ソラのミツカ
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小鳥の身長は168センチ、そもそもの体重は52キロであった。
それが無職とラーメンにハマるというダブルパンチで、一気に60キロまで跳ね上がった。
それを気にしつつ57キロ〜58キロをうろちょろしてる時はまだ良かった。
職業訓練にも通い出したし、それなりにダイエットにも精を出していたのだ。
それが何故あんな緊急事態に発達したのか、今以て謎である。
小鳥の体重は、60キロの半ばを軽々と超え、とうとう70キロで落ち着いてしまった。
ちょっと食べ過ぎた時なんか、72キロを超えた。
今思えば、当時付き合っていた彼氏がデブだったことの重要なファクターであったと
言えよう。
一緒に食べたり飲んだりすることが楽しかったのだ。(元彼は痛風であった)
服が入らなくてもいいじゃなーい。
当時、どこにも締めつけというものが存在しない、楽な部屋着を着て生きていた。
仕事はウエストゴムのスカートに大きめのシャツ、制服は白衣を上から羽織るだけ。
この白衣がまた悪循環に拍車をかけた。
どんだけ増えても隠してくれるのだ。
しかし、夢のような時はあっという間に過ぎゆくのねん。
小鳥は、職場を変えることにした。
手持ちの服なんて全然入らず、就活のために泣く泣く買った15号のスーツのボトムが
入らないに至って、小鳥はようやく現実を目の当たりにしたのであった。
……やべぇ。
心の底からの感動であった。
ああまで醜くなれた自分がいっそすごい。
自分の醜悪さに思わず写真を撮るという経験を生まれて初めてしたよ。
もう二度とないことを願う。
新しい職場での最初の制服は、13号であった。
それでもスカートとベストはぱっつんぱっつんで、ロースハムのようだった。
失礼な同僚に、「その制服、何号?」と訊かれた屈辱を、小鳥は一生忘れないだろう。
それから小鳥は猛然とスパートをかけた。
……といっても、食事制限だけ。運動は一切しなかった。お酒も飲んだ。
最初の1ヶ月で10キロ減った。
次の1ヶ月で5キロ、さらに次の1ヶ月で5キロ。
最終的に、20キロ増えた体重は、22キロ減っていた。
前述の同僚は、「私はあなた60キロくらいの時が好きだったわ〜」と暴言を吐いたが、
そんなこと知ったことかっつーの。
制服は、9号でもウエストが回るようになった。
そして、夢のような時期はまたもやあっという間に過ぎ去った。
小鳥は失恋により多大なダメージを受け、今度は坂道を転がるように勢いよく
体重が減りすぎてしまったのだ。
最低体重、45キロ。
これはやばい。
小鳥の身長と体型からすると、明らかにボーダーを超えている。
顔は骸骨みたいになったし、鎖骨は3本浮いた。肋骨も綺麗に見えている。
この時の食事ほど辛かったことはない。
食べることは好きだったはずなのに、何を食べても味がしなかった。
無理やり口に押し込んで咀嚼すると、まるで無味無臭のゴムを噛んでいるような感覚。
あれは本当に苦痛だった。
あの頃に比べたら、甘いものを大量に食べられている今はつくづく幸せだと思う。
甘いものだけじゃない、少量ずつだけどちゃんと食事もできる。味がする。
おいしい。嬉しい。
つまり、今日の日記で言いたかったことはさ。
肥満の辛さも拒食の辛さも両方知っているから言うけれど、どっちもホントに辛いよね、
ってことだ。
肥満の時は拒食症になりたいと思ったし、食べれないときはもう死にたいと思った。
どっちも本気で思った。
今痩せすぎてるからといって、太ってることが幸せだとは思わない。
誰だって綺麗になりたいもん。
太ってたからといって、何が何でも痩せたほうがいいとも思わない。
痩せても綺麗になれないことがあるってわかったもん。
結局大事なのは心の平穏で、平衡で、均整なのだ。
小鳥は今、結構幸せだ。
ご飯と甘いものが美味しくて、お酒が美味しくて、体重も増えつつある。
仕事は休んでいるけれど、だから余分にはないけれど、極端にお金に困るわけでもない。
一人の部屋で本を読んで、いつも麦茶の気配がして、たまに誰かが来てくれる。
そんな日々が嬉しい。
ソラのミツカは、そんな日記になればいい。
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