酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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いつの時代かの日本。夜叉ヶ池から流れる清水のふもとの越前鹿見村琴弾谷は雨が降らず日照りに苦しんでいた。村人達から離れたところで鐘楼を守る夫婦、晃と百合。ある日、ひとりの男がふらりとやってきた。その男は晃の親友・学円だった。数年前に行方不明になっていた晃は学円に鐘楼の伝説と鐘楼の守りをすることになった経緯を話す。晃は前の鐘楼守りの言い残した言葉を信じていた。日に三度、決まった時刻に鐘を鳴らさなければ夜叉ヶ池の竜神に村を滅ぼされると言う。しかし、村人達はそんな伝説をないがしろにして・・・
松雪泰子の初舞台を観たい! それだけの思いを胸に観にいった舞台です。やはり生の舞台はいい〜。舞台の上の役者さんたちは超豪華メンバー。お名前を知らなくても顔は知っている人ばかり。主演の武田真治くんもよかったけど、松田龍平がカッコよくて驚いてしまった。さすが松田勇作の息子だけのことはあります。遠藤憲一さんはすごーくいい役者さんだったんだなぁ。テレビドラマでの寡黙なワルのイメージがいい方向に崩れて好きになってしまいました。しかし!本当のこの舞台の怪物は・・・丹波哲郎さんです(大笑)。台詞を読んでいました。いいのか? あそこまで大物ならば許されるのか? 笑えて困ってしまいました。 舞台の醍醐味はアドリブにあるんだろうと思います。武田くんが笑いを殺せなくなったシーンは可愛くて、遠藤さんの「いつまでもわらってるなよ!」とアドリブらしき捨て台詞をもらってしまってました。もう大爆笑。遠藤さんが萩原くんのホッペにチュウするシーンはアドリブ? 松雪が演じたのは夜叉ヶ池の主の姫様。美しき妖怪です。美しく残酷で気品があって野蛮で、涎が出るほど美しかった。あぁぁぁっ、松雪っ、大好きだっ!! アンコールがすごくて明るくなっても3回目に武田くんがコロリンと前転して出てきてくれました。和気藹々と美しく可笑しい素敵な舞台でした。あ、忘れてた。きたろうサイコーv 出ているだけで笑えるってすごい。
2004年11月10日(水) |
『元カレ』 小松江里子 |
柏葉東次は社会人一年生。デパートの食料品売り場‘デパ地下’で働いている。研修の時にいっしょになった早川菜央(エレガ=エレベーターガール)と付き合い始めたばかり。恋も仕事もいい感じvと思っていたところへ、2年前にフラレタ佐伯真琴が現れる。広告代理店でバリバリやっている真琴が東次の働くデパ地下の広告担当になったのだ。大好きだった真琴にいきなりフラレタ過去にきっちり決別できていなかった東次は、今の彼女と元の彼女の間でおおいに揺れ動くことになるのだが・・・
これはTBSのドラマをノベライズしたものです。ドラマは見ていなかったのですが、ノベライズはなかなか良かったv タイトルが『元カレ』と言うくらいなので、実は主人公は佐伯真琴だと思うのですね。ノベライズでも東次をメインに描かれていますが、これは真琴の物語だなぁ。そこを読み取れよ、というふうに受け取りました(勝手に)。 真琴は今時珍しく、キチンと仕事に頑張る女の子です。自分の力さえつけば待遇も評価される事を知っている賢い子。これにはとても感心しました。残業も休日出勤も厭わない。自分が自分で社会人として働くということを身を持って示してくれる女の子。その真琴の『元カレ』の東次は、真琴にフラレタ原因がかつてはわからなかったけれど、働くうちに責任感とやり甲斐を身に付け、ずいぶんと成長していきます。 生きていくうちで、仕事ばかりをしなさいと言うつもりも、自分がそんなふうにやるつもりもありませんが、キッチリ働くことの大切さは地道に汗水たらして働いて身を持って知るべきだと思います。実力も努力もないうちから待遇ばかり求めるって間違ってる。
「だから、責任ない顔もできたんだけどね・・・・・・でも、なんとしてもちゃんと仕事できること見せておきたかったの。それでなくても、若いからとか、経験がないからって、信用してもらってないのに」
『元カレ』 2003.9.5. 小松江里子 講談社
