酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年03月27日(土) 『そして、警官は奔る』 日明恩

 武本正純は、新宿・国際組織犯罪特別捜査隊から警視庁蒲田署刑事課の強行犯係に異動(させられていた)。武本の相棒は、和田弘一。ふたりは組みたくない相方ナンバー1と2らしい。和田のあだ名は冷血。武本のあだ名は鬼畜・・・恐ろしいコンビである(笑)。ある日、武本は幼児虐待の通報を受ける。そこから芋づる式に不法滞在外国人、戸籍のない子どもたちの姿が浮かび上がってくる。そして幼児ポルノ、幼児買春、幼児売買、・・・そんな存在を金に換えようとする組織。とんでもない現実にとまどう武本の前に現れたのは前回の事件で警察を去っていった潮崎だった。潮崎は風貌すら変わっていた・・・。

 ぶっちゃけて言えば、小説版「踊る大捜査線」って感じです。今の警察機構や法律の抱える矛盾に真っ向立ち向かっていて清々しい。登場人物の軸となる武本と潮崎は勿論、過去ゆえに冷血となった和田、温情の小菅など他のキャラクターも素敵です。誰より魅惑的なのはヒロイン羽川のぞみ。頭がよく美しく、やはり過去に囚われた女の心。このシリーズやっぱりいつか映像化だよなー。
 ほんのりしんみりよい小説です。世の中はきれい事ばかりではないけれど、それでも頑張って生きていく武本と潮崎の姿にパワーをもらえます。

「後悔という字は後で悔やむと書く。どうせ悔やむのならば、何もしなかったことを悔やむより、やってしまったことを悔やむ方がましだ。やるだけやって、その結果悔やんだとしたら、二度としなければ良い。泣いても喚いても明日は来る。明日を待つんじゃない、自分から迎えろ」

『そして、警官は奔る』 2004.2.29. 日明恩 講談社



2004年03月26日(金) 『勇気凛々ルリの色』 浅田次郎

 アホや・・・。まずこれが笑いながら言葉になってしまう感想。浅田次郎さんの10年前(1994年)のエッセイ『勇気凛々ルリの色』のことである。汽車で片道2時間ちょいかかるある温泉場までの道中読んだのだが、笑けて笑けて参ってしまった。このへんてこなオッサンが世にも素晴らしい名作『プリズンホテル』シリーズなどを生み出したのだなぁ。このオッサンの人生&性格だからこそ生み出された名作たちなのだなぁ。そう自然に納得できる浅田のオッサンのオバカエッセイ。
 でも10年前の事件やできごとについて浅田のオッサンが語ることは厳しく暖かくアホらしく胸をうつ。こういうものを読むと、やはり文は人なりだと実感する。浅田のオッサンはこんな人だったんだと是非未読の方は感じて欲しい。ますます浅田次郎作品が好きになるはず。

 まさか美貌の女性は、接吻の求めに対して嘔吐で応じるような無礼者がこの世にいようとは考えてもいなかったであろう。

『勇気凛々ルリの色』 1999.7.15. 浅田次郎 講談社文庫



2004年03月22日(月) 『壬生義士伝』下 浅田次郎

 吉村貫一郎は切腹。息子・嘉一郎はたったひとり父のために戦いに参戦する。吉村が守り続けた愛する妻と三人の子ども。嘉一郎だけは大好きな父のため若い命を捧げるのだった・・・。

 吉村貫一郎にかかわったさまざまな人たちから回想を聞くことで、吉村の人生が見えてきます。息子の嘉一郎のまっすぐな短い生き様には涙あふれてとどまることを知りません。愛とは家族とはこういうものなのだなぁと。
 映画で観た「壬生義士伝」は時間と構成の問題から(だと思います)、斎藤一と大野千秋のふたり語りで進められていました。上下巻からなる壮大な物語を短縮するにはうまいやり方でした。映画も原作もそれぞれのよさがあります。ただやはり原作から溢れ出るものの全てを映画では出し切れていない。吉村とその息子、そして吉村の竹馬の友・大野。そういう軸となる人たちの姿は原作でしか感じることはできませんね。
 生きるということを、愛するということを、根底から考えさせる物語でした。

 本物の男てえもんはね、そこがちがうんです。
 どんなにてめえより強え相手に立ち向かうときだって、本物の男はあすこまで気迫を見せることはねえ。本当に力が入るのはね、てめえ自身の心に立ち向かうときなんだ。

『壬生義士伝』下 2000.4.30. 浅田次郎 文藝春秋



2004年03月21日(日) 『壬生義士伝』上 浅田次郎

 慶応四年旧暦一月七日夜更け、大阪・盛岡南部藩蔵屋敷に満身創痍の侍がたどり着いた。侍の名は吉村貫一郎。貧しさゆえ口減らしのため自殺をはかった愛妻しづと子ども達に金を稼ぎ送るためだけに、南部藩を脱藩。人を殺し、殺し、新選組の隊士となった。守銭奴と蔑まれるほど金に執着し、その全てを家族に送っていた。そして、死を目前にしら吉村は命乞いをするのだった。蔵屋敷差配役・大野次郎右衛門は、吉村と竹馬の友。しかし、大野は吉村に「腹ば、切れ」と言い捨てるのだった・・・。

