酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2004年09月11日(土) 『ヴィーナス★ゴールド』 山崎洋子

 家族の借金のために逃げ回る灯子は、ホームレスにまで落ちてしまった。死のうとした夜に「ピエロさん」と呼ばれるピエロの扮装をした有名人に声をかけられ、寝る部屋を提供される。そして寿町というドヤ街で再生する努力をはじめた。ある日、取材で茉莉という美しい女性が現れる。灯子は茉莉に妖しく惹かれ、いっしょに「ピエロさん」を追うことになるのだが・・・

 久しぶりに読んだ山崎洋子さんの長編はものすごく面白かった。灯子が父親の失敗のために普通のOLから逃げ惑うホームレスへと転落していく冒頭は、おそろしいほど生生しかった。ドヤ街と呼ばれる場所で懸命に生きようと人間らしさを取り戻すあたりも読み応えバッチリ。そして運命の女・茉莉と出逢い、茉莉の抱えてきた人生にまた驚かされる・・・。いろんなテーマがごった煮されてる感じもするけれど、なんだか気に入っちゃったなぁ。

 この世には、法律の決めた善悪で裁けないことがある。だったら、万が一の場合のお咎めを覚悟で、自分の決定に従うしかない。

『ヴィーナス★ゴールド』 2004.8.20. 山崎洋子 毎日新聞社





2004年09月10日(金) 怪談集『花月夜綺譚』 恩田陸ほか

 10人の女性作家さんの怪談アンソロジー。装丁がとても綺麗です。怪談として一番怖いと感じたのは、ラストを飾った山崎洋子さんの『長虫』でした。お妾さんを嫉妬からギヤマンの温室に閉じ込めた奥方の遭遇する恐怖・・・ぞぞぞぞ〜っとしますよ。うまいなぁ。あとの物語は飛びぬけて怖くはなかったです。陸ちゃんのぶにも不思議な感じだったなぁ。

怪談集『花月夜綺譚』 2004.8.31. 恩田陸ほか 集英社




2004年09月08日(水) 恋愛アンソロジー『蜜の眠り』 恩田陸ほか

「睡蓮」
 小学生の理瀬は兄たち(従兄らしい)や祖母と暮らしていた。小さいながらも家族構成がよそと違うニセモノくさいことを感じ取っていた。三人がそれぞれ理瀬に望む女の子像を理瀬は演じ分けていた・・・

 女の子は作られる。男の子やオトナの目が女の子を作る。

 陸ちゃんの‘三月シリーズ’のヒロイン理瀬の小学生時代の物語。美しく成長する理瀬の土台となる時期なんだろうな。アノ毒々しい大柄美女もちらっと登場。従兄の亘と稔がこの頃から性格がずいぶんと違う事も読み取れます。陸ちゃんの‘三月シリーズ’はあちらこちらにピースがこぼれていて気を抜くと忘れてしまう。また早く集めて本にしてくれないかしら。
 この恋愛アンソロジーは10人の女性作家さんがそれぞれの「愛」や「性」について書いていらっしゃいます。面白い!と思ったのは横森理香さんの『テイスティング』でした。なにをティスティングするかと言うと、セックスなんですね。女性の愛と欲望が赤裸々に綴られていて興味深くエロエロな物語です。もうひとつ松本侑子さんの『性遍歴』もなかなか。文字通りひとりの女性の性遍歴を淡々と描かれていて、『ティスティング』と対をなす結末なことが面白かった。いやー女の愛と性は深い深い。

恋愛アンソロジー『蜜の眠り』 2001.10.20. 恩田陸ほか 光文社文庫






2004年09月07日(火) 映画『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』

 ぶっさんは余命半年を宣告されていた・・・が、殺しても死なないほどに元気に生きている。野球にビールにやっさいもっさい。変わらぬキャッツ(仲間達)と大騒ぎの毎日だ。木更津のヒーロー・バンド氣志團が提案するロック・フェスティバルの前座で参加する事になり、曲作りに励む。そこへ死んだはずの木更津の守り神オジーが甦る。小さな事は気にかけず、オジーの復活を喜ぶぶっさんたち。そしてぶっさんは山口先輩の新しいお店韓国パブに勤めるユッケに恋をする・・・

