酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will
2004年04月27日(火) |
『黒と茶の幻想』より「第四部 節子」 恩田陸 ※ネタバレあります! |
「第四部 節子」 節子は、いつも大勢の仲間達と旅をしていた。人好きあいのいいバランス感覚に優れた女だと思われているらしい。しかし、節子はその昔‘友達’という言葉に恐怖してきていた。その恐怖の根元には・・・。
この最終章は2年ちょっと前にもノックアウトされたんだったよなー。陸ちゃんって怖い人だよなー・・・。節子と言う女性は美人でグラマーなのに色気を感じさせない。そこにも彼女なりの理(ことわり)がある。自分をよく把握した上での処世術と言えましょう。節子は傍観者であり、観察者であり、ムードメーカー。インパクトの強い3人の中にあってカメレオンのように己の我や気配を消す。一番すごい女性なのではなかろうか。 ここからある部分ネタバレ。ネタバレしないことには私の感想が書けないから。冒頭の利枝子の章で節子は我侭勝手な義父への怒りを爆発させます。その本当の意味が節子の心の中だけで語られる・・・。ここがね、節子のすごさと言うか恐ろしさと言うかしたたかさと言うか。うーん(悩)。 節子の旦那さまが末期癌。節子は世界中に向って戦っている。愛する人のために。自分のために。この一人語りの自問自答のシーンに私は泣けて。泣けて。旦那が死んでいくあの季節をそのまんま描かれている気分になってしまう。 でも、確実に時間が経っているなぁと実感。この本が出てばかりに読んだ時の心を抉るような痛みは無かったから。この節子の章を読むと自分に喝が入ります。ぴしっと。私もそれでも生きていくぜって。
あたしは彼に八つ当たりしていた。生きたくても生きられない人もいるのに、こんなところであっさり自分で命を絶ってしまえる蒔生に立腹したのだ。
『黒と茶の幻想』 2001.12.10. 恩田陸 講談社
2004年04月26日(月) |
『黒と茶の幻想』より「第三部 蒔生」 恩田陸 |
「第三部 蒔生」 蒔生は知っていた。自分が性格破綻者であると言うことを。かつての恋人・利枝子はそんな蒔生にこう言ってくれたことがあった。「自分のことを優しいと思っている人間よりは、自分が優しくないと知っている人間の方がずっと優しいと思う。」と。蒔生は利枝子が好きだった。自分以外の人間にクールに対する利枝子が。自分なんかを好きではない利枝子であって欲しかった。 森を歩く4人の後をひそやかにつけてくる気配。蒔生はそれを憂理だと思っていた。勘のいい利枝子は毅然と蒔生に問い掛ける。憂理とのことを。そして蒔生は・・・。
蒔生は、彰彦の姉・紫織と不安定な美女・憂理と関わりがあった。完璧な恋人・利枝子がいるにもかかわらず。しかも蒔生は罪悪感すら感じない。そんな自分を人でなしだと思い、性格破綻者だと思う。それでも平気で生きてきた。そしてやはり蒔生はそのまま生きつづけていく。 どんなに好きあっていても人と人には相性がある。お互いがお互いをどんなに好きでもうまくいかないことがある。それって本当によくわかる。好きなのに一緒にいて違和感を感じたり、居心地が悪かったりする。人と人ってむずかしい。だからこそ相性のいい人と出会えたら、大切にしていきたい、と思う。 この「蒔生」の章では、あの三月シリーズの憂理の人生が明かされます。でも陸ちゃんの他の物語では多次元の憂理の人生が語られるかもかもしれません。あの憂理らしい人生でしたけどね・・・。
中味の卑しさは、如実に顔に出る。
『黒と茶の幻想』より「第三部 蒔生」 恩田陸
2004年04月25日(日) |
『黒と茶の幻想』より「第二部 彰彦」 恩田陸 |
「第二部 彰彦」 この旅の企画者の彰彦。幼少のみぎりから主役を張ることばかりを期待されてきた男。しかし、彰彦が求めたポジションは「小さな恋のメロディ」で小さな恋人たちを助けるワルっぽい男の子の役だった。あえて世界の中心にいることは避けて脇役に回る。彰彦が屈折した原因は美しく毒のある姉・紫織だった。奔放で淫乱で弟の動向に目を光らせ続けた姉。そして彰彦が思い出した哀しい過去の謎とは・・・。
