酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年06月12日(土) |
『ビッグゲーム』 岡嶋二人 |
プロ野球球団新日本アトラスは、《オフクロ》(コンピューター)を駆使し、データ野球で優勝を狙っている。情報収集合戦の繰り広げられる試合中にアトラスの覗き部屋(情報管理室)のスタッフ沼部が転落死した。そして連続して起きる不審な殺人事件・・・?
この物語は昭和60年に出版されているのですね。コンピューターで管理するデータ野球。今でこそ新鮮ではありませんが、きっと当時は衝撃だっただろうなぁ。プロ野球を愛する人ならば、今でも楽しく読めること請合います。面白い。 しかしながら、ふたりの才能をうまく合作させるって並大抵ではないでしょうにねぇ。感心しちゃう。
野球はゲームです。試合に勝とうが負けようが、優勝の行方がどうなろうが、それが人の命を左右していいはずはない。
『ビッグゲーム』 1988.10.15. 岡嶋二人 講談社文庫
2004年06月11日(金) |
『ハッとしてトリック!』 鯨統一郎 |
サッカー選手の安東が、奇妙な死に方をした。現場に居合わせた週刊誌記者の黒木典江は、先輩の犬飼大志郎と取材に当たる。安東の周囲を探るうちに、自殺ではなく他殺だと確信する。そして第二の殺人事件が・・・
鯨統一郎さんの作品は、自分的には大きく当たり外れがあります。外れと言っても、それなりに面白いし、楽しめます。ただどうにも「やっつけ仕事」みたいに読めてしまうのです。今回のこの作品も敬遠していたのですが、高瀬千穂の名前が登場するという情報から読みました。そのためだけに読んだようなもの。感想は、「うー、いろんな要素が盛り込まれている火曜サスペンスドラマみたい」です。表紙の黒木典江を思い浮かべて読み進めることをオススメします。
たしかに、たとえば高瀬千穂っていう人のニックネームがタカチだった場合、地の文で“タカチは”って表記してもいいわけですもんね
『ハッとしてトリック!』 2004.4.25. 鯨統一郎 中央公論社
2004年06月10日(木) |
『スペース』 加納朋子 |
駒子は、瀬尾さんに妙な瞬間にしょっぴかれ(?)、見逃してもらう別れ際に叫んだ。また読んでいただきたい手紙がある、と。そして駒子が瀬尾さんに送った手紙とは、駒ちゃんからはるちゃんへのたくさんの手紙の束だった。その手紙の中に隠されていた謎とは・・・。
この物語は、『ななつのこ』『魔法飛行』に続く、駒子シリーズ第三作。珍しく《はじめに》で加納さん御自身からできれば前の作品を読んで欲しいと書かれています。この言葉の意味が読み終わった後にわかります。前の作品を踏まえて読めば面白さ倍増v 「スペース」と「バック・スペース」と物語がリバーシブルになっていて、「バック・スペース」を読んで「やられたぁ〜」と手をあげました。降参です。うまいなぁ。そして私は「バック・スペース」の方が好きです。ぞくぞくするラストなので。人は自分の居場所を探しているものだよなぁと思います。なにを書いてもネタバレしそうなのでこの辺りでやめておきます。三作まとめてオススメ。
生きていればきっと、逃げ出すよりほかに道がないときだってある。遮二無二突進していって、その結果無残に激突するよりは、回れ右して逃げ出す方がずっといい。 一度打ち込んだ文字を、バックスペースキーでなかったことにしたっていいじゃないか? 少しぐらい、後戻りしたっていい。やり直したっていい。まったく別な、新たな文字を打ち込むことだってできる。 そう思っていた方が、人生どんなにかラクだろう。
『スペース』 2004.5.28. 加納朋子 東京創元社
2004年06月09日(水) |
舞台『HEDWIG AND THE ANGRY INCH』 主演:三上博史 |
まだ東と西に壁があった頃、東ドイツの少年ハンセルは、アメリカ兵ルーサーに出会う。彼に求婚され、壁を越えるために性転換手術を受ける。しかし、手術ミスで股間に1インチのペニスが残ってしまう(=アングリー・インチ)。母の名ヘドウィグを名乗り、ロックスターを夢見るハンセル。ある日、17歳の少年トミーに恋をする。ロックを教え、愛を育む二人だったが、トミーはアングリー・インチを見て逃げ出してしまう。しかも、ふたりで作った歌でトミーだけがロックスターに登りつめていくのだった・・・
