酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年05月09日(日) |
『五人姉妹』 菅浩江 |
「五人姉妹」 葉那子は父親の会社のために成長型人工臓器を埋め込まれた。葉那子の成長のために4人のクローンが用意される。父が亡くなった後、葉那子は4人の姉妹と面会するのだが・・・
菅浩江さんは本当にたまに手にするくらいの作家さんなのですが、読んだ後はいつも「うまいものだ」と唸らされてしまう。今回の『五人姉妹』はSF短編集。他にも良い物語はあったのですが、やはりこれが一番素晴らしかった。 バイオ企業の社長だった父親が社運をかけた新製品を法を破って娘に埋め込む。その娘になにかあったら取替えが効くように4人のクローンを用意する。年代を分けて。父親の野心と愛情の狭間で5人姉妹はそれぞれ思い悩み成長する。長女である葉那子が4人の姉妹達と面会し、喜び傷つき絶望する。憎んでも憎みきれない娘達の父への愛。こういうテーマを父娘愛で括るなんてうまいなー。
運命の重みは背負っている本人には判らず、周囲ばかりが、重そうだつらそうだ、と慮るのが常ですわ。
『五人姉妹』 2002.1.30. 菅浩江 早川書房
2004年05月08日(土) |
『二人道成寺』 近藤史恵 |
小菊は、女形役者の中村国蔵から友人の今泉を探偵として紹介して欲しいと頼まれる。国蔵が今泉に依頼したのは、女形役者のライバルと目されている岩井芙蓉の妻の事件のことだった。三ヶ月前、芙蓉の自宅が火事になり、芙蓉の妻・美咲が昏睡状態に陥ったまま。その火事の原因が芙蓉にあるのでは、と国蔵は考えているようだ。芙蓉と国蔵と美咲。三人の間にいったいなにが・・・。
深いです。近藤史恵さんの描く男と女。女と女。そして男と男。歌舞伎が好きだからこそ自然にこういう流れが生まれてくるのでしょうね。今回の目玉は芙蓉だと私は思います。だから、芙蓉の心が明確にされなかったことが(ある部分ではハッキリ提示されていますが)もどかしい。私の想像した芙蓉の思いの行方はあっているのかしら。巻末インタビューもいいけれど、も少しそこらを描いて欲しかったな。芸に身を投じる人間の業というか、すざまじいばかりの研究熱心さには背筋が寒くなりました。
現実はいつも、残酷で、そうして正直だ。
『二人道成寺』 2004.3.30. 近藤史恵 文藝春秋
2004年05月07日(金) |
『幽霊人命救助隊』 高野和明 |
天国へ行きそびれた自殺者4人が、神様の命令で人命救助をすることになる。ミッションは自殺しそうな人間を100人助けること! 八木剛造、短銃自殺。市川春男、服毒自殺。安西美晴、飛び降り自殺。高岡裕一、首吊り自殺。粗末にした命の償いをキッチリ果たせたら、4人は天国へ行けるのだ。7週間(49日)で100人のノルマを4人は達成できるのか?
ツボです。来ました。超オススメ本。やー、読んでよかったわー。さまざまな時代にそれぞれの事情で自殺した4人が、自殺しそうな人間を助けることによって、己の魂すら浄化していく感じ。たくさんの自殺志願者が世の中には溢れかえっている。でも生きなければならないんだと幽霊達が本気で自殺を悔やみ、食い止めようとする。時におもしろく、時にほろりと。いい物語ですよ。ほのぼの。
「人間ってのはな、自分の金太郎飴なんだ。どこを切っても自分よ。それ以外に何がある」
『幽霊人命救助隊』 2004.4.10. 高野和明 文藝春秋
2004年05月06日(木) |
映画『ホーンテッド・マンション』 |
ジムは不動産の仕事に乗りに乗っていた。家を得意のトークで売りまくる。しかし、そのせいで家族はいつもないがしろ。美しい妻サラとの結婚記念日も仕事を優先し、すっぽかしてしまう。高級時計でサラの怒りを鎮めようとするが、サラは許せない。そしてつい週末家族旅行を約束するのだが、家族を連れて優良物件を見に遠回りしてしまう。その屋敷は美しくおぞましく呪われていた・・・。呪いをとかない限り、ジムのしあわせは失われてしまう!?
