酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年08月08日(日) |
『QED 〜ventus〜 鎌倉の闇』 高田崇史 |
妹・沙織の策略(?)で、タタルと鎌倉散策を楽しむことになった奈々。沙織は、タタルの薀蓄から仕事に活かせるネタを盗もうと思っていたのだが、タタルが説いた‘本当の鎌倉’とは・・・。
いいくにつくろう鎌倉幕府。私のなんとなく知っている鎌倉幕府時代のイメージが、タタルくんの薀蓄によりことごとく撃破されてしまいました(笑)。歴史って見る角度からこんなにも違った表情を見せるのだと感服します。参っちゃったなぁ。しかし、鎌倉麦酒を呑みたいなぁ。それが一番の感想かも・・・。 春に高田崇史さんが岡山に取材にいらしたのですが、次のQEDは舞台が岡山になります。そのネタふりも物語の最後でキッチリされていました。あの楽しかった珍道中がどんなふうにタタルくんに撃破されるのか(笑)今からものすごーく楽しみなのでありますv わくわく。
歴史たちは、いつも私たちの目の前にいる。物も言わずに、ただじっと腰を下ろして。こちらが問いかけるまで、彼らは口を開いてはくれない。だから自分たちから行動を起こさなくてはいけないのだ。そうすれば彼らは、思ってもみなかったような豊饒な時を目の前に広げてくれるー。
『QED 〜ventus〜 鎌倉の闇』 2004.8.5. 高田崇史 講談社ノベルス
2004年08月07日(土) |
『ネバーランド』 恩田陸 |
松籟館(しょうらいかん)は男子校の寮。古くて歴史的な建物。冬休みに事情があって帰省しない(できない)菱川美国・篠原寛司・依田光浩。そして寮生ではないが何かと寮に入り浸っている瀬戸統。4人は閉鎖された空間を共有するうちに反発しあいながらも、4人のリズムを作り上げていく。4人4様の悩みやトラウマをゲームを借りて吐露し、乗り越えていく・・・
『夜のピクニック』を読んだためか、どうしても読み返したくなってしまった『ネバーランド』。やっぱり陸ちゃんってばすごいですわ。久しぶりに読み返してもぐいぐい引きずり込まれてしまう。魔力だ(笑)。 冬休みの数日を4人とひとりの幽霊が過ごす。彼ら5人が抱えた悩みやトラウマが浮き彫りにされていく過程は、陸ちゃんマジック! 嘘をひとつ混ぜて語る告白ゲームは圧巻だったなぁ。 この物語の主人公は私的には光浩です。ドラマ化された光浩の訳ありの年上の相手は美しい女優さんだったけれど、物語では50過ぎのぶよぶよの厚化粧のおばさん・・・げーですよー。だからドラマより小説の方が絶対的に面白い。またドラマでは、美国の元カノや妹がやたら登場していたけれど、小説ではほぼボーイズONLY。そちらの方がすっきりまとまっている感じ。男だけの妖しい感じが生きてくるから。あぁっ、語りだしたらとまらないわー。 心に抱えた重いものを吐き出す行為は、救いにつながるんだなとつくづく思います。陸ちゃんの作品でもかなり好きな作品です。
「いつも、そうだ。大人はみんなそうだ。全てが終ってから、俺の知らないところでやりたいことを全部やってから、許してくれって言うんだ。俺の目の前から姿を消してから、分かってくれって言うんだ。いつもいなくなってから俺を苦しめる。こっそり何年も溜めておいて、後からひとまとめにして打ちのめす。俺がどんなに傷つくか、どんなに苦しむかも知らないで。誰も説明なんかしてくれない。どういうことなんだってきこうと思っても、いつもその時にはもう誰もいない。みんな自分のことしか考えていない。誰も俺のことなんかこれっぽっちも気にかけちゃいないのに、俺には自分のことを分かってくれって言う」
『ネバーランド』 2000.7.10. 恩田陸 集英社
2004年08月05日(木) |
『鉄道員(ぽっぽや)』 浅田次郎 |
映画になった物語を含む8つの短篇集。全てに幽霊や生霊が登場します。でもそれはホラーではなく、‘泣かせ’の浅田ならではの心にせつないものばかり。こういう幽霊ものもよいものです。 気に入った物語は、「伽羅」と「うらぼんえ」でした。「伽羅」ではゾワゾワさせる女っぷりのよいマダムが登場します。ハッキリと幽霊だとか生霊だとかわからないまま、物語は進みます。「うらぼんえ」では、夫に浮気されたちえ子の亡くなった祖父が登場します。背中に刺青のあるいきのいい(笑)幽霊。孫のために必死な幽霊に涙を誘われて、なんだか浅田のおっさんならではって感じ。 この暑い夏にかなりオススメですv
『鉄道員』 1997.4.30. 浅田次郎 集英社
ジウォンは援助交際について取材し記事にしたことでストーキングされていた。思い余って携帯電話の番号を変える。すると今度は次々と不気味な出来事に遭遇しはじめた。調べてみるとその番号を使用していた人たちは不審死をとげていたのだが・・・。
2年前に大ヒットした韓国ホラー『ボイス』を観ました。これってタイトルはボイスよりも携帯電話の方がいいんじゃないのかしらん。物語の内容はありがちだと思います。この映画の不気味さは主人公の友人の娘につきます。あんな少女が異様な表情をしたり、父親にマジキスをぶちゅぶちゅしたら、それは生理的に嫌悪感を煽りまくりますわ。あれっていやだったなぁ。子どもを使うのは卑怯だ。 私的なツボは、韓国の貞子と呼ばれたジニでしたv あのジニ役の女の子ってかわいかったなぁ〜。
2004年08月03日(火) |
『陰摩羅鬼の瑕』 京極夏彦 |
関口は榎津のお供で鳥の城へ。そこの主の5人目の花嫁を守るために!?
