酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年02月21日(土) 『蹴りたい背中』と『蛇にピアス』

「蹴りたい背中」
 高校生の少女がクラスメイトに馴染めない。同じように馴染めないでいる少年が気になり、なんとなく仲良くなるが、彼はモデルオリチャンの異様なファンだった・・・。
 
 「インストール」を読んだ時には、あまりどうこう思わなかったのですが、今回は主人公の《蹴りたい》気持ちがよくわかるなー、と。でもコレあんまり評判ヨロシクないみたいですね(苦笑)。なんとなくあの時代の空気を感じられて私的にはこの子うまくなったなーと感じたのですけどー。

「蛇にピアス」
 ルイは、二股の舌を持つパンク男アマに惹かれ、自分も身体改造を試みる。改造してくれるサドのシバさんと軽く浮気などしながらスプリットタンや刺青などを施していく・・・。

 うーん、この滲み出る自虐的な哀しさは何を訴えたいのでしょう。友人達の感想ほどたいしてどうこう思わなかったですけど。やはり私は子どもを持っていないからかな。
 私がこの物語を読んで興味を覚えたのは、この人の両親ってどんな人たちなんだろうってことでした。父親は結構語られていますが、なんや淡々としてるし。どうも結局は父親に読んで欲しい叫び(自虐的な)、みたいに感じて仕方なかったです。

 芥川賞を取ったふたりのうら若き乙女の作品を続けて読みました。どちらもものすごく好き好きとは思わないけれども、文章はやはりかなりうまいと思います。これからどう化けてくれるか、期待しちゃいますねv



2004年02月20日(金) 映画『陽はまた昇る』

 加賀谷は日本ビクターに勤める技術畑の人間だった。数年で定年を迎える加賀谷はカメラつきビデオ開発に精を出していた。そんな加賀谷に横浜工場ビデオ事業部へ異動の辞令が。そして求められたのは人員削減だった。
 加賀谷は、絶望の場所から夢に向って突き進む。家庭用ビデオの開発だ。本社に内密にことを進めようとする加賀谷に不安を抱くエリート部下の大久保。しかし、加賀谷の人柄と夢への情熱は徐々に周りの人々を巻き込んでいく。試作品が完成し、加賀谷は情報を各メーカーに公開。互換性を重要視した加賀谷の英断だった。既に発売されていたベータマックスが国内統一規格になるのか? 加賀谷たちの生み出したVHS=VIDEO HOME SYSTEMの未来は、日本家電業界の父・松下幸之助が握っている。加賀谷と大久保はふたりで松下に会いに大阪へ・・・。

 素晴らしい映画です。西田敏行さんと渡辺謙さんががっぷり四つを組んでいる。こういう映画を観ると日本ってすごいって素直に感動できます。今まで観た邦画の中でも最高級だと思いました。
 その昔、ビデオがベータとVHSと言う2種類あったことは知っていましたが、今のようなVHS主流になるまでにこんな素晴らしいドラマがあったのか、と驚きました。VHSの意味も今回はじめて知りました。
 高卒で技術畑ひと筋を歩いた男を西田敏行さんが見事に演じ切られていました。そしてそれを支える渡辺謙さん。地味で手堅いエリートサラリーマンが、加賀谷と言う男に感化され変化していく・・・。感動します。
 松下幸之助を演じる仲代達也さんも渋い。関西弁で加賀谷に向って「ええ仲間を育てましたな」みたいなことを語りかけるシーンは涙、涙。本当になにごとも全ては人なんだと思いました。
 是非、観て欲しい邦画です。



