・。
 この文麿、実は酩酊探偵。ある酒量を超えるとがくりときて変身。呑めば呑むほどさえまくるのである。

 この酩酊っぷり・・・どこかで聞いたことがあるような(苦笑)。またひとり憎めない酔いどれ探偵の誕生です。酒で変身してすっきりしたいい男に変身って言うのは珍しいかもv 短篇だし、それぞれの謎解きも面白いです。
 なにより酩酊本処としては、この物語オススメせねばなりますまーい。ちなみにこの物語、既に漫画化されている模様。チェックしなくちゃだわ。

 誤魔化し続けるということは、やがて自分を見失ってしまうことになります。

『麿の酩酊事件簿 花に舞』 2003.7.5. 高田崇文 講談社NOVELS



2003年07月26日(土) 『ケータイ』 吉村達也

 関口葉月の携帯に山之井由佳から珍しく夜遅くに電話が入った。優等生の由佳は夜分には携帯電話の使用をしない。葉月は普段と違う由佳の行為にとまどっているうちに、由佳が殺されていく声を聞かされる羽目になる。それこそが携帯電話を使った殺人生中継事件の幕開けだった。次々と殺されていく少女達。夕刊ニッポンでは、視線恐怖症42歳独身の高沢公生が真相を知っていると豪語するのだが・・・。

 今や無くてはならない生活必需品となった携帯電話。その携帯電話から悪意が蠢き飛び出してくるとしたら・・・。携帯電話という現代機器と人間の怨念がミックスすると言う発想はわからないでもないです。怨念の大元が‘いじめ’と言う事にも頷けます。いじめの構造はいじめた側は忘れていじめられた側が忘れない点にありますね。ラストは・・・まぁそうきますね、やはりv

『ケータイ』 2001.12.10. 吉村達也 角川ホラー文庫 



2003年07月25日(金) 『飼育者』 伊東恒久

 男は会社に献身的に尽くした挙句、社長の「己の胸に聞け!」の一言でリストラ箱へ回される。骨身を削り会社に尽くし、愛する妻子が死んだ時、男は復讐の亡者となった。ターゲットは社長の愛人と専務の娘。美女二人を拉致監禁し陵辱し、調教をはじめたのだが・・・。

 うーんと、素直な感想を言えば男性の妄想の勝ったSM小説だと思います。理不尽なリストラへ追いやられた憎しみの報復が、女性への陵辱なんて。しかしやはり男性は女性を陵辱したい、調教したいと言う願望があるのかしら。描かれているように陵辱され、調教されているうちに女性がヨロコブなんてあるかしら。
 調教とか飼育とか単語に反応した私も私だけど、昨今の事件を鑑みると怖い小説なのかもしれないなぁ。後味が大変悪ぅございます。すっごくセクシャルですけどね。

『飼育者』 2002.11.10. 伊東恒久 NON NOVEL



2003年07月24日(木) 映画『Dog Star』

 盲導犬シローのご主人は元ボクサーのゴング。ちゃらんぽらんで酔いどれのゴングがある夜に交通事故で死んでしまう。訓練センターに戻ったシローの前に幽霊となったゴングが現れる。「神様のヤロウがさ、一つ善行を施せって言い出してよ。シロー、お前なんでもいいから願い事してみろ」ぶっきらぼうだが、愛犬シローの願いを叶えようとするゴング。シローが願ったのは、パピィウォカーだった家族と再会することだった。人間の姿に変えたシローが再会したのは、美しく成長したハルカだった。ハルカは、シローと別れる時に星空に輝くシリウスを「外国ではドッグスター、犬の星って呼ぶの」と教えてくれた。「シローがいなくなってもシリウスを見れば寂しくない。シローが星になっていつも見ていてくれるから」と。人間として出会ったシローにハルカは恋心を抱くのだが・・・。

 あの豊川さまが犬になられました・・・。そして犬に見えるのです。さすが豊川さまv(稲荷ではない) 豊川悦司と言う俳優さんに惚れたのは、『NightHead』という深夜番組でした。超能力を持つために迫害される麗しい兄弟。その兄を演じたのが若き日の豊川さまだったのです。基本的に私はきゃしゃな殿方は好みじゃないのですが、豊川さまは追いかけてしまうなぁ。
 この『Dog Star』は、WOWOWで録画していたものを観ました。あまり期待をしないで観たのですが、切ないファンタジィにうるうるきてしまいました。犬が人間になり、かつての飼い主の少女が乙女になり恋をする。こんなありきたりなラブストーリーをここまで惹きつけて見せるのは、俳優さんたちがいいからでしょうね。井川遥さんは、ふくよかでかわいいからはまり役でしたし、ゴング役の石橋凌やシローが勤めることになる移動動物園のオーナー役の泉谷しげるさんのおふたりが良いのですわ〜。ほぼこの4人で物語りは進んでいくし。
 殺伐とした世の中にこんな夢物語があってもいいなぁと思うのです。ほろりほわほわ。いい映画でしたv



