酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年03月12日(金) 『魔女の帽子』 上野歩

 小山奇子(あやこ)と言う少女の中学生から大学卒業の頃までの物語。奇子は日本に住んでいる朝鮮人として、差別され続ける。いったい自分は何者であるのか問いかけながら葛藤しながら生きていく・・・。

 童話を書く人だと思っていたので(タイトルも表紙も童話ちっくだったし)物語の息苦しさに驚いてしまいました。しかもこの物語は作者・上野歩さんの自伝的物語と言うことです。あまりにリアルな描写も納得しました。
 差別はいけないことだと認識していても、大勢がやることに右へ習えしてしまいがちな自分がいます。それは間違っている!と指摘することで今度は自分が除外されるのではないかと言う怖さもある。結局は人が人として基本的に差別や偏見を捨て去らない限り、どうしようもない問題なのかな、と悲しくなりました。

 高橋温子や安田道子のような人間は、自分がもし朝鮮人に生まれていたら、などとは決して考えたりしない。
 それは想像力の欠如だ。相手の身になってものを見ると云う想像力の欠如。

『魔女の帽子』 2004.3.15. 上野歩 新風舎

 



2004年03月11日(木) 『ビッグボーナス』 ハセベバクシンオー

 おれ(東俊哉)は、「トリプルセブン」という会社でパチスロの攻略情報を売っている。ある日、ライバル社「東栄企画」からダーティハリーのネタが流出。試しに買ってみるとこれが本物。このダーティハリーは東がいた会社「ダッシュ電子」の新台だった。東は、このネタを売って売って売りまくるのだが、東栄企画にばれヤクザがしゃしゃり出てくる。絶対絶命のピンチを東は切り抜けることが出来るのか?

 文句なく面白いっ! ギャンブル、しかもパチスロなんてまったく知識は無い私にもじゅうぶん楽しめる物語でした。文章のテンポがすごくいいのですよ。主人公のある人に認めてもらいたい気持ちが切実に伝わってくるし。ギャンブルって怖いなぁ。ギャンブルをネタに稼ぐ人はいいけれど、ギャンブルで稼ごうとはまってしまうと泥沼かもしれない。

 「相談して答えを出してくれなくても、話すことで、頭の中が整理できるって」
 それに人と話していると、自分の中で曖昧だったものがハッキリしたり、意外なアイデアが出たりするときもある。

『ビッグボーナス』 2004.2.27. ハセベバクシンオー 宝島社 



2004年03月10日(水) 映画『壬生義士伝』

 幕末、京都で壬生の狼と呼ばれた《新撰組》が誕生した。腕自慢の男たち。そこへ吉村貫一郎というひとりの風変わりな男が入隊してきた。貧しいなりで、お金と命に執着するさまは新撰組では異質だった。しかし、吉村の剣は何人もの人を斬ってきている、と斉藤一は気付く。斉藤は吉村を毛嫌いしながらも、だんだんと吉村を認めていくのだったが・・・。

 日本アカデミー賞で織田裕二の三度目の正直を阻み、主演男優賞に輝いた人がこの吉村貫一郎を演じた中井貴一さんでした。あの時は、この映画を観ていなかったため、織田裕二もアカデミーに嫌われているんだなぁ・・・などと見当違いな感想を抱いていました。それは大きな間違いで、主演・助演ともにこの『壬生義士伝』のふたりが受賞できたのは当然だった、と映画を観終わってから認識を改めました。
 中井貴一という俳優さんは好みではありません。しかし、この役はハマリ役・当たり役だと思います。愛するものたちのために必死になって生き、稼ごうとする姿は美しい。《新撰組》の男たちの中にあってこそ際立つ美しさと言えるかもしれません。
 邦画も捨てたものではない、最近心からそう感じます。観ていない方は是非にご覧いただきたい。



2004年03月09日(火) 『水底の森』 柴田よしき

 刑事・遠野要は、顔をつぶされた殺人事件に遭遇。その家の主は、高見健児・風子夫妻だったが、死体の男は背丈からして高見ではなさそうである。その部屋ではフランソワーズ・アルディの「もう森へなんか行かない」というシャンソンがエンドレスにかかっていた。遠野が調べるうちに、死体の男は高見健児であるが、風子と暮らしていた高見健児ではないことが判明。いったいこれは・・・。遠野はかつて身体をかわしたことのある風子を追いかけ、ある出来事から風子と逃避行をはじめてしまうのだった・・・。

 遠野が事件を追う過程で、風子という女性の数奇な人生が浮き彫りにされていきます。自分の確固とした意思がなく、ただひたすらに流され、愛されることを求めた女。飛びぬけた美貌を持たぬ風情は男の保護欲をそそり、一度関わると虜になってしまう。こういう魔性の女って言うのは、もしかすると絶世の美女ではないのかもしれないな、と思わされました。
 ここまで事件が起こる女性と言うのは、呪われてる。まぁ結局そこを楽しんで読んだのですけれど・・・。こういう物語は面白いけれどなんだか少し暗さをひきずってしまいます。