大好きな役者さんを生で見ることが出来る。しかも、その役者さんが好きそうな、その役者さんならではの演目で。こういうチャンスをつかめたら幸運。 三上博史さんという役者さんは、独特の役を演じるがゆえに好きでした。昔から熱烈に。その彼が、おそらくは惚れこんで演じているであろう《性転換手術に失敗したロックスターを夢見る男?女?》とあれば、間違いはありません。のっけからノリノリの三上さんのパワーと歌声の素晴らしさは日常をアッサリ消し去ってくれました。ほぼ三上さんの一人芝居(ロック・ミュージカル)でした。 ヘドウィックが「正面から私を愛して」と叫ぶシーンは涙が出ました。エロチックで哀しくて最高に素晴らしい舞台だった。 アンコールに何度も答えて照れくさそうに出てきてくれる三上さんに今まで以上にめろめろです。あぁ、も一回観たい・・・。
2004年06月08日(火) |
『ネグレクト』 海野真凛 |
麻里子は大学生になり、プレイ・ボーイのボンボンにひっかけられる。初心な麻里子は周囲の心配をよそに初めての恋愛に夢中。そして妊娠。はじめから遊びだった男の態度は醜く豹変し、麻里子は捨てられる。呆然とする麻里子はひとりで娘を出産。愛した男にそっくりな娘・愛を麻里子はだんだんと疎むようになり・・・
NEGLECTとは、‘顧みない’とか‘無視する’という意味ですよね。高校時代に覚えました。この英単語がまさか虐待用語として有名になるなんて。 私は子供を産まなかったので、子育てについてとやかく言う資格を持ちません。だけど与えられた母からの愛情の大きさはこの身いっぱいに受けて育ったので、母親に子供への愛がない状態というものを理解しがたいのです。時に怒られても、その根底にある愛を疑ったことなんてありませんでした。 この物語の主人公・麻里子は変な男に躓き、そのまま人生で起き上がることができなかった・・・。その皺よせが娘・愛に向ってしまったのは不幸の連鎖。その生い立ちゆえに愛が巻き込まれる事件も断ち切れなかった連鎖の続き。 興味あるテーマなので読みましたが、心がぎしぎしするような痛みを感じました。
『ネグレクト』 2002.6.15. 海野真凛 文芸社
2004年06月07日(月) |
『博士の愛した数式』 小川洋子 |
1992年、私はあけぼの家政婦紹介組合から派遣された家で《博士》と出逢う。不幸な事故のために記憶する機能を喪失した天才数学者。博士は私の10歳の息子を《ルート》と呼んだ。息子の頭のてっぺんがルート記号のように平らだったから。私は博士とルートと過ごしたあの美しい日々を・・・
小川洋子さんは岡山の方。なのに何故か今日まで一作も拝読していませんでした。『博士の愛した数式』も友人から送ってもらわなければ読まずにいたでしょう。人生には知らずに読まずにいてはいけない本が存在する。まさしくこの物語はそういう一冊。この美しい魂の物語を読ませてくれてありがとう。 数字と1992年の優勝を逃した阪神タイガース。そのふたつの要素をこんなにうまく融和させるなんてすごいです。阪神ファンは特に必読。必ずデス。
「理由は神様の手帳にだけ書いてある」
『博士の愛した数式』 2003.8.30. 小川洋子 新潮社
「まゆみのマーチ」 幸司は、危篤状態の母のもとへ駆けつける。病室にすぐに行けず、ロビーにいると妹のまゆみが近づいてきた。幸司は、まゆみに心になにか重いものを抱えて生きてきた。小学六年生の時、児童会長として在校生の挨拶をすることになっていた。そこへ入学してきたまゆみはいつもいつも歌をうたわずにはいられない少女だった。動揺した幸司の挨拶はさんざんなものになってしまった。少しも静かにしていられないまゆみは異端視される。歌を禁じられ、マスクをさせられたまゆみは口の周りが腫れあがってしまう。そしてついに心が壊れた。そんなまゆみを叱ることなく、母は『まゆみのマーチ』を歌い続けたのだった・・・
嗚咽。読みながら最後は文章が涙で滲んでしまいました。母親の愛って本当に海よりも山よりも宇宙よりも・・・なににも比類できないくらい大きなものなのだなぁ。 この物語の主人公・幸司は今ひとり息子の引きこもりに対峙しています。母の死に面し、かつて変わり者ゆえに自分に被害を与え続けた妹まゆみから母がその時どうんなふうに接したかを聞き、なにかを得ます。そして自分の息子に対する自分の態度が見えてきます。 重松清さんと言うのは、切っても切っても金太郎飴な物語作りをする方ですが、これは久々に脳天をぐしゃっと握られた感じでした。切っても切っても金太郎飴だけど、金太郎の表情が違ってるんですね・・・。 親が子を無条件に愛し、慈しむ。その貴さに感動。
「一歩ずつでいいから、お父さんと一緒に外に出よう」
『卒業』 2004.2.20. 重松清 新潮社
