酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will
2003年11月05日(水) |
映画『IDENTITY』 |
ある大雨の夜、洪水で車が走れなくなった男女が怪しげなモーテルに迷い込む。訳ありの人・人・人。やがてひとり、またひとりと殺されていく。彼らはたまたまここに集まったのではない。集められたのだった。彼らの共通点、それは・・・。
うっひゃーv おもしろかったですぅ〜。きゃぁきゃぁきゃぁ。早いテンポで進む衝撃的なシーン。同時に進む別の世界での物語。それらは全て‘あの’ラストのために用意されていたのですねぇ。そして、それでも物語りは終らない・・・。 なにを書いてもネタバレになるので、自粛。自粛。こういう物語に精通している人なら、途中で物語のからくりは読めます。でも‘あの’ラストだけは読めないと思います。 もと刑事で、ある事件のショックで心を痛めている女優のお抱え運転手のエド。死刑囚を護送している刑事ロード。このふたりがとても素敵ですv どちらも好きだなぁ〜。 閉ざされたモーテルで起こる「そして誰もいなくなった」。さて最後まで残ったのはいったい誰でしょう?
「とにかくどんでん返しに驚いたんだよ。脚本を読んでいて、まさかあんなものが待ち受けているとは思ってもいなかったから。しかも真相が明かされたあとも、映画は終らず、まだ物語りは進行するんだ。これほど驚きに満ちた脚本なんて、めったにないよ」(エド役)ジョン・キューザック
2003年11月04日(火) |
『枯葉色グッドバイ』 樋口有介 |
羽田空港の明かりが見えるマンションの一室で親子三人が惨殺された。殺された中学生の娘は死後、陵辱されていた。悲劇の夜に外泊していたため、生き残ったたったひとりの美少女・美亜。彼女は心に悩みと迷いを抱える高校生だった。事件を担当する女刑事・吹石夕子は、たまたま災難を逃れた美亜に疑念を抱く。そして美亜のアリバイを証明した友人が代々木公園付近で乱暴されて殺された。このふたつの事件に接点はあるのだろうか? 吹石は代々木公園を調べている時に、かつて切れ者エリート刑事だった椎葉を見かける。彼はホームレスになっていた。破天荒な吹石は、ホームレスの元刑事をアルバイトに雇い、無理矢理事件を探らせる。ホームレス・ホームズの誕生。そして美少女・美亜が心を開いたたったひとりの大人だった・・・。
これ、すごく良かったです。なにがいいかと言うと訳あって切れ者エリート刑事からホームレスに転向(?)していた椎葉の放つ言葉たち。彼はまだ人生を捨てきっていないのだと思うほど優しかったり、憎たらしかったり、ウィットに富んでいます。現実から逃げようとしても彼のもともとの人間性や才能は失われることがなかったのでしょうね。 事件は、美亜というひとりの少女の人生を巡って大きく動きます。とんでもなく悲劇のヒロインなのですが、美亜もまた逞しく、心美しく生きていくだろうな、と思わせてくれます。事件の顛末もなかなかいいところへオチましたv 椎葉さんがものすごく切れ者でばりばりエリートだったのに、刑事をやめ、社会からはぐれ、ホームレスになるきっかけは、とても悲しい事件でした。このあたりをあまりうじうじ表現しすぎなかった点も好感が持てます。この物語ではそれで正解だったと思いますね〜。とってもオススメです。
宗教で救われたい人間は救われればいいし、地獄へ落ちたい人は落ちればいい。宗教の善意は否定しないけれど、宗教で人が救えると思う無神経さには腹が立つ。
『枯葉色グッドバイ』 2003.10.10. 樋口有介 文藝春秋
「尻」 小出弘恵は父親の多額な寄付金のおかげで東京の有名な私立高校へ行くことになる。はじめての寮生活。お嬢様育ちで他人との共同生活初体験の弘恵は少しずつ心と身体のバランスを崩していく。他人の目と耳を意識するあまり、トイレでの排便もままならない。その結果、排便に痛みを伴うようになる。同時期、いっしょに入浴した女性の心無い一言から弘恵は・・・。
このタイトルの『躯(からだ)』の漢字は身の横は本当は‘區’です。どうやってもこの組み合わせのカラダと言う漢字が出せなかったので、躯で代用させていただきました。すみません・・・。 さてこの物語は、カラダの中のさまざまなパーツをテーマに据えた物語たち。「臍」「血流」「つむじ」「尻」「顎」の5つです。それぞれ意外だったり、異常だったり、せつなかったりしますが、私は一番身につまされてしまった「尻」をあげてみました。女の子は同性の心無い言葉であんなに狂ってしまう可能性があるから。ううう。かわいそうに・・・。 つくづく思うことは、人間のコンプレックスや趣味嗜好はカラダによってもそれぞれだったりするのだろうなぁ、と。最近乃南アサさんの物語をがしがし読んでいて、ご機嫌ななめな女性をセックスで懐柔するシーンによく遭遇します。セックスってカラダのホルモンバランスに関係してくるし、大切ではあるけれど、それだけで女性がるんるんるんってなっちゃうってイメージはいやだなぁ。でも無きにしもあらずな事実だしなぁ。所詮人間なんてその程度のものなのか?
