酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年08月08日(金) |
『嫌われ松子の一生』 山田宗樹 |
川尻松子は父親が好きだった。しかし父親の愛情は病弱な妹、久美にそそがれていた。父親の関心を引くために勉学に励み、教師になる。優等生、松子の躓きは赴任先の校長先生からもたらされた。どんどんと転げ落ちていく松子の人生。作家志望の男との同棲。その男の自殺。その男の親友との不倫。トルコ嬢になり一世を風靡するも、ヒモに裏切られ、そいつを殺してしまう。自殺しようとした時に助けられた男の理容室を手伝うが、逮捕される。刑務所で美容師の資格を取り、出所後、働いていた美容室で再会した運命の男とは・・・。
福岡から大学のため上京している川尻笙が、存在すら知らされていなかった叔母、松子が殺されたことに興味を持ち、松子のことを調べることで物語が動き出します。現在を生きる笙の動きと、昭和の時代を生き抜いた叔母松子の人生が交互に語られます。 松子という女性は、いつもいつも男に振り回されながら生きています。しかしながら松子の生き様や努力は並大抵ではなく、なにをやらせても一流になれた人でした。自分の人生は自分が決めていくものなのに、松子は流されていく。松子がしっかりしていればもっと素晴らしい人生を手に入れることができたのでは?と疑問に思うけれど、読んでいると松子が必死で生きた時代は仕方なかったのかもしれないと思えてきました。高度成長期の昭和という時代の中で松子のプライドや性格や迷いが、松子を破滅への道へと走らせてしまったのかもしれません。そして平成というこの時代に殺された松子の最期は皮肉で哀れとしかいいようがありませんでした。壮絶です。 好き嫌いはありましょうが、この物語は読んでいただきたいです。とてもとても。
「これはおれ流の試験なの。ここで唇しっかり結んで、威勢よく素っ裸になって、どうだって胸張ったら百点満点。実際、そうやった子は、ナンバーワンになってる。最後までどうしても脱げなくて泣き出しても合格。こういう子は細やかな神経の子が多いから、仕こみ方次第で大化けする。最低なのが、あんたみたいに見てくれもへったくれもなく、ヤケクソで脱いじゃうタイプ。たいてい客と問題を起こして、警察沙汰にしちまう。これこの商売じゃ最大のタブーなわけよ。あんたみたいに、ウェイトレスからいきなりこの仕事に飛びこんでくるような女は、あぶなくって使えないってこと」
『嫌われ松子の一生』 2003.2.10. 山田宗樹 幻冬舎
2003年08月07日(木) |
『支那そば館の謎 裏(マイナー)京都ミステリー』 北森鴻 |
嵐山から歩くこと20分の奥にある、あまり(まったく?)人に知られていない貧乏寺‘大悲閣千光寺’がある。寺男、有馬次郎には隠している過去がある。その過去ゆえか、次々と奇妙な事件が持ち込まれて、奔走することになる。意外にも推理力抜群の住職に助言をいただきながら、怪(笑)事件の謎に迫る・・・。
北森鴻さんが『パンドラ’S ボックス』で短篇で書かれていた実在のお寺、大悲閣千光寺を舞台に、素敵な住職さんとなぞのアルマジロが帰ってきました(笑)。 京都を舞台にしながら、表舞台でなく裏に焦点を当てているところがなかなか興味深いです。京都に行ったなら、是非とも悲閣千光寺を訪れてみたいと思っています。そして『鼻の下伸ばして春ムンムン』を北森鴻さん作で絶対読んでみたいのです。ふふふ。
人とはほんの僅かな気持ちの持ちようで、日々を自由闊達にも不自由にも生きることができる。
『支那そば館の謎 裏(マイナー)京都ミステリー』 2003.7.25. 北森鴻 光文社
ホラークィーンの異名を持つ女優、原瀬京子は恋人の運転する車で事故に遭遇。流産してしまう。それは、「心霊特番!呪われた家の真実・謎の怪死事件に迫る!」という番組ロケに参加したためだった。その家はかつてそこに住んでい佐伯伽椰子が夫に惨殺された呪いの家だったのだ。その家に関わった者たちは謎の死や失踪をしていた。そして今また新たに繰り返される恐怖と悲劇の連鎖。京子は流産したはずだったのだが、陣痛を起こし病院へ運ばれる。京子の出産。それはおぞましい考えられない本物の恐怖のはじまりだった・・・。