2004年02月19日(木) 『天国の本屋』 松久淳+田中渉

 さとしは深夜のコンビニで22年の人生の中で確実に第1位となる大きなため息をついた。やる気のない就職活動が当然うまくいくはずもない。そこへ派手なアロハシャツを着た初老の男に声をかけられた。「噂どおりの冴えない奴だな」・・・失敬な。いや、それよりコレはあぶない。さとしは知らぬぞんぜぬを決め込み逃げ出そうとするがアロハ男にスカウトされてしまう。まぁ、拉致に近い形でさとしは連れて行かれてしまうのだ、天国の本屋へ。そしてアロハ男ことヤマキの代わりに店長代理として「ヘブンズ・ブックサービス」で働くことになってしまう。そこで出会った運命の人ユイ。不思議な色のユイの目を綺麗だと誉めてしまったことから、ユイに拒絶され途方にくれるさとし。ユイの瞳の色には重大なヒミツが隠されていたのだった・・・。

 当然のごとく涙が枯れるかと思うくらい泣けました。人の命は100歳と決まっていて、それより早く死んだ人は天国で100歳までの残りの時間を過ごすなんていう設定なんですよ。それならうちのトシは74年間もあの姿のままで天国で過ごしてるってことになるじゃありませんかー。今すぐ天国へ行く!っとじたばたしてしまいました。それが駄目ならせめてヘブンズ・ブックサービスで働かせて・・・。ううう。
 この本や舞台のことはなんとなく知っていましたが、目をそらしていました。先日、映画を観にいったときに、映画化と知り、観念して読んでみたわけです。とても心に優しい物語です。愛しい人を亡くした人にはたまらないと思う。やさしくてせつなくて。生きてること。死んじゃった愛しい人のこと。せつせつと胸に染み入るような気持ちになります。泣いたけど読んで良かった。

 「きっと、君を見つけてみせる」

『天国の本屋』 2000.12.31. 松久淳+田中渉 かまくら春秋社



2004年02月18日(水) 『姫百合たちの放課後』 森奈津子

「2001年宇宙の足袋」
 優香はOL。すてきな折原係長(♀)に憧れている。先輩OLの江川さんにいびられても、江川さんにもレズビアニズムの悦びを教えてさしあげたいと思う筋金入り。そんな優香は路上にいたとき、宇宙人の侵攻に遭い、地球人の代表として囚われて(選ばれて?)しまう。優香は宇宙人たちに敬意を示すことになる。その敬意の示し方とは、「相手の目の前で同性との性行為に及ぶ」というものだった。しかも、その模様はなんと全世界のテレビに生放送される。人類を救うため(?)優香は相手に折原係長を指名し・・・。

 あぁ〜、鼻血が出そう。本当に森奈津子さまの書く恋愛もの(主にコメディゲイ路線)は最高に素敵です。好き嫌いはハッキリ分かれるでしょうが、私は大好きです〜。しかし、攻める女性ばかりでした。すごかった。装丁とのギャップについて<あとがき>で触れられていますが、装丁が百合路線まっしぐらでキュート。

 ああ、早く飲みたい。アルコールが恋しい。ビールに枝豆、焼き鳥、コップ酒! この干からびた胃袋を優しく癒してくれる愛しいものたちよ!

『姫百合たちの放課後』 2004.1.21. 森奈津子 フィールドワイ



2004年02月17日(火) 『裂けた瞳』 高田侑

 神野亮司は兄に何度も何度も殴られた。「おれ、実は電波が受信できるかもしれないんだ」と言ったことで。そのショックが亮司の人生を決めてしまった。自分をだましだまし生きることになったのだ。亮司の脳は誰かの激しい感情を拾ってしまう。そしてそれは往々にして“負”の感情ばかりだった。しかし、ある失敗をした部下をかばい、ミスの訂正を手伝ううちに深い関係を持ってしまう部下・長谷川瞳とのセックスで一変する。素晴らしい体験と感情を得たのだった。そしてその相手・瞳もまた不思議な能力を持つ女だった。しかし家庭や職場での立場を守るため、瞳から遠ざかる亮司。そんな亮司の周りで不気味な事件が繰り返しおきはじめ・・・。

