酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will
2005年01月12日(水) |
『Fake』 五十嵐貴久 |
宮本調査事務所の宮野剛史は、西村一穂という男から息子を大学に入れて欲しいと依頼される。かつて世話になった叔父の息子を入学させたことが漏れたらしい。その息子を入学させるために、宮本は会わずに遠ざけていた加奈と言う美しい才媛に協力を仰ぐ。このミッションの結果、宮本は大きな賭けをすることになるのだが・・・
五十嵐貴久さんは『リカ』のイメージが強くて、それ以降を読まずに来てしまいました。が、先日『暗闇を追いかけろ』の中の「ぽきぽき」を読んで、これはうまい人だなぁと思わされたところでした。このミスの17位は伊達じゃありません。とっても面白いエンターテイメントでした。 これって私の大好きな映画『STING』の日本版です。映画化されても当たると思います。それくらい最後の最後までハラハラどきどきさせてくれました。未読の方にはオススメですv
一気に飲み干した阿部が伝統的な様式に基づいて、利きますなあ、と破願させた。おっさん、それじゃビールと同じだ。ドン・ペリニヨンが泣くぞ。
『Fake』 2004.9.25. 五十嵐貴久 冬幻舎
2005年01月11日(火) |
『窓際の死神(アンクー)』 柴田よしき |
日常に悩み足掻きながら生きるふたりの女性の前に死神(アンクー)が、現れる。死に近い位置にいる人間でたまに死神が見えてしまう者がいると言う。死神の甘い言葉(取引)に対して、ふたりの女性が選んだ答えとは・・・
柴田よしきさんを名前から男性と認識していた方って意外と多いのではないでしょうか? 柴田よしきさんとメールを交換させていただいた事があり、その時に若くして亡くなった弟さんのことをお聞きしました。その弟さんのお名前が「よしき」さんだったそうです。近しい人をいきなり失った人間の喪失感は、思うだけで痛々しいものがあります。死を受け入れるということは身を切るようなものですから・・・。今回、柴田よしきさんが登場させた死神=アンクーは、日本の死神のイメージよりは、いたずらな妖精のようなものに思えます。生きること、身近な愛する人が死ぬこと、そういうことを考えてみるにいい物語かもしれません。 そして、自分から命を断とうと迷っている人がいるとしたら、いそがないで逝ってしまわないで(柴田さんがおっしゃるとおり)。やはり命は、その命尽きるまで生きてみるがいいと思います。
生きる、ということは、ひとりで成り立つことではない。生きるということは、誰かに生かされ、誰かを生かし、誰かと繋がっているということだった。
『窓際の死神(アンクー)』 2004.12.30. 柴田よしき 双葉社
2005年01月10日(月) |
『偽りの館 叔母殺人事件』 折原一 |
広大な公園に接して昭和初期のにおいを濃厚に漂わせる煉瓦造り三階建ての洋館が立っている。そこへ名倉智樹という32歳の男が招かれる。家の持ち主は清瀬富子。莫大な遺産を智樹に譲ってよいかどうか一緒に暮らして観察したいと言う。智樹は、叔母を殺し、遺産を奪おうと考え殺人事件が起こる。 その洋館に智樹の事件をノンフィクションで書こうとする男が住み、智樹の残した手記を探し当て、事件の真相がすこしずつ・・・
折原一さんの物語を読む時には、「だまされるものか」と決意を持って挑みます。今回はある程度のからくりは読めたのですが、やはり最後にだまされていたよなぁと思います。ふたつの世界が入り乱れ、不思議な妖しいムードを醸し出しています。うまいなぁ。
『偽りの館 叔母殺人事件』 2004.9.27. 折原一 講談社
2005年01月09日(日) |
『雨にも負けず粗茶一服』 松村栄子 |
遊馬(あすま)は、友衛(ともえ)家=(<坂東巴流>と称して武家のたしなみである弓道、剣道、茶道を伝える家柄)の長男。家を継ぐべく京都の大学受験を強制されていたが、受験をしないで教習所に通い免許を取得していた。それが親にバレてしまい、比叡山のお寺へ修行に行かされる事に・・・。言われるままに家を継ぎたくない遊馬は家出決行。小学生にしておくには惜しい弟の行馬から餞別を渡され、なぜだか一番行きたくなかった街、京都へ流れ着いてしまい・・・
