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2009年08月03日(月)
或る朝には








或る朝には起きて
ひとりで起き上がって
部屋の静かさの真ん中あたりで
ひとりぶんの珈琲を沸かし
服を着替え、玄関を出て

翌朝には起こされて、妻に
遅れますよと揺り起こされて
ふたり暮らしの真ん中あたりで
朝食は既に整えられて、昨夜見た
ひとり暮らしの夢などはすぐに忘れて

翌々朝は起きて
ひとりで起き上がって
ひとりで暮らす幸福の真ん中あたりで
まるで妻がいたかのような昨夜の夢も忘れて
特別、ひとりだと思うこともなくまた靴を履いて

翌々々朝は起こされて、息子に
どこか行こうよと起こされて
家族と暮らすという仕合わせの真ん中あたりで
妻の掃除機に追われ、後部座席に息子を乗せて
誰も帰りを待たない昨夜の夢などはとうに忘れて

翌々々々朝には起きて
いつも通り夢から覚めたところで、まるで
なにか忘れたままでいるようで
曖昧な記憶のどこか真ん中あたりで
時折、疑ってみることといえば

もしかしたらひとりでいるような気がすることで
もしかしたら家族がいるような気がすることで

繰り返される生活の真ん中あたりで
同じ一日間が沈み、夜が過ぎて行くのなら、また
或る朝には起きて