何だか馬鹿馬鹿しくなった。自分の自由になることなど、何一つとしてないような気がした。残された自由はただ一つ、自分の肉体そのものだ。
『躯』 1999.9.30. 乃南アサ 文藝春秋
法子はお見合いで出会った志藤和人に一目ぼれしてしまう。志藤家は、両親、弟妹、祖父母に曾祖母という今時珍しい大家族だった。大家族に嫁ぐ不安や憂鬱も和人の真摯なアプローチの前に砕けてしまう。まさに恋は盲目だった。そして嫁いだ法子を待ち受けていたのは意外なほどの家族からの温かい歓待だった。しかしある日、法子が里帰りをしていた時に起こった近所の心中事件に家族の関与への疑惑を抱いた法子は、どんどんと疑心の闇にはまっていく。やがて暴かれていく呪われた志藤一族のおぞましい真実とは・・・。
これ、怖いですよー。ずいぶん前に読んでいたのですが、乃南アサさん攻略中なので再読してみました。おおまかな異様で淫靡な大家族の絆はハッキリ印象に残っていました。今回再読してぞーっとしたのは、巻末の中村うさぎさんの解説でも触れられていますが、<家族は宗教>なところです。郷に入りては郷に従えと申しますが、こんな家族に間違って嫁いでしまったら・・・人生が一変してしまいます。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、<洗脳>の怖さ、恐ろしさを身近に感じることができますよ。すごーくリアルにありそうで怖い物語でした。
「そう、急ぐものじゃあ、ない。長い歴史を知るにはね、長い時間が必要なものだからね。法子は、少し急ぎすぎてる」
『暗鬼』 2001.11.10. 乃南アサ 文春文庫
2003年11月01日(土) |
『南方署強行犯係 狼の寓話』 近藤史恵 |
刑事になるのが夢だった。その夢が叶い、南方署刑事課配属が決まった會川圭司ははじめての現場で大失態をやらかしてしまう。そしてコンビを組まされた相手が黒岩と言う女性刑事だった。彼女はどうやら刑事課では少々浮いているらしい。ふたりが任された事件は夫が殺され、失踪した妻が疑われていると言うものだった。家庭内暴力が絡んでいるらしい事件の真相は・・・。
近藤史恵さんと言う作家さんは、どんな設定の物語を展開しても必ず近藤史恵でしか描けない世界にしてしまわれますねぇ。ほぅ(ため息)。大好きなんですv 近藤史恵さんの心にイタイこの世の中の物語が。 今回は不思議な昔話(童話らしいですが)と現実の家庭内暴力が同時に進行していき、最後に見事に交錯します。本の裏表紙に有栖川有栖さんが「近藤史恵さんの書く小説は、しばしば痛くて切ないが・・・」と言葉を寄せられていますが、本当にその通りだなぁと思います。今回ははじめて警察小説に挑まれたことが話題になっていましたが、近藤史恵ワールドにそういうジャンル分けはまったく関係ないな、と感じ入りました。登場人物がそれぞれ素敵ですが、中でも圭司を心配して連絡をたびたび入れてくる‘美紀’ちゃんなる女性が最高にキュートでした。
「つらいときは、だれだって弱音を言いたいし、泣きたいことがあったら泣くのは、本当に普通のことなのに、それがみっともないこと、なんて言われたら、いったいどうやって、感情を処理すればいいの?」
『南方署強行犯係 狼の寓話』 2003.10.31. 近藤史恵 徳間ノベルス
2003年10月31日(金) |
『蒼い瞳のニュアージュ』 松岡圭祐 |
歌舞伎町雑居ビルで火災発生。火の元の理由を知っていそうな風俗の女性たち。彼女たちのPTSD予防のために臨床心理士が派遣された。その人物は、25歳、渋谷ギャル系ファッションの小柄な女だった。彼女は一ノ瀬恵梨香。破天荒な外見と行動に堅苦しい官僚たちは度肝を抜かれる。しかし、その外見とは裏腹に彼女は素晴らしい能力を持っていた。時を同じくして発生した手製爆弾テロ阻止のために内閣情報調査室の宇崎俊一は彼女の能力に気付き、独断で応援を要請する。やがて宇崎は一ノ瀬に信頼を超えた愛情を感じるようになり・・・。
