酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年11月28日(金) |
『白い部屋で月の歌を』 朱川湊人 |
ジュンは、霊能力者シシィのアシスタントをしている。その場から動かない(動けない)霊魂をシシィが剥がし、ジュンの内なる白い部屋へ受け入れるのだ。ジュンは有能なよりしまであり、シシィの愛人だった。ある日、ストーカー行為の挙句、刃傷沙汰に巻き込まれた少女エリカの魂を救う仕事をすることになる。やっかいなのはエリカの魂が生きながら抜け出てしまっていること。ジュンは白い部屋にエリカを迎え入れた時、はじめての感情を抱く。それはジュンの初恋だった・・・。
第十回日本ホラー小説大賞短篇賞受賞作品です。先日、『都市伝説セピア』を読み、不思議な美しい文章に心惹かれたところでしたが、この短篇も私は非常に好みです。おどろおどろしいホラーではなく、美しい哀しいホラーなんですよね。読後感が哀しいってホラーとしては素敵なんじゃないかな。これからも読んでいきたいと思わせてくださる作家さんです。ホラーはちょっと・・・と言う方もきっと敬遠しないで読める作品だと思います。
男と女というのは、捩れたりほどけたり、いろいろ面倒なことが多いですからね
『白い部屋で月の歌を』 2003.11.10. 朱川湊人 角川ホラー文庫
2003年11月27日(木) |
『サグラダ・ファミリア [聖家族]』 |
響子がピアノに熱中している時、電話が鳴った。出たくない。でも電話は鳴り止む気配が無い。仕方なく出てみるとそれは響子が狂おしいほど愛したかつての恋人、透子だった。透子は出産をしたと言う。驚く響子。透子の産んだ息子、桐人に距離を取りながらも、透子のもとへ通い始める響子。透子もまた響子を愛していたままで、生んだ息子はゲイのピアニストを無理矢理犯して妊娠したのだと言う。透子を取り戻した響子を待ち受ける厳しく激しく神聖な事件が起こる・・・。
ゲイの恋人同士が苦しむことのひとつとして子供を作れないことにあると言います。正直、私は愛する人さえそこにいてくれれば(勿論男でも女でも)子供を欲しいなんてまったく思わないのだけど・・・。ヘンなのかなぁ。姉の娘はかわいいです。でもどうしてもなにがなんでも自分が子供を生みたいと言う願望が皆無なんですよねー。 透子という女性は欲しい者は必ず手に入れようとする素敵な女性です。響子を傷つけはしましたが、欲しい子供をものすごい方法で手に入れ、そしてちゃっかり響子のもとへ戻っていく。こういう女性、私もかなり好きですね。 このタイトルの聖家族の意味するところは、かなり深いところに置かれていました。家族は血のつながりがあるから家族な訳でなく、家族になっていくのではないかと。血がつながっていなくても互いが互いを思いやり、愛し合えば、家族になれるんだと思う。だって愛するもの同士がいっしょに暮らせば、やはりそれは家族なんだと素直に思う。大切なことは相手を慈しむこと。それだけじゃないかしら。
ピアノの演奏が弾き手の人格を残酷にさらけ出してしまうように、文章というものもまた書き手の人格を浮き彫りにしてしまうものらしい。
『サグラダ・ファミリア [聖家族]』 1998.7.1. 中山可穂 朝日新聞社
2003年11月26日(水) |
映画『モンスターズ・インク』 |
モンスター・シティでは、人間の子供の‘悲鳴’がエネルギー供給源。モンスターズ・インクでは、選り抜きのモンスターたちが日夜人間界の子供たちを驚かせて‘悲鳴’を集めている。ナンバー1モンスターはサリー。そして相棒ぎょろ目のマイク。仕事が終った夜、マイクの代わりにレポートを提出してあげようとする優しいサリーは人間界との‘扉’が出しっぱなしなことを不審に思う。‘扉’を開けるサリー。扉を閉じた時、人間界の女の子が迷い込んでしまった! 人間の子供はモンスター・シティのおおいなる脅威。汚染されてしまうと言われていたのだが・・・。
