酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年09月22日(月) 2003 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展

 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展は、イタリアのボローニャ市で毎年開催されている絵本原画コンクールに入選した作品の展覧会です。イラストレーターが自分の作品を応募すれば、わけへだてなく審査してもらえるため、新人作家の登竜門として世界的に有名なコンクールです。
 毎年、夏が終る頃にこの展覧会を見るために神戸へ行きます。この展覧会を開催する西宮市大谷記念美術館は神戸らしい街並みにあります。たまたま同じく絵画鑑賞好きな友人がこの街に住んでいるため恒例行事となっています。
 不思議だなと思うことは、毎年毎年その年の‘カラー’があることです。応募する作者は生まれた国も育った環境もまったくばらばら。それなのにカラフルな作品が多い年はカラフルだし、キャラクターが重なることもしばしば。この現象は毎年とても不思議に思えてなりません。
 2003年のボローニャは全体的にシンプルで地味。もっと言えば暗い感じ。どうしてかなと思うと友人が「戦争の影響かな」とぽつり。あ、そうかと思いながら見ていると本を持った黒猫のイラストに「爆弾より本を」と言葉が添えられていました。本当にその通りだ。
 個人的には今年もお気に入りのジョン・ロウの作品を見ることができて嬉しかったです。とても素敵な絵本画家さんなのですよ。あと先ほど描いた黒猫を主人公にしたポルトガルの作家さんのイラストもとてもよかったデス。
 来年はどんなイラストを見ることができるのか期待していますv



2003年09月21日(日) 1900年ウィーンの美神展 クリムト

 兵庫県立美術館で開催しているクリムト展の最終日にすべりこみで行って来ました。
 グスタフ・クリムトの華麗で妖しく美しい絵は誰しもどこかで目にしたことがあることだと思います。クリムトの描いたエロチックなまでの作品群を目にして圧倒されました。よくぞ有名どころもここまで借り出してくださった、と感謝。
 くすんだ金箔をこんなふうにうまく取り入れているのはクリムトならでは。クリムト独自のクリムトらしい世界が1枚1枚の絵に繰り広げられていました。
 中でも複製ではあるものの、35mに及ぶ壁画「ベートーベン・フリーズ」には息をのみました。これひとつ見ることができただけでも行った甲斐があるというもの。私も呆けたように魅入られてしまいましたが、外国の男性が口を手で覆い呆然と立ち尽くしている姿が印象的でした。あの思い通じてきました。きっと打ちのめされたんだ。
 もうひとつ友人が見たいと言っていた「アダムとイブ」にクリムトの女性観を垣間見た気がしました。女性は若く美しく豊満な肉体で、その背後から女性を抱きかかえる男性は暗く描かれ死ぬ手前のよう・・・。女性が精気を吸い取ったようなイメージでした。あ、お下品かしら。
 ずっと好きだった画家クリムト、ますます好きになりました。



2003年09月20日(土) 『失われた約束』 (関西テレビ)

 1995年1月16日、阪神淡路大震災がおこった。その時、神戸に出張していた男は大怪我を負い、記憶を失ってしまう。東京で夫の帰宅を待っていた妻は震災後、夫探しに奔走するが見つからない。そのまま8年という月日が過ぎ去ってしまう。
 妻は再婚をし、研究会(妻は産婦人科医)で京都へ訪れ、失ったはずの夫を見かける。夫は記憶を失い、京都洛北にて陶芸家となり、一回り年下の女性と結婚をしていた。
 妻は失われた自分にとって一番大切なものを取り戻そうと全てを捨てて京都へやってくる。記憶を失った夫と妻の新しい出逢いは・・・。

 断ち切られた愛の残酷さは、病気で主人を亡くした私には痛すぎる物語でした。失ったはずのかけがえのない大切なものをもう一度取り戻したい気持ちは、心にきりきりと音を立てて突き刺さってきました。しかしながら別々の人生を歩んでしまったおとなの男と女の前にたちはだかる8年の月日は、それぞれの8年ぶんの人生の重みがある。本当にせつなかった。LASTの別れのシーン、妻を演じる黒木瞳は一言も言葉を出しません。あれは出せないでしょう。あの嗚咽はおとなの女性のなによりの悲しみの表現です。うまいなぁ、黒木瞳。美しいし。