『催眠』の嵯峨、『千里眼』の岬、ふたりに続く第三のカウンセラー登場!と言う煽り文句にころりとだまされたのは私です。バカバカバカ。こういうギャルを好む読者さんたちもたくさんおいでなのかもしれませんが、ここまで路線を変えなければいけなかったの?と疑問に感じてしまいました。松岡圭祐さんのエンタテイメントが大好きな私としては、千里眼シリーズの新刊に期待をします〜。
人間は自分で判断できなくなったら終わりだ。
『蒼い瞳のニュアージュ』 2003.9.20. 松岡圭祐 小学館
2003年10月30日(木) |
『THE CHAT』 椙本孝思 (すぎもとたかし) |
ソフトウェア会社に勤める平岡直之(25歳)は、仕事柄パソコンには‘強い’自負があった。金曜日の夜はチャットを楽しんでいる。現実の世界では仕事の関係上知り合った女性・石倉晶子さんにパソコン指南をし、ネット上ではネット初心者のエリスと言う女性とメールのやりとりをして、いろいろ教えてあげている。ある夜、チャット中にナカツカというハンドルネームの男が現れた。彼は自分のことを‘インターネットの亡霊’と名乗り、平岡たちのチャットメンバーに対し、「不要なファイルをゴミ箱に移行します」と言い出した。そして平岡のもとに殺された男の写真が添付されたメールが届く。平岡は封印していた忌まわしい過去を思い出す。かつて仲良くつるんでいた山村雅史がパソコンおたくの中塚慎一をいじめぬいた挙句殺してしまったことがあった。ナカツカはあの時殺された中塚慎一なのだろうか? 平岡が山村雅史の消息を調べると火事に遭い、一家全員焼死していた。次に復讐されるのは・・・。
この『THE CHAT』は、インターネットで公開されていたそうです。チャットをテーマにした物語と言えば、栗本薫さんの『仮面舞踏会』が秀逸だと思ってきましたが、この『THE CHAT』も面白かったです。最後まで事件の真相かと思われたことが二転三転しますし、なによりラストがいいv このラストは賛否両論のようですが、私はうまいと思いましたねぇ。文章も読みやすいですし、とても楽しめました。 いや、しかし、インターネットは怖いですね。最近チャットはあまり開催していませんが、パソコンの向こう側の人間が本当に申告どおりの人となりかどうか会ってない限りわからないのですものねー。ぞくぞくぞく(笑)v
呪うのはいつだって生きている人間さ。
『THE CHAT』 2003.8.10. 椙本孝思 アルファポリス
2003年10月29日(水) |
映画『セント・エルモス・ファイアー』 ※ネタバレしています! |
ワシントンの名門ジョージタウン大学を卒業した7人の仲間。ミュージシャン志望のフリーターでプレイボーイのビリー(ロブ・ロウ)。地味でお金持ちのお嬢様ウェンディ(マーク・マクドウェル)。弁護士志望の一途な青年カーボ(エミリオ・エステヴェス)。ジャーナリスト志願でいつも一歩引いたところから仲間を見守るケヴィン(アンドリュー・マッカーシー)。政治家志望で小さな浮気を繰り返すアレックス(ジャド・ネルソン)。建築家志望でアレックスとの結婚に悩むレズリー(アリ・シーディ)。銀行に就職しながらカード破産寸前の派手で美人のジュールス(デミ・ムーア)。 7人が社会という大海原に乗り出した。彼らの溜り場のバー<セント・エルモ>では、カーボが勉強を続けながらアルバイトを続け、ビリーもサックスを吹いていた。ビリーは心にたぎる熱いものを持ったがゆえに破綻した行動を繰り返す。学生結婚をしながら女遊びに明け暮れる毎日。そんな不良のビリーにほのかな思いを寄せるお嬢様ウェンディ。