こんなに怖い映画はないと噂を呼んだ『呪怨』はノベライズ化され映画化されました。そしてこの夏はこの『呪怨2』が公開。そのノベライズです。この『呪怨』の怖さの持ち味は想像を越える理不尽さにあります。なにより佐伯伽椰子という女性の異常性がすごかった。今回はかなり洗練されてしまったので前作ほど毒々しいブキミさ怖さは文章からは感じませんでした。内容の完結する世界が少しつかみにくかったと言う感じでしょうか。怖いという感覚より気持ちが悪いという感覚により強く訴えかけるかもしれません。
『呪怨2』 2003.7.10. 大石圭 角川ホラー文庫
2003年08月05日(火) |
『HOOT』 カール・ハイアセン |
ロイは転校生。モンタナからここフロリダにやってきた。どこにでも必ずいる悪ガキにさっそく目をつけられ、なにかといじめられている。奴は、ダナ・マザーソン。ある日の朝、スクールバスでダナの暴力で窓に顔を押し付けられていたロイは不思議な少年を見かける。すごいスピードで裸足で走っているのだ。ロイはその少年が気になってしまう。ダナのいじめを回避しながら、不思議な少年を追いかける。少年と知り合ったロイが知った現実は・・・。
よいですv とてもとてもよい物語です。この物語は、タイトルのHOOTと本の表紙に惹かれ衝動買いしていたものです。HOOTとは梟の鳴き声のこと。表紙もブルー地にお茶目な梟の目と鼻が浮いています。実は私は昔から梟を集めているのですv 表紙を部屋の飾りにすればいいやと、買ってからずーっと飾ってありました。昨夜ふと読もうと思い、読み出したら引き込まれてしまい一気読み。少年少女たちのがんばりがすっごくいいv 瑞々しい感性を持ちながら成長していく様は感動的です。そして悲しいかな、家庭環境の子供に及ぼす影響はどうしたってとてつもなく大きいものだと思い知らされます。個人的にかなりオススメ。
「なにが正しくて、なにがまちがっているのか境界があいまいな場面に立たされることは、これからもあると思うの。そのときは、心と頭が別々の判断を下すかもしれない。でも、いちばんだいじなのは、そのどちらにも耳を傾けて、自分にとってベストだと思う決断をすることよ」
『HOOT』 2003.4.1. カール・ハイアセン 理論社
カルト教団‘黒谷神団’は故意に天狗にまつわる都市伝説を流布する。現代に天狗は甦るのか・・・。
むー、むずかしいなぁ。感想が。まず一番最初に言いたいことは「なんでやねん」ですね。この「なんでやねん」は終り方に対してです。あの終り方になにか含みを持たせているとも続編があるとも思えないのですが。あんな終り方されたら欲求不満です(笑)。 テーマとしては面白いのです。狂信的なカルト教団は現実に無数に存在すると思いますし。自分たちの教義のためなら犯罪も厭わないやりくちもありそうです。インターネットをうまく使っているし。鬼とか悪魔とか天狗とか好きなんですけど〜。消化不良。
意見が違うときはね。私は、うそをついたり、我慢をして、相手に無理矢理あわせたりしません。相手にも、そうあってほしい。お互いに本心をさらけだせるのが友達です。
『天狗』 2002.3.30. 成定春彦 光文社
2003年08月03日(日) |
『十四歳、ルシフェル』 中島望 |
源正義、十四歳。女の子に間違えられる容貌の少年である。幼馴染で美しく聡明な山鹿百合子と密かに交換日記をしている。百合子に思いを寄せる不良少年、車田軍司に恨まれ、いじめられている。ある日、正義は百合子の祖父に会いに行った帰り道、車田たち暴走族に襲われる。目の前で百合子を輪姦され、守ることすらできずズタボロにされ殺されてしまった正義。しかし、正義は百合子の祖父の実験材料となり、この世にふたたび甦ってきたのである・・・。
‘ルシフェル’と言う単語に惹かれ、手にした小説です。人造人間もの、サイボーグもの、復讐ものです。十四歳という心も身体も子供と大人の端境期にある少年が殺され、四年後には最強の戦士として甦り、愛した人のために殺戮を繰り返します。読みやすいし、漫画ちっくなのですが、物語を通して<哀しみ>が漂っています。罪と罰。年齢によって裁かれることのない年若い犯罪者たち。ライトノベルス感覚で読み流せないテーマがぎっしり詰まっていました。考え込んでしまった。
「ご、ごめんなさい」少年が謝った。 「許してください。僕たち、まだ中学生なんです」 「おれだってそうさ」と正義。 「おまえらと同じで人の痛みがわからないから、なんだってできるんだよ」
『十四歳、ルシフェル』 2001.10.5. 中島望 講談社ノベルス
2003年08月02日(土) |
『危険な恩人』 新津きよみ |
