酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年04月17日(土) 『黄昏の百合の骨』 恩田陸

 水野理瀬がイギリスから日本に帰ってきた。祖母の遺言に従ってのこと。祖母の遺言とは、「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」というもの。この半年間の理瀬の拘留の意味はいったいなにか?
 この祖母の家は百合の花が咲き乱れ、魔女が住んでいると噂される洋館。この家には祖母の娘の梨南子と梨耶子が住んでいた。夫を亡くし、物静かで優しい梨南子。旦那と別居し金遣いの荒い派手な梨耶子。ふたりは母親が理瀬に残した遺言の意味が気になってしょうがない。なにか隠された財宝が・・・?
 そして理瀬の周りで起こるべくして起こる事件。失踪事件に殺人事件? 理瀬はどう対処するのか・・・。

 『三月』から『麦』へと久々に再読。満を持して『黄昏の百合の骨』を読みました。うーん(悩)、期待しすぎは火傷のもと(わけわからんか)。とんでもない人がオンパレードであちらにこちらに毒が毒々しく撒き散らされる。おもしろいんだけどなぁ。なにかが足りない。なぜだろう・・・。そう考えてたどり着いた結論は、理瀬が手を汚さないからだと気付きました。理瀬はダークエンジェルだから、少々のワルはやらなくちゃーと期待していたみたいです。今回の理瀬は美しいヒロイン。まぁ、したたかさや割り切りのよさは見せ付けてくれましたけどねv
 まだまだ続いていきそうな理瀬の『三月』シリーズ。もっと残酷に。もっともっと。ギブギブ。

 存在の重さよりも、不在の重さの方が日毎にずしりとこたえてくるものなのだ。

『黄昏の百合の骨』 2004.3.10. 恩田陸 講談社



2004年04月16日(金) 『麦の海に沈む果実』 恩田陸

 水野理瀬は二月最後の日に湿原の中にある全寮制の学園に転入する。不思議なオーラを撒き散らす校長先生。一癖も二癖もありそうな人ばかりのファミリー。理瀬のファミリーは半端な人数で、失踪者もいるようだ。校長は理由があって学園を出て行ったのだと説明するのだが、学園では失踪もしくは死亡と思っている節がある。理瀬の学園生活はどうなってしまうのか。なにより理瀬とはいったい・・・。

 『三月は深き紅の淵を』の第四章「回転木馬」の中に登場する理瀬の物語。『三月』で生まれた理瀬の世界が見事に花開いた作品です。作中に当然のようにアノ本が出てきます。しかも妙な隠され方をして・・・。そしてこの『麦』の世界では『三月』の内容が一味違ってる。どこまでお洒落な仕掛けを仕込んでくれることか。恩田陸、素敵v

 自分が経営者になったあかつきには、この本棚をぎっしり埋めてやるんだと決心を固めていたわー



2004年04月15日(木) 『三月は深き紅の淵を』 恩田陸

「待っている人々」
 嫌な季節だ。早春の、落ち着かない、浮ついた不安定な季節。鮫島功一は、せっかくの連休を海老沢という上司命令で会長の“春のお茶会”参加(しかもお泊まりつき)に向っている。功一がお茶会に呼ばれた理由はたったひとつ。趣味が読書だったから。本だらけの大邸宅に迷い込んだ功一は、たった一冊の幻の本『三月は深き紅の淵を』を推理して探し出せというものだったが・・・。

 生まれて初めて開いた絵本から順番に、自分が今まで読んできた本を全部見られたならなあ、って思うことありませんか?

「出雲夜想曲」
 編集者の隆子は、同じく編集者の朱音を誘って旅に出た。有能で美しくパワフルな朱音は、夜汽車での酒盛り準備にもぬかりがない。ふたりが向ったのは出雲。隆子も朱音も『三月は深き紅の淵を』に囚われ(それぞれ事情も感性も違うが)、その作者を推理し、出雲にその人がいると・・・?