陸ちゃんの物語に登場する毒のある悪魔のような魅惑的な女。ここにまたひとり登場しました。彰彦の美しい姉・紫織。不思議なものでこういう女性は欲しがるものは手に入らないから闘志を燃やしてどこまでも執着する。そこに恐怖が生まれる。彰彦の哀しい謎の解明。うーん(涙)
『何が起きても、私のことを理解しようとしないでくれますか』
『黒と茶の幻想』より「第二部 彰彦」 恩田陸
2004年04月24日(土) |
『黒と茶の幻想』より「第一部 利枝子」 恩田陸 |
学生街の焼き鳥屋で十数年ぶりに訪れた利枝子・彰彦・蒔生・節子の4人は旅に出ることになる。彰彦の具体的かつ詳細なプランメールにのせられ、本当に沖縄のY島へ。彰彦が3人に要求した宿題は「美しい謎」持参という風変わりなもの。J杉と三顧の桜を見るための道中に4人で謎について語り合おうと言うのだ。
「利枝子」 森は生きている、というのは嘘だ。・・・利枝子はそう思う。この旅で別れた男・蒔生と再会することに緊張する利枝子。そこでもたらされた情報。蒔生が離婚すると言うのだ。そして図らずも蒔生と利枝子が別れた原因の女性・憂理の失踪について話題が流れ・・・
『三月は深き紅の淵を』の「出雲夜想曲」にこの『黒と茶の幻想』について書かれています。《森の中を旅する四人の男女が淡々と自分が人生で遭遇してきた小さな事件を披露し、それを推理するという物語なのだが、謎の破片が惜し気もなくちりばめられ、奇妙なエピソードが羅列され、・・・》この文章から生まれた物語です。しかも、鍵を握る人物があの憂理とくる。まるでメビウスの輪の様につながり広がり永遠に終らない物語・・・。読んでいると不思議でたまらなくせつなくなってしまう。何度も何度も読み返してしまう。 利枝子は、美しく賢い女性。でも昔の理不尽な蒔生との別れが心の傷となっている。蒔生との別れの原因が今回の旅で解明されるのだろうか?
さて、お立ち会い。三崎彰彦が考えるミステリーとはいかなるものか? それはズバリ『過去』である。『過去』の中にこそ本物のミステリーがあるのだ。
『黒と茶の幻想』 2001.12.10. 恩田陸 講談社
CIA諜報員ケヴィンは、任務のためロシアン・マフィアと接触していた。ターナーという偽名で古美術商を演じていた。ケヴィンの任務は小型核爆弾を回収することだった。取引まで段取り、あとわずかというところで核爆弾を狙うテロ組織に狙撃され死んでしまう。ケヴィンの先輩ゲイロードは苦肉の策をひねりだす。ケヴィンと生き別れていた双子のジェイクを替え玉にすると言うもの。育った環境の違いからか、ケヴィンはダンディでインテリ。片やジェイクは賭けチェスやチケットの横流しで気ままに生きている風来坊。9日後の取引のためにジェイクを金で釣り、ケヴィンに仕立て上げるのだが・・・。
面白かったー。一人二役を演じたクリス・ロックの早口弾丸マシンガントークは黒人ならではとひたすら感心。きちんとダンディとやんちゃを演じ分けていたのもグー。でも見どころはFBIに追われている世界のアイドル(笑)レクター博士=アンソニー・ホプキンスがCIAのベテランになっているところかな。こういうのってフィクションを演じる役者さんたちたまらないんだろうなぁ〜。 映画としては娯楽アクションヒーローものです。最後に世界の違うふたりに友情が芽生えているのもお約束v
2004年04月22日(木) |
WOWO『妄想代理人』#9、#10 今敏(こんさとし) |
#9「ETC」 団地の前で井戸端会議をしている無責任で噂好きな主婦達。 メンバーは常連らしき3人と新米らしい鴨原美栄子。 少年バットに関する捏造されたかのような噂を撒き散らしている。 鴨原は話題についていこうとネタを提供するが相手にされない。 がっかりして帰宅すると、少年バットに倒された(らしい)血まみれの夫が。 それを見た美栄子は夫に駆け寄り、嬉々として・・・