 亡くしたものはあきらめました。
 この8年じゅうぶんしあわせやったから。



2003年09月19日(金) 『鍵』 筒井康隆 (フジテレビ‘世にも奇妙な物語’)

 フジテレビの‘世にも奇妙な物語’を録画していたものを見ていると、5作品中3作品の内容を知っている・・・。むぅ、と思いエンドロールを見てみるとさもありなん。本で読んでいたのですね。筒井康隆さん、小松左京さん、山田正紀さんの作品でした。うまいセレクションしたなぁ、と感心してしまった。

 山田正紀さんの『ホームドラマ』も形を変えたストーキングの恐怖を感じて面白かったです。これなにかの短編集で読んだのだと思うのですが、思い出せません。
 一番面白かったのは、筒井の御大の『鍵』でした。これはたぶん短編集が押入れのどこかにあるのじゃないのかな。
 江口洋介演じる主人公は夜毎悪夢にうなされ熟睡できない。仕事場で残業をしていて昔よく着ていたジャンバーを見つけ、嬉しくなって着てホテルへ向おうとする。タクシーの中でジャンバーのポケットに入っている‘鍵’の存在に気付く。それは今では倉庫と化している昔の部屋の鍵だった。そして‘鍵’に導かれるようにその部屋に向かい、そこでまた‘鍵’を見つけるのだった・・・。

 さまざまな記憶の場所に向かい、そこで鍵を見つけ、その鍵を介して過去へ旅をする主人公。主人公が記憶に封印していた過去とはいったい・・・。さすがは御大の作品をもとにしただけあって妙に引き込まれ、なおかつ怖いです。怖いけれど引きずり込まれていく主人公の心情にも同調してしまう。これは部屋の押入れをひっくり返して原作を読まなければ、と思ったのでした。



2003年09月18日(木) 『世界がはじまる朝』 黒田晶

 ルビーは、14歳。記憶を失ってしまう病気。混乱した娘を母はニューヨークから日本にいる元夫デイヴィッドに預けることにする。デイヴィッドはルビーのパパだけど本当に本当はゲイなので、今は愛人(男)ジェッシィと暮らしていた。ルビーはジェッシィと親しみ、日本に慣れ始め、そうしてケイゴという少年と恋に落ちるのだが・・・。

 あのローティーンの頃の時間というものは、とても不思議な流れと濃さを持っていたな、と思い出しました。おとなでもなく、こどもでもない、ほんのひとときの今しかない時代。息苦しいほどに今しか生きられない少年と少女のもどかしさがなつかしい。少女が記憶を失っていく病気であるのは、時間を意識しなくなった私への警告かもしれない。

「あんまり好きすぎると、悲しくなって泣いてしまう」

『世界がはじまる朝』 2002.9.20. 黒田晶 河出書房新社



2003年09月17日(水) 『翳りゆく夏』 赤井三尋

 東西新聞社人事厚生局長の武藤誠一は、社長に呼び出される。内定を出した女子学生が、20年前の誘拐犯の娘であることがスクープですっぱぬかれたのだ。武藤は興信所からその報告を受けていたが、女子学生の優秀さを認め、その過去を握りつぶしていた。このスキャンダルを払拭すべく、窓際へ追いやられている昔の事件記者・梶が過去の事件を洗いなおすことになる。優秀な梶の掘り下げ取材から辿り着いた驚愕の真実とは・・・。

 20年前の事件を追いかける作業というのは、現実には難しいことでしょうね。でもこの物語を素直に読んでいくと、ぐいぐい惹きつけられます。文章に派手さはないけれど、根底にながれる作者のやさしさみたいなものを感じるからかしら。
 ひとつの事件があって、それには多くの人とその家族がかかわっている。それがよくわかります。そして丁寧に針巡らされた伏線の集約はお見事。運命のいたずらにあっと言わされるに違いありませんわv

