酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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それははじめは確かに愛だったはずなのに・・・。愛すればこそ壊れていく女たちの10通りの物語。愛が形を変えたとき、恐怖が幕をあけるのだった。 唯川さんの短篇集です。いちおうホラー集になるのかな。でも怖い話ばかりでもなく、不思議なテイストのお話もありました。私が気に入った物語をご紹介。
「きれい」 庸子は美容クリニックを開業し、がんがん整形を行っている。庸子は昔から醜いものが大嫌いだった。そんな庸子のもとへかつて醜いという理由で苛め抜いた女、吉江がやってくる。吉江はほぼ全身の美容整形を庸子に依頼する。危険だと知りつつ、目の前の現金に目がくらみ、吉江の要望どおりの整形を施す庸子。その結果、見たこともない美女が誕生し、庸子は・・・。
結局、苛めた側よりも苛められた側の恨みの方が根深く残ってしまうのです。吉江の執念はすざまじい。ラストシーンは結構ぞくりとしちゃうかも。
他の短篇もとてもうまいなと思いました。一番怖いものはやはり人の心なのかもしれませんね。暑い夏にお薦めの短篇集でございますv
『めまい』 2002.6.25. 唯川恵 集英社文庫
2003年08月18日(月) |
『くらのかみ』 小野不由美 |
別名‘死人遊び’と呼ばれる‘四人ゲーム’。まっくらな部屋の四隅に四人が立ち、移動して順番に肩を叩いて回る。これは四人では成立しない。それなのに何時の間にか五人目がいたんだ。でも灯りのもとで見る顔は最初からいたとしか思えない。不思議不思議。どうやらこの中に座敷童子がいるらしい。それはいったい誰なんだろう。 後継者選びのために親族一同が会した夏休み。子供たちは後継者選びより遊びに夢中。でも後継者選びの妨害なのか食事に毒が盛られたり、こどもたちは急遽少年探偵団になるのだが・・・。
巷で大流行のミステリーランドの第一回配本のうちの一冊、小野不由美さんの『くらのかみ』はちょっとだけ不思議テイストもあり、子供たちの謎解きもあり、イラストが素敵で楽しめました。田舎の自然の緑を意識したらしいイラストたちは感動もの。特にラストページの梟は最高v 遠い昔を思い出すノステルジックさにはちょっとだけうるうる。
「結局、おとなって欲深いのよ。お金がほしい、あれがほしい。子どもにはいちばんになってほしいし、お父さんには出世してほしい。いっつも、ほしがってばっかり」
『くらのかみ』 2003.7.31. 小野不由美 講談社
2003年08月17日(日) |
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』 |
カリブ海の港町に住む美しい娘、エリザベスは子供の頃に海賊船に襲われた(?)男の子を助け、彼がかけていた黄金の髑髏の金貨をとっさに隠し持つ。その少年はウィル・ターナー。町の鍛冶屋として立派に成長する。街は死なない海賊バルボッサたちに襲われ、エリザベスはさらわれてしまう。ウィルは恋する彼女を救うため、妙な一匹狼の海賊ジャック・スパロウと手を組むことに。ジャックはバルボッサの不死身の秘密を知っていて、彼に貶められた船長だった・・・。
面白かったですv ふんだんにジョークがちりばめられ笑える笑える。ふたりの男も対照的に魅力的。海賊ものってどうしてこうもわくわくしてしまうのでしょう。不死身の海賊たちの呪いはとけるのか・・・。エンドロールの後まで物語の行方はわかりませんので最後の最後までお見逃しなく。 その昔『グーニーズ』という映画が大好きでした。冒険と友情の物語。そのおとなたち版のような気分で楽しんでしまいました。深く考えず冒険の世界へいざv
2003年08月16日(土) |
『ああ言えばこう行く』 阿川佐和子×壇ふみ |
阿川佐和子さんと壇ふみさんの往復書簡エッセイ『ああ言えばこう食う』は、ものすごーく売れたらしい。確かにあれは面白かった。今作はその続編である。要するに二匹目のどじょうを狙いまくったわけですね(笑)。 このふたりのやりとりは読んでいて非常に楽しい。互いを罵倒しあっているけれど、仲がいいからこそできる芸当だとわかるから。そしてふたりの人となりがくっきりしてくるから不思議。ふたりのためにも素敵なバトルエッセイであると思う。
たしかに私たちは、他人が見たら不安になるであろうほど、けなし合い、悪態のかぎりを尽くしている。が、当人は相手の苦言の裏に小気味よいユーモアが含まれていると知るや、たちまちうれしくなるのである。その鋭いユーモアにどう太刀打ちしてやろうかと、奮い立つだに楽しいではないか。私たち二人の間には、この『罵詈技』が必要不可欠なのである。