 新選組を違う角度から読んでみるということの面白さを感じました。時代が大きく動いたときに、ただひたすらに家族のためだけに生きた男の物語。全てに秀でた男が、貧しさに命をかけて戦う姿に本当の「誠」を感じます・・・。

 貧と賎と富と貴とが、けっして人間の値打ちを決めはしない。人間たるもの、なかんずく武士たる者、男たる者の価値はひとえに、その者の内なる勇気ときょうだとにかかっているのだ、とね。

『壬生義士伝』上 2000.4.30. 浅田次郎 文藝春秋



2004年03月20日(土) 映画『六月の蛇』

 りん子は電話相談室でさまざまな人の相談に乗っている。ある日、「死のうと思っている」という男の電話を受ける。鼻にかかったセクシーな声でやさしく対応するりん子。しかし、美貌の若妻りん子は潔癖症の夫に触れてもらえない。夫の心がわからない。なのに他人の心は理解している・・・。りん子は自分で自分を慰める。その写真を連写して写され送りつけられた。送り主は死にたいと言った物しか写せないカメラマンだった。一緒に送られてきた携帯電話の指示でりん子は世にも恥ずかしい行為を強いられる。だが、同時にその行為は殻に閉じ込められていたりん子をより美しく解放するのだった・・・。

 すごーくエロいです。そして好みなエロさっぷり。主演の若妻を演じた黒沢あすか(さんだったと思う)がかなりいい。殻に閉じ込められたお堅い女教師ふうもセクシーだし、墜ちていく顔つきの妖艶さたるや生唾もの。なにより声がたまらなくいい。見た目が絶世の美女ではないにもかかわらず、超いい女系です。ぞくぞくぞく。
 この映画は、ベネチア国際映画祭受賞作品であり、イタリアで大絶賛だったそうです。恥辱的行為を強いられ、快感に転じ、解放される。ありそうです。セックスが全てとは言いませんが、とても大事なことだと心も身体も感じています。満たされる行為は必要不可欠。

 六月の雨が世界をを濡らし、欲望の蛇が青い都市に放たれる。



2004年03月18日(木) 映画『毎日が夏休み』

 スギナは中学2年生。ただいま登校拒否中。いじめにあっている友人を助けたら、今度は自分がターゲットにされてしまったのだ。母にお弁当を作ってもらって元気に登校のふり。新興住宅地ならではのエアポケットのような公園で早弁だ。植木の向こうのベンチにナント義父がいた。義父と母は再婚同士。言わばスクラップな家族。エリートまっしぐらな父は会社を辞めていた。優等生の娘の登校拒否とエリート亭主の突然の退職に衝撃を受ける母。しかし、義父とスギナは何でも屋をスタート。エリートな義父のあまりにもなにもできない姿にスギナは俄然親近感を覚える。3人3様に頭を打ち、悩み、認め合い、補い合い、本当の家族になっていく・・・。

 中学2年生の少女が登校拒否のまま大きくなり、成功する・・・。これはファンタジーならではですね(原作はマンガだけど)。エリートの仕事人間の義父が日々の生活で経験することから人間らしさを取り戻していく。ここはとても素敵だと思うのだけど。中学2年の少女が“毎日が夏休み”と生きていくことには抵抗がある。やはり私は常識人なのかしら。うーん(悩)



2004年03月17日(水) WOWOW『妄想代理人』#5、#6 今敏(こん・さとし)

#5「聖戦士」
 巡査部長・蛭川が逮捕した少年バットは小学生ではなく中学生だった。狐塚誠はゲームにはまり、自分を“悪のゴーマと闘う聖戦士”であると妄想していた。脈絡のない空想の世界に猪狩はついていけない。しかし若い馬庭は、話を合わせ狐塚から供述を取っていく。そして最初の事件の鍵を握るホームレスの老婆の存在に気付くのだった・・・。

#6「直撃の不安」
 大型台風が直撃しつつある中、猪狩と馬庭はホームレスの老婆を発見。同時刻、蛭川巡査部長の娘・妙子は台風の中を彷徨っていた。念願のマイホーム。大好きなおとうさん。なのに新しい部屋は父親によって盗撮されていたのだ。
 猪狩と馬庭は老婆から重要な証言を引き出す。月子の事件の時にあたりには誰もいなかったと言うのだ! 妙子は、台風で家を流された父親からの電話に怒り狂い、自分の全存在を否定するのだった。
 猪狩と馬庭に呼び出され、狂言を疑われる月子は・・・。
 病室で父・蛭川に対して妙子は・・・。