 死に別れってのはだめなんだよ、想い出が消えないから。

『水底の森』 2004.2.29. 柴田よしき 集英社



2004年03月08日(月) 『チェーン・メール 《ずっとあなたとつながっていたい》』 石崎洋司

 さわ子は、中学1年生。おじょうさま学校に通うさわ子たちの朝の挨拶は、『ごきげんよう』・・・そんな慣例にさわ子はついていけない。周りからも浮いてしまっている。ある朝、携帯にゆかりという女の子からメールが届いた。タイトルは「虚構の世界でいっしょに遊びませんか」だった。ストーカーに狙われる少女の物語を4人の配役を決めて進めていこう、という内容。さわ子は興味を示し、ヒロインのストーカーに狙われる少女を選ぶ。その名も「さわ子」だ。ストーカー役は、送り主のゆかりに決まっていた。残りふたりさわ子のBFと女刑事も決まり、物語は加速していく。そして現実にも不気味な影が忍び寄ってくる・・・?

 まわりとうまくやっていけない女子中学生たちが、携帯電話を通じて物語を作りあいながら、見知らぬ相手とつながろうと必死になる。寂しい心を抱えた少女達の物語を作ることへの熱中ぶりが痛々しかったです。しかし、おおまかな骨組みを提供して役柄になりきって物語を進めていくって面白い行為だと思いました。なにかでやってみたい、と考えてしまった。
 人と微妙に違っている自分を羞じることはない、と建前では言えます。でもたかだか中学生の少女達にそれを貫けというのは可哀想なことかもしれない。個性を個性と認める状況が必要なのでしょうけど。うーん(悩)。

 みんなで
 お話を作るの。
 知らない人が
 みたら、
 びびっちゃうような
 こわい話にするの。

『チェーン・メール 《ずっとあなたとつながっていたい》』
 2003.12.10. 石崎洋司 講談社  



2004年03月07日(日) 『残虐記』 桐野夏生

 生方景子が失踪した。ある原稿を残して。その原稿には景子が遭遇した25年前の監禁事件について赤裸々に綴られていた。10歳の時に男に誘拐され、監禁された少女のおぞましい戦いの記録だった。しかしラストで語られるもと少女の真実とは・・・。

 まったくもう桐野夏生という人はなんてモン書いてしまったんでしょう。本当にあの図太いまでの創造力には敬服する。たぶんこれは新潟で起きた少女誘拐監禁事件をベースに書かれたのだと思います。最近、桐野さんの小説を読むと自分の想像する力を試されている気がする。読みたくない人、ついてこれない人はそれでいいのよーって感じがパシパシと伝わってくる。空恐ろしいほど強い女性だ。そして私は誘蛾灯に引き寄せられた蛾のように桐野さんの紡ぎだす物語を読まずにはいられない。吸引力はすざまじい・・・。
 物語は、作家へのある男からのファンレターではじまります。無学な男の必死な想いをこめた手紙は背筋が寒くなります。こんな手紙を読まされたら、過去に引き戻されてもしかたない。作家が思い出す薄汚い部屋での男の奇妙な卑しいさまざまな行為。誰にも語らなかった真実を書きはじめたとき、作家の中でなにかが壊れてしまったのだろうか。
 ラストは本当にひどい桐野さんらしく、自分でお考えなさい方式です。ううう。だから私は妄想する。あの作家がどこへ行ったのか。なにをやろうとしているのか・・・。

 私も宮坂も、あの事件に何かを奪われたのだ。それは以前、宮坂が言ったように現実の姿というものだったのかもしれない。私たちは想像に魂を奪われたのだ。

『残虐記』 2004.2.25. 桐野夏生 新潮社



2004年03月06日(土) 『図書館の神様』 瀬尾まいこ

 清(きよ)は、過去にあった出来事のため心に傷を持っている。体育会系ばりばりの人生だったのに、国語講師としてある高校へ赴任した。部員がたったひとりの文芸部で顧問となる。部員の垣内君はスポーツマンタイプなのに文学青年だ。国語教師のくせして文学に興味をまったく持たない清だったが、垣内君とかかわるうち文学に目覚めていく・・・?

