妄想の嵐
結子



 ちょと遅いけどハボロイバレンタインネタ(救いようない)

ネタ思いついたから。書いてみた。
実はさっきまで、原稿用にヒュロイ書いてて。もう無理!とか思って。こう、気分転換に軽いノリを。
走り書きでなおしてないんだけど、もう眠くて勘弁。
勢いであげてみる。

うちって鋼サイトじゃないからなあ。こんなん書いて喜んでくれる方、いるんかいな。
うっかり迷いこんでしまったロイ受の方、いらっしゃいましたら是非、声かけてやってください。あははは。
テニス好きな鋼っこも是非に。よろしく(笑)

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聖人を敬う日も、極東の島国では、菓子製造業者の為のイベントになると言う。


「ホークアイ中尉」
 手元の書類にサインと印。
 欠伸が出そうな単純作業を繰り返しながら、目の端で忙しく立ち働いている中尉を呼んだ。
「なんでしょう、大佐」
 白く小作りな面を縁取る蜂蜜色の髪。
 ルージュやマニキュアの装飾もないのに、はっきりと整った目鼻立ちは清潔で美しい。

 ロイは顎の下で緩く手を組んで、無表情な部下の顔を見上げた。
「今日は、何の日だったろうか?」
 思わせぶりに問いかければそっけなく。
「大佐の誕生日でも私の誕生日でもないですね」
 等と、言う。
「もちろん、ハボック少尉たちも違いますけれど?何か」
 用が無いなら、失礼します。

 口調と敬礼の所作は丁寧に。しかし、その眼だけは。
『何言ってんのかしら、この無能は』
 とでも思っているかに見える。
「……」
 ロイは、はあ、とため息をついて革張りの椅子に埋もれた。
 どうせ自分は、デスクについていれば判を押すしか用がないし、雨の日には役に立たない無能な国家錬金術師だ。
 それでも、己への思いを甘い砂糖菓子ではかってみたって良いじゃないか?
「ホークアイ中尉、今日はあれだ、バレンタインとか言う祭りの日だ」
「存じません」
 そんな極東の習慣など。
「……」
 知ってるんじゃないか。等と、言い出せる隙はまったくない。
 上司は自分の筈なのに、何故か。リザに睨まれると、女教師に叱られた幼少時代を思い出して居心地が悪い。

 冷たく睥睨する藍色の目につまらなそうに唇を尖らせていると、どん、ともう一束。
 目の前を紙の山にふさがれた。
「こちらへも、判とサインを」
 下らないことばかり言って怠けていると、どんどん増えますよ?
「……中尉は冷たいな」
 むっつりと呟いて、ロイはペンを持ち直す。
 リザの背後でくすくす笑い、肩を揺らしている部下を皆、灰にしてやりたくなるが、雪が降りそうな曇天を見やり、諦めた。
 冬は夏よりも乾燥して過ごしやすいロイだが、今日は肌に冷たさと水気を感じる。
 平和すぎるほど静かな司令部の中。
 街もかりそめながら平穏であるらしい。
 どうせ、こんな日は書類に目を通す以外、することがないだろう。

 己の決済を待つ書類にけれど、じっくりと目を通すことなく。機械的に名を記し、判を押していく。
 いつになく勤勉に、それを続けていたけれど集中力には限界がある。
 紙の山が半分になり、視界が幾分見通せるようになった頃、ロイは肩で息をつき、左に積み上がった書類をぺらぺらとめくった。
「キリがないぞ。くそ」
 集中がとぎれれば、右腕がひどく重く強張っていることに気がつく。
 ペンを投げ出し、肩をぐるりと回す。
 首をひねればごきり、と嫌な音がして顔を顰めた。

 背後の大きな飾り窓の外を眺めれば、白いモノがちらちらと空を舞っているのが見えた。
「雪か」
 すでに、終業時刻を過ぎた室内には誰もいない。普段せわしない分、たまに暇なときくらいは定時に帰れと。鷹揚な上司を気取って言ったのは、ほんの少し前だ。

 陽が沈んだ後の降雪は、凍った石畳の上に積もって路面を滑らせるからやっかいだ。早めに帰らないと、送迎の車さえ立ち往生する羽目になるだろう。
 今日中に決済しなければならないとリザに言い含められた書類の束と、次第に強く降り始める雪とを交互に眺め、さてどうしようか、逡巡していると、ふわり。
 甘い匂いが鼻先をくすぐった。



