酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年05月19日(水) |
『三途BAR』 明野照葉 |
和実は渉が死んでから生ける屍と化していた。なにをする気力も湧かず、アルコールにすがる日々。しかし、友人の堀江からのアプローチで仕事に復帰し、祝勝会へ。三軒目に流れ着いた飲み屋は《三途BAR》という風変わりな店だった。その店は生者と死者が交じり合うBARだった。そして和実は・・・
明野照葉さんの物語でタイトルがタイトルだけに覚悟して読みましたが、参っちゃった。ノックアウト〜。私も三途BARに呑みに行きたいよ・・・。 大切な人を失う辛さを経験した人が読むと、かなーり心にずっしり迫ってきます。いいとか悪いとかでなく、明野さんとんでもないもの書かれたものですわ。降参。
酒に溺れることで、目の前の現実から逃げていた
『三途BAR』 明野照葉
2004年05月18日(火) |
WOWOW『妄想代理人』#13 今敏(こんさとし) |
#13「最終回。」 現実から逃げてしまった猪狩のいる昭和の古きよき時代に月子が逃げ込んでくる。まるで父娘の様に時間をゆるりと過ごす猪狩と月子。しかし、街頭テレビに馬庭からのメッセージが流れ込む。そして突如現れた妻の美佐江。そして猪狩は気付くのだった。居場所がない場所でもそれこそが自分の現実に生きる場所であると。ついに対決する猪狩と月子。マロミと少年バットの正体は・・・
きっちり《妄想》で締め括られました。さまざまなエピソードの謎が謎のままなところがもどかしいと言うか、ウマイと言うか。ラストのラストをあぁ落とすとは参ったなぁ。うまかったなぁ。でもやはりより詳しいものを求めてしまう。どうかあの謎たちを解明して〜(泣)
2004年05月17日(月) |
『もっと、わたしを』 平安寿子 |
「愛はちょっとだけ」 絵真は美しい。男心をそそる美貌を持っている。しかし彼女にはその美貌ゆえに親友と喧嘩別れした苦い経験があった。ある日、絵真はそのかつての親友に再会するのだが・・・
美しい人には美しい人なりの苦労や悩みがあるものだなぁと思います。でも、やはりかつての親友・麻衣子が指摘するように美しいだけで得をするのも事実。結局、どんなに美しくてもその内面が同じくらい磨かれないとダメなのではないかしら。 この『もっと、わたしを』は不器用なおとなの男女の恋愛短篇集です。物語の登場人物がリンクしていて面白いです。誰も皆なにかに悩み傷つき、そしてやっぱり少しだけ頑張って生きているんだなぁと言う感じです。
「つらいことがあったみたいだけど、我慢するんだよ。人生はつらくて当たり前だからね。だから、うちらみたいな商売があるんだ。でも、やけ酒はゆっくりおやり。眠れるくらいでやめとくんだよ。二日酔いなんかしたら、嫌な一日いつまでも引きずるのと同じだもの。お酒がもったいない。つらいことをごまかしごまかし生きてける程度に酔うために、お酒はあるんだから」
『もっと、わたしを』 2004.1.30. 平安寿子 幻冬舎
2004年05月16日(日) |
『声だけが耳に残る』 山崎マキコ |
加奈子は無職で引きこもり。父親の母親に対する暴力を目の当たりにし、精神のバランスが崩れてしまったことに気付かず生きてきた。ネットで知り合った邪悪閣下にMとして調教されていたが、バイトとして便利屋で働き始め、自分と向き合い始める・・・
機能不全家族で育った人間はAC(アダルトチルドレン)となりやすい。加奈子はひたすら自分を虐めようとする。痛々しいまでに。しかし自分が求めていたものに気付いた時、加奈子が加奈子として覚醒をする。 痛い痛い物語でしたよ。現実に起こった事件なども散りばめられていて。でも文章のテンポが良くて、加奈子の心の声が意外に明るくユーモアがあるため読み進めることができました。 この物語のテーマはとても重いもので気軽に感想なんて書けないです。基本的に私は自分の不遇や何もできないことを親のせいにするタイプは受け付けませんし、20歳過ぎたら全ては己の責任と考えています。しかし、暴力(虐待)で歪められた心に対してはそういうふうに言えませんね。
不幸な出来事を人生の災難と思うか、自分を育てるための石段だと受け止めるかで、人間の大きさは違ってくるんだ
『声だけが耳に残る』 2004.2.25. 山崎マキコ 中央公論新社
2004年05月15日(土) |
『禁じられた楽園』 恩田陸 |