『ああ言えばこう行く』 2000.9.10. 阿川佐和子×壇ふみ 集英社
2003年08月15日(金) |
『直線の死角』 山田宗樹 |
弁護士の小早川は(もと)暴力団の顧問弁護士をやっている。紹介状を携えてやってくる相談者はろくなもんじゃない、と自分で言っている(笑)。ある日、美しい未亡人が小早川のもとへふらりと相談にやってきた。主人が交通事故死をしたと言う。小早川は、その未亡人・水野由美に‘逸失利益’を手にすることができる可能性を示唆する。また別口で顧問の(もと)暴力団、現在インタースピリッツの社長から知人の娘が起こした交通事故の示談の相談にのってくれるよう頼まれる。忙しくなってきた事務所に新しい事務員・紀籐ひろこが採用される。有能で美しいひろこに惹かれていく小早川。しかしひろこには人に言えない秘密があった。小早川とひろこは事務所のエンジェル坂本君によってどんどんと心が近づいていくのだが、大きな事件の荒波に飲み込まれてしまう・・・。
これは、先日読んだ『嫌われ松子の一生』の作者・山田宗樹さんの第十八回横溝正史賞受賞作です。『嫌われ松子の一生』はぐいぐいと物語に引き込まれましたが、この作品もあっと言う間に読めてしまいました。保険金殺人は派手でリスクが大きいですが、この作品では‘逸失利益’という計算式をもってきているところが目新しい。保険金を狙って殺人をおかすという神経はちょっと怖すぎですね。 『直線の死角』は保険金殺人に過失致死にヤクザに病気とたくさんの要素が盛り込まれています。それをごてごてめんどくさい〜と思わさないで最後まで運ぶあたり、うまいなぁと思いました。中でも小早川弁護士の死の瞬間は笑いなくしては読めません。だって・・・以下自粛。 しばらくは山田宗樹さんの追っかけを続ける所存にございます。
その幸福に満ちた笑顔を見たとき、私は、この女のためなら死ねるな、と思った。
『直線の死角』 1998.5.30. 山田宗樹 角川書店
2003年08月14日(木) |
『ドクター・ハンナ』 戸梶圭太 |
石月畔奈(はんな)は、稀に見る美貌の持ち主。それだけではない。その奥には何かとんでもないもの、禍々しいものが潜んでいる。そして彼女は凄腕の外科医。しかもオペでメスをふるうことに性的快感をおぼえるわ、セックスの最中に相手の体をメスで傷をつけるわ、内視鏡を無理矢理突っ込むわ、・・・とにかくあぶないドクターなのである。ハンナは仕事もセックスもやりたい放題で楽しく生活していたが、天敵の内科医・藤井雅弘をちょっとお仕置きとばかりにいたぶって再起不能にしたために、医学界に君臨する藤井一族を敵に回すことになってしまったのだが・・・。
痛快サディスティック&どたばたエロティックアクション小説?(笑)。戸梶さんの書きたい放題のジェットコースターエロ外科医物語でした。アハハ。 こういう悪趣味な物語をガハハと笑って楽しめるタイプの人にはおおいに受け入れられるでしょうが、目をむいて嫌悪感をあらわにする人も多いだろうなと思います。私もそんなに好きな路線ではないのですが、ドクター・ハンナが悪魔的にいい女なので結構楽しんで読んじゃいました。表紙を飾るイラストが素敵。本の中では写真を使用していますが、小阪真理恵さんのイラストに統一して欲しかったなー。
モノを見下ろす畔奈の目は、マグロの競り業者のようであった。
『ドクター・ハンナ』 2003.7.31. 戸梶圭太 徳間書店
2003年08月13日(水) |
『学校の事件』 倉阪鬼一郎 |
吹上(ふきあげ)市、吹上高校に関係するものたちが目論んだ放課後の完全犯罪。しかしことごとく思い描いた犯罪の結末とは違う方向へ落ちていく・・・。微妙にリンクし呼応しあっていった吹上市で起こった数々の連続怪事件はどうして起こったのか。悲しくて残酷でちょっとだけユーモラスな犯罪者たち。
これは、吹上高校というとある田舎の学校の関係者たちが、壊れたり暴走したり日常から狂気へおちこぼれていく物語たちです。物語の発端と、物語の終了がきちんとつながっていて、それなりにふーんと思ってしまったわ。残酷でグロテスクでエロチックで、なぜだか笑えてしまう。妙な短篇集でした。一番、気に入った物語は、「二学期 蔵書印の謎」でした。さえない教師が趣味の収集した古書に自分の蔵書印を押した瞬間から、彼の狂気の世界への幕があきます。しかし男性教師というのは大なり小なりこういう妄想を持っているの?と疑ってしまいますよー。