これは読んでよかった。知り合いが絶賛していなかったら読まずに通り過ぎたに違いない物語。主人公の遊馬は自分の将来に悩み、あがく。敷かれたレールを走る事から逃げ出したはずなのに、遊馬の行く先々には<お茶>がついてまわってしまう。生まれながらに身体に仕込まれた礼儀作法やたしなみが遊馬の人生を少しずつ教えてくれる、遊馬という少年の気持ちのいい成長物語です。小学生にしておくには惜しいと思える弟の行馬をはじめ、遊馬をとりまく人間達が個性的で心優しくほろりとくる。キャラクターたちの勝利かもしれないなぁ。これはものすごーくオススメです。間違いない。
「そうかもね。でも、ボクはお兄ちゃんが何を言っても、それにのっちゃいけないんだ。カンナにぼこぼこにされちゃうから。気にしないでいいよ。これはボクの運命なんだ。ご先祖さまを見習って自分で切り開かなくちゃいけないんだ。ボク、家出したのはたったの八時間だったけど、<人生の意味>はそのときわかったから」
『雨にも負けず粗茶一服』 2004.7.15. 松村栄子 マガジンハウス
2005年01月08日(土) |
『QED 鬼の城伝説』 高田崇史 |
奈々は妹の沙織と共に「熊つ崎」の岡山行きに同行する。行き先は横溝正史な岡山である。ホワイト薬局の薬局長・外嶋に事件に巻き込まれないよう言われたというのに、奈々の行く先で待ち受けていたものは・・・
去年の春に高田崇史さんが岡山に取材に来られました。宴会係りになぜだか(笑)任命を受けた私も、高田先生が行かれるあちらこちらへ同行。ふやふやと知ったような知らないようないい加減な知識を披露(?)しつつ、にぎやかしをしたことも懐かしい。ふ・・・。しかし、すごいです。あの取材旅行の小さなポイントまでキッチリ盛り込まれていました。あの二日間の行程がまざまざと甦ってきました。高田崇史、やはりあなどれず。 岡山の桃太郎伝説と温羅伝説、このふたつのタタルくんの解釈には度肝を抜かれました。地名や伝説に残っているものから、ここまで推理できるものなのか。岡山に住むものとして感服つかまりました。 ちなみに私らしきものが登場いたしますが、かなり若く可愛らしくなっていて周りから非難が集まりそうでーす。ワハハ。
「岡山のどこが地味だ。充分に派手だぞ。白桃、ピオーネ、マスカットオブアレキサンドリア。岡山城に吉備団子に桃太郎だ」
『QED 鬼の城伝説』 2005.1.10. 高田崇史 講談社ノベルス
2005年01月07日(金) |
『そして夜は甦る』 原りょう |
かつての相棒に裏切られた探偵・沢崎のもとへ左手を見せない男が訪れた。佐伯と言う男が沢崎になにか依頼に来なかったかを聞き出したがる男。その男が帰った後に今度は電話で依頼が入る。「佐伯という男を捜して欲しい」と。沢崎は、見知らぬ佐伯と言うルポライターの行方を追うことになるのだが・・・
久しぶりにハードボイルドを読みました。しかもかなり良質の。“男はタフでなければ生きていられない、やさしくなければ生きる資格が無い”・・・チャンドラーの生み出した探偵フィリップ・マーロウの有名な気障台詞です。これこそがハードボイルドですね。 沢崎は、信じていた相棒に裏切られたトラウマを持つ探偵。でも自分の信義を守り、優しくてタフ。まさにハードボイルド。言葉の使い方が厭味に小洒落ていて笑えるところもあるけれど、全体的に好き。こんな探偵が日本に(日本の物語に)いたんだなぁ。知らなかった。
首までアルコール漬けだと? 頭のてっぺんまでアル中のくせに。
『そして夜は甦る』 1995.4.15. 原りょう ハヤカワ文庫
2005年01月06日(木) |
『二十四時間』 乃南アサ |
<時>は0時から24時まで刻まれる。その1時間刻みの時間に合った物語が時系列ではなくランダムに語られる。主人公の女性が乃南アサさんを彷彿とさせるため、自分の過去をテーマに書かれているのかもしれません。100%エッセイではないような趣が楽しかったです。中でも「十三時」の女の子が学校をズル休みするエピソードがとても良かったです。こういう感覚あった、あったと郷愁を覚えました。
たった一日のことだったが、私は自分一人が普通の時間の流れから、勝手にすとん、と抜け落ちたように感じた。
