酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年09月11日(木) 『まひるの月を追いかけて』 恩田陸

 静は旅に出る。ザラザラした憂鬱と幸福を感じながら、異母兄の研吾を探すために奈良へ。同行者は兄の恋人だという女、優佳利。美しくさばさばした不思議な女性。異母兄はいったいどこへ消えてしまったのだろう。いつも物語の脇役である静は、旅先でもさまざまな人間模様というドラマを見つめる役割を果たす。しかし本当のヒロインは静なのだろうか?

 陸ちゃんならではの夢の中に迷い込んだような世界です。うまいっv 研吾が追いかけた‘まひるの月’については結構はやくにわかってしまいましたが。研吾を巡る女性たちの心が苦悩がせつなく哀しい・・・。
 家族とか恋人とか愛する存在には多かれ少なかれ依存をしてしまうものだと思います。その依存から抜け出そうとあがいた研吾。研吾を引きとめようとする女。でも描くのが陸ちゃんだからどろどろしないんだなぁ。

 人生の中で、濃密な時間を共にできる人間はごく限られている。その人間を失うということは、そういう時間も失うということなのだ。

『まひるの月を追いかけて』 2003.9.15. 恩田陸 文藝春秋



2003年09月10日(水) 『20世紀少年 14』 浦沢直樹

 ともだちが死んだ。そして世界を襲う謎の殺人ウイルス。カンナはともだちの考えを知るために、ともだちランドへ潜入する。そこでヨシツネやカンナが見た本当の1971年とは・・・?

 ふひゃー。ともだちの正体がわかったと思ったらともだちが死んでしまい、今回は、ケンヂたちの少年時代に‘あのひと’や‘あいつ’が関わっていたことが判明してびっくり! ‘あいつ’はまだしも、‘あのひと’がその昔ああいう形で関わっていたとは。つくづく稀代のストーリーテラー浦沢直樹さん、1巻で語られていたドンキーの見たものが14巻で明かされます。はぁ、すごい。
 カンナがドンキーと出会い、心を動かされて決心を言葉にするラスト。最高にかっこいいです。そしてカンナと対照的な小泉響子という少女のユニークかつ鋭い感性が素敵。カンナといいコンビだと思いました。
 そして今回もまた思ってしまった。ケンヂは本当に死んでるのかしら。

 これは科学とは関係ない話だけど・・・・・・
 人は死んでも記憶に残る。



2003年09月09日(火) 『ワイルド・ソウル』 垣根涼介

 1961年、日本政府はブラジル移民希望者を募った。日本政府が謳うブラジルはまさにこの世の楽園のようだった。せせこましい日本から脱出し、地平線まで広がる緑の大地を耕し、大農場を持てる! 希望を胸に旅立った誰もがその夢を信じた。しかし、辿り着いた先は想像を絶する地獄だった。ジャングルに放り出され、病に斃れ、野垂れ死ぬ者たちが続出。移民計画は日本政府が行った口減らしに過ぎなかったのだ。
 それから40数年後、日本国へ復讐をするために4人の男たちが行動を開始した。親を愛する人を自分の人生を日本政府に奪い取られた男たちだった。その男たちの計画に巻き込まれてしまう女、報道マンとして行き詰まっていた貴子を待ち受ける結末は?

 うおーっ。叫んでしまうわ。すごい筆力で読ませる。ううーん、今年はホント当たり年かもしれないなぁ。もうぐいぐい引きずり込まれて読了しましたv
 日本政府がかつて行った移民計画がどういうものだったのかを垣間見ることができます。それでも生き抜いた奴らがいた。のほほんとぬくぬくだらだら生きている日本に報復を考えるのも当然な生き地獄を味わった彼ら。はぁ・・・。
 ケリをつけなければならない過去に、自分の範囲で納得できた時、また新しい人生が幕を開ける。考えさせられながら、笑えて、感心させられて、すっごくおもしろかったです。ケイと貴子がすっごくいいんだよなぁ。いやらしくて(笑)v

 もう、過去に縛られる必要はない。
 おれは発見した。ようやく気付いた。
 他人のせいではない。すべては自分のせいだー。
 色褪せた現実も、憂鬱だった過去も、その原因はすべて心の内にある。奥底に巣食う自己への恐怖にある。
 もう、自分を壊すことを懼れてはいない。

『ワイルド・ソウル』 2003.8.25. 垣根涼介 幻冬舎



2003年09月08日(月) 『いきはよいよいかえりはこわい』 鎌田敏夫

 行きつけの居酒屋で由紀江は顔馴染みのアルバイトタカシから、格安のマンション情報を耳にする。広告代理店に勤める由紀江は、すこしでも時間が欲しかった。そのマンションならば通勤時間は短縮され、家賃も格安だった。ただし、その部屋ではかつて殺人事件があったと言う。犯人は捕まっていることから、ドライに割り切り借りることにした由紀江は部屋のオーナーから不思議な忠告を受ける。それは部屋に鏡を置かないことだった・・・。