 宮藤官九郎という人を認知したのは、テレビ版「池袋ウェストゲートパーク」でした。まだ石田衣良なんて作家はブレイクしていないのにドラマ化だよと当時新鮮に驚いた事を覚えています。その後クドカンの脚本のおかげで石田衣良は大ブレイク。作家さんのブレイクの仕方もさまざまですよねぇ。
 今回の「木更津キャッツアイ」シリーズもドラマ・映画共に馬鹿馬鹿しいほどに面白かったです。「池袋ウェストゲートパーク」でもよく使われていた巻き戻し映像がうまいんですよねー。あのプレイバックでさまざまなことが発覚していく。
 また映画では、哀川翔が本人役で登場。さりげなく、いやおおっぴらに「ゼブラーマン」の宣伝をしています。あとお笑いのウッチャンが‘微笑みのジョージ’なんてどこかの国の俳優さんのようなキャッチフレーズで出てきて笑っちゃいます。笑わせてしみじみして日本映画も捨てたもんじゃないなーと嬉しくなるv オススメ映画です。 ひとつだけ気になった場面の南国に流されるところは無くてもいいような気がする。男性がたにはごっくん映像でありますが(笑)



2004年09月06日(月) 『センセイの鞄』 川上弘美

 大町ツキコは37歳独身。居酒屋でご老体に声をかけられた。高校の時の国語のセンセイだった。「先生」でも「せんせい」でもなく、カタカナで「センセイ」だ。その日からツキコとセンセイの不思議な交流がはじまった。ふたりは‘間’の取りかたが似ていた。すこしずつすこしずつ距離を縮めていくふたり・・・

 やられました! もうこういう物語を読むことが出来ると神様に感謝してしまう。素敵な素敵な恋の物語でした。
 正直なところタメ年志向の私には30以上も離れた男女の恋愛なんてとんでもないと言うか、考えられない。でもこの物語のツキコさんとセンセイは本当にいい時間を共有していて、これはありだなぁと素直に感じました。ツキコさんが「センセイ、好き」って言ったり、センセイが「ツキコさんは、ほんとうに、いい子ですね」って頭をナデナデしたり、あわあわとほのぼのと心と心が寄り添っていく。
 読んでいない方は是非是非読んでみて欲しいです。表紙のタイトル文字やイラストも物語にぴったり。またひとつ人生に宝物を手に入れた気がする。嬉しい!

 居酒屋でセンセイに会って知らんぷりしあうのは、帯と本がばらばらに置かれているようで、おさまりが悪い。

『センセイの鞄』 2001.6.25. 川上弘美 平凡社




2004年09月05日(日) 『マインド・コントロール 心理分析官 加山知子の事件簿』 和田はつ子

 心理分析官・加山知子は36歳でバツ1。元カレ・警視庁の松井良和に微妙な鬱屈を抱えている。職場でも浮いている。日本でのプロファイリングはまだまだ認知されるに程遠い。ボランティアで出かけた先で御園貴史と出会い、久しぶりに心がざわめく。どきどきしているところへ変死体の知らせが入る。21歳の美しい中国女性が唇の上に翡翠・金・銀が置かれているというものだった。その事件を皮切りに・・・

 ううーん、好きなんだけどなぁ。和田はつ子。好きなのだけど、読んだ後に少しばかり不満が残ってしまう。なにが不満なのかわからない(なんじゃそら)。面白いのは面白いのだけど何かが足りないんだよなー。
 今回の事件は、最後までタイトルの‘マインド・コントロール’の意味がわかりません。最後の最後で無茶苦茶なマインド・コントロールの意味がわかります。ある意味かなり残酷なラストなのですけどね・・・。うーん、不完全燃焼だ。

「人間なら多かれ、少なかれ、みんな何かに失格しているものじゃありませんか?」

『マインド・コントロール 心理分析官 加山知子の事件簿』 2003.9.10. 和田はつ子 角川ホラー文庫



2004年09月04日(土) 『ジェシカが駆け抜けた七年について』 歌野晶午

 NMACは長距離専門の陸上競技クラブである。主催者はツトム・カナザワという日本人。クラブ運営と同時に監督やスカウトも努めている。ジェシカ・エデルはカナザワにスカウトされた。エチオピア出身のジェシカはチームメイトのアユミ・ハラダにホームシックから救って貰ったことがある。ある夜、眠れないジェシカはアユミが白装束で丑の刻参りをしている姿を目撃してしまう。アユミはアスリートとしての選手生命を潰した男を恨んでいたのだった・・・

 《過酷な女子マラソンの世界。一人のランナーが挫折して命を絶った。それから7年。なにかに導かれるようにジェシカはやって来た。恨みを残して死んだ彼女のためにしてやれることといえば、もうこれしかないのだ…。》これがこの物語の惹句です。これが非常にうまいと読了後に感じました。
 マラソンの練習に関する膨大な知識には唖然。こんなやり方があったのかと絶句したり。物語のトリックには、きちんと綺麗にアッサリ騙されました。私は単純だからなぁ。トリックがどうこうより、ジェシカの魅力に最後まで付き合ったという感じでした。すっと読めます。本人の語りでツトム・カナザワの視点や気持ちを知りたかったかな。