 うーむ。そうきますか(悩)。少年バットに襲われた人たちは何かに追い詰められている状況で、襲われたことによって少しだけ安堵しています。しかし存在するはずのない犯人・・・むー、おもしろいv
 少年バットを逮捕した悪徳警官・蛭川は、ホテトル嬢などに「おとうさん」と呼ばせる変態でしたが、愛娘の部屋を盗撮して娘の裸を見ているとは吃驚でした。娘も現実逃避するよなぁ・・・。
 6話まで進みましたが、登場人物たちがなんらかのかかわりを持ち、影響しあっている感じがします。一番気になるのはタイトルバックで地球のあちこちで原爆が落とされていることなんです・・・。うー。最後まで妄想は加速しっぱなしなのかなぁ。

WOWOW『妄想代理人』#5、#6 今敏(こん・さとし)



2004年03月16日(火) WOWOW『恋愛小説』

 宏行は法学部4回生。仲間の卒業旅行の誘いに渋っていた。彼女の浮気が原因で別れたことが原因。彼女も旅行には行けないと言っているらしい。ある日、電車の中で2回生の時、宏行が《透明人間》とあだ名をつけた聡史から声をかけられる。聡史は、宏行に遺言書の作成アルバイトを依頼。豪邸に独りきりで住む聡史のもとへ資産鑑定のため宏行が通い始め、ふたりは少しずつ打ち解けていく。ふと宏行が聡史の恋愛について訊ねた時、聡史は自分の宿命と哀しい恋愛経験を語るのだった・・・。

 小さな頃から、自分が愛する者達が次々と死んでいく。自分を《死神》と呼び、人とのかかわりを一切断った男。そんな男が恋をする。ピュアで美しくやんちゃな女性に。愛しくてしあわせで・・・それでもまた神は彼の手から彼女を奪い去っていく。今度は病死で。そんな哀しすぎる男に友情を感じた男は、彼の企てを阻止する。そして階段から転がり落ちて・・・。
 泣けました。たったひとり愛する人が病死しただけでボロボロだった私には、過酷な宿命を背負った聡史の心がよくわかる。もう誰も愛さない。でもひとりは寂しい。辛い辛い恋愛物語でした。

WOWOW『恋愛小説』



2004年03月15日(月) 『抜頭奇談』 椹野道流

 前回の『海月奇談』で瀕死の状態になった敏生は、エージェント早川さんのプレゼントで愛する森さんと下呂温泉へ湯治に出かけた。ぬかりのない早川の選んだ旅館は最高。後から龍村さんも合流する段取り。しかし、そこには妖魔の骨董屋・辰巳司野が来ていた。司野に助けられた恩のある敏生と森は、否応なく司野の事件に巻き込まれていく・・・。

 ふふふ。ラブラブボブな森さんと敏生は今回は湯治先の温泉でいちゃついています(笑)。しかし、そこはほれお約束。邪魔者が次から次へと(大笑)。人のいい優しい敏生は鈍感にも森さんの嫉妬に気付くこともなく、喜んで事件の渦中へ飛び込みます。そして事件を納めるのはやっぱり苦労人の森さんなのでした。アハハ。
 今回、一番気になったのは前回やはり消滅しかけた森の式・小一郎の復活でした。小一郎の復活にそっと涙。よかったー。

「人間の幸せの形って、きっと人それぞれだと思うんです。でも・・・・・・僕、上手く言えませんけど、人間って、大切な何かに巡り合うことができて、それを守ることができたとき、いちばん幸せなんじゃないかなあって」

『抜頭奇談』 2003.12.5. 椹野道流 講談社X文庫



2004年03月13日(土) 映画『私たちが好きだったこと』

 競争率76倍!の公団マンションに当選したヨシは、友人のロバと共同生活することに。最上階の見晴らしのいいマンションはごきげん。ふたりが祝杯をあげているBARへ美女二人が入ってきた。同席し、盛り上がる4人。酔いに任せてマンションで呑みなおす。そして翌日、美女のヨウコとアイコが引っ越してきた。昨日の宴で4人で住むことになったのだと言う。人のいいヨシくんは渋々奇妙な同居生活をはじめるのだったが、アイコは極度の不安神経症だった。今までヨウコひとりで守ってきたアイコを3人が支えることになる。そしていつしかロバくんとヨウコ、ヨシくんとアイコという組み合わせが生まれたのだが・・・。

 7年前の映画。ほんの7年の間に時代背景が様変わりしていることに驚きます。映画の中では携帯電話はなく、アイコがすがるのは公衆電話。服装もメイクも今とは違う。時代の移り変わりが速いなぁ。
 物語は宮本輝さんの原作で岸谷吾朗さんが気に入って企画したそうです。せつない大人の男女の恋愛映画です。軽妙洒脱な岸谷さんが見せるシリアスな演技がとても好感持てます。
 アイコという美しく精神的に不安定な女性を軸に周りの人間達は生きる。アイコは人の支えなしには生きられないし、周りの人間もアイコを支えていることに依存してしまう。すごくよくわかる・・・。
 アイコの最後の決断は女ならではのいやらしさ・卑怯さが滲み出ているし、それを許す男の優しさ弱さも愛しかったなぁ。いい映画や・・・。



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