『二十四時間』 2004.9.25. 乃南アサ 新潮社
朝倉は偏頭痛に悩まされていた。医師によるとA型気質ゆえの真面目さからくるストレスではないか、と診断される。確かに朝倉は潔癖なまでに真面目だ。それは運転に現れている。制限速度をきっかり守り、違反などしない。毎日必ず定時刻に通りがかる美しいOLを赤信号で止まって眺める事が唯一の幸福。そしてその日も彼女に見惚れていると黒マスクの男が3人無理矢理乗り込んできて、前の車を追いかけろと脅される。しかし融通のきかない朝倉は制限速度を守り・・・
大好きな松雪泰子が出ているらしいと聞いていたので観ました。が、最初はどこに出てきたのかわからず、巻き戻してやっと気づいたくらいの化けッぷり。さすが松雪。でもいつもの美しい松雪を見たかったなー。 これはSABUさんの作品で、縁あって出会った仲間達の物語。ドミノのように縁が繋がっていくところは面白かったけれど、筧さんのシーンはもう少し違うパターンで落として欲しかった。自分を知り、自分を認めて生きていけばそれなりにハッピーかもしれないって感じでした。でも私はあんな融通のきかない男は駄目だけど。
2005年01月02日(日) |
『神変まだら蜘蛛』 栗本薫 |
長唄の御師匠お波は、美貌の粋な年増。色気をふりまき、男どもを煙に巻く。実はトラウマからあまり男が好きではなかった。夜は牛若丸なる盗賊に化け、あくどい金持ちから金を奪っている。ある時、自分が背負っている女郎蜘蛛の刺青と同じ彫師に手による刺青を持った美男美女が殺され始めた。そして、お波は事件に巻き込まれ、自分の出生の秘密を知り、運命の出会いをするのだが・・・
栗本薫さんの時代物です。時代を変えても栗本薫節は変わらずと言ったところ。相変わらずの倒錯的で淫靡なムードたっぷりに異性・同性の愛がもつれ合います。このキャラは、天狼シリーズのアノヒトだなとか、読んできたキャラにだぶり、髣髴とさせるところが面白いです。 栗本薫さんクラスになると、叩かれまくったりされてお気の毒ですが、私は好き。栗本薫さんにしか醸し出せない頽廃した感じがいい。開きなおって捨て鉢なようでしぶとい。人間ってそうあるべきって思えるからかしら。
『神変まだら蜘蛛』 栗本薫 角川文庫
2004年12月31日(金) |
2004酔陽亭のこれ読んどけ本 |
本日、ほろほろと酒を呑みながら、がーっと今年読んだ本の感想を流し読みしました。今年も様々な素晴らしい本に出逢えた1年でしたv 僭越ながら今年も‘これ読んどけ本’(ただのオススメ本でございます)をいかせていただきまーす。
『高く遠く空へ歌ううた』(酩酊本処2004.4.18) 『そこへ届くのは僕たちの声』(酩酊本処2004.12.2) 2003年に出逢って心惹かれた作家さんの小路幸也さんですが、今年は頭とラストに全部持っていかれた感じです。いろんな感想(書評?)を拝見して感じた事は、好き嫌いの相性が分かれる作風なのかもしれません。ただ私的には今年一押しの作家さんでした。こういう物語が生まれる限り、日本はまだまだだいじょうぶだと素直に感動しましたから。小路幸也さんズキさんにはどんどん遊びに来ていただきたいものです。
『鬼神伝 鬼の巻/神の巻』(酩酊本処2004.2.7&2004.4.29) 高田崇史さんとは今年お目にかかれるという非常にラッキーがありました。鬼の事を調べておいでの高田先生は岡山の温羅伝説を取材に来られたのでした。個人的にも鬼について気にしているテーマだけに、これは興味深い作品でした。ミステリーランドで一番すごいと感じました。これを読める子供達は幸せだわ。
『幽霊人命救助隊』(酩酊本処2004.5.7) この物語を読み始めたのは旦那の命日でした。‘命’の貴さを1年で一番切実に感じる日に読み始め、やられましたね。今年一番泣かされた物語だったと思う。これを是非に映像化して欲しいものなのです。ユーモアを交えながら、生命の貴さを謳いあげた高野和明さんに乾杯(完敗)v
酔わされて2004にはまだ他にもランクインしているのですが、今年はここまでにしておこうかと。いや、単にもうヨッパなので書けません〜。 個人的には浦賀和宏さんにハマリました。どっぷり。
|