2003年07月23日(水) 『ゴッホ殺人事件』 高橋克彦

 加納由梨子はパリで美術品修復家として働いている。東京で母親が自殺をしたと連絡が入り、急遽帰国。父の形見のミレー模写がなくなっており、貸し金庫からドイツ語で書かれたあるリストが出てきた。由梨子は母の死が自殺なのか不審に思う。オルセー美術館に勤める友人マーゴにリストを見せた時から、由梨子やマーゴの周辺があわただしくなる。リストから推察するとどうやらマーゴが立てた仮説のナチス押収品の中にゴッホ作品が存在しているらしい? そしてゴッホの拳銃自殺も殺人ではないかと思えてきた。悩める由梨子のもとへかつての恋人・塔馬双太郎がやってくる・・・。

 読んでいないと思いながら、読んでいると・・・読んでいました(苦笑)。道理で下巻に入ったあたりで全ての道筋がパァっと理解できたはずでした。
 塔馬双太郎が登場するのは下巻から。と言う事は上巻は双太郎が登場するための壮大な前フリな訳です。そこに手間隙かけたぶにだけ重厚な物語展開となっています。うますぎる・・・。ゴッホが自殺か他殺か。現実に起こった事件が自殺か他殺か。ふたつの事件が絡み合いながら解きほぐされていきます。すばらしい。

 興奮がこっちにまで伝わってきて、自分もこの目で確認したくなる。どんなに論理的で優れた論文でも、その気持ちがなければ駄目だ。

『ゴッホ殺人事件 上下』 2002.5.20. 高橋克彦 講談社



2003年07月22日(火) 『ドールズ 闇から招く声』 高橋克彦

 ※これは『闇から来た少女 ドールズ』、『闇から覗く顔 ドールズ』に続く物語です。このニ作品を未読の方は、先に是非そちらをお読みくださいませ。流れとネタバレの関係で、この酩酊本処はよまれない方がよろしいかと存じます)

 月岡真司が、娘・怜のことでこの1年半世話になった御礼にと恒一郎ほか目吉せんせーを巡る仲間たちを温泉に招待してくれた。ここで恒一郎は目吉の苦悩を知りながらも、目吉を失いたくないと強く願う。戸崎は医師の立場から老人性鬱病ではないかと案じる。
 そんな目吉を気晴らしにとある輸入物産フェアに連れて行き、恒一郎と怜(目吉)は見世物小屋に入る。グロテスクなつくりものの死体の中に目吉は本物の血のにおいを嗅ぎつける。そしてふたりの周りで連続殺人がはじまった・・・。

 今回、泉目吉は自分の転生の苦悩にぶつかっています。このまま怜と生きて怜が死んだ後、また自分は転生を繰り返すのではないか?と。思い悩む目吉の前に黒々と現れたのはサイコキラーでした。今まで目吉が相対した犯罪者たちは人間の持つ心の闇ゆえに鬼になってしまった人ばかりでした。一歩間違えると自分がそうなりえる人たち。しかし今回の相手はまったく違います。生まれながら(?!)人を切り刻み殺すことに喜びを見出し続けているモンスターですから。そのモンスターと目吉の交錯は必然だったのかもしれません。目吉せんせーの明日はどっちだっ?
 このシリーズが必ずまた続くことを心から祈って・・・。目吉せんせーカムバーックv

「生まれ変わりをし続けるってのは、反対に羨ましいような気がするけどね。人間のあらゆる根源は死ぬことにある。それから解放されたらなんにも怖くない、と思っていたが・・・・・・そういう考えもできるのか。いつまでも死ねないのは、それでまた恐ろしい」

『ドールズ 闇から招く声』 2001.9.10. 高橋克彦 角川書店 



2003年07月21日(月) 『闇から覗く顔 ドールズ』 高橋克彦

 ※この作品は高橋克彦さんの『闇から来た少女 ドールズ』に続く物語です。ネタバレを含みますので、未読の方は是非先に『闇から来た少女 ドールズ』をお読みいただくことをオススメいたします。