アレックスと同棲しながらアレックスの浮気に傷つき自分を一途に思い続けてくれたケヴィンとも関係してしまうレズリー。カーボは大学の先輩だった美しい女医にストーキングまがいの熱烈な恋をする。嵐の吹き荒れる中ジュールスが不倫していた上司に棄てられ、会社もクビになり、自殺を計った。心を閉ざすジュールスにビリーや仲間たちが必死の言葉をかける。心を開くジュールス。ビリーは騒動の後、ミュージシャンとしてニューヨークヘ旅立つことにした。見送った6人は自然にバー<セント・エルモ>へ向う。しかし、翌日の仕事を鑑み、ブランチに延期。その店も学生の来ない静かな店に決めるのだった。かれらはやっと学生時代から卒業・・・。 <セント・エルモ>は、セントエルモの火が由来していた。嵐の大海に捲き込まれた水夫たちを導くという伝説の火。進むべき道をしっかりと見定めた若者たちには、もうその灯は必要じゃない。
ネタバレどころか‘あらすじ’をがしがしに書いてしまいました。昨夜、久しぶりに『セントエルモス・ファイアー』を観ました。秋になるとなぜだか観たくなる映画のひとつなのです。映画の中でハロウィンもやってます。 この映画は若者たちの自立と旅立ちをさわやかに描いています。いくつになってもこの映画を観ると自分の青春時代を鮮やかに思い出す・・・。無茶して後悔の連続でたくさん恥をかいて。でもあの時代でしか感じえることのできないたった一度の季節なのです。あぁ、また来年のこの季節に観よう・・・(とビデオをしまうのでありました)v
親父が死んだ。お袋の後を追うかのように。これで俊太郎は姉・秀子と妹・真里子を守っていかなくてはならなくなってしまった。しかし、俊太郎は妹・真里子に対してこだわりが捨てきれない。耳が聞こえないハンデを背負った妹を思う心労のあまり母が死んでしまったように思えるから。そんな真里子の周辺で通り魔事件が多発。どうやら真里子の鞄にねじこまれていた‘鍵’が鍵らしいのだが・・・。
乃南アサさんはこんなマザコン男の物語も描けるんだーと言うのが感想です。本当にいろんな作風を持たれていて読むたびに新鮮に思えます。こうしてまだまだ乃南アサさん追っかけは続くのであったv この物語は、真里子の鞄に無理矢理隠された‘鍵’が事件の鍵となります。そしてこの一連の事件が‘鍵’となり、俊太郎たちが一皮むけて成長していく過程が描かれています。失われた家族を心に残しながら、あらたに深く強い絆で結びなおされる三人が清々しい感じでした。
こんな生命力豊かな、これ程までにしっかりと生きる意志を持っている人間が、癌なんていうものに負けるなんて、この世から消されてしまうなんて、そんな不条理なことがあってたまるかと思っていた。
『鍵』 1996.12.15. 乃南アサ 講談社文庫
2003年10月27日(月) |
『渚にて』 久世光彦 |
クルージング・スクールの船が座礁。船から放り出された7人の少年少女たちが無人島へ漂流する。彼らはまったく文明のかけらもない大自然の中で<生きる>ことを強いられる。15歳から18歳までの少年少女たちの生と性と死。彼らの明日は未来は・・・。
飽食の時代の申し子たちが、家族とは違う人間と運命共同体となります。食べること、眠ること、体を清潔に保つこと・・・さまざまな苦難に立ち向かう少年少女たち。思春期ゆえの性の問題にも直面します。状況に順応し、したたかに生きる彼らは美しい。 でも、少し歪んだ視線から見るとこんなにも綺麗にやっていけるものだろうか、と思ってしまいました。私は汚れすぎているのかな・・・。うーん。もしも今の少年少女たちがこの物語の主人公たちのような心の持ち主であれば日本の未来は明るいんだけどなー。
人が、ほんとうは何を考えているかなんて、他人にわかるはずがないわ。
『渚にて』 2003.9.30. 久世光彦 集英社
|