 気軽なホラーだとばかり思い読んでみたら、過去の悲しい出来事や男と女の深い関係などが浮き彫りになってきてちょっと意外でした。女性の‘性’については、男性と女性ではまったく感じ方考え方がまだまだ違うのかもしれないなぁ。受け入れる形の‘性’というのは、ややこしいもんです。まったく。

「昔は、娼婦というのは、選ばれたものの職業だったんだ。日本でも、ヨーロッパでも。それが、墜落した職業として見られるようになったのは。貨幣経済が中心になった近代になってからなんだよ。お金を媒介にして物を売る。そのシステムが発達して、女の肉体がお金で買えるものになってから、みんな軽蔑するようになった。おれたちは、お金というものを大事だと思っているくせに、お金で買えるものを、どこかで軽蔑しているところがあるからね」

『いきはよいよいかえりはこわい』2001.12.18. 鎌田敏夫 ハルキ・ホラー文庫 



2003年09月07日(日) 『殺人の門』 東野圭吾

 田島和幸は裕福な家に生まれた少年だった。父は歯医者。寝たきりの祖母がいるもののなに不自由なく生活していた。しかし、父が浮気をし、祖母が急死した頃から和幸の人生は見事なまでに転げ落ちていく。ただひとり倉持という少年だけが和幸と言葉をかわしてくれるのだった。しかし和幸は幼心に倉持に不審を抱く。そして長いその後の人生に置いて倉持はいつも和幸の転機に現れるのだった。いい方向へではなく、悪い方向への転機に・・・。

 山田宗樹さんの『嫌われ松子の人生』、重松清さんの『失踪』、そして東野圭吾さんの『殺人の門』は救いようのない物語だけどまんまと引き込まれてしまったたぞ〜本に、あらたに加わった一冊です。東野圭吾さんならではの展開とオチだったなぁ。東野圭吾さんが、なにかのインタビューで「どこに着地するかわからなかった」「しばらくこの物語のことは考えたくない」と答えられていました。その気持ちはとてもよく理解できます(苦笑)。
 主人公の田島和幸がとんでもなくお人よしの大馬鹿者。生まれ育ちのいいボンボンにありがちな騙され方、転落の仕方をしてる。それに対する小悪党から大悪党へのしあがる倉持の屈折した和幸への気持ちも理解できないではなかったです。
 でも自分の中の屈折した闇の部分や悪意の部分を恵まれた他者に向けるというのは、考えたくない非道な行為。でも意外とそういう人間は多いのかもしれませんね。世知辛いことです・・・。
 「人を殺したい」という思いを抱き、実行に移すにはなにが必要なのだろう。願わくば、殺したいと思うような人間と関わらないで生きていければよいのですけど。シリアスすぎず、重すぎず、でもうまい物語でした。和幸の馬鹿。

「人が死ぬっていうのは、そんなふうに理屈じゃ割り切れないものなんだ。とにかく、人の死には関わらないほうがいいんだ。自分のせいじゃないとわかっていても、ずっと嫌な思いをしてなきゃならない」

『殺人の門』 2003.9.5. 東野圭吾 角川書店 



2003年09月06日(土) 『シェルター』 近藤史恵

 恵は、勤め先の整体師・合田力先生と妹・歩に旅行へ行くと嘘をついて東京へ流れていた。偶然カフェで隣り合わせた美少女にすがられ、なんとなく拾ってしまう。美少女は何者かに追われているらしい。無意識のうちに恵は妹・歩をだぶらせてしまったのかもしれない。この美少女の正体は・・・。

 破天荒で心優しい整体師・合田力先生の下で働く訳あり美人姉妹、恵と歩の物語です。人は生きているとたくさん辛いことがあっていつのまにか‘シェルター’を探している。でも一時的な‘シェルター’ではなく、帰るべき場所が自分にあると気付くことができた人間はしあわせなのだと思う。
 近藤史恵さんの物語に出てくる女性は、トラウマや傷や闇を抱えていることが多い。それらを乗りこえるか、うまく付き合っていくか、自分の立ち位置や心のありようで毎日がからりと変わる。それに気付かせてくれるさまざまな心優しい人々がいる。人生まだまだ捨てたものじゃないなーとほろりと泣けてしまいました。
 「カナリヤは眠れない」、「茨姫はたたかう」に続くへんてこ整体師・合田力シリーズ三作目です。今回は控えめな合田力先生ですが、その存在感は圧倒的。合田力って理想のタイプだわー。欲しい。