天才カリスマ烏山響一。禍々しく凶暴な芸術で人々を魅了している。大学で不幸にも響一の目に留まってしまった捷(さとし)は、彼と彼の叔父の創り上げたプライベート・ミュージアムへ招待される。そこで彫刻家として注目されている律子とともに捷が体験する《恐怖》とは・・・
素晴らしい! 私の陸ちゃんを大好きゾーンどまんなか!な物語です。ひゃー、参っちゃった。読んでいると故・遠藤周作さんの描いた作品の中の悪魔達をふいっと思い出しました。そして読了後、その感覚はそうはずれていなかったなと思いました。エンディングは遠藤さんのソレとはまったく違う方向に置かれていましたけど。 うまいなぁ。素敵だなぁ。ただのホラーじゃないものなぁ。この烏山響一は、『三月は深き紅の淵を』の「出雲夜想曲」にちらりと登場します。あの物語の中で好きなキャラの朱音がキライだと言い切る絵の作者として。そのシーンが妙に心にひっかかっていたのですが、見事に恐怖の大王として(笑)今回登場してくださいました。笑った。笑った。 今回、物語のテーマ“恐怖”も良かったし、久々に最強キャラが登場したことが嬉しい。捷のねぇちゃん(笑)の香織です。この女素晴らしい。全てをさっぱりひっくり返す。そうあの西澤保彦さんの生み出したタカチに匹敵する。いやぁ、美しきヒロインたち。涎〜。
造り出すモノがなんであれ、その作品には作者の内面が現れる。
『禁じられた楽園』 2004.4.30. 恩田陸 徳間書店
2004年05月14日(金) |
『魔法飛行』 加納朋子 |
駒子は、ひょんなことから知り合った(と言っていいかどうか疑問だが)大好きな童話作家・佐伯綾乃さんの弟の瀬尾さんにぽろりと言葉をこぼす。「私も、物語を書いてみようかな」と。そして駒子は書き始めるのだった。短大で出会ったいくつもの名前を持つ女性との不思議な出会いから・・・。
『ななつのこ』の駒子シリーズ第二弾です。今回もまた駒子の遭遇する事件や人との関わりに、《今度は》佐伯綾乃さんの弟さんが名推理を展開します(笑)。日常にふとどうしてだろう?と思った小さな謎が積み重なり、今回も駒子ならではの宇宙が形成されます。今回は特に駒子と瀬尾さんの往復書簡の後に届く不気味な手紙が異彩を放っています。これもまた駒子の今回の宇宙を構成する一つだと気付く時には唸ってますよ、きっと。悶々としただけ余計にねv 私が一番好きな物語は「クロス・ロード」です。情景が浮かぶんですよね・・・。
死んだ人間を蘇らせるのは、いつだって生きた人間なんだってことだ。
『魔法飛行』 2000.2.25. 加納朋子 東京推理文庫
2004年05月13日(木) |
『ななつのこ』 加納朋子 |
女子短大生・駒子が日常で巡りあったひそやかな謎たちを、大好きな童話作家の佐伯綾乃さんへファンレターとして送り続ける。それに対して綾乃さんが名推理を返信してきてくださる・・・
こう書くと、きっと北村薫さんの永遠の名作《私》シリーズを彷彿させる方が多いことでしょう。いい意味で似通っているとも言えますし、まったく非なるものとも言えます。・・・なぁーんて訳のわからない感想ですね。えへへ。 加納朋子さんのデビュー作。この暖かで優しき物語を紡ぎだす加納朋子さん。文は人なり(お目にかかったことはありませんが)、そう思います。この『ななつのこ』のエピソードの中で一番好きなのは駒子と少女・真雪とのかかわりです。このふたりの間に通い合う暖かな情感がなんとも言えず微笑ましい。最後の種明かしはうまいなぁと何度読んでも思います〜。大好き。
厭になるくらい、私は未熟だ。しかも未熟さを理由に大目に見てもらえる時代は、そろそろ頭の上を通り過ぎようとしている。これでもいつの日か、こんな自分を愛おしく振り返る時がやってくるのだろうか。
『ななつのこ』 1992.9.25. 加納朋子 東京創元社
2004年05月12日(水) |
WOWOW『妄想代理人』#11、#12 今敏(こんさとし) |
#11「進入禁止」 少年バット事件捜査の失敗で刑事を辞めた猪狩。妻の美佐江葉は身体が弱く、手術が必要と言われている。猪狩に負い目を感じている美佐江は少年バットを呼び寄せてしまう。しかし少年バットに語るうちに美佐江は悟る。「人間はどんなに辛くてもその現実に立ち向かうことができる」と。しかし、その頃、猪狩は自分の居場所を見失っていた・・・
#12「レーダーマン」 猪狩の元部下の馬庭は、美佐江から「偽りの安らぎを与えるマロミと少年バットは同じ…」と教えられる。やはり事件の根っこは鷺月子にあると確信する馬庭は、月子の父親に会いに行く。そこで知らされた月子の過去とは・・・。そして月子の周りでまたもや殺人事件発生!
