酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年08月21日(土) 映画『誰も知らない』

 あるアパートに母と息子が引っ越しをしてきた。父親は仕事で外国に行っていると大家夫妻に軽妙に話す母。部屋でふたりきりになり片付けを始めたふたりが開けたトランクから子供がひとり、ふたり、あとから三人目がこっそりと合流。この4人は異父兄弟だった。しかも母親は出生届を提出しておらず、社会に属さない子供たちは隠れて生活をすることを強いられる。そしてある日、新しい恋をした母親は長男にわずかな金を残し家出するのだった・・・。

 この映画は、「西巣鴨子供4人置き去り事件」と呼ばれる昭和63年に起こった事件をモチーフに作られたそうです。現実の事件は、そのまま映画にはできない悲惨な現実がありました。
 映画では母親役のYOUがとてもキュートで憎めなくて、子供たちが捨てられても母を慕った気持ちがよくわまります。映画でも現実でも母は母であることより女であることを選ぶのですが・・・それなら子供を産まなければいいのに。考えなしに次から次へと出きれば産んでしまった母の愚かさが子供を不幸に巻き込んでしまったのだと思います。
 なんとも重苦しい映画でした。世界残酷物語にエントリーできます・・・。
 




2004年08月20日(金) 『木曜組曲』 恩田陸

 うぐいす館、瀟洒な洋館に今年も女たちが集まってきた。木曜日を挟んだ3日間を、4年前に亡くなった(自殺?)作家・重松時子を崇拝する女たちが5人で過ごす。酒を呑み、美味しい料理を食べ、時子を偲びながら。今年は予期せぬ豪華なカサブランカの花束が届けられた。差出人はフジシロチヒロ。意味深なカードとともに・・・。時子の身の回りの世話をしていたえい子(時子のデビュー当時からの担当編集者)。時子の異母姉妹の静子(出版プロダクション経営)。静子の母方のいとこの絵里子(フリーライター)。時子の姪の尚美(流行作家)。尚美の異母姉妹のつかさ(純文学)。奇しくも物を書くことを生業とする女たちばかり。そして、爆弾発言。
 「あたしが時子姉さんを殺したんだわ」

 強い女たちに逢いたくて、読み返した木曜組曲。5年前に読んだ時よりも面白かった。女たちがタフだから。そして陸ちゃんの物を書くことに対する姿勢も感じることができるし、呑むこと食べることへの愛情もよくわかって興味深いです。
 6人の女たちは、それぞれ強烈な個性を放ちますが(時子も入れて)、私が一番好きな女性は静子。静子の言動にはものすごく勇気付けられる。憧れです。
 物語は時子の死が自殺か他殺かと推理されます。当時、隠されていた秘密が暴かれ、推理は二転三転。そして5人がたどり着いた衝撃の真実とは・・・。それは読んでからのお楽しみ。

 静子は大人だから、自分の敵や気に食わない人物に意地悪したり、露骨な態度を取ることはない。彼女は、そんな無駄なエネルギーは使わない。そういう相手を自分の世界からスパッと遮断することができるのだ。自分とは合わない、この人とは関わりたくない、そう思った瞬間に全てを切り捨ててしまう。

『木曜組曲』 2002.9.15. 恩田陸 徳間文庫



2004年08月19日(木) 『慟哭』 貫井徳郎

 佐伯警視は、連続幼女誘拐事件の捜査に難航していた。生い立ちや立場から嫉妬の的になっている佐伯の孤独な闘い。かたや、新興宗教にのめりこんでいく犯人の狂おしいほどの心の叫び。
 ふたつの物語が錯綜し、事件の真相が語られるとき・・・

 すごいなぁ、貫井さん。10年以上前の貫井さんのデビュー作を再読しました。展開を知りつつ読んでいても興奮させられてしまいました。新興宗教の描写がとてもリアルで、心に闇や空洞を抱える人が、つい新興宗教にのめりこんでいく気持ちがわかる気がします。
 タイトルの慟哭は、もうまさに登場人物の慟哭なのだなぁと思います。悲劇の連鎖と言うか、悲劇に遭遇した人の心をどうやって救ってあげたらいいのだろうと考え込んでしまいます。

 だが彼は信じた。信じたいがために信じたのだ。

『慟哭』 1999.3.19. 貫井徳郎 東京創元社文庫




2004年08月17日(火) 『伯爵探偵と僕』 森博嗣

 夏休み。僕は奇妙な人物と知り合いになった。真っ黒な服装をした大きな男の人。名は「アール伯爵」しかも「探偵」・・・。そして事件発生。僕の友だちが行方不明に。伯爵と伯爵を追いかける(?)秘書のチャフラスカさん(女性・日本人)とともに事件の解明に乗り出すのだが・・・。