2004年11月09日(火) |
『イノセント』 中村うさぎ |
ホストに貢ぐ金を稼ぐためにソープ嬢になった女、彼女は牧師の娘だった。冬の公園でガソリンをかぶり焼身自殺。香奈と名乗った彼女の名前は洋子。 父である牧師が娘と関わった人たちに会い、娘の自殺の真相をつかもうとする。しかし、父が知った本当のこととは・・・
最初は、ホストに溺れた女がソープ嬢になってまで貢ぎ、現実に疲れる女の物語だと思いながら読んでいました。ところが、主人公は別にいたのです。最後の展開はまったく予想しなかった方向に行ってしまい、やられちゃったなぁって感じでした。なかなか残酷な愛憎の物語にございます。
人間なんてね、川上さん、本当に言いたくないことは日記にも書きませんよ。衝動的に人に喋ってしまうことはあっても、日記には書きません。「書く」という作業はかなり意識的なものであり、しかも証拠の残る行為ですからね。そうでしょう?
『イノセント』 2004.2.25. 中村うさぎ 新潮社
2004年11月08日(月) |
『ゆめつげ』 畠中恵 |
貧乏な清鏡神社(せいきょう)の神官兄弟は対照的。のんびりした兄の川辺弓月(ゆづき)としっかりものの弟の信行。しかし弓月は『夢告』(むこく)ができる。弓月たちは《ゆめつげ》と呼んでいる。夢で神が語りかけたことを他者に伝えるのだ。その弓月に夢告依頼に白加巳神社(金持ち)の権宮司・佐伯彰彦がやってきた。蔵前の札差の青戸屋の息子が安政の大地震で行方不明になった。息子ではないかと思われる3人の子供のうち誰が本物かを占って欲しいと。屋根の修繕費のために渋々承諾した弓月だったが・・・
NHKの大河ドラマで只今‘幕末の動乱’ものをやっています。この物語の舞台はまさにその幕末の頃のこと。タイムリーです(狙ったのかもしれない)v 兄と弟の互いを思いやりあう愛情がストレートに伝わってきます。特に夢告をする兄を案じる弟の思いは口の悪さとは裏腹にものすごく温かい。いい兄弟なのです。 この夢告は、超能力の部類だよなぁと思いつつ読みました。夢でいろんなことがわかってしまうってキツイ。やはり超能力者の悲哀がひしひしと心に痛かった。やさ男の弓月を必死で応援いたしました・・・。
深刻な話を占い、都合の悪い結果が出ると、大抵の人が受け入れようとはしない。
『ゆめつげ』 2004.9.30. 畠中恵 角川書店
2004年11月07日(日) |
『太陽と戦慄』 鳥飼否宇 |
越智啓示(おちけいじ)は新興宗教でボロ儲けする両親がいやで家出した。ストリート・キッズとなった啓示は導師と名乗る男に拾われる。他にも導師に拾われた訳ありの少年・少女達とロックバンドを結成。導師の危険思想に洗脳されつつ、ロックにのめりこむ。デビュー・イベントのその日、導師が密室で殺された? そして10年後、導師の作詞した歌詞にそった事件が勃発し・・・
浦沢直樹さんの『20世紀少年』にインスパイアされて生まれたのではないかと邪推させられる物語でした。あの漫画の世界の根底にあるミュージック・シーンとまるで同じだから。とても面白かったのですが、読むうちにかなりパワーが必要だと感じたことも事実。若い人(10代とか)ならば熱狂する人たちも出現しそうです。破壊願望を持った人には読んで欲しくないですけど。うーん、問題作であることは事実です。ダークな青春物語と読み流せるならよいのですが。
「人々はいつの時代も救いを求めているんだよ。生きていくってことは楽しいこと、幸せなことばかりではない。誰だって苦悩や恐怖を抱えながら生きている。強い人間は自分の力で幸福の扉を開くことができる。でも、世の中には弱い人間だっているんだ。そんな人間にとっては、少しばかりの不安が絶望を生み、人生そのものが困難となる。自分ひとりでは耐えきれないから、なにかにすがる。自分の力を信じきれないから、なにかに祈る。人々の心をコントロールするなんてことは、たやすいことだよ」
『太陽と戦慄』 2004.10.15. 鳥飼否宇 東京創元社
2004年11月06日(土) |
『水の迷宮』 石持浅海 |