 清はある友人の死に負い目を感じていて、逃げるように海辺の町へ引っ越します。そこで付き合っている男性は既婚者。不倫はいけないと思いつつ、寂しさを考えると別れる勇気が出ない。清の優しい弟は週末になると海を見にやってくる。垣内君もちょっとだけ心に傷があり、文学に逃げているかもしれない。清と弟と垣内君がいいです。とても。とても。清の不倫相手は好きにはなれないなぁ。正直だから許されるってもんじゃないだろー(怒)と思ってみたり。
 人の死に関わった時、大なり小なり心に傷は生まれるし、ましてや自分に原因があるかもしれない、なんて思うと苦しくてしょーがないと思う。でも清は垣内君と出会って再生できてよかったなー、ほのぼの。心が温かくなる物語です。

 神様のいる場所はきっとたくさんある。私を救ってくれるものもちゃんとそこにある。しばらく海は見られないけど、違ったものが私を待っている。

『図書館の神様』 2003.12.18. 瀬尾まいこ マガジン・ハウス



2004年03月05日(金) 小説『ゲロッパ!』 井筒和幸

 薬と売春をやらないヤクザの親分、羽原はジェームス・ブラウンが大好き。弟分の金山といつでもどこでも踊りだしてしまうファンキーなヤクザ。そんな羽原は5年間のお勤めに入る数日前、組を解散すると言い出した。大好きな親分のために子分の太郎たちは来日しているジェームズ・ブラウン誘拐を企てる。しかし、太郎たちが拉致してきたJBは、羽原の生き別れの娘かおりが招聘したソックリさんだった。会いたくて会いたくてたまらなかった人、それは娘のかおり。偶然に再会した羽原とかおりは・・・。

 やぁーん(黄色い声)、馬鹿馬鹿しいけど面白いよ〜。好きだなぁ、こういうのv 大好きな常盤貴子が出ていたので観たかった映画『ゲロッパ!』ですが、見逃してしまい、今回小説を読みました。キャスティングを知っているので映像を浮かべながら読んでいたら、たまらなく映画を観たくなってしまった。ううう、レンタルか。西田敏行はこのヤクザの親分をキュートに演じているんだろうなぁ。そしてキッツイ美人のかおりは常盤貴子にぴったりだわ。これはキャスティングの勝利だろうな〜と映画を観ても無いのにそう思うのであった(笑)。観るわよ、絶対に。

 明日を生きろって、明日を見るために、起きろって。

小説『ゲロッパ!』 2003.8.16. 井筒和幸 ソニー・マガジンズ



2004年03月04日(木) 『雪ひらく』 小池真理子

「ほの暗い部屋」
 美枝子は洋服のリフォームや仕立てをして生計を立てている。鬱蒼とした竹のおいしげる、ほの暗い家で。この家に暮らして八年。さまざまな男たちが通り過ぎていった。44歳。友人には男に都合のいい女、と言われようと美枝子はそんな生き方をさりげなく貫いていくのだった・・・。

 6つの恋愛玉手箱、まさにさまざまな女の情念が6つぎっしりみっしり詰まっていました。秘めた関係を断ち、故郷へ帰る女。愛してくれる旦那だけで満足できない女。死ぬ間際まで男との恋愛を繰り返す女。40歳、50歳、60歳、・・・いくつであろうと女は女。恋愛は若い時代の特権ではなく、むしろ年を重ねただけ重く深い恋愛を堪能できるのかもしれません。恋する悦びと哀しみを知り抜いた女たちの恋愛物語は素敵でした。小池真理子さんの物語では一番お気に入りとなりました。

 このひとときが永遠のものであってほしい、と願いながらも、心の底ではそんなことはあり得ないとわかっている、男と女のそんな切なさこそが好きなのだ。好きで好きで、たまらないのだ。

『雪ひらく』 2004.1.10. 小池真理子 文藝春秋



2004年03月03日(水) 映画『エンジェル・アイズ』

 シカゴ警察のシャロンは、交通事故で大破した車の中の男に必死で呼びかける。「Stay with me!」と。そして1年後、あいかわらずシャロンはハードな仕事をこなしていた。外見の美しさとは裏腹な気の強さ。シャロンには心に傷を負っていて、人に心を開くことができないのだった。そんなシャロンの危機を救った男がいた。街をさまよい歩くキャッチ。ふたりは互いに惹かれあい、お互いの心の傷を知る・・・。

 ジェニファー・ロペスがとてもいい役を演じています。父親や家族との確執から心を閉ざした女。しかし、ある男に出逢い、恋をするにつれ、まろみを帯びた優しい表情になっていく。
 恋するふたりがふたりとも過去に大きな荷物を置いています。その荷物をどうするか。ふたりが出逢って愛し合えたとき、奇跡は起こるものなんだなぁ、と感動しました。キャッチを演じるジム・カヴィーゼルは、優しいきれいな瞳の持ち主で、ジェニファー・ロペスが相手役に切望したのもうなづけます。汚いなりした浮浪者同然の男なのに魅力的なんです。
 あまあまなラブ・ストーリィではないところがお気に入り。愛は力を与え、明日を連れてきてくれる。



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