うわー、いよいよ次が「最終回。」ですよ。タイトルが「最終回。」・・・笑えます。鍵は月子とマロミが握ったままだったってわけだなぁ。 さて・・・
2004年05月11日(火) |
『転校生』 森真沙子 |
「理化室 少年は虹を渡る」 有本咲子(えみこ)は転校先で化学部の幽霊部員になる。転校先で友達もできない咲子は“伝言ダイヤル”の転校生マジメサークルTENにはまる。そこの人気者カンパルネルラにほのかな想いを寄せるのだが、彼の正体は・・・
「美術室 樹下遊楽図屏風」 美術部に所属する咲子の前に美しい転校生が現れた。室生環。水際立った美しき異邦人。彼女と伝説の屏風の再現をすることになり、のめりこんでいくふたり。そして事件は起こった・・・。
「音楽室 みんな集まってくるよ」 瀬戸内海を眺める学校に転校した咲子は、ピアノで音楽祭に出場することになってしまう。ある日、ふとした偶然から見つけた楽譜にインスピレーションを得、歌詞をつけ歌うのだが、その曲には恐ろしい過去の出来事が封じ込められていた!
「図書室 墜ちる鳩」 松江の高校に転校した咲子は、図書室で借りる本のカードに必ず見つける名前があった。よほど物好きでない限り、手にしないだろうという本にまで。その人の名前は黒崎薫。彼は美しい少年だったらしいのだが・・・
「寄宿舎 女友だち」 高校三年生の二学期になって、咲子は寄宿舎のある学校へ転校した。皇夕子という美しい上級生(大学生)に憧れる。しかし、彼女の周りには不可解な事件が・・・
森真沙子さんのホラー短編集を久しぶりに読み返しました。転校生という存在の神秘さをうまく使っているな、と思います。学園ホラーって好きだなぁ。 中でも「図書室」は松江が舞台。やはり、かの小泉八雲の存在は作家さんたちにさまざまな影響を与えるのでしょうね。あの土地は確かになにかが違う。 しかし、9年も前の作品だと時代設定が今とはまったく変化してる。あの頃は伝言ダイヤル時代だったんだ。
『転校生』 1995.7.24. 森真沙子 角川ホラー文庫
2004年05月10日(月) |
『不運な女神』 唯川恵 |
「枇杷」 ああ、今年もまたその季節がやってきた。佳奈子は届けられた枇杷を見てしみじみ感じた。女のもとへ出て行った夫の叔母からだった。夫は食べないが、娘と毎年美味しくいただいていた。不倫で略奪愛だった。なのに今度は自分が奪われようとしている。そしてその枇杷の送り主は実は・・・
この『不運な女神』は、タイトルどおり不運な女たちの物語。中でもこの「枇杷」はとても考えさせられた展開です。‘そういう’女たちに生まれるなにかって果たしてあるのだろうか? 私にはわからない・・・。
「もう意地を張るのも疲れたわ」
『不運な女神』 2004.3.1. 唯川恵 文藝春秋
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