アハハ。面白かったですよー。超豪華な映画によるアトラクションって感じですね。ディズニーランドの人気アトラクションを題材に作った映画。さすがにディズニーはやることにソツがない。抜け目が無い(笑)。テーマは《愛》ってとこもディズニーらしい。 エディ・マーフィー演ずるジムの奮闘振りがすっごくおかしかったです。どんな映画であろうと、エディ・マーフィらしさは失われない。喋る。喋る。ネタバレになるので書きませんが、さまざまなゴーストたちも愉快でした。ホラー・ラブコメディですね。ふふふ。
2004年05月05日(水) |
『いつか、ふたりは二匹』 西澤保彦 |
智己は小学校6年生になったばかり。特技(?)は、ある猫にのりうつれること! 眠っている間に美人の猫(♀)になっていて夢かと思っていたが、そうではないことに気付く。そして智己の周りに起こる小学生の女の子を狙った陰湿な事件に遭遇。猫のジェニイ(自分で命名)となった智己は、セントバーナードのピーターと事件解明に乗り出すのだが・・・。
あぁ、これもいいですわ。読んだ後にほろほろ泣いてしまいました。まず男の子が猫にのりうつれちゃうという設定がいい。ミステリーランド万歳って感じ。後は登場人物の妙ですね。西澤先生らしいと言えば、らしい登場人物かもしれないけれど、暖かくてすごーくすごーくいい! 子供たちに生と死を考えてもらうためにも読ませてあげたいな。
(人間も、そして犬や猫などの動物も、いつかは必ず死ぬ。わたしたちは、愛するひとたちとも、そうでないひとたちとも、いずれはお別れをしなければならない。いつかはみんな、ひとりになってしまうんだ。わざわざ他者を傷つけたり、殺したりしようとするやつは、そんな単純で、揺るぎない真理を、まったく判ろうとはしないんだね。)
『いつか、ふたりは二匹』 西澤保彦
2004年05月04日(火) |
『駆けてきた少女』 東直己 |
「このオヤジ、殺して」・・・そして《俺》は刺されたんだ。まとわりつく男から助けてあげようとしただけなのに。《俺》は脂肪のおかげで助かった。あっと言う間に笑い話として駆け巡る噂。脂肪で助かった《俺》・・・カッコ悪い。見舞いに来た霊能者のオバちゃんの強引な泣き落としで、オバちゃんちに出入りする不気味な少女カシワギの身辺調査を引き受けた。退院した《俺》は、《俺》を刺した男とカシワギの調査をすすめるうちに、謎のライター《居残正一郎》とかかわることになり、思いがけず腐敗する道警と札幌の夜の闇のイベントに巻き込まれていくのだが・・・。
東直己さんのススキノ探偵シリーズ第7弾です。この主人公《俺》さんがいいんですよね。駄洒落親父だけど(苦笑)。ただ今回のラストのいきなりな纏めようはいったいぜんたいどうしちゃったんでしょう? そこに行くまでが最高にスリリングだったのに、あっけない纏めと落とし。納得いかなかったなぁ。最後まで丁寧に描ききって欲しかった。散りばめられた様々なテーマは面白いんですよー。なんだか悔しいなぁ。むー(怒)
「俺は、君の代わりに眠ることもできないし、君の代わりにメシを食うこともできないんだ。眠たいなら、眠ればいい。腹が減ったら、食えばいい。他人には、そこらへんのことは、どうしようもないことだ」
『駆けてきた少女』 2004.4.15. 東直己 早川書房
2004年05月03日(月) |
映画『完全犯罪クラブ』 |
ハイスクールの人気者リチャード。金持ちで男前のスポーツマン。友達のいない孤独でオタクな天才ジャスティン。学校ではまったく接触しないふたりが、断崖に聳え立つ廃墟で密会していた。ふたりは「究極の自由」を手に入れようと完全犯罪を目論んでいた。そして発生する殺人事件。過去に傷を持つ一匹狼の女性捜査官キャシーは彼らにどう対するのか?