すっごーく暖かくてほのぼのーっとしちゃう映画でした。公開当初、迷い込んでくる女の子(ブー)の表情があまり好みではなかったため、せっかくもらっていたチケットを姪にあげてしまったことを、2年後に後悔した位です(笑)。ブーは、まだ人間になる前のシロモノ(笑)。喜怒哀楽と本能だけで生きている。そのブーがきちんといいモンスター、悪いモンスターを選別できるところがすごいなぁと思いました。心優しいモンスターのサリーとマイクがだんだんとブーに情をうつすところにはほろり、ほろり。最後に「えっ!?」と驚かしてくれる展開もあります。あのキャラもいかしてた(にこり) ディズニー作品はやはりあなどれないなぁと思います。これから公開される『ファインディング・ニモ』も海が大好きな私としては劇場へ足を運ぼうと思ってしまいました。おとなだけど、ノリちゃんと室井さんが好きだから日本語吹き替えでもいいかしら。わくわくわく。
『モンスターズ・インク』 2001年アメリカ
2003年11月25日(火) |
『瑠璃の海』 小池真理子 |
萌は高速バス事故で、夫・孝明を亡くしてしまった。孝明の突然の不在に馴れることができず、とまどうばかりの萌。ある日、被害者の会に参加し、娘を失った作家・遊作に出逢う。互いに被害者の会参加者たちのテンションについていけず、似たようなひっそりした喪失感を感じあっていた。しかし、萌はそんな遊作とすら傷を舐めあうことを避け、ひとりでどんどん暗闇に落下していく。もう会うこともないはずだった。萌が遊作の著作『瑠璃』を読まなければ。『瑠璃』の文章に世界に惹かれた萌は、ふたたび遊作と連絡を取り、ふたりは貪るように互いを求め合うのだった・・・。
時々考えることがあります。私が経験したような死へのカウントダウンがはじまった愛する人間と最期まで時間を共有することと、ある日いきなり愛する人間を失うこと。いったいどちらが残された者にとって生きやすいのだろうって。でも私にはゆるやかに死に向う感覚しか知らないから、わからないまま。 今回、この物語の主人公たちは事故で突然に愛する人を失ってしまいます。その不在のおおきさは読んでいてひしひしと伝わってくる。人はいずれ死にます。だけどやはり早すぎる死を受け入れなければならない人間には過酷な試練となってしまいます。 萌と遊作が溺れるように愛し合う感覚も痛いほどわかってしまった。萌と遊作はたまたま不幸の後にまた運命の人と出会えたことが幸せであり、不幸でした。ふたりと言う組み合わせでなければ、この結末は絶対になかったはずだから。 萌が母親のことを考えながら、最後にこの結末を選んだことが私には許せませんでした。自分だって喪失の恐ろしいほどの孤独を感じておきながら、愛する母親に同じ思いをさせるのか、と。 あぁ、こういう物語はあまりにも感情的になりすぎる。駄目です、私。
それと同時に、どれほど激烈なものであっても、その悲しみはいずれ癒えるのだ。時間が解決する。現実を受け入れられずに、泣いたり、喚いたり、絶望したりしながらも、いつか必ず、その傷は塞がっていく。流した血の量が多ければ多いほど、傷のかさぶたは厚いが、ひとたびかさぶたができてしまいさえすれば、血の流れは止まるのだ。
『瑠璃の海』 2003.10.30. 小池真理子 集英社
2003年11月24日(月) |
『天使の骨』 中山可穂 |
王寺ミチルは自堕落な毎日を送っていた。かつては劇団を主宰し、その少年のような風貌で女たちを魅了していたミチル。なにをしたいのかどこへ行きたいのかわからずただ緩慢と生きていた。そんなミチルはボロボロの羽根をつけた天使が見えるようになってしまう。その天使はどんどんと数を増していく。ミチルは自分の激しく情熱的な過去を知る人間たちから逃げ出し、異国の地を放浪する。行く先々で出会う人々。暖かなやさしさやちょっとした絶望。新しい力をすこしずつ溜め込んだミチルが再開したことは・・・。