堂本良子はかつてのライバルの個展に行き、うちのめされていた。絵で食べていくことのできる友人に。すばらしく才能を伸ばした友人に。そんな嫉妬に心を乱した良子は、愛する我が子の手が離れていることに気づくのに遅れた。娘は友人にもらったボールを追いかけホームから転落したのだ! その娘を自分の身の危険も顧みず、助けてくれた男がいた。その娘の命の恩人は若く妖しい魅力をたたえた男だったのだが・・・。
この本は読んだことがあったかしら、と思うくらいスムーズに物語が頭の中で映像化されて展開していきました。気になって調べてみたのですが、ドラマ化はされていない模様。見たことがあるような展開なんだけどな。 新津きよみさんの描く日常のホラーやミステリィはスキです。今回の物語で一番ぞぉ〜っとさせられるのは、姑です。しっかりしていて仕切りたがって臭覚が本能的に発達している。読んでいてむかつくばぁさんだなーと思うけれど、的を射ているのも事実。こういう人を書かせたらうまい人だわ。 展開が読める物語は特に文章に魅力がないとつまらない。その点、新津きよみさんはきっちり最後まで楽しませてくれますv
『危険な恩人』 1997.11.10. 新津きよみ ケイブンシャ・ノベルス
2003年07月31日(木) |
『コッペリア』 加納朋子 |
壊れかけた心を抱えた女がある男と出会い、稀代の人形師に生まれ変わった。彼女の作り出す人形だけを溺愛する男。人形師の捨てた人形に恋をする青年。人形役に情熱を傾ける舞台女優。人形に憑かれた人々の情念たちが複雑に絡み合い、ついに発生してしまう事件。人の心はどこに誰に向けられているのだろうか・・・。
面白かったです。加納朋子さんのハートウォーミングな作風ではないと漏れ聞いていましたが、根底はやはり加納朋子さんらしい優しさであふれていると思いました。棘や毒はたくさんちりばめられているけれど、痛くはない。そしてそれはいい意味で痛くないと思う。加納朋子さんが描けば棘さえも毒さえもこんなふうに料理できるのだなぁとしみじみ惚れ直してしまいました。かなりオススメ。
人間なんて変われるもんだし、実際変わるもんだよ。良くも悪くも、見違えるようにね。
『コッペリア』 2003.7.7. 加納朋子 講談社
2003年07月30日(水) |
映画『MY BIG FAT WEDDING』 |
ギリシャ人トゥーラは、ギリシャ史上最高主義の父親に早くギリシャ人と結婚しろとせかされている。さえない毎日。父親のギリシャ料理店‘ダンシング・ゾルゲ’でウェイトレスをしていた。ある日、お客でやってきたイアンに一目ぼれ。それを機にトゥーラの涙ぐましい努力がはじまる。勉強をし、おしゃれをし、日々自分を磨き、生き生きと輝いていくトゥーラ。そんな彼女を神様は見ていた。あのイアンが彼女に惹かれ、ふたりは激しい恋に落ちたのだ。しかし、育った環境もなにもかも違うふたり。ふたりの行く末は・・・。
うふふーv こういうラブコメは本当に観ていて楽しいです。ほろりとさせるところもワハハと笑かす場所もふんだん。陽気でかしましくてうるさいトゥーラの家族親戚たち。これがとってもとってもいいのです。なぜならそこに限りない愛があるからv 大袈裟な父親と姉思いの弟が私的お気に入り。そしておおらかで心優しい母親とオバサンもいいんですよねー。まぁ、そんなこと言ってたら登場するやかましいファミリィ全員いいんですけど(苦笑)。 あぁ、楽しかったぁ〜。気分がすっきりしちゃいました。
2003年07月29日(火) |
『陰陽師』 夢枕獏 / 漫画『陰陽師』 岡野玲子 |
平安時代。闇が闇として残っていた時代。魑魅魍魎が跋扈する摩訶不思議なその昔、阿倍晴明という鬼の上前をはねる小粋な陰陽師がいた・・・。
映画化にテレビ化。大人気の阿倍晴明サマ。多くの友人の薦めで遅ればせながら夢枕獏さんの小説と、岡野玲子さんの漫画を一冊ずつ読みました。ううーん、いいv 夢枕獏さんの小説もいいけれど、岡野玲子さんの漫画化されたものがすごくヨカッタ。小説をより想像力高めて描かれていて、少しばかり現代風アレンジも。これは小説、漫画ともに全部読まなければ〜。 ちなみにいろんな人が阿倍晴明サマを演じられましたが、やはり文章を読んでいて思い浮かぶは野村萬斎さま演じる阿倍晴明。あの飄々としたキャラとさらりと美しい姿かたち立ち振る舞いがぴったり。あぁ、うっとり。
『陰陽師』 1991.2.10. 夢枕獏 文藝春秋 『陰陽師』 1999.7.17. 岡野玲子 白泉社
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