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2002年05月22日(水)
427号


おなじ病棟に、体育大の大柄な女性がいた。
バスケットボールの選手で足を怪我して入院してた。
仲良しだった。

よく彼氏が見舞いに来てたけど
その彼とのケンカのことで、よく相談をうけた。
いや、相談じゃなくて話を聞いてほしかっただけだろうけど。
「小学生にこんなこと話すなんてね」と自分でも笑っていた。

僕はそのころ話を途中でやめてしまうのが癖だった。
その癖を叱られた。そしてむくれてた。
「なんでこんなこと言われなきゃいけないんだって思ってるでしょ」
そう思ってた。

リハビリしていると
彼女は廊下から僕の「腹筋」の回数なんか数えていた。
ずっと否定し続けたが
ずっと僕の好きなひとは、このあたし、と自信をもって言い切り続けた。

退院する間際に、手袋をくれた。
本人は馬のつもりで模様をつけてくれたんだろうけど
それはどうみても犬以外のなにものでもなかった。
「顔のながい犬だよねー」と自分でも笑ってた。

彼氏に編んだセーターの余りの毛糸で、だったから
指の先っぽのない手袋だった。
僕はまだそれを
引き出しのなかにもっている。