「すごいわね。化け物のような小説だわ。ただその存在だけで、どんどんベールをまとっていく。既に実体もなく、知る人もほとんどいないというのに、指一本動かさずに手の届かないところへ行ってしまう。でも、本当の物語って、そういうものかも。存在そのものに、たくさんの物語が加速して加わって、知らぬ間に成長していく。それが物語のあるべき姿なのかも」

「虹と雲と鳥と」
 奈央子がかつて家庭教師をしていた少女・美紗緒が死んだ。祥子というやはり美少女とともに。ふたりは異母姉妹だった。公園の手すりが壊れて落ちていった。自殺か。他殺か。事故死なのか。美しいふたりの少女の間にいったいなにがあtったのだろうか。

 かわりに、かいてね。

「回転木馬」
 水野理瀬は松江に降り立った。列車から降りてトランクを忘れてきたことに気がついた。なぜだろう、なぜあたしはあんなに大事にしていたトランクを忘れてきたのだろう。そして二月の終わりに三月の王国へまよいこんでしまう・・・。

 フィクションを求めることで、我々は他の動物たちと袂を分かったのだ。我々の向うところは分からないし、最終的に何を用意されているのかは分からないが、その日から我々は孤独で複雑で不安定な道のりを歩み始めたのだ。


 この『三月は深き紅の淵を』は、タイトルと同じ『三月は深き紅の淵を』という幻の本を巡る4つの短篇集です。物語の時系列はキレイに流れていないし、内容もリンクしているようで微妙にずれている。これは陸ちゃんのほかの作品にも同様で流れを汲みつつ、それはまた別のお話であったり。こういうほんのわずかな歪みみたいなものが最高に私を惹きつけるのだと思う。
 陸ちゃんの新刊・理瀬シリーズ(と言うより三月シリーズと言うべきか)の『黄昏の百合の骨』を読むために、久々に読み返した三月はやはり私をしっかり虜にし、わくわくどきどきさせてくれました。これは文庫になっているし、全ての本好きさんたちにぜひとも読んでいただきたい。
 恩田陸という天才をこの世に送り出してくれた神様に心から感謝。



2004年04月14日(水) 『エロチカ』 桐野夏生ほか

 「自分はエロス的でないと思う人間は、ソフト、ハード面、共にテクニックを磨く努力が足りないのだ」・・・まさに言いえて妙な桐野夏生ならではの名言である。そんな言葉を言い放つ桐野夏生による呼びかけで官能小説の競作。ずらりと並ぶビッグネームに恐れおののきつつエロスを堪能。参加の作家さんたちもだけれど、桐野夏生の相変わらずの勇ましいエロチックさにめろめろ。

「愛ランド」 桐野夏生
 編集の仕事に携わる熟女3人が台湾旅行をする。そこで始まった3人の告白。自分はレズビアンだと認識したという佳枝。父にレイプされていたという菜穂子。奴隷として男たちに買われているという鶴子。3人の告白は妄想なのか?真実なのか?

「思慕」 貫井徳郎
 ステーキハウスで美しいウェイトレス里海に一目惚れした一毅は、その店でアルバイトすることに。ひたすら見つめ続けていた里海が恋愛に悩み、一毅と一度だけ関係を持つ。その一度に執着する一毅は・・・

「危険な遊び」 我孫子武丸
 舞は賢治とのレイプごっこに興奮していた。窓から侵入してくる賢治を強姦犯と見立てるのだ。賢治は定職につけず、友人の慎吾から借金ばかりしていた。慎吾に説教されるが、どうしても金を借りたい賢治はレイプごっこの身代わりをすすめるのだが・・・。

 官能小説と言っても作家さんの感覚はさまざま。私が中でも気に入ったものはこの3人の作家さんの作品。どぎまぎしました。そのうえ只では終らないエンディングが素晴らしかったです。

『エロチカ』 2004.3.15. 桐野夏生ほか 講談社e-NOVELS



2004年04月13日(火) 映画『ダークネス』

 40年前、スペイン郊外の森で7人の子供たちが行方不明になった。そのうちの一人の少年だけが発見されるが、彼は興奮し錯乱し手がかりは得られない。そして少年は記憶を失った・・・。
 40年後、アメリカからある家族が引っ越してきた。マークはアメリカでの生活に心のバランスを崩しかけていた。マークの父は医師として働き、マークの妻メアリーはそこに勤めるようになる。娘レジーナは自分だけでもアメリカに帰りたいと願い、メアリーと衝突する。メアリーの冷たい言動に傷つくレジーナは弟ポールの異変に気付く。買ってもらった色鉛筆で首を切られた子供たちの絵ばかり描くのだ。暗闇を怖がるようになり、なぜだか首の周囲に痣をつくるようになった。
 この家はなにか変だ、レジーナは恐怖の原因をボーイフレンドと探る。家の売主も不動産屋も架空の人物。やっとたどり着いた設計士から、今の家は霊力を集めるように設計されている恐ろしい家だと知らされる。しかも40年の皆既日食の日、たったひとり行方不明から生還した少年が父親マークだったことを知る。40年ぶりの皆既日食の日はもうすぐ・・・。