アハハ。気がつくと買ってから一年も置いたままにしていました(苦笑)。周りから「読んでも読んでも事件が起こらない」と聞いていたためです。そして本当にどんなに読んでも事件が起こらず、起こったと思ったら京極堂が登場してあっさり解決していました。可笑しかった〜。 この物語の魅力は榎木津のはちゃめちゃっぷりに尽きると私は思っているのです。だから今回はエノさんがおとなしいし、暴れないし、破壊しないし、ツマラナイ。でもそれでも読んでしまうのは何故だろう。自虐的な関口が心配だからかしら。どうあっても読まずにいられない物語であるに違いないようです。
「傷の手当ては他人にも出来るさ。でも手当てをしたってそれで傷が治る訳じゃない。本当に傷を治すのは傷を受けた当人だ。当人の肉体だ。傷は塞がるものなんだ。手当てと云うのは傷を治す手助けに過ぎないし、時に傷を受けるより痛いものだ。治るか治らないか、それは当人次第だ。そこは他人には手出しが出来ない処なのだよ。それは君が」
『陰摩羅鬼の瑕』 2003.8.8. 京極夏彦 講談社
2004年08月02日(月) |
『ブラフマンの埋葬』 小川洋子 |
芸術家だけが利用できる別荘の管理人の僕は、ある夏の日‘ブラフマン’と出逢う。傷ついたブラフマンを手当てし、躾け、共に暮らす静かで美しい日々だったが・・・。 不思議な物語でした。静謐なイメージ生と死を感じます。タイトルからわかってしまうように謎の動物ブラフマンと出逢い、ブラフマンを埋葬するまでの物語。 大きく盛り上がるわけでなく、淡々と進んでいく毎日を静かに眺めていたという感じでしょうか。『博士の愛した数式』ほどブラボー!とは思えなかったけれど、妙に心にせつなかったです。 ブラフマンは犬かと思っていたけれど、もう少し野性味のある動物なんだろうなぁ。
それが僕が耳にした、最初で最後の、たった一回きりの、ブラフマンの声だった。
『ブラフマンの埋葬』 2004.4.15. 小川洋子 講談社
2004年08月01日(日) |
『夜のピクニック』 恩田陸 |
風変わりなイベント。夜を徹して八十キロを歩きとおすと言う「歩行祭」。その高校の卒業生は誰もが歩行祭について懐かしく語るのだった。高三の貴子は、パーソナルな事情から近づきたくても近づけなかった融と話したいと思い、ひそかにある賭けをする。そして賭けに勝ってしまう。貴子と融、ふたりの距離は縮まるのだろうか・・・。
本当に陸ちゃんって引き出しの多い、不思議な人だなぁと思います。この物語は青春どまんなか路線ではなく、ホラーやミステリィに流れるはずだったみたいです(笑)。ホラーだったら、ひとりひとり消えていくんだろうなぁ(大笑)。ミステリィなら謎を語り合うのかしら(ってどこかで聞いた筋)。それまた別の物語で読んでみたいものです。とくにホラー・ヴァージョン! さてさてこの物語を読みながら鮮やかに高校時代が甦りました。なつかしくてせつなくて愛しい日々。貴子が親友の美和子と高校時代の恋愛について語り合うシーンはたまらなかった。私は高校時代にこの人だ!って人とめぐり合い、愛し合えたし、結ばれたから。その彼が若くして亡くなったことは人生の瑕というかあまりにも残酷な現実だったけど、私は何度でも彼と巡り合いたいと改めて感じたし、あの記憶はまさしく私だけのものだと確信したのですよ。しみじみ。 青春と友情と恋心とほんのちいさなミステリー。メインの貴子と融もいいけれど脇を彩る登場人物も極めて魅力的。陸ちゃんだからこそ描くことのできる世界ですね。最高v
あたしも、人に、できるかどうか分からないようなお願いはしないし、人の記憶に頼ったりしないよ。でも、あたしは覚えている。あたしの記憶はあたしだけのもの。それでいいんだ。