タイトルがいいし、期待して観た割には肩透かしを喰らってしまった気分。ヒロインのサンドラ・ブロックが好みの女性ではないからかもしれない(笑)。 リアルワールドで時代に関係なく想像を越えた犯罪が起こる。それを解明しようとしても犯人の心の闇に到達できない限り(もしくは同化できない限り)どうしてそんなことが起こったかなんてわからない。 この映画は、ちょっと優れたふたりの少年がいい気になって世界を動かしてみようとしているみたい。遊び心的犯罪なんて題材としても目新しいとは思えない。私が惹き付けられる悪とか犯罪というのは、どうにも理解しえない種類のものなのかもしれないなぁ。
2004年05月02日(日) |
『犬飼い』 浅永マキ |
糺(ただし)は、電話番号の記されていないアルバイト募集に興味を惹かれ、昔懐かしいのどかな田舎にやってきた。勤め先は、井向(いむかい)家。そこは村人から守り神と呼ばれているらしい。井向家には少女の風貌をした弥勒。その妹の美しい夏央吏(かおり)。執事の修江。当主の車椅子の女性がいた。糺は井向家のしきたりや秘密にどんどんど踏み込み、迷い込んでいくのだが・・・。
うーん。題材がそこそこに横溝チックなのだから、こういう伝奇ポルノで終らなければよかったのに。なんだかもったいない気がしました。糺が巻き込まれる非現実的な淫靡な世界だけって言うのがどうも食傷してしまう。姉や当主や地下牢の存在をもっと書いて欲しかったな。
「ちっとも、めでたし、めでたしで終るお話なんかじゃないわ。あたしなら、王子様のキスもいらない。百年後の目覚めもいらない。いっそ世界が終るまで、体が朽ち果ててしまうまで、ずっと眠り続けて、死んでいけるほうがいいな」
『犬飼い』 2004.3.30. 浅永マキ 学習研究社
2004年04月29日(木) |
『鬼神伝 神の巻』 高田崇史 |
あれから半年。天童純はタイムスリップさせられた平安時代のことに思いを寄せていた。「人」と「鬼」の確執。それは純が知っていると思っていた史実とはまったくかけ離れていた。鬼の娘、水葉はどうしているだろう。そんなことをつらつら考えていた純はまたしても平安時代に呼び寄せられてしまう。そこでの純の役目は? そして純が知る真実は?
これは本当に子供たちに読ませてあげたい。とてもいい物語で私は目頭が熱くなりました。純も水葉もいい子だなぁ。 どうして鬼は桃太郎に退治されなければならなかったか? この解明がこう落とされるとは脱帽でした。天童純の正体もうまいこと考えられていて吃驚。まさかアナグラムになっているとは思わなかった。純が自分の命よりたいせつなものに気付いた時、純は少年からおとなになったのですね・・・。いい男になるだろうなぁ。 鬼の巻と神の巻をあわせて再読しようと思います。ミステリー・リーグにふさわしい物語でした。超オススメv
「おい、おまえ。もう遊んでやれなくなっちゃうかもしれないけれど、ひとりでもしっかりやれよな!」
『鬼神伝 神の巻』 2004.4.27. 高田崇史 講談社
ヨナタンは船長を義父に持つ少年。やんちゃでいたずらなヨナタンはいつも学校を追い出されてしまう。今回はライプチヒにある聖トーマス校の寄宿舎へ。空港で忘れ去られた犬を連れて行く。通学生と寄宿舎生の対立があるものの、ヨナタンはルームメイトと打ち解けていく。理解ある教師ベクに見守られ、ヨナタンと仲間達は友情の大切さを身をもって知るのだった・・・。
素晴らしい! どうしても観たかった映画でしたが、見逃さないで本当に本当に良かった。私の大事な人たちにもチャンスがあれば是非観てほしい映画です。 原作はドイツのエーリヒ・ケストナー。この原作を読んだことのある人も多いことでしょう。70年くらい前に生まれた作品の映画化、しかも現代風アレンジと言うことで内容も多少は変わっています。でも決して原作の持つ良さを損なっていなかったと思います。 テーマはずばり友情です。少年同士の友情。少年と少女の友情。少年達と先輩の友情。少年たちと大人の友情。そして大人と大人の失われかけた友情・・・。どこを切っても人と人の絆の素晴らしさが描かれています。異端児ヨナタンが出会った心優しき少年達との交流は見ていて微笑ましい。ヨナタンたちのよき理解者ベクのかつての親友との再会シーンには滂沱。 子供にも悲しみがある。それは大人の悲しみ以上に大きい。
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