#10「マロミまどろみ」 鷺月子のキャラクターマロミのアニメが作られることになった。 放送に向けて完成させるため一生懸命なスタッフ。 しかし、制作進行の猿田のミスの連続に制作は遅遅として進まない。 追い詰められたスタッフ達は次々と少年バットに襲われ始める。 足をひっぱりまくる猿田は自分に責任はないと思い込んでいるのだが・・・
ここまで少年バットに襲われた人物は、鷺月子・鯛良優一・蝶野晴美・狐塚誠・蛭川妙子・鴨原美栄子の夫。フリーライター川津はたぶん金策から逃れるための自作自演の狂言。蛭川警官と牛山尚吾はおそらく妄想狂の狐塚の犯行だったと思う。事件のを握るのはふたりの老人。ホームレスの老婆と妙な計算をする痴呆老人(?)。サイドストーリー(?)では、自殺した少女かもめ、ゼブラ、老人冬蜂(チャット仲間にFOX君=狐塚がいる)などもいました。事件を振り返ってみると不思議と苗字や愛称に生物の名前が入っていることに気付きます。これは偶然か。必然化。その流れから考えるとフリーライター川津は例外。もしくは蛙にかけている? さて妄想が妄想を呼び、加速する事件。事件を追いかける猪狩と馬庭はどんな役割を果たすのか? 最終回に向ってますます妄想が加速するのだろうか?
2004年04月21日(水) |
『殺人鬼の放課後』 恩田陸ほか |
「水晶の夜、翡翠の朝」 湿原に初夏がめぐりくる学園でヨハンは退屈していた。ヨハンのパートナーとなるべき少女は春に学園を去っていた。学園のアイドルとしてそつなく過ごす毎日。ファミリィにはジェイという美少年が加わった。喘息持ちのジェイは繊細。なんとなくヨハンはジェイに保護欲をかきたてられていた。そして平凡な日々に奇妙なゲームが流行り始めた。ストローで作った紙人形を見つけた瞬間、周りのみんなが叫ぶ。『笑いカワセミが来るぞ!』と。さてこの悪質なゲームの着地点は・・・?
『三月は深き紅の淵』をから派生した理瀬の学園ものシリーズ。その理瀬に今後深く関わるであろうヨハンの事件。ヨハンがどういう境遇で、どういう性格なのかとてもよくわかる短篇です。きっとこういう理瀬に関わる人々の物語もひとつの物語となっていくのでしょう。
言ったろ、この次はないって。チャンスがある時に全てを済ませておくのが肝心さ。
『殺人鬼の放課後』 2002.2.1. 恩田陸ほか 角川スニーカー文庫
2004年04月20日(火) |
映画『愛してる、愛してない・・・』 |
恋の街フランス。美術学校に通う美人学生アンジェリクは熱烈な恋をしている。相手は心臓外科医のロイック。彼には弁護士の妻がいるが、離婚は時間の問題。アンジェリクは可愛らしく一途にロイックを慕い続ける。友人の医学生ダヴィッドのアプローチにもまったく関心を示さない。ある日、親友のエロイーズと歩いている前にロイックが。後ろから追いかけるアンジェリクが見た光景はロイックと妻の抱擁シーンだった。その瞬間からアンジェリクの行動が狂い始める・・・。
以下、感想にネタバレを含みますので観ようと思っている方は読まないようになさってください! この映画、『アメリ』でキュートな魅力を撒き散らしたオドレイ・トトゥが主演しています。なんでもそうですが、物事は一面からだけ見ていると全体がつかめない。この映画もアンジェリクの側だけ見ていると愛らしさに惑わされ、足元を掬われます。中でも医学生をそそのかして手に入れたモノで作ったプレゼントと想像しなかったラストシーンは衝撃的。うまい!っとうなってしまったくらい。 主人公のアンジェリクはもともと思い込みの激しい女性。自分がこうだと思い込んだら、それが全て真実になってしまう。今の世の中ってこういう人間が多い気がします。フランス・ボルドーの街並みも美しいので観る価値はありますv
2004年04月19日(月) |
『さよならの代わりに』 貫井徳郎 |
和希は劇団<ウサギの眼>に所属している。主催者の新條はカリスマ的存在。次の出し物のダメだしで和希は新條から声が出ないのは性格に問題ありと指摘される。うじうじと片想いを続けていることを知っているからだ。和希の片想いの相手はステーキハウスで見初めた智美さん。クールで美人で諦められるものではない! ダメだしの夜、和希は劇団の前で可愛い女性と出会う。彼女は祐里。新條さんの熱烈なファンらしい。可愛らしい容貌と言動で祐里は和希に接近し、だんだんと妙なお願いをしはじめるのだが・・・。