『夜のピクニック』 2004.7.30. 恩田陸 新潮社
2004年07月31日(土) |
『天切り松 闇がたり』 浅田次郎 |
就寝時刻をとうに過ぎた夜更けに、雑居房へ老人がやってきた。なにやら看守が親しげである。この老人、伝説の義賊‘目細の安吉’の子分だった。興味津々の若い同居人たちに夜盗の声音‘闇がたり’(六尺四方から先は届かない)で昔話をはじめた。看守も同居人たちも老人の語りに引き込まれていくのだった・・・
ろくでもない父親に放り出された松蔵の数奇な人生のこぼれ話。浅田のおっさんならではの軽快さとほろにがさがたまりません。昨日はドラマ化されたものを見てみましたが、やはり(と言うか、当然と言うか)原作には敵いませんでしたね。中でも吉原に売られた姉との再会・救出劇は涙なくしては読めませんでした。うるうるうる。浅田のおっさん、うまいなぁ。
人間同様、世の中どんどん軽くって味気ねえものになって行きやすねえ。
『天切り松 闇がたり』 1996.7.31. 浅田次郎 徳間書店
2004年07月29日(木) |
『ちびギャラ』 絵・文 ボンボヤージュ |
岡山県倉敷市出身のイラストレーター・ボンボヤージュさんの絵本4冊。かわいくてにくめいないキャラたちとボンさんのほんのひとことが最高です。笑わされたり、癒されたり、ほろりとされたり・・・。立ち読みでいいから(ボンさん、ごめんなさい!)是非一度手にとってご覧ください。きっと心にするりと入り込んでくる絵と文に出合えるはずです。
ちびギャラ 笑 ・おあずけって言うなら目の前に置かないでいただきたいと思う。 癒 ・ナデナデしてあげようか? たくさん泣いたご褒美に。 ほろり・苦しいことやつらいこと忘れられたら楽だけど忘れられないから頑張れて覚えてい るから強くなる。
ちびギャラにっ 笑 ・切ったら泣かすよ。 癒 ・そんなわけない。みんな最初はヒヨッコでできることから頑張った。 ほろり・届かない想いに今もつながれたまんま。
ちびギャラさんっ 笑 ・うらやむのはもうやめた。奇跡も運も偶然もマグレもマグロも自分でつかむ。 癒 ・上にいくほどエライだなんてチーズバーガーだって信じてない。 ほろり・どんまいオムライス。ケチャップはみ出てもココロははみ出ておりません。
ちびギャラよんっ 笑 ・カレーが言うのも何ですが人生は甘くない。でもきっと頑張れる。 癒 ・オニのように愛しています。 ほろり・待つことはしんどい。何もできない自分に気づくから。
2004年07月27日(火) |
『陽だまりの迷宮』 青井夏海 |
11人きょうだいの末っ子・生夫(いくお)は小学三年生。病気がちな生夫が遭遇する日常の謎と不思議。生夫にとっては世界は未知のことばかり。消えた模型・無言電話・伝説の絵本・・・子どもだからときちんと話をしてもらえない、聞いてもらえない。生夫は自分なりに頭を回転し、推理する。そしてたったひとりの相談相手、下宿人のヨモギさんがいる!
おお。これはよいですよ。小学三年生の男の子が生意気にもちゃんと推理をします。まぁ。的は大きくはずしていますが(笑)。拙いなりに自分で見極めようとする姿勢が可愛らしかったなぁ。そして下宿人のヨモギさん。彼がね、よいのですよ。これはちょっとした驚きをいただけました。
世の中、べつにやましいことではなくても、軽率に口外しないほうがよいこともあるのかもしれなかった。
『陽だまりの迷宮』 2004.5.18. 青井夏海 ハルキ文庫
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