2004年06月05日(土) |
『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』 獄本野ばら |
ダメ親父のバッタもん商売が失敗。兵庫県尼崎から茨城県下妻へ逃げだすダメ親父と桃子。見渡す限り田園風景。そこに佇む桃子はロリータファッションばりばりだった! どんなに周囲から浮きまくろうと自分の信念をまげずロリータまっしぐらな桃子。ある日、お洋服を買うお金ほしさに父親のバッタモンに手を出す。そのバッタモンに喰らいついてきたのは、ヤンキーのイチゴだった。ロリロリひらひらな桃子と今時ヤンキー根性一直線のイチゴ。まったく接点がないふたりの間にいつしか奇妙な心の交流が生まれ・・・
面白かった! 獄本野ばらさんの物語ははじめて読ませていただきましたが、こういうノリの物語を書かれるのですねぇ。これは映画化されるはずです。テンポが良くてくだらないギャグに笑える。かなりオススメです。 しかし、マイペースな桃子に深田恭子ってぴったりだなぁ。小説の桃子はもう少し小さくて華奢な感じですが、ものの語り方がフカキャンにぴったりだと思います。映画も観にいきたくなってしまいました。
心の痛みを紛らわす安易な手段を覚えてしまったら、きっと人は何か大切なものを損なってしまうのです。
『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』 2002.10.10. 獄本野ばら 小学館
2004年06月04日(金) |
『空色勾玉』 荻原規子 |
狭也(さや)は、悪夢に悩まされていた。夢の中ではいつも六つ。五体の鬼に追われている・・・。15歳になった今、養父母のもと幸せに暮らしているはずなのに。ある日、男女の恋を謳歌する祭りの夜に、狭也はたくさんの男友達から求愛される。そこで悪夢の鬼たちが現実に現れる。そして狭也は闇御津波(くらみつは)の大御神に仕える一族、水の乙女だと知らされる。自分の出自にとまどう狭也は、祭りに紛れ込んできた輝の大御神の月代王(つきしろのおおきみ)に見初められ、闇の者である狭也が、光の王に恋をするのだが・・・
壮大なスケールのファンタジーなので、うまいこと要約できません。手におえません。すごかったー。昨日の夜に一気に読んでしまいました。この世のはじまりとか光と闇の闘いとか勾玉とか、私の好きな要素がぎっしり。児童文学なんて括りにいれちゃいかんですよ、これは。かなりオススメの古代日本ファンタジーです。次を早く読みたい。
あの女の子がいつまでたってもたどり着くことのできなかった場所とは、あたし自身だったのかもしれないわ
『空色勾玉』 1996.7.31. 荻原規子 徳間書店
2004年06月03日(木) |
『誰か』 宮部みゆき |
杉村三郎は逆玉の輿。財閥令嬢(訳あり)菜穂子と恋愛無理矢理結婚。周囲の妬み嫉みもなんのその、愛する菜穂子と一人娘・桃子との生活を何よりも誰よりも大切に慈しんで生きている。義父の大会社の広報室で働いているのだが(義父命令)、その義父から断れるわけもない頼みごとをされる。義父の運転手をしていた故・梶田さんの娘さんたちに会って梶田さんの思い出本を作る手伝いをしてやって欲しいと言う。梶田さんの娘はふたり。聡美と梨子。年齢も離れ、性格も対照的。そして杉村は、梶田さんの人生を辿りはじめるのだが・・・。
まったく宮部みゆきと言う人は底知れない。ただ甘甘の物語ではなく、人間ならではのいやらしさがピリリと効いていて、ものすごくせつなくなる。救いは杉村夫妻のラブラブっぷり(笑)。あんな夫婦っていいわーv 人は誰しも清廉潔白に生きていられないと思う。万が一にも私が死んだ後、自分の人生を辿られたら恥ずかしいなぁ。あんなことや、こんなことや・・・ハッ!そんなこともっ!! ダメだ。妙な死に方をしてもそのまま死なせてください。 残された人間の思いも痛いほどわかります。亡くなった旦那のこともっと知りたかったことありました。でも、きっと知らないままでいた方がいいのではないか、今ではそう思うようになりました。きっと私の知らない彼の人生を私が侵すべきじゃない。そして知ることが怖いのかもしれない。だってもうこの世にいない人なのだから。
「こんな素晴らしい才能の持ち主でも、寿命が尽きれば死ななくてはならない。神様は、そういう点でだけ厳密に公平なのね。そんなの、かえって残酷な気がするわ」
『誰か』 2993.11.25. 宮部みゆき 実業之日本社
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