最初、貫井さんはステーキハウスでよっぽど美しい店員さんと出会ったのだなぁと考えていました。先日読んだ『エロチカ』の中の「思慕」の設定がまるまる同じだから。でもよーく考えよう♪・・・と考えてみると、漢字が違うだけで同じ二人でした。なんじゃ、これは?と悩んでいるとe-NOVELSサイトで謎が解けました。この『さよならの代わりに』は「思慕」とはパラレルな関係らしい。おお、なんだか心憎い演出だわい。 この物語は、和希が出逢った祐里に振り回されるさまが描かれています。祐里は謎の多い女性で、でも決して薄っぺらな娘じゃない。そこにだんだんと惹かれていく和希。この物語のスタイルは個人的には好きです。せつない終り方も非常に好み。面白かったなぁ。
目立ちたくなきゃ覆面でも被っているしかないようなとんでもない美女のくせして、智美さんは地味な生活を送るのが好きだ。人付き合いが苦手で男っ気がなく、趣味はなんと読書。たぶん平日は会社に行って黙々と仕事をして、真っ直ぐ家に帰り、休日は家でおとなしく本を読んで過ごしているのだろう。そういう生活を送るなら何もこんな美人じゃなくたっていいわけで、資源の無駄遣いも甚だしい。
『さよならの代わりに』 2004.3.25. 貫井徳郎 幻冬舎
2004年04月18日(日) |
『高く遠く空へ歌ううた』 小路幸也 |
これで10人目・・・。ギーガンはまた死体を発見してしまう。春合宿(ビギンニングウィーク)で同室となった中等部三年生の柊さんに迷惑をかけると告白しつつ、合宿を抜け出すことにする。サボリは同室も同罪で罰則。3歳も年上の柊さんはさらりと「じゃあ、僕も一緒にサボるよ」と。ギーガンは能面のように無表情な少年だが、人を惹きつける不思議ななにかがあるらしい。柊さんをはじめたくさんのユニークな仲間達に囲まれ、ギーガンは自分の数奇な宿命と向き合うことになる・・・。
クスン。前作『空を見上げる古い歌を口ずさむ』でもぽろぽろ泣けたのですが、今回もさらにさらに泣けました〜。思えば、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』を本屋さんで見かけるたびに不思議な誘惑に囚われ手にしたのでした。それはひとえに装丁を手がけておられる荒井良二さんのイラストがタイトルに合っていたからに他なりません。ですから読むまでは内容にはそんなに期待していなかったのです。でも装丁を裏切らない内容のよさで私はすっかり小路幸也さんファンに! 今回の『高く遠く空に歌ううた』を首を長ぁ〜くして待ちわびていたと言っても過言ではありません。 今回の物語は、まったく違う物語になるのかなと思っていましたが、きっちりパルプタウンの流れを受け継いでいました。心の奥深く仕舞いこまれた風景が甦ってくる。なつかしい遠い昔をやさしくほろ苦く思い出してしまう。小路さんの物語に登場する人物たちはニックネームで呼ばれます。それはちょっとだけ哀しいことだったりする。でもその哀しさを自覚している人は優しくなれる、小路さんはそれを繰り返し語ってくれます。 今、ちょっと心の揺れ幅が大きい私には、バイブルのような物語。優しくて暖かくて懐かしくて。大好きな人たちに「読んで」と言いたい。絶対に心に灯がともる。また生きていくことに希望が生まれる。こういう種類の本は少ないと思います。陽子、大絶賛。読んで。読んで。
「だからな、今までの悲しいことや辛いことは全部机の引きだしの奥にしまっておけ。そういうものが引きだしに一杯になって、いつかこぼれるかもしれないけど、それまで忘れていろ。そして未来にどんな自分がいるのかを、楽しみに生きろ。どんな将来を選ぶかを、楽しんで探せ。どんな道でも選べるのはお前たちガキの特権だ。余計なことは考えなくていい」
『高く遠く空へ歌ううた』 2004.4.8. 小路幸也 講談社
|