 おお、ブラボー! すごぉ〜くいいですv 森博嗣さんには妙なトラウマがあって(一番最初に読んだ単発作品があまりにも合わなかったのです)、周りの仲間達が大好きなシリーズすらちょこっと齧っているくらい。そんな訳で『伯爵探偵と僕』を少々こわごわと読みました。
 これはかなり質の高い物語じゃなかろうか。配本されたミステリーランドを全て読めていませんが、読んでいる中では上位に食い込みます。小学生の僕と風変わりな大人の伯爵の交流が非常によいです。こういう大人と出会えた子どもは、きっといい人生を送るだろうな。どきどきわくわくハラハラして、最後の最後に・・・それは読んでからのお楽しみ。オススメです。

 僕が子供だから教えてくれないのだろうか。そうかもしれない。だけどどんな事情だって、話してくれたら、絶対に僕は理解できると思う。どうして、大人って子供にものを隠そうとするのだろうか。絶対に変だ。僕が大人になったら、子供には正直に何でも話そうと思う。わかっても、わからなくても、話さないよりはずっと気持ちが伝わるし、少しでもわかることが、子供には大切だと思うのだ。

『伯爵探偵と僕』 2004.4.27. 森博嗣 講談社


 



2004年08月15日(日) 映画『コンフェッション』

 1960年代のアメリカ。女好きなチャックはテレビ業界に目をつける。企画を持ち込むがうまくいかない。奔放な女性ペニーと出逢い、気ままな恋愛関係に陥る。ペニーの言動からアイデアが閃く。それはひとりの美女が見えない3人の男を相手に質問を繰り返し、相手を選ぶ「デート・ゲーム」という視聴者参加の企画だった。
 しかし、プレゼンテーションに持ち込むものの、おえらがたには不評。荒れるチャックの前に現れたのは、CIAのまわしものジム。ジムはチャックを観察し、自分の求めている人材にぴったりだと思い、スカウト。それはCIAの秘密工作員になり、合衆国に邪魔な人間を抹殺するという仕事だった・・・。

 実在する伝説のテレビ・プロデューサーの自伝を映画化したものだそうです。視聴率を稼いだ男が、裏の顔を持ち、暗殺を繰り返していた。嘘のような本当の話? もしくは逆? どちらなんだろう。刺激的な世界に生きる男が、より刺激を求めてしまうってわからないでもないですが。
 面白かったのは、「デート・ゲーム」という番組。これのパクリみたいな番組が日本でもありましたねー。顔をみないで質問していき人柄から相手を選ぶ。なかなか危険な賭けかも・・・。
 そしてペニー役のドリュー・バリモアが最高にキュートでしたv ジュリア・ロバーツより魅力的だと思う〜。



2004年08月14日(土) 『影踏み』 横山秀夫

 ノビ師(寝静まった民家に忍び込む泥棒)の真壁修一は、2年前の事件で捕まっていた。出所して真壁は2年前に忍び込んだ家の女を調べる。あの女は亭主を焼き殺そうとしていた。生きたまま人間を焼き殺す。修一にとって許せない行為だった。15年前に母が双子の弟を焼き殺し、心中したからだ。弟も真壁もできのいい双子だった。しかし、たったひとりの女・久子を争い敗れたことから弟はやさぐれていた。そして死んだはずの弟は・・・

 横山秀夫さんが、こういう路線も書くのだなぁと最初は新鮮に思いながら読んでいました。しかしながら途中から「ちょっと待てよ」と。これってまるで浅田のおっさんの世界のパロディじゃーん。いや、横山秀夫さんが意識してパロったかどうかは定かではありませんが、浅田のおっさんありきな私としてはそう思えてなりませんでした。人にはそれぞれ持ち味ってあると思うので、横山さんはブレークした硬い作風の方がよいのではないかしら。さらりと読める面白い作品ではありますが、私的には疑問が残ってしまったのでした。

 顔形はおろか、自分の心のあり様まで似通った複製のごとき人間がこの世に存在することを呪った。いっそのこと消えてなくなれ。そう思った。

『影踏み』 2004.11.20. 横山秀夫 詳伝社



2004年08月12日(木) 映画『悪魔が来たりて笛を吹く』 ※感想にネタバレあります。

 昭和22年、銀座の宝石店で凶悪な強盗殺人事件が発生した。椿英輔子爵は、容疑者として取り調べを受ける。無実を立証されるが、自殺。後日、娘に託していた本から遺書が見つかる。父はもう屈辱に耐えられぬという内容だった。そして死んだはずの子爵が目撃されるようになり、連続殺人事件がはじまった・・・!