 『アザーズ』と言い、この『ダークネス』と言い、スペイン発のホラーは正統派ゴシックホラーと言う感じ。妙なスプラッタ的恐怖を盛り込まない。お上品な感じとでも言いましょうか。建物が悪魔を呼び寄せる設定って難しい。でもありそうだから何度でも使われる設定なのでしょうね。そう言えば、悪魔封じのため建て増しを今でも続けている妙な豪邸をテレビで見たけれど、あれって逆に悪魔たちの格好の棲家となりそうだなぁと思ったものでした。暗闇もまたホラーの永遠のテーマ。本当に暗闇にはなにかが蠢いている気がするし、人間の根源的記憶ルーツになにかが刻まれているんだと思う・・・。
 面白いか、面白くないかと聞かれると返答に困っちゃうんだけど、レジーナを演じたアンナ・パキンがよかったv さすがオスカー女優。あんなに若いのに。



2004年04月11日(日) 映画『プロフェシー』

 ワシントン・ポスト紙のスター記者ジョン・クラインは、美しい妻メアリーを溺愛。喜ぶ妻のために高額な家を購入することに決めた帰り道、メアリーの運転ミス(?)で交通事故に遭遇。メアリーだけが重傷を負い、目覚めた彼女は妄想に悩まされる。メアリーはジョンに聞く。「あれを見た?」と・・・。そして彼女の脳に珍しい腫瘍が見つかり、帰らぬ人に。
 2年後、メアリーを忘れられぬまま仕事に打ち込むジョンはワシントンからリッチモンドへ真夜中車で向っていたが、まったく違うウエスト・ヴァージニアの田舎町に辿り着いてしまう。その町では妙な出来事が頻繁に起こっていた。ジョンはその町の謎を追いかけるのだが・・・。

 これはウエスト・バージニア州のイントプレザントという町で実際に起きたことをベースに映画化しているそうです。映画の原題は「モスマンの予言」だそうで、モスマンとは訳すと蛾男。このモスマンは昔からなにか災害や惨事が起こる前に目撃されるそうです。そして気まぐれに予言を教えて混乱させる。助けてくれるわけでも導いているわけでもないらしい。こんなホラーないですよね。
 映画では、愛する妻を失った傷心の男が翻弄されていて身につまされます。どうラストへもっていくのかと思って観ていたら、とんでもないことが! しかもそのラストも実際にあったことだと言うではありませんか・・・。
 きっとこの世の中には人間が認識できていない存在がある。人間が認識できていないものをイコールこの世ならざるものと思うのは人間の思い上がりだよな、なんてひとりで自省していました。ただのホラーではありませんよ。



2004年04月10日(土) 『嗤う闇』 乃南アサ

 アノ音道貴子が東京の下町・隅田川東署へ転勤。機捜にいた貴子には驚きの事件が待っていた。新しい同僚たちはさまざまな人間性を見せる。恋人・昴一との時間が増えると期待していた貴子だったが・・・。

 大きな事件に遭遇し、危険な目にあってきた音道貴子が転勤。しかも人情あふるる東京下町。これは良かったね〜貴子ちゃんvとならないところが乃南アサさんらしいところか(苦笑)。でも恋人の昴一との関係や会話がとてもよくて、ギスギスしていた貴子ではなくなった。そのことが本当に嬉しかったな。
 今回、音道は4つの事件に遭遇しますが、タイトルにもなっている『嗤う闇』は女性として読み流せない事件を扱っています。ズバリ「レイプ」です。「レイプ」は卑劣な犯罪で、男が女を暴力でねじ伏せ屈辱をあたえる最たるものでしょう。よく女性にはレイプ願望があると言われますが、それはポルノとかでなんとなく喜んでいるふうを表現するから誤解されているのだと思いますね。年を重ねるごとに感じることですが、セックスは愛がなきゃまったくもって無意味です。
 音道はどこへ行くんだろう。昴一と結婚して警察を辞めてしまうのかしら。

 どんな理由があったって、レイプされていい理由なんて、女の側にはありゃしないのよ。

『嗤う闇』 2004.3.20. 乃南アサ 新潮社



2004年04月09日(金) 『ヘビイチゴ・サナトリウム』 ほしおさなえ 

 ハルナが学校の屋上から墜落死。自殺か?他殺か? その後、ハルナの幽霊が出ると言う噂が立ち、教師・宮坂とハルナの関係も噂となる。その宮坂もまたも墜落死。宮坂が残した謎の小説。そしてハルナ以前にも墜落死した少女が・・・。