羽田国際環境水族館、深夜、片山は夢をかなえるためにひとり孤軍奮闘していた。突如発生したトラブルを回避しようとして突然死(?)。 三年後、また同じようなトラブル発生? あの三年前の片山の死は殺人だったのか? 水族館の存続をかけ、姿を見せない脅迫者と戦う職員達。彼らが到達する場所とは・・・
一時期、水族館を巡り歩いていた時期がありました。それは愛した旦那が亡くなった後だったので、水族館は癒しの空間と言うイメージがあります。旅先でも水族館があれば必ず立ち寄ります。時間を忘れて水槽にへばりついています。一番好きな水族館は福岡の海の中道にある水族館。想い出いっぱい。 そんな訳で、今回の石持さんの新刊が水族館を舞台にしていると知り、いそいで買いに走りました。水族館を舞台にして事件発生。こういう人質(?)の取り方もありか〜と頷きながら読んでいました。でも推理より何より目に浮かぶような水族館の様子にわくわくしてしまいました。ラストもお気に入りv そんな水族館ならば毎日通いたい・・・
「ここの人たちは、片山のことを憶えていてくれてるのかしら」
『水の迷宮』 2004.10.25. 石持浅海 光文社カッパノベルス
2004年11月05日(金) |
『あきらめのよい相談者』 剣持鷹士 |
剣持鷹士は福岡の弁護士事務所にイソ弁(=居候弁護士)として勤めている。剣持が遭遇するさまざまな相談者たちの謎を親友の女王光輝(めのうみつてる)、通称コーキが推理する。
これは、1994年の第一回創元推理短編賞を受賞作品を表題とする連作ミステリーです。剣持鷹士のデータから友人のコーキが推理する、所謂‘安楽椅子探偵’で、挑むは‘日常の謎’です。コーキの推理の先にある答えは結構シビアで、さすが書き手が弁護士さんだけあると感心しました。 この物語の魅力は何よりも博多弁で進行されること! 博多に行ったことのある人なら(もしくは御住まいの方ならば)あの独特のイントネーションの愛すべき方言にグッときちゃうはずですv 博多大好きっ子としては最高の物語。 書き手の剣持さんは久留米の現役弁護士さんだとか。この続きを発表されていないようなので、とっても残念です。是非、鷹士とコーキを復活させていただきたいものです。
そげなことはもう酔っ払っとるけんわからん
『あきらめのよい相談者 剣持弁護士の多忙な日常』 1995.10.25. 剣持鷹士 東京創元社
2004年11月04日(木) |
『ぼくと未来屋の夏』 はやみねかおる |
山村風太は髪櫛小学校六年生。お父さんの大地はジュブナイル小説家。その影響か、風太の夢は作家になること。夏休み前なので鬼の様に荷物を抱えて帰宅する風太に「未来を知りたくないかい?」と声をかけてきた。その男は猫柳健之助。未来をあつかう『未来屋』だそうだ。しかも金を取る(100円)! この妙な猫柳さんは、やはり妙な父・大地と意気投合し、風太の家に居候する事になってしまった。神隠しの森・首なし幽霊・人喰い学校・人魚の宝物伝説・・・風太の小学校最後の夏が未来屋・猫柳さんとともにはじまった・・・
このミステリーランド・シリーズを子供の時に読めていたら、どんなにしあわせだったことだろう。刊行された作品を全ては読めていませんが、今まで読んだ限りでは素晴らしいものばかり。これを読める子供たちがうらやましい。 はやみねかおるさんの『ぼくと未来屋の夏』も泣きたくなるほど温かい微笑ましいひと夏の物語です。小学校六年生の少年の夏ほどかけがえのないものがあるかしら。こんな妙な青年とドキドキわくわくして過ごす夏。風太は素敵なオトナになるだろうと思います。読んでよかった・・・ほっこり心に灯がともる、そんな心に優しい物語でした。
「がんばろうね、猫柳さん!」 「がんばってね、風太くん!」 ・・・・・・使われてる文字は似てるけど、内容は、かなり違う。
『ぼくと未来屋の夏』 2003.10.29. はやみねかおる 講談社
2004年11月03日(水) |
『ノーカット版 密閉教室』 法月綸太郎 |
梶川笙子は早朝の校舎が好きで、教室に一番乗りをし、窓を開いて朝の冴えた空気の第一号を招じ入れるのが好き。その朝もそうできるはずだった。密閉された教室の中で中町圭介が血まみれで絶命していなければ。そして教室にはあるべきはずの机も椅子も消えていた・・・?