 いやー、文句なくおもしろかった! ぱちぱちぱちv 電波とかアンテナと言う言葉が使われだしたのは近年のことですよね。昔ながらの言葉でいえば超能力です。人とは違った力を生まれ持った人はやはり苦労して生きています。しあわせな超能力者の物語って少ない気がします・・・可哀想。
 この『裂けた瞳』は、第4回ホラーサスペンス大賞受賞作品です。不思議な力を持った男の悲哀と、彼の周りで起こる不気味な事件がうまいことつながっていきます。ふとしたよろめきから部下と不倫関係を持ってしまい、保身に走る姿も情けないけど共感できる。その保身がとんでもない結末をひきよせてしまうのですが。また不気味な事件の犯人像がすごく怖い。生理的にゾーッとする犯人像。いろんな要素を盛り込みすぎと言う意見も目にしましたが、私はまったく問題ないと思う。全てがキチンと綺麗に纏められます。すごい人が出てきたなぁ。

 世界中から「いらない」と言われているように思えて、おれは萎えた。どん底だと思っていた場所から見える、更に深い奈落におれは、絶望するしかなかった。
 夜はまだ、明けそうにない。

『裂けた瞳』 2004.1.15. 高田侑 幻冬舎



2004年02月16日(月) 『指を切る女』 池永陽

 唯子は少女の頃から艶かしい女だった。ただ美しいだけでなく、妖しい魔力を内に秘めていた。幼馴染の直彦・吉やん・カンちゃんはみんな唯子が好きだった。だらしない男と結婚し、洋太という少年をおでんやをしながら育てている。旦那は行方不明になっていた。洋太は、あるトラウマから左手が不自由だった。小さな頃から唯子と想いあっている直彦だけは、その理由を知っていた。そして唯子がまた洋太の手を治すために、指を・・・

 うー、まとめるにはむずかしすぎる。もうすっごい女の情念の世界。私には痛いほどわかってしまいました。しかし、意外にこの本の評価は低い模様。私の感性おかしいのかしら。この唯子の物語を含めた4つの女たちの物語。どれもどきどきしながら読みました。私的にはものすごーく好きなタイプの物語です。
 重松清さんが中年の男を描かせたら絶品であるように、池永陽さんはこういう情念の女を描かせたら天下一品。「コンビに・ララバイ」にも通じると思うんだけどなぁ。
 女心の情念の世界を垣間見たい方にはオススメですv

「どんなに厳重に戸締りしても、桜の花だけはどっからか入りこんでくる。桜は綺麗やけど魔物やな」

『指を切る女』 2003.12.10. 池永陽 講談社 



2004年02月15日(日) 『黒苺館』 水木ゆうか

 俊子は娘りさ子の嫁ぎ先に向った。りさ子が看護士としてケアしていた女性が亡くなり、その後添えとして矢内原家に嫁いだのだった。古びた煉瓦塀の向こうにうっそうとした木々。威圧するような矢内原邸。りさ子が妊娠。そして忍び寄る不気味な気配。俊子はりさ子を守りきれるのだろうか・・・。

 うーん、心理的に圧迫させるホラーですね。母娘の情愛が軸になっているだけに、カタストロフィの残酷さが際立ちます。私的にはけっこう好み。こういうだらだらすすむ恐怖も悪くない。
 りさ子はプロの看護士だったのに、矢内原家の女性達にたぶらかされ、恐怖の世界へと足を踏み入れてしまいます。このりさ子の迷いやコンプレックスは母への愛情の裏返しというところがものすごくせつない。母と娘の絆というのは悲しくせつないなぁ・・・。