 そう、たぶん、答えはひとつではないのだから。

『シェルター』 2003.9.10. 近藤史恵 詳伝社



2003年09月05日(金) 『デッドエンドの思い出』 よしもとばなな

 <あとがき>でよしもとばななさんが、‘つらく切ないラブストーリーばかり’と表現された5つの物語です。‘これが書けたので、小説家になってよかった’とまで言いしめた「デッドエンドの思い出」もとてもよかったです。でも私が一番心にじぃーんときたのは「おかあさーん!」でした。ある男のねじられた復讐のとばっちりを受けてしまった女性の物語。復讐に巻き込まれ、体を害し心まで痛めてしまう。でもそのことで見えなかったことが見え、忘れていたことを思い出す。かけがえのない母との甘く優しいふれあいを思い出したとき、彼女は生きながら生まれ変わることができた・・・。
 5つの物語は全ていいです。ほろほろと泣きながら癒されながら読了。よしもとばななはやはりいい。母になったよしもとばななの書く物語にも期待しますv

 あの、神経質でいつもいらいらしていた笹本さんが、死にかけて、生き返って、にこにこして優しい目で私を見ている。その私も死にかけて、運良くまだここにいて、こうしてその優しさに触れている。
 その全体が、何かすばらしい奇跡のように思えたのだ。

『デッドエンドの思い出』 2003.7.30. よしもとばなな 文藝春秋



2003年09月04日(木) 『眩暈を愛して夢を見よ』 小川勝己

 須山隆治はAV制作会社に入社し、かつての憧れの人・柏木美南がAV女優として目の前に現れ衝撃を受ける。そして昔の様に美南に振り回される隆治。会社が倒産し、美南は失踪。そこへ美南を探す人々が現れ、美南の悲惨な過去が暴かれていく。そして連続する‘見立て殺人’?

 『この物語の真相は決して決して人に話さないでください』・・・話したくても話せません。どこに真実があるのやら、読後感は確かに眩暈がしますが・・・。
 ミステリーとしての要素はてんこもりなのですが、あまりにもたくさん盛り込まれすぎていて訳がわからなくなってしまいました。結末のあっさりした‘オチ’も小川勝己さんらしいと言えばそうなのでしょうが・・・。むー。不完全燃焼。
 すごく面白い展開の部分と、これが必要なの?というエピソード部分が交互にやってくるのでこんがらがって終ったとしか思えない。ちょっと悲しい。

 きみは、悪質な論理のすり替えを行ったのだよ。

『眩暈を愛して夢を見よ』 2001.8.20. 小川勝己 新潮社



2003年09月02日(火) 『ばね足男が夜来る』 松尾未来

 千野恵は、図書館で本を借りて読むことを趣味とするOL。美人で男性の気をひく女性だが、恵自身はあまり男性に興味を持てない。目下の悩みは同僚の関口のストーカーのように執拗なアプローチだった。ある日、仕事帰りに閉館間際の図書館に立ち寄り、吸い寄せられるように黒い表紙の本を手にする。本を開くと「ばね足男の謎」と奇妙なタイトル。翌日、関口が焼死体で発見された。やがて、恵の周りで謎の放火事件が相次ぐ。これはジャンピングジャックと言われる魔物の仕業なのだろうか?

 つくづく良質なホラーを書ききるというのはむずかしいものなのだなぁと思ってしまいます。題材は面白いと思うし、読みやすい。けれど最後が物足りない。最後を解明にするのか、続いていく恐怖にするのか、せめてホラーならではの最後の落としが欲しかったなぁと言う感想でした。不気味な本って小道具はとってもいいのになぁ。

 病院という場所には、普通ならあり得ないようなことでも、あたりまえのように起こることがある。

『ばね足男が夜来る』 2000.8.28. 松尾未来 ハルキ・ホラー文庫



2003年09月01日(月) 『幻の少女』 安東能明

 松永秀夫は気がつくと記憶を失っていた。病院に妻や会社の人間が出入りするのだが、記憶は混乱するばかり。勤めている会社社長の右腕であったという松永は、負債を抱えそうになった社長と愛人の心中事件に関与しているのではないかと疑われている。どんどんと失われていく記憶。俺は殺人をおかしたのか? 苦悩する松永の前に夢か幻だと思っていた少女が現れる。その少女の正体は・・・。

 ある事件に関与した男が、若年性の痴呆になってしまう。自分が病気を免罪符にまた犯罪を重ねようとしているのではないかとさえ恐れおののく。いたずらに現在の自分の思考がしっかりしているからこそ苦悩が深まる様が痛々しいです。
 最近、‘記憶’や‘痴呆’など<失われていく自分>をテーマにした物語をよく読んでいる気がします。これって一種の流行テーマなのかしら。安東さんの今回の物語の主人公の‘痴呆’の原因が大きなポイント。そしてかなり残酷。

 親しい友の顔も楽しかったことも思い出せず、流れる砂みたいにどんどん過去のことが抜け落ちていってしまう。

『幻の少女』 2003.8.30. 安東能明 双葉社



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