 楽しむのが自分なら、リスクを負うのも自分。すべてが自己責任なのである。

『ジェシカが駆け抜けた七年について』 2004.2.19. 歌野晶午 原書房



2004年09月03日(金) 『クロス・ゲーム』 中野順一

 沢口航太は東京から名古屋へ転勤し、オンラインゲームで出会った恋人・優衣と遠距離恋愛を始めた。三ヶ月ほど前に航太は優衣が苦労して手に入れたアイテムを失態で失ってしまっていた。そのためふたりの間には微妙な空気が流れ、航太の転勤のために優衣はますますゲームにのめりこんでいた。
 ある日、航太は暴漢に襲われる。仕事ではささやかな不正がばれる。ついてない航太はアパートの火事に遭遇。その火事は放火の疑いが・・・

 物語では、航太の物語と沙也加という女性の物語が同時進行していきます。沙也加の物語は悪質な<090金融>にかかわるもの。ふたつの物語がクロスしたときに、このゲームの謎が解けます。
 ゲームは仮想世界のはずだったのに、こんなにも現実に食い込んできてしまっている。ある意味かなりホラーです・・・

 せっかく犯人まで辿り着くことができたのに、謎はますます深まるばかり。

『クロス・ゲーム』 2004.7.25. 中野順一 文藝春秋





2004年09月02日(木) 『物魂』 桐生祐狩

 佑里子は人形が大好きだった。「半月堂」という人形をなおす店の主人は人間の心がわかる人物。佑里子は店主と店に惹かれ、通うようになる。ある日、主人がなおそうとしていた人形の心はぼろぼろに壊れていた・・・
 某大手出版社の中尾・「昔神童、いまただの人」の四十沢・評論家の吉見・美貌の占い師リドヴィーナ玄武・引きこもりがちの遊佐緑子。呑んで食べる事を至福とする面々。彼らは「少女の鑑」シンポジウムの会議と称し、鯨飲馬食する予定だったが、四十沢が遅れ、代わりにきた男に死の予言を受けてしまう・・・

 なかなかに面白かったです。もう少し長く書き込めばよかったのにもったいないなぁと言う感じ。人形の怨念による復讐よりも、復讐される側の殺され方がグーv 殺される奴らはよく食べてよく呑んで、そこもまたグーw
 ちらりんと調べてみたところ、このトンデモない殺されるメンバーにモデルがいました。トンデモ本の唐沢俊一さんたちです。桐生さんは唐沢さんたちに出版許可依頼をされたら、唐沢さんたちはトンデモなく残酷に殺して欲しいと言われたそうな(大笑)。それを踏まえて読むと一層面白いかもしれません。ホラーだけど(笑)。

「その人たちには申し訳ないですけれど、飲ませていただいてよろしいかしら。夕方になってもアルコールが入りませんと、もうカラータイマーが点滅しそうで」

『物魂』 2004.7.18. 桐生祐狩 ハルキ・ホラー文庫


 



2004年09月01日(水) 『身も心も 伊集院大介のアドリブ』 栗本薫

 天才サックス奏者・矢代俊一。一世を風靡した『ワナビー』を絶対に演奏しようとしない。そんな矢代に脅迫状が届き始めた。名探偵・伊集院大介のもとへ大介の秘蔵っ子・竜崎晶が心配して連れてきた。犯人の演奏するなと書いてきた曲を吹いた時、殺人事件が・・・

 栗本薫の物語も金太郎飴なので読まずともいいのに読まずにはいられない(笑)。読んで相変わらずの栗本節に安心したいのかもしれませんね。今回は『キャバレー』の矢代と伊集院さんとの共演です。昔からのファンは嬉しいだろうな。
 今回の事件や背景より、栗本くんの心の叫び(怒り)が書かれていて、結構つらいのかもしれないと気の毒になりました。私も含めて読むだけの人間は、真に好き放題言うものなので。

 変われば変わったで矢代は変わった、ファンを裏切った、って叩かれ、変わらなければ変わらないで矢代は旧態依然だ。成長しない、って叩かれる。ああいう人たちは、僕が何だったら満足するんでしょうね。でもそれはもうどうでもいいです。僕は、所詮、僕なんだから。

『身も心も 伊集院大介のアドリブ』 2004.8.1. 栗本薫 講談社




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