「正しいとか正しくないとか、そんなことからなにが生まれます? たとえ新たな不幸を呼ぶことがあっても、ね?」

『黒苺館』 2004.1.22. 水木ゆうか 講談社



2004年02月14日(土) 『十三の冥府』 内田康夫

 「旅と歴史」の編集長・藤田に泣きつかれ、古文書『都賀留三郡史』の真偽の程を取材の旅に出る浅見光彦。光彦が行く先々で遭遇するのは、殺害されたお遍路さんの足跡だった。偶然か、荒ぶる神の祟りか。光彦は冥府に迷う死者たちの怨念に導かれるかのように、お遍路さんの哀しい過去と殺害の意味に辿り着いてしまうのだった・・・。

 ピラミッド、キリストの墓、アラハバキ神の祟り。東北にはこんな魅惑的な謎が残っていたのですね。古文書より、アラハバキと言う宗教にかなり興味を持ってしまいました。さすが小説界の久米宏、私のような無知な人間にもわかりやすく表現しておいでです。面白かったなぁ。
 年増の妖艶な巫女さんなんてあぶなっかしくっていいですねぇ。ぞくぞくぞく。いつものように事実を全て明らかにすればいいと言うものではない、と言う浅見光彦の対処の仕方にめろめろなのでした。あぁきたかー。

 その名から連想されるとおり、津軽人の怨念を象徴するような「荒ぶる神」である。

『十三の冥府』 2004.1.25. 内田康夫 実業之日本社



2004年02月13日(金) 『幻夜』 東野圭吾

 雅也の父が借金苦に自殺。通夜で叔父に借金返済を求められる。父の保険金から借金を返済する旨を約束。その明け方、未曾有の大地震に見舞われる。瓦礫にうずもれる雅也の家の工場。下敷きになり死んでいると思われた叔父が動いた。思わず叔父の息の根をとめた瞬間を、目撃されてしまう。その女性が雅也の運命の人・美冬だった。ふたりはどさくさに紛れ東京へ。のし上がっていく美冬の陰で、美冬のために献身的に尽くす雅也・・・

 うーん、面白かったです〜。かぶりつきで読んでしまったと言う感じです。野心に燃える美しい女性というのは、もしかすると東野圭吾さんの好みなのかな。映像化をものすごく意識されているような物語でした。かたや美冬のために尽くす男・雅也。これがまたいいオトコなんです。こんなオトコいないわ〜。
 『白夜行』を読んだ時も、衝撃的でした。もう4年以上前に読んだことになるのですね。あのヒロイン雪穂も美しい人だった。・・・と言うか雪穂と美冬って同一人物? この疑問を解消するために『白夜行』を再読してみないと。

「自分のできることは全部したって感じがしたの。逆にいえば、できない限界も見えてきた。今のままじゃだめ、変わらなきゃいけないと思ったわけ」

『幻夜』 2004.1.30. 東野圭吾 集英社 



2004年02月12日(木) 映画『借王 THE MOVIE 2000』

 いまだ莫大な借金を抱えるひかり銀行大阪中央支店次長・安斉満は、喫茶店を経営する義兄の自殺未遂から、システム金融に対することになる。借金に苦しむ浪花南署の水沼とクラブのママ玲子とともに悪徳システム金融元締め向井から裏金を奪う計画を立てる。向井のもとには玲子がかつてかわいがっていたホステス美由紀がいた。借金返済のため冷酷な取立てのプロとなっていた美由紀が、安斉たちの企みを見破ってしまう・・・

 アニキこと哀川翔さまが、銀行屋と裏の顔を使い分ける借王(シャッキング)シリーズ。今までの物語を見ていたり見ていなかったりなのですが、こういう邦画はいいなぁ。らくで。わかりやすい。
 あくどい金儲けをする人も知能が勝負。システム金融の成り立ちは悪賢い人間の考え出しそうなこと。借金の取立てに臓器や命をもらいうける、というのも恐ろしいほど冷徹なやりくち。でも実際にあることなんだろうなぁ。
 まっとうな人間のふりをして自分の借金返済と愛するものを守るためにずる賢く立ち回る安斉。金があるものより、知性が勝るものの方が強いかもしれないなぁ。

映画『借王 THE MOVIE 2000』



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