 いやはや久々に新しい衝撃。不思議な文章に惹きつけられ、謎が謎を呼ぶ。物語の最後で解決したかに思える回答も定かではない。不思議な物語。
 この物語の作者は詩人なのだそうです。言葉で人を惹きつける力は半端じゃない。ただ個人的な欲を言えば、エロと言うなら(物語に登場する小説)あんな美しい表現じゃダメ。女子校という閉鎖された空間ならばエロはもろエロじゃないと。エロと言いつつ美しすぎたわ。残念。
 墜落死した謎の少女の物語を読みたいと思わせる素敵な余韻を残してくれました。この方は今後も要チェックだわ! オススメv

「だって、本に書かれてるのって、単なる文字でしょ? 形も、匂いも、味もない。それなのに読んでると自分がそのなかにいるみたいな気になる。書いた人のことなにも知らなくても、その人が作った世界が、ほかの人たちに伝えられてくじゃないですか? 人って死んだらふつう忘れられてくでしょ。その人を知ってる人がみんないなくなったら、この世から消えちゃう。でも本はちがうんですよ」

『ヘビイチゴ・サナトリウム』 2003.12.25. ほしおさなえ 東京創元社



2004年04月08日(木) 映画『オン★ザ★ライン 君をさがして』

 ケビンはシャイな青年。今はシカゴで広告代理店に勤めている。ナイスガイのケビンはもてるのだが、本命と思う相手にはからきし奥手。ハイスクール時代のバンドライブでイケイケだった瞬間にダウンしてしまったことがトラウマになっているのかもしれない。ある日、電車でめぐり合った素敵な女性。カブスが好きでアル・グリーンが好きで歴代大統領の名前を一緒にはもれた。それなのに名前すら聞けないで別れてしまう・・・。
 仕事ではチャンスが巡ってきたのに、やり手の同僚にアイデアを盗まれてしまう。それなのに一言も抗議できずコピーを取る。その時、ケビンの中でなにかが生まれた! そしてケビンはシカゴの街中に「電車の君」を求めるポスターを貼りまくる。それは人々の目に止まり、新聞社からのインタビューを受けるまでに。ハイスクール時代のバンド仲間は便乗してかかってくる女の子たちと片っ端からデートをする。その中に、ケビンの求めるあの娘がいたのだが・・・。

 これは最高にキュートな映画です。こういうコメディタッチの恋愛青春映画はたまらなく好き。最後がハッピーエンドってとこもいい。せめて映画ではハッピーに楽しく。そういう気持ちをしっかり満たしてくれる優れものの映画です。も一回見ようv



2004年04月07日(水) WOWOW『妄想代理人』#8 今敏(こんさとし)

「明るい家族計画」
 自殺志願者が集まるチャットで一緒に自殺をする相談が繰り広げられていた。ある日、本当に実行すべくマロミのリュックを背負った老人と屈強な青年が待ち合わせ場所で出会う。老人は冬峰、青年はゼブラ。かもめという女性が遅い、チャットのイメージだと遅刻するような女性に思えないんだが・・・と話し合うふたりの視線に飛び込んできたのはマロミのリュックを背負っている少女だった・・・。
 あまりにも幼い少女かもめの出現に慌てふためくふたりは、かもめを巻こうとする。しかしどこまでも追いかけてくるかもめに根負けし、3人でさまざまな自殺を図る。だがどれも失敗。汽車に乗り、山奥に入り、並んで首吊りをしようとするのだが・・・。

 3人が抱えた自殺理由がさりげなく画面に提示されます。死にたいけれどひとりで死ぬのはいや。人間はかくも寂しく弱い生き物なのか。
 ネタバレになりますが(最後で映像ではハッキリ示されますが)、いったい3人はどの自殺で死んだのだろう? 温泉に入った時には死んでいたはず。そこへ現れた少年バット。妄想と妄想の遭遇? うーん(悩)。
 3人が抜けた自殺願望チャットで引き続き少年バットの噂が流布されていたし、どんどん加速している。タイトルがいろんな場面でいろんな形で出てきますが、今回はラストにスキンの自動販売機でした。あんな自動販売機っていまだにあるのかしら。



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