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2009年03月02日(月) ■ |
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眠り |
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眠りかける、と眠る、のあいだの瞬間をつかまえるというのは やってみると案外、慌てて逃げるウサギをそうするみたいに難しいものです。 たいがい気付くと眠ってしまったあと、もしくは 目が覚めてから眠っていたことに気付くので。 眠るちょうどのその時を、もしつかまえることが出来たなら 枕元に、さあ眠ります、と書いた旗を立てておいてごらんなさい。 眠っています、と書かれたバッヂをもらえます。それを胸元につけておけば まだ訪れたことのない小さな眠りの町に行けるのでしょう。
眠ったのが例え冬の昼間でも、町はあたたかな夜中です。 バッヂを見せて町並みのスクリーンの裏側にも入れてもらえたら 係りのひとたちがいくつも、ドラム缶で火を焚いているのが分かります。 ほうほう、その月はいくらかね。買い物中のおじさんや、 ええ。この子ももう三十八歳。自慢の息子なのよ。赤ちゃんを抱いたおばさんや、 パジャマのなかに星のお菓子をありたけ隠した子どもたちのあいだを 朝までぶらぶらしていると なつかしいひとや、しばらくぶりの友だちにも会ったりします。 勿論、そのひとたちは人形だったり書き割りだったり、操り糸がついてるけれど それでもあなたが思う通りのそのひとたちであるでしょう。 或いはそうでなかったとしても、元々そうではないのかもと思っているから。
私はもう何べんも来てしまっているので最近では、町のはずれの池の辺で つかまえたウサギといっしょに 釣りをしながら音楽を聞いて過ごしています。 釣れても持ち帰れはしないから、釣れたことはないけれど もうすぐ、もうすぐという気にはなるのです。
やがて、じりりり、ぴぴぴとベルが鳴ると と、これは町の駅ではなくて、遠くの終着の駅で鳴っているのが聞こえてくるのですけど 今夜、町に居合わせたひとたちがぞろぞろと列車に乗って帰っていきます。
なかには、顔を真っ赤にしてお酒を飲みながら 帰るひとたちを微笑んで見つめているひとがいますけれど、いちど、 乗らないんですか?と訊いたところ 間抜けだよ、この寒い晩に道端で眠っちまったのさ、と げっぷをして笑っているのでした。 けれど、ご心配なく。もうしばらくすれば 反対側行きの列車もちゃんと来るそうですから。
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