 横溝正史さんの小説はだいたい読んでいると思います。おどろおどろしい時代と血のおざましさがミックスされ、美しくて残酷v この映画の金田一さんはナント西田敏行さんが演じてらっしゃいました。観ているとやっぱり西やんは西やんなんですよねー。独特の西やん金田一でした。妙にユーモラスでかわいらしい。
 今回の物語で起こる自殺や殺人事件の背景にはふたつの近親相姦が原因となります。すごーくエロチックなベッドシーン(熟年近親相姦カップルの方)に思わず生唾が(笑)。若い方の近親相姦カップルは悲壮感満載ですごくかわいそうだった。近親相姦は生まれてくる子どもに血が濃すぎて影響がでるためタブーとされているのでしょうが、子をなさないならありじゃないかなぁ・・・って駄目?
 久々に横溝な夏にしようかしら、と思ったのでした。 



2004年08月11日(水) 『ねこのばば』 畠中恵

「たまやたまや」
 若だんなの幼馴染お春に縁談が舞い込む。若だんなは単独で縁談相手の偵察に出かけるのだが、その男なにやら訳ありが多いらしい・・・?

 今回も体の弱い若だんなと若だんなを溺愛するあやかしたちが大騒動。どのエピソードも「うー」と考え込んだり、ほろりvとさせられたり。中でも上にピックアップした「たまやたまや」がよかったですねぇ。若だんなとお春ちゃんの幼馴染ゆえの淡い心の交流も良いし、ふたりの選んだ決断もほろ苦くていい。このシリーズはずっとずっと続いて欲しいものです。

 こういう、どうしようみなくなったときに、人は本性を現す。

『ねこのばば』 2004.7.20. 畠中恵 新潮社






2004年08月10日(火) 『少女大陸 太陽の刃、海の夢』 柴田よしき

 女性だけの地下都市。彼女達は200年前に戦争による破壊された地上から逃げ延びてきた。流砂(ルイザ)は、自分の世界を平和だと信じて疑わなかったのだが、ある夜、反政府反乱軍の戦いに巻き込まれてしまう。それは偶然ではなく必然だった。眠っていた流砂の能力が目覚め、世界は・・・

 柴田よしきさんは、やはり強い芯のある女性を描かせたらわくわくするくらいうまいなぁと関心します。この物語で私が惹かれた女性は、陽那。孤高の反乱軍リーダーです。自分の背負ってしまったものの大きさにつぶされないよう歯を食いしばっていることがよくわかる。性格は少々ひねくれているかもしれないけれど、それも自分の本音を隠すためではないかしら。世紀末の物語はハードで残酷だけど、命あるものの明日を信じる気持ちは素晴らしいな。なかなかスッキリおもしろく読めました。

「助かるか助からないかは、運。それ以外のなにものでもない。そしてその人の持つ運は、誰にも触れない。流砂、自分が神ではないことを思い出しなさい」

『少女大陸 太陽の刃、海の夢』 2004.7.30. 柴田よしき 詳伝社




2004年08月09日(月) 映画『呪怨2』

 ホラー・クィーンの異名を持つ女優・京子は、あの惨殺の家(伽耶子の家)での収録後交通事故に遭遇。同乗していた婚約者は重態。京子は流産してしまう。京子とともに番組を制作していた人たちも次々と・・・。そして流産していたはずの京子のお腹には子どもが順調に育っていた!?

 今回の呪怨はチラリズムを徹底排除。伽耶子と俊雄が出まくります。いや、怖いと言うより笑えてしまいました。コメディ・ホラーだったのかな?
 ネタバレですが、京子から伽耶子が世の中に生まれなおします。京子役ののりピーがよくぞあの出産シーンを演じたものだわ。だってのりピーから大人の伽耶子が出てくるんですよ〜。しかも、そのあとは何故か子どもの伽耶子になって母親ののりピーを殺しちゃうし。
 よくよく考えると、まるっきり貞子と同じ歩みでした。貞子も生まれなおしますものねぇ。幽霊でなく実体になり、恐怖を撒き散らすと言うことなのか。うーん、二番煎じ。



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