てっきり読んでいると思っていた法月さんの『密閉教室』ですが、ノーカット版を読み出して「あ、読んでないや」と気づきました。それだけ有名で切り取られたエピソードばかり知りすぎていたゆえの悲劇とでも申しましょうか(苦笑)。 さて、これは言わずと知られた法月綸太郎さんのデビュー作のノーカット版です。本当に有名な編集者の宇山氏が、「長すぎる。もっと簡潔に」と指摘し、推敲されたものが世に出ていたわけですね。今回、私が初めて(!)読むことになったノーカット版は、要らないもの(?)を削ぎ落とす前の「『密閉教室』の700枚の草稿を、ほぼ無修正で(!)活字にしたもの」になります。結果的にこれしか読んでいない私には、それなりに楽しめました。若さが感じられていいと思います。長かったけど。 消えていた机や椅子。コピーの遺書。密閉された教室。主人公の工藤順也のあぶなっかしい探偵振りや心の動き(動揺)などが痛々しくて好きです。一人の少年の死の陰にある陰謀には賛否両論も仕方ないかと思うけれど、フィクションなのだからOKでしょう。物語は楽しんだモン勝ちってつくづく思わされた作品です。
18歳/19歳、いかなる形であれ、その差は計り知れないほど深く広い。目に見えない日付変更線のように。
『ノーカット版 密閉教室』 2002.11.7. 法月綸太郎 講談社
2004年11月01日(月) |
『あまんじゃく』 藤村いずみ |
折壁嵩男の趣味は鼻の毛穴パック。優秀な外科医だったが、‘ある事件’に巻き込まれ、殺し屋に転身してしまった変わり者。依頼は弁護士の横倉からのみ受けるフリーの身。クライアントの希望に沿った、元外科医ならではの殺し方をこなしていく。しかし、治験・術中死・医療訴訟・慈悲殺・臓器移植など現代医療の暗部に関わっていくうちに、ますます大きなうねりに巻き込まれてしまうのだが・・・
これは、ものすごく気に入りました。私の好きな《必殺仕事人》系の現代版しかも元外科医であります。殺し方もユニークと言うか、とんでもなく残酷。よくぞやってくれた!と喝采を浴びせつつ読んでいました。そして嵩男が本当に巻き込まれていたうねりの大きさには度肝を抜かれました。すごいなぁ。中でも料理評論家の殺し方が最高に美味。うふv 「あたしが死ねば、しばらく、お前は胸がわさわさして落ち着かないだろうね。その悲しみは“野分”だと思えば乗り越えられる。わあっと吹いて野っ原の草をなぎ倒すけど、必ず行ってしまうんだもの。嵐が汚いものを全部連れていってくれた後の澄んだ空気を胸いっぱいに吸って、お前は歩き出しておくれ」
『あまんじゃく』 2004.9.30. 藤村いずみ 早川書房
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