 少女、月岡怜に転生した江戸時代の人形師・泉目吉。今回は名探偵目吉せんせーが4つの物語で現代人の心の闇に立ち向かう。
「紙の蜻蛉」
 創作折り紙の第一人者としてマダムに人気の高い華村研は、仙台の個展で来場客の拵えた蜻蛉に愕然とする。それは江戸や明治に流行った古典的な折り方だった。華村はその折り主に執着する。そして華村の周りでは不審死が数々見え隠れしていた・・・。
「お化け蝋燭」
 盛岡市商店街の温泉旅行に参加した恒一郎・香雪・怜、そして松室。日光江戸村の観光では怜の中の目吉せんせーが目覚めて大喜び。しかし夜の宴会の最中に幹事の安西という男が殺された・・・。
「鬼火」
 目吉せんせーの影響で怜の体に異変が起こり入院することになる。怜と同室になった女性は、子供たちのボランティア活動で有名な松永久枝。菩薩か天女かと言うほどのオーラで病院中から尊敬のまなざしを向けられる患者。だが、同室の怜だけは彼女を怖がり泣きじゃくる。怜の中の目吉せんせーは、怜を守るべく・・・。
「だまし絵」
 美しい絵を描き、霊能力者として名を馳せている西条晶緒。あるイベントの控え室で晶緒は愛する兄が少女に殺される予知夢を見る。そしてその会場にいる怜を見つけ、怜を敵として見做し、排除しようとする・・・。

 母への愛・初恋の男への同性愛・主人への愛・双子の兄への愛。4つの物語の軸はすべて愛です。そしてねじれたりひねくれたり愛が形を変えてしまい、それぞれが鬼を呼び出してしまう。目吉せんせーは優しく心に染み入る言葉で犯人たちの心の闇を救います。
 江戸時代の天才人形師、泉目吉が現代に甦る。少女の魂に・・・。目吉を愛する現代の仲間たちは目吉が消えてしまうことを心配するほどになっています。ただ目吉の影響で怜の体に異変が起こるなど、心優しい目吉せんせーには悩みがつきないと言ったところ。いい男です。泉目吉。

「だれの心にも鬼がいる。特に死と隣り合わせになっている病院じゃ、鬼が出たって・・・・・・」

『闇から覗く顔 ドールズ』 高橋克彦 中公文庫 



2003年07月20日(日) 『歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ』 菅浩江

 商店街の楽器店の二階で音楽教室のピアノ教師をしている杉原亮子。音楽大学を首席で卒業し前途洋洋のピアニストとなるはずだった彼女は、なぜかここでゆったりまったりと子供たちにピアノを教えている。生徒のひとりの少女が変質者に遭遇した事件から、亮子は意外な探偵振りを見せる。亮子の周りで起こるさまざまな事件を解決していくうちに、彼女の周りの人たちは完璧な演奏をできなくなっている亮子のトラウマに気づく。亮子に助けられ励まされた人々は亮子の苦しみを取り除いてあげたいと願うのだが・・・。

 ううう、最後の亮子への周りの人たちの愛情の深さに思わず涙してしまいましたよ。お嬢様育ちでお金の苦労もなくのほほんと優雅に生きているかのような亮子の受けた過去の傷。亮子がそのトラウマを乗りこえようとしたのは、周りの優しい人たちの愛情ゆえ。よい話でしたわぁ。

「世の中には、天使と悪魔だけじゃなくて人間もいるから」

『歌の翼に ピアノ教室は謎だらけ』 2003.5.20. 菅浩江 詳伝社



2003年07月19日(土) 『プレシャス・ライアー』 菅浩江

 詳子は、従兄の禎にいちゃんから頼まれたアルバイトでVR(バーチャルリアリティ)の世界に探し物に行く。天才肌で次世代コンピューターを開発研究している禎にいちゃんではプロ過ぎて見過ごしてしまうものを素人の詳子に探して欲しいと言うのだ。詳子が出向いた世界で、<アリス><ペッパー><ソルト>という不思議なキャラクターたちと遭遇する。<アリス>たちに阻まれながら、詳子は探し物に辿り着くことができるのか?

 にゃーん(泣き声)。面白いのですが、コンピューター等にまったく暗い私にはちょっと迷路に迷宮にぃぃぃ〜(笑)。でもおおまかな流れはちゃんとわかりましたよ(当たり前だ)v 
 こういう物語を読んでいると専門知識というのはすごいなぁ〜とただひたすらほへらーと感心してしまう。詳子も一応はそんなにコンピューターに明るくないおぜうさんと言う設定なのですけどね。
 菅浩江さんは、そんなに読み込んでいない作家さんなので、頑張って追いかけていきたいと思います。しかし考えてみると私はSFものって好きだったんだよな、と今更思い出したりしてました。

 YESかNOか。心の中のダイアログ。えいやっと選んでみてこんなにすっきりするのなら、きっと答えは正解だ。

『プレシャス・ライアー』 2003.6.25. 菅浩江 カッパノベルス



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