 わたしはよくいいますのよ、目の見えない人の不自由さは目を閉じただけでは分からないって。気持ちも同じだと思いますわ。

『翳りゆく夏』 2003.8.7. 赤井三尋 講談社



2003年09月16日(火) 『輝夜姫 22』 清水玲子

 晶は柏木の偏愛の対象になっている危険を知りつつ、碧とまゆを助け出そうと柏木の言いなりになる。そこで晶を待ち受けていた、またしてもまゆの愚かな決意とは・・・。

 泣いてしまいました。長い連載の中で今回は誰より碧が素敵v 碧の行為、告白、よかったです。そしてもらい泣き。
 この漫画は、絡み合う愛情に注目してます。誰もが輝くばかりに美しい晶を愛していますが、また違うところで由は碧を愛している。サットンはミラーを(大笑)。
 物語の筋立ての路線がどんどん変わってきてしまったなぁと思いますが、やはり目の離せない漫画なのです。

 こんなことなら
 こんなことになるんなら
 いえばよかった
 あの時に
 あの時に

『輝夜姫 22』  2003.9.10. 清水玲子 白泉社



2003年09月14日(日) 『安楽椅子探偵アーチー』 松尾由美

 及川衛は11歳の誕生日プレゼントを買うよう手渡された二万八千円という大金にどぎまぎしていた。母親の指令で欲しかったゲーム機を安く買えるお店に行く途中、西洋骨董アンティーク・ニシダの店先で不思議なため息を耳にする。そのため息に導かれ、衛が誕生日プレゼントに購入したものは・・・。

 洒落のような(いや、実際洒落なのかな)文字通り安楽椅子探偵の登場。去年『スパイク』で私の心を鷲づかみにしたのもそう言えば人間ではなかった(笑)。本当にこういう設定をさせたら松尾由美さんぴかいちなんだよなぁ。
 シャーロック・ホームズが好きな小学5年生。それはどうやら松尾由美さんのホームズ元年らしいです。物語の中であるひとのペンネームにぐっときちゃいました。好きな探偵へ思いを寄せて、素敵な物語を紡げて、松尾由美さんってしあわせな作家さんだなぁ。ほのぼのといい物語でした。
 なにより物語にフィットしたひらいたかこさんのイラストが最高ですv

「だけどそんなことを考えてもしかたがないわよね。歴史と同じで、わたしたちの人生にも『もしも』はないんですもの」

『安楽椅子探偵アーチー』 2003.8.30. 松尾由美 東京創元社



2003年09月13日(土) 『哀愁的東京』 重松清

 40歳になった進藤は、フリーライター。かつて絵本で賞を取ったこともあったが、今はまったく描けないでいる。フリーライターの仕事を通してさまざまな出会いと別れを繰り返す進藤。自分の哀しみも他人の苦しみも見つめ心のうちで昇華していくうちに、進藤はおとなのための絵本を描ける気がしてくるのだった。

 『疾走』で、新しい重松清さんの一面を経験したあとだけに、やはりいつもながらの切っても切っても金太郎飴な重松清節に安心して身をゆだねることができました。40歳の進藤は、過去にも現在にも宿題を抱えたまま生きています。目をそらし、見ないふりをしながら流されていた進藤が、彼のかつての作品にかかわる人々と出会うことで癒され、立ち直っていきます。勿論、いつものごとく決してHappyEndではありませんが、少しだけ清々しい前向きな気持ちになれる、そんな物語でした。

「本がひとを呼ぶっていうの、あるんですよ」シマちゃんが言った。「読者と本の間に運命の赤い糸が結ばれてること、あるんです、絶対」

『哀愁的東京』 2003.8.25. 重松清 光文社



2003年09月12日(金) 『蛇行する川のほとり 3』 恩田陸

 真魚子は、毬子の代わりに物語の外側から物語の中へ入り込むことを決意する。香澄の母親が死んだあの日、いったいなにがあったと言うのだろう・・・。

 待たされて気をもたされて完結しました。物語は最後の最後まで結末がわかりません。1と2のラストで「えーどうなっちゃうのぉぉぉ」と悲鳴をあげさせておいて、完結する3でさえ最後にさらりんと落とされます。陸ちゃんって憎い演出家だよなぁ。惚れ惚れ。
 こういう物語について感想を書くことはとてもむずかしい。ネタバレにするわけにいかないから。美しい少女たちの残酷で純粋なお話。私はとても好きですv

 好きなものを叩き壊さないためには、自分の手を壊すしかない。

『蛇行する川のほとり 3』 2003.8.25. 恩田陸 中央公論社 



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