人の心の中には必ず闇がある。もしくは空洞がある。
『学校の事件』 2003.7.30. 倉阪鬼一郎 幻冬舎
2003年08月12日(火) |
『透明人間の納屋』 島田荘司 |
ヨウイチは、日本海にある海べりの町に住んでいる。聡明なヨウイチはお隣の真鍋印刷の真鍋さんが大好き。博学でヨウイチに限りない愛情を注いでくれる大人の男の人だから。ヨウイチにはおかぁさんしかいないから。真鍋さんが透明人間はこの世に存在すると教えてくれた。人間を透明にする薬もあるそうだ。そしてある日ヨウイチの周辺で不可解な誘拐事件が発生。密室から女性が消失したのだ! これが透明人間による犯行だと考えると謎は解けるのだけれど・・・。
今、巷で話題のジュヴナイル『ミステリーランド』の第一回配本の一冊です。宝物を入れるような箱も素敵。この島田荘司さんの本は、ものがたりのポイントの手が丸窓からのぞいています。 島田荘司さんが書くと、ジュヴナイルと言えども、こうくるのかぁ〜とうなってしまいました。おとなが読むによく、子供には少々過激かもしれません。でもこの世界を知っておいて欲しいなと思うのも本心です。 このタイトルにもなっている《透明人間》の存在と意味に気づく瞬間、悲しくて恐ろしくて涙が出ます。これが現実なのですよね。女性が消失する謎解きのトリックを取り正すよりも、その人たちの人生を思って欲しいですね。悲しい悲しい読後感でした。でも私はこの物語好きですv
「そう、天動説だ。でも真実は、迫害された地動説の方だった。これはとっても大事なことだ。物事はね、見る角度を変えれば別の面が見えてくる。そしてみんながこっちは違うぞと言いそうなら、たいていそっちが真実なんだ。考え方を反対にすれば、ただ裏側ってだけじゃない、別の顔が見えてくるんだよ。」
『透明人間の納屋』 2003.7.31. 島田荘司 講談社
2003年08月11日(月) |
『ペギー・スー 魔法にかけられた動物園』 セルジュ・ブリュソロ |
ペギー・スーは魔法の瞳を持っている。そのために<見えざる者>というお化けたちが見えてしまう。ペギー・スーはたったひとりでお化けたちに立ち向かっていました。しかし青い犬・セバスチャン・ケイティーおばあちゃんという仲間を得ることができ、戦いに打ち勝ち、孤独からも解放されました。今回、ペギー・スーは恋人セバスチャンのためにアクアリアと言う町にバカンスに出かけ、またもや奇妙な事件に遭遇します。今回のペギー・スーの敵は宇宙からの侵略者だった!?
ペギー・スーと言う不思議な少女の物語は三巻で終了したはずでしたが、続きを望む声の多さに生まれたのが今回の作品だそうです。ペギー・スーは特別に大きな力を持ちませんが、仲間の助けと己の知力で乗り越えていきます。ハリー・ポッターとはまた違った素敵な少女の戦いと成長の物語です。頑張る少女が愛しいです。そして中でもペギーと青い犬の友情が素晴らしいですv
「ヒローごっこはよして」とペギーは言った。「あなたを失うのはいやよ」
『ペギー・スー 、魔法にかけられた動物園』 2003.7.31. セルジュ・ブリュソロ 角川書店
早瀬は事故で娘を失い、人生に迷ってしまう。釣り仲間の大道寺の夢の川づくりを生業とするべく、世捨て人のようにリバー・キーパーとして生きていた。川を見守り管理していた早瀬はある日ブラックバスを釣り上げる。この魚は悪食で川に棲む魚たちの生態系を破壊しかねない。密放流されたのだ。しかも死体まで見つかった。早瀬が守る川に流れてきた死の気配。そして事件がはじまった・・・。
江戸川乱歩賞受賞作品の『滅びのモノクローム』では、ひとつのリールに隠された歴史の闇に迫るお話でした。この三浦さんはよほど釣りがお好きなのだなぁと思います。美しい川のほとりに丸太小屋を建てて暮らす。それは理想郷なのでしょうね。文明に慣れ親しんだ生活をする私ではありますが、不自由でもそこは楽園かもしれないな、と思ってみたり。 今回の物語も透き通った文体で淡々と読ませてくれました。前作ともども読みやすいし、内容も気に入っています。自然破壊に関することは興味を持っているのでとても勉強になりました。 今はもう物語の中にさえ存在しないけれど、早瀬の守った川べりでのんびり読書なんてしてみたかった。ビールでも呑みながら。
身体を動かそう、そう考えた。近ごろ雑念が入り込むことが多くなっている。汗をかけば、胸の中のざわつく水面も落ち着きを取り戻すかもしれない。
『死水』 2003.7.31. 三浦明博 講談社
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