「……ハボック少尉」
「は」
「なんだこれは」
 甘ったるいチョコレートと苦いタバコの香りが混ざり合って噎せそうになる。
 ロイはつ、と眉を潜め、茶色の渦を巻くカップを覗き込んだ。
「ミルクにチョコレートを一かけ。バターをちょっと」
「?」
「俺から大佐への愛です」
「……」
 ニヤ、と口端で笑う金髪の偉丈夫を見上げ、いよいよロイの眉間には縦皺が走った。
「……なんすか」
 要らないとか言いたげな顔して。
「大佐の大好きな、菓子屋の陰謀にノってあげたんじゃないすか」
「お前に貰っても、な」
 綺麗な女性からなら、話は別なのに。
「帰れと私は言ったのじゃなかったかな、少尉」
 厚めのカップの縁を指先でなぞりながらちら、と見上げると男は困ったように髪を掻き、フィルターを浅く噛む。
「帰りましたけど、一度」
「そうなのか?」
「これ、買いに」
 これ、と指さされた湯気の立つココアを頬杖ついて眺め。
 ロイは、ふ、と笑った。
「馬鹿じゃないのかお前」
 くつくつと。腹の底から笑いがこみ上げる。
 大きななりをした男が雑貨店でチョコレートを買う姿を想像したら、堪らない。
「馬鹿だな。少尉」
「そうっすかね」
 机の縁に、無礼にも腰を預けタバコをふかすハボックの唇の端が心なしか下がってへの字になる。そうすると精悍な青年の顔が途端に拗ねた少年のようになって。
 ロイは、笑いながらマグカップを取り上げた。
 熱いそれを啜ると、頭が痛む程に甘かった。
 もしかしたら。

 ……時折、気まぐれにかわすクチヅケよりも。それは。

「あ、飲みましたね。大佐」
「ちょうど、飲み物が欲しかったんだ」
「ココアですよ?いつもコーヒー、ブラックで飲むじゃないすか」
「だからどうした」
 くれたものを捨てるほど、人非人ではない。
 そう告げれば、ハボックの目尻は常以上に垂れ下がり、そのまま。
「……極東の習慣に続きがあるの、知ってますか?」
 机に手をついて身を乗り出してくるハボックを、ロイは仰け反るように見上げた。
 目線だけで話の先を促すと、カップを持った手に臆面無く触れてきて。
「バレンタインのお返しは、ホワイトデーに三倍返し」
「何?」
「だから貰った分の三倍ですよ。大佐」
 機嫌良く言って、笑う。
「大佐に俺、何してもらいましょうかね?」
「……」
 ロイはそっと、机の上にカップを戻した。
 そうして……。もしも犬なら、ちぎれるほどにしっぽを振っているに違いないハボックの首を掴み、唇に挟んだタバコを取り上げる。
「そうだな……」
「大……」
「例えば」
 キス。

 ささやいて。乾いた唇を舌先で、なぞる。
 びく、と震え引ける半身を絡めた腕で留めて、うすく開いた其処に舌をねじ込んだ。




「……っん」
 タバコが染みついた粘膜は、チョコレートの甘みを直ぐに溶かしてしまう。
 座っている己に合わせ、かがみ込んだ姿勢は長身には辛いだろうと思う。しかし、ハボックは皮の背もたれに手を宛うと、ロイの仕掛けたキスにすぐさま、順応を見せた。
 濡れた粘膜が絡み、音を立てる。
 奪って。ロイが指の間に挟んだタバコが、じりじりとフィルターを焦がし、彼の髪先に触れようとしている。ハボックは、腕を伸ばし、その火種を指先で捻りつぶした。
 じゅ、と音がして、皮膚が灼けた。ひりつく痛みに眉を潜めながら、それでも彼を浸食するキスを止めたくなくて。
「っぁ」
 甘い甘い、口づけに脳髄が溶け出す。
 角度を変え、薄い粘膜に食らいつき、やわく噛み。味わう。
 食べるように。……そう、口づけはどこか好物を食し、嚥下する行為と似ている。

 唇を擦り合わせ、息継ぎの間にもちらちらと舌先を触れあわせていると、不意に。
 ロイがうっすらと瞼を開き、笑った。
「……大佐…」
 なんすか。
 常になく、慈しむような手つきで。固めた金髪を梳き乱す、長くて綺麗な指の感触。
 柔らかな皮張りの椅子に埋もれた、細い肢体を囲うように手すりを掴み直し、至近から見下ろす。と。
 ロイはくすくすと喉奥で笑い、ハボックを見上げた。
「三倍返し……さあ、どうしようか、少尉」
 飽くまで、キスをしようか。
 私を好きに扱う許しを、与えようか。
「大佐」
「それとも……お前の雄を、唇で受け入れて」
 逞しく隆起した胸元の肉を滑り、下肢に戯れるロイの指にハボックは喉を鳴らす。けれど。
「噛みちぎって、やろうか?」
 其処に籠もる力と、笑みの引いた上司の顔に、青ざめるのもまた、一瞬。
「大……」
「基本は等価交換」
 過ぎた望みは、つぶされるぞ?少尉。
「……」


 とん、とハボックの身を押しのける掌に、無駄な力は必要ない。
 脱力し、床に座り込んだ部下を、非常な眼で睥睨し。ロイは、こくり、と甘い琥珀を飲み干した。




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下ネタでごめんなさい。(えへへ)

2004年02月17日(火)
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