鏡を、見せろ。
その男はそう言った
僕は僕の一番大切な
小さいけれども精巧な造りの鏡を指差した
彼は
「これは本当に鏡だろうか」
「絵画ではないのか」
何度も、何度も
何度もそう尋ねた
いぶかしがりながらも僕は
彼が問う度に
「はあ、そうですが」
「はあ、そうですが」
と答えた
何度そんなやりとりを繰り返したろう
彼は諦めたような
それでいてひどく悲しそうな顔で言った
「ああ」
「これは僕ではないのだ」
「これは本当ではないのだ、この鏡に映る人間は」
「けれどもこれは確かに僕なのだ」
「いや、僕達、なのだ」
そして彼は次の瞬間。
鏡を叩き割った。
そして――――――――――
ああ、そして。
その次に見たのは硝子の破片を喉に食い込ませ
喉を真っ紅に染めた自分の姿だった
鏡はもうなかった
どこにもなかった
けれど、最期に僕を嘆かせたのは。
倒れる瞬間に見えた水たまり。
まあるい、まあるい水たまり。
ああ、これは僕ではないのだ――――――――――――――――――――――――――――
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