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2009年11月16日(月)
幽霊








可哀相な娘
娘の暮らした家の軒先
日没前と没後との曖昧な
蛙の声と川音との結び間
枝垂れ柳の枝垂れた辺りに

娘の姿とよく似たものが
俯いて立って居ります
時折、村を訪れる旅人だけが
その娘に似たものを見やり慄いては
幽霊、と呼び囁いたりはするのですが

それは娘がというわけでなく
娘の受けた仕打ちがというのでなく
畳の細目に摺り付いた土と
拭き取った痕の様なもの
床下の行李に隠されていた端書き
その行方の様なもの
村の連中、子供達までもが
微笑みを湛え乍ら決して

口にはしない、暮らしと喉の奥底へ
飲み込まれたものが行き場なく
ああして集まり、寄ってたかり
薄ぼんやり
形をなして居るのでしょう