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■ 金色−ネタばれメモ
「後追いなんか……しないよな……」 久々のごはんだと、すったりんごを口にいれようとおおきく開けたところでそんな台詞をいきなりいわれたので、レイミは固まってしまった。つとめて明るく口をあけたつもりなのに。さっきの自分の演技じみた声が、なんだか情けなくなった。 レイミは口を閉じて、すくったりんごをいれたままのスプーンをそのまま皿に戻した。食器の性質なのか、妙にカチャンという音が立ち、ディノーはその音に驚いて、部屋から出て行こうとした体をぐるっと回転させてレイミを見た。 「するように見える?」 「見えないといったら、うそになるような気がする」 下を向いてなるべく顔を隠したつもりなのに、間髪をおかずにそう返答が来てしまった。レイミは、笑って顔をあげディノーを見た。 「しないよぅ。まだまだ私若いんだよ? まだまだやりたいことだってあるし、やらなくちゃいけないこともあるし……」 レイミはなるべく普通に言おうと努力したのだけれど、どうしても保てなかった。体が震えて、顔はゆがみ、泣きたくないのに悲しみの涙が目に溜まった。 「やらなくちゃいけないのに……でも……。まさか、まさか……」 ぼろぼろと勝手に流れていく涙は、留めるところを知らなかった。ばたばたと音を立てて降る雨のように、レイミの膝の上に落ちた。 「カズキがないなくなるなんて、考えもしなかった」 ディノーは黙って何も言わなかった。ただ、レイミを見つめた。 「いつもそばにいて、あたりまえのようにそこにいて、ずっとずっといてくるものだと思ってた。だから私、今生きている気がしない。できれば、このまま死んでしまいたいと思う」 「レイミ……」 ディノーははっとして、レイミに駆け寄った。まさかと思い、不安になったが、レイミには自分をどうにかしようとする力さえないことが近づいて分かった。体力というものが一つも残っていない体は、とうてい自分で死を選べるほどの力はない。このまま何も食べずに過ごしたら、それは別だが。 「しないよ。私は生き続ける。約束したもの、カズキと」 「カズキと?」 「そうよ、話をしたの。夢の中のできごとだったのかもしれないけれど、私はあの感触をしっかりと覚えている。あれは夢じゃなかった」
2003年10月20日(月)
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