ミチルと言うゲイの女性が、落ち込んだどん底から再生する物語です。中山可穂さんが描くヒロインはゲイで激しい魂を持つ魅力あふれる女性が多いです。今回のミチルも痛々しいほど傷ついているところが、また抱きしめてあげたい保護欲をそそると言うか・・・。女性が女性を愛する。私は惹かれてやまないのです。中山可穂さんの初期の作品と言うことですが、やっぱり素敵v
「気をつけて生きていきな。ころんだら起き上がれ。疲れたら休め。死ぬんじゃないよ」
『天使の骨』 1995.10.1. 中山可穂 朝日新聞社
2003年11月23日(日) |
『パラダイス・サーティー』下 乃南アサ |
栗子が一目ぼれした菜摘の店の客はとんでもない奴だった。それに気付いた菜摘は栗子を傷つけないよう密かに行動をする。そしてそれは自分の愛する女性を守ることにつながるはずだったのだが・・・。
栗子は久しぶりの心ときめく大恋愛にのめりこみ、親友・菜摘の忠告を嫉妬だと誤解してしまうところがあります。こういうところが女のややこしいとこころで、こういうちらっとした醜さを乃南アサさんはうまく表現されるよなぁと思います。 結局、栗子も菜摘も失恋をしてしまい、傷ついてしまいますが・・・そこはやはり友達ならではの相互協力で立ち直るところがいいデス。互いにいろんな感情を抱きあったとて、自分の間違いに気づき、相手に素直に詫びることができたら、やっぱり友達は友達でいられるものですよね。私にもそういう愛すべき憎むべき悪友が何匹かいます(笑)。 「最近、特にそんなことを感じるんだ。血のつながりとか、親戚だからとか、そんなことと関係なく、大切にしたいつながりがある。自分に正直に生きていれば、そういうつながりって自然に出来ていくんじゃないかと思う」
『パラダイス・サーティー』下 1997.6.25. 乃南アサ 幻冬舎文庫
2003年11月22日(土) |
『パラダイス・サーティー』上 乃南アサ |
栗子は20代崖っぷち。30歳へのカウントダウンがはじまってしまった。家は父と母が別居中、仕事場ではお局様扱い。つまらない毎日を送っている栗子は、家から飛び出し、中学時代からの友人・菜摘のもとへ転がり込む。菜摘はゲイ。男として生き、バーのマスターをしている。栗子は菜摘の家へ立ち寄ったバーの客に一目ぼれしてしまう。30歳目前にふたりの周りが動き始めるのだが・・・。
あぁ、なつかしかったです。何年前になるかわかりませんが、私はこの作品を読んでいました。栗子の無邪気すぎる我侭さと菜摘のストイックな純粋さ。昔は確か栗子が大嫌いで、菜摘にただただ惚れていた記憶があります。 何年か時が過ぎ、再読してみるとやっぱり栗子は我侭なお嬢様だし、菜摘は痛々しいガラスのきっさきのようです。でも時の流れってすごい。ふたりとも愛しい女性に思えましたから。 栗子より、菜摘の方が魅力的であることは変わりありませんでした。菜摘は女性として生まれつきましたが、女性しか愛せないことに忠実に生きています。私は菜摘に出会っていたら惚れてしまうかもしれないな。
「ゲイっていうのは、誰よりも孤独を知っている。誰よりも愛されたくて、誰よりも淋しい」
『パラダイス・サーティ』上 1997.6.25. 幻冬舎文庫 乃南アサ
2003年11月21日(金) |
『なくさないで』 新津きよみ |
永井純子は、平凡ながら幸せな結婚生活を送っていた。ある日、差出人不明の郵便物が届く。中には真珠のイヤリングの片割れが入れられていた。純子の脳裏に甦る苦い過去。いったい誰がどうしてこれを送ってきたのだろう。疑心暗鬼になる純子だが・・・。
ううーっ。いやぁ〜な読後感でした。そしてそれこそが新津きよみさんの狙い目なのだろうなぁ。誰だって過去に忘れてきたもののひとつやふたつやみっつくらいは持っていて、きっとあえて思い出したくないシロモノもあるでしょう。そんな過去の亡霊が今を生きる自分に突きつけられたら、それは疑心暗鬼にもなろうってものですよー。 純子だけでなくオムニバス形式で、過去からの贈り物を受け取る人たちはそれぞれの生活に波紋が広がり、破綻してしまう人まで出てきてしまいます。問題はこの送り主の悪意の塊です。いたずらに人の生活を脅かすものではないし、人を羨むものじゃないなー。 ふと私にとって怯えてしまう過去からの贈り物ってなんだろう、と考えてしまいました。あれかしら。いや、あっちかしら・・・。
ー自分の気づかないところで、誰かをひどく傷つけている。何げない言葉に傷つく人間がいる。 ー人間の記憶とは、ときとしてひどく残酷なものだ。凶器にもなり得る。
『なくさないで』 2002.6.20. 新津きよみ 詳伝社文庫
2003年11月20日(木) |
『タスケテ・・・』 島村洋子 |
藤村しのぶは綺麗な少女だった。周りの賞賛の目や嫉妬や僻みの目にさらされ、自分の美しさの価値を知る。美しさを武器に上京したしのぶだったが、人気は出なかった。田舎に帰ろうかと言う時、人気アイドル橘リリカのスタンドイン(替え玉)をすることになる。自分より才能が劣っているリリカに人気があることに釈然としないしのぶ。ある日、しのぶは自分の中に巣食った醜い感情ゆえに大変なことをしでかしてしまう。そして、しのぶは人生まるごとリリカのスタンドインとなるのだが・・・。
島村洋子さんの作品をアンソロジーなどで拝読し、いつかきちんとしたものを読みたいなと思っていました。岩井志麻子さんのエッセイ等に登場する島村洋子さんがなかなかに毒のある(いい意味で)感じを受けていたので、興味津々でした。しかし、期待を裏切られ、そんなに過度の毒も悪意もなく、かえってホラーにしては優しい文章だと思いました。うーん、一冊ではまだわからないと言うことか。
自殺は犯罪である。 残された人間をずっとずっと苦しめ続ける犯罪だ。
『タスケテ・・・』 2002.11.10. 島村洋子 角川ホラー文庫
2003年11月19日(水) |
『ピリオド』 乃南アサ |
葉子はフリーのカメラマン。結婚相手の浮気を機に離婚し、独身。付き合っている相手は編集者の男で不倫関係。両親は他界し、今、兄が癌におかされ死に向っている。兄嫁はかつての同級生、志乃。歯切れが悪く物事をはっきり言わないつかみ所の無い女性だと思っている。甥は大学受験で、姪はある事件のトラウマで、東京の葉子のもとへ交替に転がり込んでくる。そして、不倫相手の自殺。兄の病死。葉子はもどかしいほどの望郷の念を心に抱きながら、甥や姪に必死でかかわりあっていくのだが・・・。
参りました。いきなり癌で死に向う人間が登場します。人間というものは窮地でその真価が人となりがまざまざと表れてくるものだとつくづく思ってしまう。重苦しい物語なのですが、葉子という一人の孤独な女性の魂は美しいです。葉子が耐えて頑張っているからなんとか読破できました。帰りたい、帰りたい、どこかへ帰りたいと心で悲鳴をあげている葉子。 生きていくという行為は、時代時代でひとつずつ‘ピリオド’を打ちながら、次へ進まなければならないのでしょう。その‘ピリオド’の打ち方を間違ったり、打たずに進むととんでもないことになる。私もきちんとピリオド打たなきゃなぁ・・・。はぁ。
人間は、傷つかずに生きてはいかれない。傷は、完全に癒えることない。それでも、もしかすると醜く残った傷痕さえ自分の一部として、受け入れていかなければならない。あらゆる傷を受けてもなお、生き続けた方が良いことを、この子はいつ知ることだろう。
『ピリオド』上 2002.5.20. 乃南アサ 双葉文庫
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